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帰還編
第六話:緊急会議
しおりを挟む昨日、希美香から『贄の王女』達に贈られる宝飾品の特殊効果仕様について最終決定が下され、いよいよ制作に取り掛かろうとしていたこの日。
そろそろお昼の時間かという頃、王室から緊急の呼び出しが掛かった。
「ええっ、また?」
何事だろうかと戸惑いながら、先日と同じ会議室に案内される。
そこには、先日のメンバーの他に何人か知らない身分の高そうな人や、希美香も知っている(以前、謁見の間で見た事がある)嫌味な身分の高い人。
他に全身タイツな宮廷道化師の姿もあった。
(道化師の人、久々に見たなぁ)
そしてもう一人、知った顔を見つける。
「あれ、ルタシュさん」
やや疲れた顔をしているルタシュが、「やぁ」と片手をあげて挨拶すると、アクサスとブラムエルが何やら怪訝そうな、それでいて神妙そうにもとれる表情を浮かべた。
護衛三人衆の中で一人だけいつも通りのルインは、何かを察したように「派閥か」と呟いた。
ルインの呟きを拾った希美香は、この場では深く訪ねる事をせず、今回の呼び出し理由に意識を向けた。
「皆、揃ったようだな」
前回と同様に、カフネス侯爵が進行役でこの場を仕切る。
「早速だが我々の間で情報を共有し、確かめておかねばならない案件が挙がった。これは互いに派閥の柵を越え、確実に協調して進めなければならない大事であると意識して欲しい」
カフネス侯爵の妙に持って回った言葉に、希美香達は小首を傾げる。一体なにがあったのかと。
「先日のドルメア軍の動向について話した際、他国の彷徨い人が来ている可能性が上げられた件は覚えているね?」
ドルメア軍の拠点砦が何者かの襲撃を受けて半壊していた事件。仄かに希美香の関わりが疑われていたが、流石にあり得ないとして確認だけで候補から外れた。
この時の話し合いで、事件を目撃した監視部隊による件の襲撃者の特徴も明かされたのだが、黒い翼を生やして空を飛んでいたり、雷を降らせるなど、ずいぶんと人外な存在だった。
鉱石精製能力を使う希美香とはますます掛け離れた人物像。
希美香や護衛の三人衆は勿論、高名な魔術士を知るトレク王やカフネス侯爵、リンベリオ子爵を含め心当たりに浮かびそうな者はいなかった。
そんな中、以前アズタール家のルタシュが希美香に紹介した情報屋から、信憑性の怪しい情報とした上で、オマケに語られた他国の彷徨い人の噂話をユニが覚えていたのだが――
「確か『黒い翼を生やしている』とか『雷を操る』って特徴が当て嵌ってたんですよね?」
「そうだ」
希美香が問うと、カフネス侯爵はおもむろに頷く。そしてこう続けた。
「その他国の彷徨い人について調べさせていたのだが、どうやら王都を訪れていたらしいのだ」
「「「えっ!?」」」
先日の夕方。この王都ハルージケープの下街で、ルタシュが件の彷徨い人と遭遇していた事が判明したという。
四日ほど前の出来事だったそうな。
ルタシュは件の彷徨い人と出会ったその日の内に、アズタール家の名で『重要な報告がある』と、王かその側近辺りに謁見を申し込んでいた。
が、融和派のアズタール家はカムレイゼ派や中立派からも警戒されていた為、何だかんだと理由を付けて後回しにされ、引き伸ばし工作を受けていた。
その間に、アズタール家の『重要な報告』が何なのか、各派閥から探りを入れていたようだ。
融和派は前体制下の時から、国を割り兼ねないと危険視される政策を推していたので、現在の情勢下で政治の中枢に近付けたくなかった。
というのが、引き伸ばし工作をしていた者達の言い分で、それは一応理解はされていたが――
「お陰で事態の把握がここまで遅れる事となった」
カフネス侯爵は、頭が痛そうにそう語る。色々察する希美香達。先ほどのルインの呟きの意味が分かった気がした。
そして本題。ルタシュが遭遇した、他国の彷徨い人らしき人物から得た情報というのが、今回の緊急会議を行うに至った理由だという。
