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オルドリア大陸編
第五話:古代魔導文明の瓦解(後編)
しおりを挟むそんなこんなと順調に探索は進められて昼過ぎ。調査隊が休憩を取りに大部屋まで戻って来ると、朔耶が様子を見にやって来た。
「やほーコウ君。調子はどう?」
「やほー朔耶。色々見つかったよー」
奥の格納庫の事や、様々な資料が記された『発掘品』について、フレグンスの遺跡調査隊が報告している。今後も遺跡調査に王室から予算が出る事を期待しているようだ。
皆が休憩している間、コウは朔耶と連れ立って大部屋を後にする。格納庫や資料室に案内する他、少々個人的な話もする為だ。そんな道中、朔耶がレクティマの近況について報告した。
「ティマちゃんの事なんだけど、向こうのお祭りに参加した事が切っ掛けで記憶がかなり戻り掛けてるらしいわ」
「そうなんだ? じゃあそろそろエイネリア連れて行く?」
「そうね、この探索が一段落したら数日以内くらいには連れて行きたいけど、大丈夫?」
「おっけ~」
エイネリアを狭間世界に連れて行く具体的な時期も定まったところで、コウは時間跳躍について朔耶に話そうとしたのだが、先に朔耶の口からその話題がもたらされた。
「何か、コウ君に時空の歪みの跡が出てるってあたしの精霊が言ってるんだけど、何かあった?」
「実はまた過去に行って来たんだ」
丁度改変のあった通路上を歩いていたコウは、この先にある資料室で精霊石の置物に触れた瞬間、過去の時間に跳ばされた事を説明する。
今歩いている通路は崩れていて通れなかったのだが、過去の時間で通路崩壊の原因、爆破解体に干渉して、戻ってきたら空間が歪んで通路が出現したのだと。
朔耶を資料室まで案内したコウは、件の置物があった場所を指してその時の状況を説明した。
「大丈夫なのそれ?」
とうとうタイムスリップまでやるようになったかと驚いている朔耶は、精霊から色々と解析結果を聞いたらしく、少しほっとした様子で肩を竦めた。
精霊がどういう見解を出したのか訊ねてみると、局地的なものなので世界に大きな影響はないという事らしい。
世界の在り方と時間の流れについて。完全に独立した一つ一つの時間軸世界が平行に並んで進んでいるのではなく、編み込まれた縄のように複数の時間軸世界が束ねられた世界観。
近しい時間軸世界が捻じれ合い、交ざり合いながら一定範囲内に納まる程度の差異の中で、沢山の可能性や、結果を内在した状態で進んでいる。
一本の大きな流れの中で、多少の差異は誤差の範囲に含まれるという。コウがもたらせた改変も、その誤差の範囲に収まるらしい。
「へぇ~そうなんだ? でもどうして急に過去に跳ばされたんだろう?」
「コウ君が無意識にそういう力を使ったとかじゃないの?」
古い時代から存在する『力のある精霊』が宿った精霊石は、その石が何らかの役割を得た精霊石として確立した存在になった瞬間から、精霊の記憶として時間の記録が始まる。
この記録を利用すれば、その石が存在したあらゆる時間の『精霊の記憶』にアクセス出来る。アクセスキーとなるのは、その時間に関連するアイテムなり記録。
コウの時間跳躍については、リゾート遺跡施設でエイネリアが託されたマイローの日誌最終巻。その表紙に埋め込まれていた精霊石の働きで、想定外に過去の時間軸に移動した経験により、精霊石の記憶から特定の時間軸に移動する方法を覚えたのかもしれないというのが、朔耶とその精霊の推論だった。
マイローの日誌最終巻に埋め込まれた精霊石の働きは、そこに書かれてある内容がキーとなり、読んだ者をそれが書かれた時間軸と時空の枠越しに繋ぐというもの。
通常はそのページが書かれた時間の空気を感じられる程度で、時空の枠を越えて干渉し合う事は出来ない。しかし、精神体として自律安定しているコウは、力ある精霊と同じような性質にある為、繋がった時間軸に時空の枠を超えて移動する事が出来た。
