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オルドリア大陸編
第五話:古代魔導文明の瓦解(中編)
翌朝。
探索を再開したレイオス王子とガウィーク達にフレグンスの調査隊は、コウの報告を受けて件の通路を確かめに大穴前にやって来ていた。
「これは……」
「本当に通路が出来ているな」
「遂に時間まで越えるようになったか」
「意識して出来るわけじゃないよー」
コウから一連の説明を受けた彼等は、よもや過去への干渉で現在の遺跡の状態を改変し、道を切り開くとは予想もしなかったと驚いている。
――まあ、そりゃそうだよな――
『あ、キョウヤおはよー』
普段ならもう少し眠っている京矢も、昨夜の出来事で探索の事が気になったらしく、早起きして交信を繋いできた。
皆で少し捲れた通路を渡り、その先にある資料室を訪れる。流石に調査隊の全員が入ると、少々手狭になってしまったが。
「棚と椅子と机以外は何も無いな……」
「脱出する時に全部もち出してたみたいだよ?」
部屋内を見渡して呟いたガウィーク達に、コウは当時の様子を語って聞かせた。奥の机の前まで進み、コウが時間跳躍した精霊石の置物を囲む。
「これが例の置物か」
「転移装置の類ではないんだな?」
「うん、記録装置なんだってさ」
レイオス王子の問い掛けにそう答えたコウは、エイネリアに詳しい説明を頼んだ。エイネリアによると、この置物は『卓上簡易記録装置』という物らしい。
これを置いた一定範囲内の風景を立体映像で記録しているそうな。この部屋程度の広さであれば、中に宿る精霊が部屋全体の様子を常時記録していて、その容量に制限は無い。
――定点監視カメラみたいなもんか――
古代の遺物がほとんど残されていないこの遺跡施設で、ようやく見つかった『発掘品』。これはフレグンスの調査隊が回収する事になった。
資料室には他に目ぼしい物も無く、次は格納庫を調べに行こうかと話し合われている中、コウは何となく、過去の時間軸で小蜘蛛を見つけた天井の通風孔を見上げる。
そこには、綿のような蜘蛛の巣の残骸が垂れ下がっていた。小蜘蛛はあの後も、ここで狩りをしながら生き伸びていたのかもしれない。
「ちょっとまって」
置物を回収しようとしているフレグンスの調査隊に待ったを掛けたコウは、続けてエイネリアにこの置物の映像を今見る事は出来ないか訊ねる。
「可能です」
というエイネリアの答え。
「じゃあちょっと見てみよう」
――おお、マジか――
コウとエイネリアのやり取りにフレグンスの調査隊員達は小首を傾げているが、ガウィーク隊やレイオス王子達は、コウがエイネリアの託児所で古代の記録映像を観たという話を聞いていた。
それが観られるとあって、期待を抱いているようだ。コウはとりあえず、現時点から過去に向けて、この部屋に何か変化があった時間の映像を映すようエイネリアに指示を出した。
そうして最初に映し出されたのは、昨夜ここを訪れた少年型コウの姿だった。若干薄い半透明で浮かび上がった立体映像のコウが出入り口から現れ、エイネリアを取り出して部屋の中を見渡している。どよめく調査隊の面々。
「これは、昨夜のコウの活動か?」
「そうみたい」
「こりゃあ凄いな……」
しばらく部屋の中を歩いたコウは、何かに気付くように奥の机に向かい、置物の目の前に立って手を触れたところで、唐突にふらりと倒れた。
床に倒れきる前にエイネリアが身体を支え、腕に抱きあげると、その後しばらくその姿勢のままの時間が続いた。
「この時に過去の時間に行ってたんだ」
コウは現在の立体映像の状況をそう説明しながら、エイネリアに映像時間をさらに戻すよう指示を出す。
すると、次に部屋に表れたのは若い男性と少年くらいの二人連れだった。
「あれ?」
――誰だこの二人?――
若い男性は少し線の細い雰囲気で、魔術士っぽい服装をしている。少年はその従者という感じだ。カンテラの明かりを頼りに部屋内の様子を覗っている。二人の会話も記録されていた。
『凄いですね師匠、洞窟の水脈からこんなところに繋がってたなんて』
『これはおそらく古代遺跡だな』
どうやら中央の大穴から入って来たらしい。あの大穴はどこかの洞窟に続いていたようだ。
『師匠、ここに何かありますよ!』
『チェリス、迂闊に触れるなよ? どんな罠が仕掛けられているか分からん』