「その彷徨い人は、ドルメア軍に関する機密情報の提供を挙げて我々に接触を図って来たようなのだが、彼女は自らをオルドリア大陸から来た異世界人と明かしたそうだ」
『フレグンス王国』の『王室特別査察官』という役職に就いているらしいところまで分かっている。そう話したカフネス侯爵に、希美香の記憶では『嫌味伯爵』となっているクァイエン伯爵が問う。
「聞いた事の無い大陸に、聞いた事の無い国ですな。信用できるのですか?」
「勿論、調べさせた」
実在する大陸や国なのかというクァイエン伯爵の疑問に対し、カフネス侯爵は壁際に控える従者に指示して、調査結果の資料を皆に配らせた。
希美香も回って来た資料に目を通す。
それによると、北方の群島地帯よりも更に大海を越えた先にある島大陸で、原初の魔法技術を扱う民が暮らしているのだとか。
文明レベルも決して低くはなく、最新の情報では遠方の大陸と国交を結んで交易しており、魔導技術も独自の発展が見られて中々に侮れないそうだ。
そして、フレグンス王国とはオルドリア大陸の中央部に君臨する大国の一つ。原初の魔法技術、『精霊術』を使う一族が王位に就いているという。
「この資料が確かなら、随分と遠方から来た事になりますな」
クァイエン伯爵はまだ疑わし気な様子で、何の目的でどうやってこの国に来たのかという疑問を呈している。
これについては尤もな疑問という事もあり、件の彷徨い人の思惑を知りたいところであったが、唯一言葉を交わしたルタシュがその辺りの話を何も聞き出せていなかった。
「な、何しろ突然の事だったので……唐突に消えてしまいましたし」
しどろもどろになりながら、ルタシュはその時の様子を説明した。その後ろで道化師が物真似をして場を和ませ、会議室の緊張を解している。
『消えた』という部分については、ドルメア軍の拠点砦を襲撃したその異世界人が飛び去る途中で消えたという報告が、一部始終を見ていた監視部隊からも上がっている。
なので恐らく、原初の魔法技術による転移術ではないかとの推測がされていた。
「外交官としても活動しているとの事でしたので、国交も視野に入れているのではないかと」
ルタシュ曰く、彼女は「また来る」とは言っていたが、いつ来るとまでは聞いていないそうだ。
あの日、急いで帰宅したルタシュは、アズタール家の当主に報告して相談し、とにかくトレク王かカフネス侯爵に話を通しておくべきだという結論に至った。
それから今日まで、毎日王宮に出向いていたルタシュは、件の彼女が再び王都の下街を訪れていたかは把握できていない。
(……その辺りちょっと抜けてるなぁ)
希美香は、ルタシュに対してそんな印象を持った。
とはいえ、吹聴するような事でも無いし、何らかの手柄になるかもしれない話なので、トレク王かカフネス侯爵に直接報告するまで、情報を伏せたかったのは理解できた。
「じゃあこれ、もし本人が訪ねて来たり遭遇したら、直ぐに報告するって事でいいんですね?」
希美香の問いに首肯したカフネス侯爵は、改めてこの場に集めた各派閥の重鎮達に釘を刺す。
「うむ。皆には重ねて言うが、この問題に関しては派閥の柵を越えて協力して欲しい」
単独でドルメア軍の拠点砦を半壊させて重要資料を強奪できる武力を有し、他国の王室を後ろ盾に持つ規格外の彷徨い人。
抜け駆けで特定派閥寄りの支分国に招いて歓待したり、独自に国交を結ぶような事をされたら、トレクルカーム王国の権威は失墜。
今の各支分国との微妙な関係は、一気に崩壊へと進んでしまうだろう。
「何か結構深刻な話だったわ」
「そりゃこんだけ派閥の重鎮が揃ってりゃな」
「融和派や中立派まで呼ばれていた理由が分かりました」
「我々も街に下りる際には、今回の件を意に留めておきましょう」
ぽつりと呟かれた希美香の感想に、護衛の三人もそれぞれの言葉で応えたのだった。
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