スピリット・マイグレーション

ヘロー天気

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狭間世界編

第十三話:古都の病巣と影を視る者



 茜色から夕闇に変わる空に星が瞬き始めた頃。コウはアユウカスのシンハ王への御小言が終わるのを見計らい、二人に大事な報告を入れておくべく声を掛ける。
 アユウカスの汎用戦闘機の専属操縦者が、少しだけ栄耀同盟に協力していたという情報。

「栄耀同盟の構成員になった昔馴染みの人に頼まれて、この国に最初に来たときに色々持ち込んだみたい」
「ふむ。飛行機械の整備に必要な機器とやらを搬入しておったが、その中に工作員の武器を仕込んでいたという事か」
「連中の切り札か……中身は分かるのか?」
「くわしい内容までは本人もしらないみたい」

 魔導兵器の技術者でなければ、それを組み立てられないらしい事までしか分からなかった。
 一応、アユウカスに汎用戦闘機を貢いでパイロットや整備士も用意した、真聖光徒機関の指導者である大神官は、この事について把握していないであろう事も付け加える。

「聖堂でお主を撃ち抜いた、あの小さな武器のようなものを持ち込まれていたら、厄介だのう」

 アユウカスは、カルツィオ聖堂の騒動で工作員達が使っていた『魔導拳銃』が持ち込まれている事を危惧する。

「あれも危なそうだけど、もっと大きいものみたいだよ?」

 コウは、栄耀同盟の工作員から読み取れた心情を推察するに、切り札として運び込んだ魔導兵器を使えば、パトルティアノーストの制圧も可能と考えているであろう事を告げた。

「ほう、そこまで自信を持っているというわけか」
「『あれなら確実』とか『安定して使える』とか、信頼感みたいな感情があったから、たぶん兵器として実績があるんじゃないかなぁ」

 ポルヴァーティア軍の割と派手めな魔導兵器で、パトルティアノーストのような入り組んだ作りの屋内でも有用なものとなると、持ち運び出来るサイズの武器だろうかと当たりを付ける。

「わざわざ部品を持ち込んで、技術者による組み立てが必要となると、やはり彼奴等が懐に隠し持っていたあの武器の強力版というところかの」

 アユウカスは、あれほど使い勝手の良い強力な飛び道具が相手では、白族の戦士達では分が悪いと推察する。
 数を揃えられれば、恐らく少数精鋭規模の相手でもパトルティアノーストを制圧され兼ねない。

「ま、何にせよこれからじゃな。コウよお主の力に期待しておるぞ」
「おっけー」

 聖堂で見せた類稀なる諜報能力に頼らせてもらうというアユウカスに、コウは軽く了承する。

「さて、ではお主の歓迎会――といきたいところだが……確か食事は必要ないのじゃったな?」
「うん、睡眠もだいじょうぶだよ」

 パトルティアノーストまでの飛行中、コウは自身の特徴をアユウカスにある程度説明してある。食事や睡眠は必要なく、魔力で構成された召喚獣の身体は基本的に疲れも知らない。
 呼吸するように人の心を読み取っているので、会話が無くても近付くだけで相手の事を大体把握出来る。
 その流れで、パトルティアノーストの構造に詳しいアユウカスからマップ情報も読み取り済み。故に、案内も不要。
 重要施設から細かい抜け道まで、アユウカスが知っている場所の全てを網羅している。

「改めて考えると結構デタラメな存在じゃな、お主」
「えへへ~」

 アユウカスはこれから捕虜達の取り調べの様子を見に行くそうだ。

「その前に腹ごしらえじゃな。晩餐の席でお主と今後の打ち合わせをするつもりじゃったが……」
「偽大使と入れ替わった人達が来てるかもしれないから、ボクは今から探りに出るよ」

 街の事は大体分かっているし、栄耀同盟の工作員や覇権主義勢力の過激派の動きをなるべく早く掴んでおきたいので、これから直ぐ街に向かうと告げるコウ。

「そうか。うむ、わかった。では頼む」
「りょーかーい」

 割と深刻な会話の内容とは裏腹に、実に緊張感の無い返事で応えたコウに、アユウカスから活動資金として幾らかの晶貨が支給された。
 コウはそれを異次元倉庫に仕舞いつつ、隣で腕組みをしているシンハを見上げて言った。

「じゃあその時に宝物庫見せてくれたら、そこで決めるよ」
「っ!? そ、そうか」

 シンハは一瞬驚くも、納得して頷く。
 実はコウとアユウカスが話していた時、シンハは内心で『上手く奴等を見つけてくれれば、褒美を取らせよう』とか『異界の者だし、何が良いだろうか……いっそ宝物庫で選ばせるか?』等と考えを巡らせていたのだ。
 完全な読心が常時発動状態という、稀有な能力で本心をあっさり読み取って来るコウに、シンハはどうにもやり辛そうであった。