従者の少年が置物を見つけて覗き込み、師匠と呼ばれた男性が注意を促している。彼等は部屋の中を適当に物色した後、引き揚げに掛かった。
『師匠、あれは持って帰らないんですか?』
『ああ、精霊石ならいずれあの鉱脈を開拓すれば、いくらでも手に入るからな』
精霊石の置物に宿っている精霊には、既に何らかの役割が与えられている。今は自分達に必要無い物だ。若い男性はそう言って、棚に残っていた半透明の箱を一つ手に取り、鞄に納めた。やがて彼等は資料室を立ち去った。
「今の記録は?」
「およそ二百年前の記録になります」
遥か昔に、ここを訪れた者が居た事に驚く調査隊の面々。大穴が今も外に繋がっているのかは分からないが、いずれ調査が必要になるだろう。
その後は特に訪問者も無かったらしく、場面はこの遺跡施設が通常稼働していた太古の時代へ。立体映像は、オルデル帝国グループの人々が施設を脱出する直前の様子を映し出している。
中央のテーブルで資料を指しながら話し合っている人達や、棚から半透明の箱を取り出して鞄に詰めている人。置物がある机とは別の机上でパネル型の端末を弄っている人など様々だ。
「あ、ここにボクがいる」
コウは、壁を這って部屋の外に出て行く小さな蜘蛛を指して言った。
「その蜘蛛に憑依してたのか」
「コウちゃん小さ可愛い」
「ふむ、古代種の蜘蛛か。化石が見つかるかもしれんな」
「この蜘蛛君、今でも普通に居るみたいだよ?」
映像にはその後の騒ぎや、外で爆発が起きた様子などが記録されており、コウの報告した通りの出来事が映し出された。
爆風に煽られた小蜘蛛が置物の手前に着地すると、しばらく動かなくなっていたが、やがて机から壁に張り付いて登り、通風孔へと消えて行った。
「さっきのところで元の時間に戻って来たんだ」
「なるほどな。しかし、過去の風景をこうして観られるというのも、実に不思議なものだな」
もっと過去の映像、この遺跡施設で生活する古代の人々の様子などにも興味があったが、それはまた今度の楽しみに残しておくとして、今は増えた探索出来る場所の調査に力を入れる。
「では、あの奥の大扉を開いて格納庫を調べてみるか」
過去の時間軸では爆発の直前まで開いていた格納庫。追っ手の足止めに閉じて行ったのであろう巨大な扉と、その先を調べるべく、調査隊一行は資料室を後にした。
資料室の前から通路をそのまま進むと、奥の大扉前に少し開けた空間があり、通路はそこに下りる階段に繋がっていた。扉脇には開閉用らしき操作パネルが付いている。
「どうだコウ、開けられそうか?」
「いけるっぽい」
ここにも魔力は供給されており、コウがパネルにタッチして操作すると、最初にガコンッという重々しい音が響いた後、ゴンゴンゴンという音を鳴らしながら大扉がゆっくり開き始めた。
足元に少し振動を感じ、天井付近からはパラパラと埃や小石が落ちて来るが、崩落するほどの危険は無さそうだ。
やがて扉が全開になった。中は真っ暗だが、相当な広さの空間がある事が感じ取れる。この暗闇でも見通せるコウが先行して、格納庫の明かりを点けるべく踏み入る。
「ここの明かりのスイッチはどこかな~?」
「右側、扉裏に照明用の操作盤があります」
「うしろだった」
――まあ、普通出入り口付近にあるわな――
エイネリアのサポートを受け、入って割と直ぐの場所にあった操作盤を弄ると、格納庫の明かりが灯った。
「おお……」
「こりゃ広いな」
「確か、ここに移民船とやらがあったんだったな」
調査隊一行から感嘆のざわめぎが上がる。ガランとした巨大な空間。壁際には三層ほど連なった通路が掛かっており、奥の方に大きなトンネルが見える。
クレーンのような大型機械や、広目の窓が並んだコントロールルームらしき小さな建物。それに、金網の柵で囲まれた巨大な壺のような形をした機械。あれは恐らく、ウェベヨウサン島の最下層でも見た『魔導動力装置』だろう。
そして、この広い格納庫の真ん中辺りには、形の崩れた大きな長方形の箱が、斜めにひしゃげて転がっていた。箱の壊れた部分から中身が床に散らばっている。
「コウ、あれは何だ?」
「積み残しのコンテナの残骸だと思う。脱出する時に慌てて落っことしたやつだよ」
あの時、オルデル帝国グループの人が『ライブラリーのコンテナ』と言っていた事を告げるコウ。散らばっているのは半透明の箱状の物体で、『影晶』と呼ばれる古代文明の記録媒体であった。
