118 / 148
狭間世界編
第十二話:古都パトルティアノースト
しおりを挟む汎用戦闘機の編隊がカルツィオの空を行く。カルツィオ聖堂から南下を続けて月鏡湖を越えると、やがてガゼッタの首都である巨大な城塞都市、パトルティアノーストが見えて来る。
「けっこう大きいなぁ」
「昔はアレが全部王宮だったのじゃよ」
古代カルツィオで当時世界を支配していた白族帝国の中枢である古都パトルティアノーストは、城塞都市が丸ごと王族の城だったそうな。
長方形の箱型で、中央よりやや北寄りの部分に大きな塔が立っており、その屋上には緑の庭園が見える。塔の周りは深い溝で隔てられ、橋が掛けられている。
城塞部分からは隔絶された『中枢塔』というらしい。
パトルティアノーストの上空までやって来ると、大量の捕虜を乗せた輸送機隊はガゼッタの戦士達が待機している軍施設の敷地へ。
コウとアユウカスを乗せた機体は、中枢塔の天辺に広がる空中庭園に下りて行った。
夕日に照らされる中枢塔。着陸した汎用戦闘機から降り立ったコウは、改めて周囲を見渡した。
相当に高い位置に造られたこの場所は、まさに『空中庭園』の名に相応しく、ぐるりと360度カルツィオの大自然が広がっている。
すぐ下に広がる巨大な城塞都市部分も視界に入らないので、ここだけ高い山の頂きに切り取られた場所のような錯覚を覚える。
キョロキョロと視線を彷徨わせるコウは、庭園の其処彼処に遺跡っぽく佇んだり転がっている古そうな石柱を観察しつつ、感嘆していた。
「すごいなぁ」
「良いところじゃろ? まずはここの王を紹介しよう。こっちじゃ」
アユウカスは、自身のお気に入りの場所でもあるこの庭園を軽く自慢しつつ、コウを奥に見えるドーム状の建物へと誘う。
神議堂と呼ばれるその建物は、ガゼッタ国の意思決定が行われる『中枢塔』の中にある『中枢施設』であった。
ドーム状の建物の前には、白髪の大柄で精悍な顔つきをした男性が佇んでいた。
(あ、ガゼッタの王様だ)
コウはアユウカスや悠介達から得た記憶情報で、彼が『シンハ王』だと直ぐに分かった。王の出迎えにアユウカスが声を掛ける。
「今戻ったぞ。おとなしゅうしておったか?」
「ああ、こっちは動きも無く退屈だったぞ。婆さんは随分楽しんできたようだな」
カルツィオ聖堂での騒動とそれに伴う大量の捕虜を連れて帰還した事は既に伝わっているらしく、シンハ王は退屈な留守番をさせられた事を不満げに愚痴る。
「潜伏しておる連中がいつ動くかもわからんのに、もうちっと緊張感を持て」
血気盛んな若者を言い聞かせるように諫めるアユウカスに、ふんと鼻を鳴らして応えたシンハ王は、コウに視線を向けて問う。
「して、その子供は?」
「コウという。ユースケやサクヤ達と同じ異界から来た者じゃ」
「よろしくー」
紹介されて挨拶をするコウ。
「ガゼッタの王、シンハだ。それで、お前は何が出来る? 婆さんがわざわざ連れ帰るという事は、ユースケやサクヤのような人外の力を持つのだろう?」
実に王族らしからぬ大雑把な挨拶と、王に相応しい洞察力。コウは初めて見るタイプの王様だなぁと興味を抱く。
そこでアユウカスが動いた。
「ところで、シンハは先延ばしにしておる結婚についてどう考えておるのかのう」
急にサリナ――シンハの婚約者の話題を出されて訝しむシンハだったが、アユウカスの問い掛けはシンハではなく、コウに向けられていた。
「えーとねー」
じっとシンハを見上げながら何かを答えようとしているコウに、不穏な直観を働かせたシンハがアユウカスに意図を訊ねる視線を向ける。それにニヤッと笑みを返したアユウカスが告げた。
「この子はのう、人の心を読み取る事が出来るんじゃ」
「っ!?」
コウの読心能力は人の内面をかなりの深層レベルまで読み取ると聞いて慌てるシンハ。
「まて、白族の王として我が心を読む事は許さん」
シンハは、ガゼッタ国王の名において読心を禁じた。コウはアユウカスに御伺いを立てる。
「王さまが駄目って言ってるよ?」
「かまわん、白族の里巫女であるワシが許可する」
アユウカスはそう言ってガゼッタ王の令に被せる。
「どっちがエライの?」
「ワシじゃ」
「……」
沈黙するシンハ王。
事実、アユウカスは古代カルツィオに繁栄した大帝国で、白族の帝王トルイヤードに見初められた王妃でもある。里巫女として白族を見守りながら、悠久の時を過ごして来た最古の王族なのだ。
「えーとねー」
シンハ王の本音の気持ちが、コウの読心能力で暴露される。
「めんどくさいが六割。リシャって人の気持ちが気になるのが三割。跡取りだけ残せれば後はウヤムヤにならないかなーって期待が一割?」
婚約者サリナとの結婚は、実は以前にもサリナ側の保留でつまずき、国内を二分する勢力と隣国も巻き込んで少し揉めた事がある。
脳筋気味なシンハにとって、剣の腕では解決出来ない問題は頭が痛い。正式に結婚を進めれば、またぞろややこしい問題に対処しなければならなくなるかもしれず、それならばいっそ世継ぎだけ用意して、後は適当に流せれば――あわよくば有耶無耶にして済ませたい。
というのが、シンハの本音である。
「……シン坊」
「お、王の勤めは果たしているだろう」
ジト目のアユウカスに低い声で詰め寄られて、顔色を悪くするシンハ王。そんな二人のやり取りを耳の端に聞きつつ、コウは空中庭園の端まで歩いて行く。
安全柵などは設けられていないが、直ちに落下するような造りではないようだ。庭園の端から下を覗き込むと、二メートル幅ほどの足場があった。
空中庭園は皿の上に皿を乗せた様な二重構造になっており、土の流出防止や水捌けも考えられた仕掛けが組み込まれているらしい。
これらは過去カルツィオに降臨した、古代の邪神によって造られた施設なのだそうな。
(大昔のカルツィオかぁ。古代魔導文明くらいの昔はどんなだったんだろう)
狭間世界を漂う浮遊大陸にも、魔術や技術が発達した超文明が存在したのだろうかと、異世界の歴史に想いを馳せるコウ。
潜伏する敵対勢力の燻り出しを期待されて、ガゼッタにやって来た一日目は、こんな感じに過ぎて行くのだった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
異界の魔術士
ヘロー天気
ファンタジー
精霊によって異世界に召喚されてから、既に二年以上の月日が流れた。沢山の出会いと別れ。様々な経験と紆余曲折を経て成長していった朔耶は、精霊の力を宿した異界の魔術士『戦女神サクヤ』と呼ばれ、今もオルドリアの地にその名を轟かせ続けていた。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。