流石に自由自在というわけにはいかないが、切っ掛けとなる記録やアイテムを基に、その時代、その場所に存在した精霊石の記録を辿って時間を溯り、局地的ながら過去に干渉して現在に反映させる事になった
「それってつまり、世界を改変してるんじゃなく、ボクが少し違ったすぐ傍の世界に移動してるって事?」
「多分、そういう事みたいよ?」
――さっぱり分からん件――
京矢がお手上げになっているが、精霊の推論と解説を説明した朔耶もよく分かっていないらしく、疑問形で肯定していた。
精霊からの忠告として、原因と結果に少し干渉する程度なら問題無いが、あまりに大きな干渉は時空の歪みやズレを深くしてしまい、コウの存在が大元の時間の流れから外れてしまう危険があるという。
完全に別の運命を辿った世界に帰還するような事になり兼ねないので、そこは気を付けなくてはならない。
今この世界から、コウの存在が消える可能性もあるのだ。
――まあ、結構でかいリスクだよな――
誤差の範囲でもこれだけの影響力があるのだから、それ以上の改変があれば当然とも言えるが、と京矢も納得していた。
時間跳躍に対する見解や推論、注意事項等を一通り話したコウと朔耶は、格納庫までやって来た。
「おーこれは広いわね~。貴重な資料も見つかったって?」
「うん、ここにはでっかい移民船がおいてあったんだ」
この地下施設に住んでいた古代人は、移民船に乗ってどこへ渡って行ったのか。
コウが「宇宙船っぽい見た目の移民船だった」事を告げると、朔耶は「まさか宇宙に脱出してたとかじゃないでしょうね」と冗談めかして言う。
「あの緑色の月に移住してたりして?」
「あながち有り得なくもないかも?」
立体映像に見た古代魔導文明の街並。エイネリアやエティスのようなガイドアクターを製造出来るほど進んだ技術なら、宇宙まで進出していてもおかしくないと。
流石にこの地下遺跡からあの月まで飛んで行けるような乗り物では無かったとしても、この世界のどこかに埋まっていたり、別の地下遺跡に隠されていたりするかもしれない。
「もしみつけられたらスゴイよね」
「確かに、ちょっと感動するかも」
――ロマンを感じるなぁ――
その後、コウは休憩を終えた調査隊の探索に合流し、朔耶も後日またエイネリアを迎えに来る事を告げて地上に戻って行った。
そうして、この日の夕方には地下遺跡の合同調査が終了。発見した『発掘品』は地上に運び出し、大学院の校庭に設けられた特設会場に並べられた。
明日からはレイオス王子がフレグンス側と交渉してこの『発掘品』の中から何点か譲ってもらい、その後は帰国の準備に入る。
レイオス王子達が交渉している間、コウとガウィーク隊は改めて王都の観光を楽しむ事にしていた。
「今回は戦闘も無い楽な探索だったが、中々面白かったな」
「ですな。実入りも名声も悪くない、特殊な仕事になりました」
学院生の野次馬を見渡したガウィークが伸びをしながら言うと、マンデルが今回のような特異な探索は滅多にないでしょうと同意する。
「少し退屈な部分もあったが」
「でも、色々と凄い発見もあって興奮しますね」
あまり身体を動かす機会が無かったと、ダイドは腕の鈍りを気にするが、留守組だったディスは遺跡で得られた数々の古代文明の知識は凄いお宝だと羨んだ。
「レフちゃんも楽しめた?」
「……アレが出なくてよかった」
終始警戒を崩さなかったレフにカレンが訊ねると、彼女は若干疲れた様子ながらも、ホッとした雰囲気でそんな事を言っていた。
「みんなお疲れ~」
コウはここで魔導船団の皆とは別行動に入り、地球世界に遊びに行く予定を立てていた。京矢の帰郷に合わせて異次元倉庫から世界を渡るつもりである。
オルドリア大陸で活動出来る期間も、残りわずかであった。
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