「これは、さっきの『記録映像』で見た二人連れが回収していたものですな」
「ああ、その後の『記録映像』にも同じモノが映っていたな」
ガウィークが目敏く指摘すると、レイオス王子も最後に見たオルデル帝国グループの脱出直前の様子を挙げて同意する。
「この影晶の情報は見られないのか?」
「どうだろうね? エイネリア、これの中身見られる?」
コウはそう言って、コンテナから散らばる影晶をエイネリアに鑑定してもらう。
結果、いくつかの影晶は破損して機能が失われていたが、コンテナの中に残っていた物の大半は無事らしく、記録の読み出しが可能である事が分かった。影晶からの記録の読み出しは、同じガイドアクターであるエティスにも行えるようだ。
さっそくこの場で適当な影晶の記録が確認され、様々な情報が明らかになった。
主に、古代魔導文明が凶星の影響で壊滅的な被害を受けた後の、崩壊した世界の流れに関して。大きな戦争と、それによって生み出された生態魔導兵器や、多くの異形を生み出す事になった汚染された魔力について等、詳しい情報が記されていたのだ。
生態魔導兵器とは、それを浴びた生物をクリーチャー化するという細菌兵器のような代物だった。
戦争初期の頃は、敵対する勢力が互いに武装した兵士を送り込んだり、戦闘用ガイドアクターやドローン型の兵器が戦力の中心となっていた。
しかし、様々な勢力が栄えたり滅んだり、あるいは合併するなどして世界の主要な勢力が定まり、膠着状態に入った中期を過ぎる頃。十分な戦力を持たない小国が大国に対抗するべく、少ない兵力と高い魔導技術力を駆使して、人の倫理を外れた魔導兵器を作り出した。
その魔導兵器が発する魔力の影響を受けたあらゆる生物は、肉体が変異してクリーチャー化するというもの。相手国の人間や動物をそのまま異形の殺戮モンスターにしてしまう。
この魔導兵器が登場してから、戦争の様相が大きく変わった。
当時もっとも強い勢力を誇っていた国に真っ先に使用されたので、混乱する世界を武力を背景に対話で調停しようとしていた大国が一気に瓦解。この非道な兵器の使用を批難する声明があがる事もなく、また抑制される事もなく、各勢力は最悪の異形化兵器開発に力を注ぎ始めた。
結果、数年を待たずして、地上は人が住めない汚染された危険地帯となった。皆が地下に籠もるようになった事で、世界大戦は小康状態に。古代魔導文明はそのまま緩やかに滅んでいったのだ。
「予想以上に酷い事になってたんだな」
「これほどの高度な魔導技術文明を持つ世界統一国家だったのに、なぜそこまで愚かな行為を……」
ガウィークの感想とレイオス王子の疑問に、フレグンス遺跡調査隊の考古学者が「統一国家だったからこそではないか」と推論を述べる。
全体を指揮する優れた指導力と政策を行使出来る勢力は、ほんの一握りだった可能性。
上からのコントロールを失い、独立した各勢力は、技術力や生産力では非常に高い能力を有していた半面、国として纏まる力や、政治力を持ち合わせていないところも多かったと思われる。
「ふむ……愚か者に力を持たせると、碌な事にならないという教訓か――壮大な実例だな」
ある程度の影晶を調べて古代魔導文明が滅んだ原因というか、大きく傾いたところにトドメを刺した元凶が分かったところで、調査隊は影晶を『発掘品』として確保しつつ、格納庫の中を探索。先程発見した『魔導動力装置』の周辺を調べて、セキュリティー関連の安全を図りに動いた。
ちなみに、移民船が脱出路に使ったと思われる奥の巨大トンネルは、入って直ぐのところで土砂に埋め尽くされていた。ここも爆破して行ったのかもしれない。
――それにしても、生態魔導兵器の技術って、例のアレに繋がってる気がして来たぞ――
『ボクも同じこと思ったよ』
京矢の呟き交信に、コウも同意する。ここで言う『例のアレ』とは、ダンジョンでモンスターを生み出す禍々しい魔力を放つ装置を作った古の魔術士『ダンジョンコーディネーター』の事だ。
彼の者が作った装置『生命の門』は、魂の収集と融合が本来の目的だったようだが、その前段階となる実験装置は、明確に変異体や魔獣を生み出す為の物として設置されていた。
古代魔導文明の最悪の兵器に関する資料が、装置作成のヒントになった気がしてならないコウと京矢であった。
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