 アユウカス、シンハ達と別れて空中庭園を後にしたコウは、案内役の戦士に連れられて中枢塔の出入り口である跳ね橋を渡る。
 四つあるこの跳ね橋を全て上げると、中枢塔は城塞都市の中で独立した指揮施設となるのだ。

(橋も廊下もおおきいなぁ)

 一般民の住む居住区は狭い通りも多く割と入り組んでいるようだが、中枢塔に近いこの一帯や、街中を走る廊下でも城塞門に繋がるメインの廊下は馬車がそのまま走れるほど広く、天井も高めに造られていた。
 橋を渡り終えたところで、コウは案内人に「ここまでで大丈夫」と告げる。

「あとは自分でてきとーに歩き回るから、アユウカスさんによろしく」
「分かりました。それではこれで」『こんな小さい子供が一人で大丈夫かな?』

 たまたま近くにいたからという理由で、アユウカスからコウを中枢塔の外まで案内するよう言い付かった案内役の戦士は、コウに関する詳しい情報を与えられていない。
 しかし、『白族の救世主』とも謳われていた『邪神ユースケ』と同じ黒い髪を持っている姿に、かの御仁の血縁者ではないかと推察しているようだ。
 見たままの子供だと思っている彼は、少し心配そうにしながら中枢塔に戻って行った。


「さーて、まずはどこへ行こうかな~――とその前に……」

 とりあえず、先程の案内人の思考から読み取れた内容から考えても、ここでは黒髪のまま動き回ると目立ってしまう。なので現地人に溶け込めるよう変装する事にした。

(ひとまず近くの隠し通路に隠れて、そこで変装しよう)

 虫や街猫が居れば彼等に憑依して探索するのも良いが、まずは人の足で歩き回って情報を集める。人の姿では入って行けそうにない場所や、往来を制限されている怪しい場所を見つけたら、虫などに憑依して侵入する。
 憑依できる虫や動物が見つからなくとも、ある程度の厚みの壁なら精神体で擦り抜ける事も可能だ。

 跳ね橋の前を後にしたコウは、以前シンハ王が少数の精鋭を率いてこのパトルティアノーストを制圧した時、アユウカスの案内で侵入に使ったらしい抜け道のある通路の脇道へと歩き出した。


 深夜のパトルティアノースト。
 街の外側や上層は陽の光を取り込む窓があるので昼夜を感じられるが、中層から下の階や内側の屋内はダンジョンの如く闇に閉ざされるので、常に明かりが灯っている。
 夜通し営業している店もあり、屋内の商店街に人通りが絶える事は無い。ある意味、眠らない街を体現していた。

 深夜の商店街で営業しているのは、普通の雑貨屋や店主の気分で開く老舗の薬屋などもあるが、大半が酒場と娼館、賭博場など、大人向けのいかがわしい店で占められる。
 普通の街では繁華街に当たる場所だ。

 パトルティアノーストという箱型城塞都市の構造と、ガゼッタ国の首都として治められるようになる前の、旧ノスセンテス時代。等民制という階級制度によって区分けされていた頃は、居住区がそれぞれの階級に合わせて街の四隅へと分割され、その他の施設は中央寄りに集められていた。
 その名残で、街の中央付近を通る商店街には、庶民向けから高級店まで、様々な店舗が混在しているのだ。

 そんな夜の商店街を、一人の少女がてくてく歩く。
 艶のあるショートの緑髪を揺らし、小奇麗なドレス風の服を纏った少女は、どこか身分の高い家の令嬢のような、育ちの良さが感じられた。

「君、こんな時間に一人で出歩いていると危険だぞ」

 少女に声を掛けたのは、白髪の若者だ。相当に鍛え上げられた筋骨隆々な体躯に、さわやか系な優男風の顔。
 甲冑は付けていないが帯剣しており、服に記された紋章はガゼッタ軍の精鋭部隊『白刃騎兵団』の所属を表している。
 彼の周囲には同じ格好の若者や中年男性もおり、どうやら同僚と夜の酒場に繰り出して来た集団らしい。少女に声を掛けた若者の仲間が、彼を指して言う。

