異界の錬金術士

ヘロー天気

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帰還編

第五話:贄の王女達





 過去の時代から蘇った歴代の元『贄の王女』達が住んでいる宝石塔の中のラコエル宮殿にて、サリィス姫の主導思い付きで希美香にお揃いのアクセサリーを作ってもらおう計画が発足した。

 急遽、お茶会の席が用意されると、今現在ラコエル宮殿で顔を出せる元贄の王女達が集まり、皆できゃいきゃいと意見を出し合う。

「腕輪か、指輪か、髪飾りか」
「シンプルにカメオタイプの首飾りという手もありますわ」
「キミカの掘り出し技術も上がっていると聞くからなっ、それはいいかもしれん」

「私まだ細かい造形とかは無理よ?」

 護衛の三人衆が付けている、希美香が送った宝石の紋章くらいシンプルな図形なら何とかなるが、彫刻のような美術品レベルの物はまだ難しい。

「そこは大丈夫だ。完全に同一の物を用意してくれれば、職人に頼んで仕上げてもらう」

 サリィス姫はそう言って、腕に巻き付く蔦を表現した見事な装飾の腕輪を見せる。

「なるほど」

 以前、サリィス姫の要望で希美香が城の庭園から掘り出精製した腕輪。
 掘り出した時はサリィス姫の想像イラストにそっくりな形の崩れた腕輪だったが、希美香が忠言した通り、宝飾職人さんに手直ししてもらったようだ。

 概ね方向性が決まったところで、ここに顔を見せていない王女達――それぞれの血筋を継ぐ家に引き取られた姫君達にも手紙を出して、意見を聞こうという話しになった。

「纏まったらまたみんなで相談しましょ」

「うむ! 楽しみだなっ」
「有意義な時間であった」
「とても刺激的でしたわ」

 そんなこんなで、今日のところは一先ず解散。王女達は皆、宮殿の自室に引き揚げて行った。希美香は、サリィス達と別れたその足で研究所に向かう。

 お茶会の間、少し距離を置いていた護衛の三人衆も直ぐに希美香の後に続く。

「お疲れ様でした、キミカ様」
「姦しい姫さん達がアレだけ居ると、見てるだけで疲れそうだぜ……」

 アクサスが希美香を労うマメな動きを見せる一方、頭の後ろに手を組んでいるルインは溜め息交じりの愚痴をたれる。ブラムエルは特に何も語らず、護衛に徹していた。大体いつも通りである。

 そんな研究所までの道中、希美香は『贄の王女』だった彼女達の行く末を思う。

「あの姫様達ってさ、サリィスちゃんも含めてみんな支分国に嫁ぐ事になってるのよね?」

 生け贄に選ばれていたのは、いずれも側室から産まれた王女ばかり。
 最初期の頃はともかく、実りの大地の法則が解明されてからは、その為だけに時期を選んでの婚姻子作りが当たり前になっていたという。

 ラコエルの霊に連れ去られ、微睡みのような世界から目覚めてみれば十年以上も経過していて、生け贄の役割から開放されたと思ったら支分国との繋がりを維持する為の政略結婚に使われる。

「姫様達の表情は明るかったけど、国に対して思うところは無いのかな、って」

「……彼女達も貴き血筋の姫君です。皆、王族の娘としての覚悟はお持ちなのでしょう」
「つっても、キリカみたいな例も少なくなかったんじゃね?」

 希美香のそんな思いに、アクサスが無難な言葉で応えようとしたが、ルインがサータスの娘キリカの事例を持ち出して雑ぜ返す。


 キリカ姫は、当時の放蕩王子が市井の娘サータスに産ませた子である。

『今年は由緒正しき貴き血筋の王女を生贄に出さなくて済む』

 これ幸いとばかりに母親から取り上げ、城宮殿に押し込めて物心がつく頃からの教育で生贄役に仕立て上げられた。

 奪われた娘が作為的に生贄にされた事を知り、復讐に駆られたサータスが王城まで殴り込みを掛ける騒ぎとなった事件。
 実りの大地に関する記録にも記された、王室の黒歴史でもある。


 アクサスは『今それを指摘する意味はあるのか』との思いを込めてジロリとした視線を向けるが、睨まれた当人ルインはどこ吹く風でそっぽを向いた。

 隙あらば希美香の心証を良くしようと点数稼ぎに余念の無いアクサスと、恐らくは天然でそれを邪魔しているルインに肩を竦めて見せる希美香。

 すると、それまでずっと沈黙していたブラムエルが、こんな事を語った。

「現状でキミカ殿にできる事と言えば、彼女達が相手方に侮られる事の無いように、『贄の王女』だった事を示すシンボルに、貴方の威光を込める事、くらいでしょうか」

「ふーむ、威光かぁ……」

 嫁いだ先で『権威のバラ撒き要員』などと軽視される事の無いように、『贄の王女』達しか持ちえない特別な何かを用意する。

「ん~そうね。これまでの転移門創りでちょっと閃いたわ。アドバイスありがとね、ブラムエルさん」
「いえ……」

 希美香の創造クリエーティブ精製能力プリフィケーションは、既に伝説の転移門と遜色のない効果を精製した宝石に付与するレベルにまで仕上がっている。
 発想と想像力次第で相当にトンデモナイものを作れるのだ。その特色を活かさない手はない。

「よぉ~し、最高の宝飾品を作ってやるわ!」

 やる気を漲らせている希美香を見たルインが、「コイツまたヤバいもん作るつもりだ」と呟いては恐々としている。

「それはそれで、僕は楽しみですけどね」

 アクサスは、希美香が本気で作る『贄の王女』達の象徴的な宝具がどんなモノになるのか、興味を示していた。


 それから数日は、ほぼいつも通りの日々が続いた。

 希美香は『次元を超える道』を模索しつつ『転移門創り』で宮廷魔術研究所に通う傍ら、ラコエル宮殿でサリィス姫をはじめ贄の王女達と交流しては、お揃いの宝飾品について話し合った。

「実はこんな効果の付与を考えてるんだけど――」

 希美香が、彼女達に贈る宝具の特殊効果について言及すると、みんな目を丸くしたり、思わず吹き出したりしている。
 いずれも面白がっているようだったので、希美香は安心してその方向で進める事にした。

「気を悪くする姫様もいるかなって思ったけど、大丈夫みたいね」
「はははっ! そんな面白い効果の宝具、気に入らないわけがない!」

 私達にぴったりだと胸を張って言うサリィス姫に、他の姫君達も頷いて同意していた。


 そんな希美香に再び緊急の呼び出しが掛かったのは、翌日のお昼になろうかという頃だった。





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