「おー、またタリスが女の子引っ掛けてるぞー」
「いや流石にあれは若すぎるだろー」
「ちげーよっ! つか俺は今はスン一筋だっつの」

 囃し立てる仲間に吠えつつ、タリスと呼ばれた若者は少女に向き直る。

「最近は他所から来た妙な連中が徘徊してるから、夜は出歩かない方がいい」

 何なら家まで送ろうか? と訊ねて、また仲間達から「やっぱり引っ掛ける気だ」と冷やかされるタリス。
 緑髪の少女――変装したコウは、この若い兵士達から何か有用な情報を探り出せないか、読み取りを試みた。

(あれ? この人、ユースケおにーさんたちの知り合いなのか~)

 タリスが元々はフォンクランク領の村出身で、スンに恋慕して悠介と決闘騒ぎまで起こした事がある、という情報が読み取れた。
 村では性質の悪い女たらしとして素行もあまり宜しくなく、色々あって立場を悪くしている時にガゼッタの台頭があり、亡命者を募る部隊が村を訪れたのを切っ掛けにこちらへ渡って来たらしい。村を出て外の世界を知った事が良い方に働き、素行の悪さもすっかり改善されているようだ。
 少々思い込みが激しく独善的な部分もあるが、割と真っ直ぐな性格である事が分かった。

 シンハ王の苛烈な剣技に憧れて、訓練の厳しい白刃騎兵団入りを希望したタリスは、今や立派な『白族の戦士』として、ガゼッタ国繁栄の為に日々腕を磨いている。
 そんな彼は、国内で覇権主義派の急伸によって回帰派や融和派との対立が深刻化している事や、それに伴い不安定な状況に陥っているガゼッタの現状を正確に把握しており、彼なりに憂いていた。

 ガゼッタ軍に入ったばかりの頃に、訓練兵仲間だった同僚や先輩戦士の中にも覇権主義派に与する人がいて、タリスは今も時折やって来る彼等から『同志になろう』と勧誘されている。
 僅かな期間で白刃騎兵団の正規兵にまで上りつめ、あの闇神隊長ユースケと戦った経験もあるタリスは、ガゼッタ軍の中では意外と注目されている人物であった。

 コウは、タリス青年の事を『近くにいれば情報源としても都合が良さそう』と判断した。悠介の恋人のスンを理想の女性としているようなので、それっぽく振る舞って見せれば興味を惹ける。
 京矢と交信が繋がっていれば、まず間違いなく『やめとけ』と自重させられていたところだが、この世界ではツッコミ不在。

「あ、ごめんなさい。わたしここには来たばかりなのでよく知らなくて。親切な人なんですね」

 ここで天使の微笑ニコッ。軽く握った片手を口元に、計算され尽くした身体の傾きは絶妙な曲線を描き出し、ぽやっとした表情は安心感と共に微妙に付け入る隙をうかがわせる。

 コウの『少年型召喚獣』は、天才魔導技師アンダギー博士が手掛けた『奉仕用女性型召喚獣』の人気モデルがベースになっており、相手に好印象を与える為の様々な演出機能が搭載されている。王都で研究が重ねられた『女性の繊細で魅力的な仕草』が、何通りも登録されているのだ。
 普段はOFFにしているそれらの機能をONにして対応した結果――

「お嬢さん、ここは俺が送っていこう」
「いや、俺が責任を持って案内する」
「まあまて、こういう事は年長者にまかせろ」
「いやいや、やはり若者同士の方が」
「ええいっ お前ら手のひら返し早過ぎんだろ! いいから店に行ってろ!」

 タリスと彼の仲間が、纏めて釣れた。本当にただの親切心で声を掛けたダケだったタリスの心を鷲掴みにしたらしく『仲良くなりたい』『お近づきになりたい』という彼の気持ちが読み取れる。
 まだ『結婚したい』とまでは思っていないようなのでセーフとしたコウは、彼等と適当に親睦を深めてまた会う約束を取り付けた。明日にでも、訓練場の見学をさせて貰える事になっている。

「それでは、またお会いしましょう」
「またなー、フョルテちゃん」
「訓練場で待ってるぜ!」
「タリスは抜け駆けすんなよ?」
「お前らに言われたくねー」

 まだ飲み歩きを続けるらしいほろ酔い気分の彼等と別れ、コウは酒場を後にした。ちなみに『フョルテ』はこの姿のコウの偽名である。コウが適当につけたので深い意味はない。
 髪と瞳を緑色にして『風技の民』に変装しているコウは、『神技人』達が常時発している『神技の波動』も魔力操作で模倣している。
 この神技の波動が当人の属性を明確に示す為、通常は属性を偽る事は不可能なのだが、いずれの属性にも偽装出来るコウは神技人が相手でも変装を見破られる心配は少ない。

 深夜の商店街を歩きながら、コウは後方に意識を向ける。実は、先程の酒場でタリス達と親睦を深めていた時に、こちらの様子をこっそり窺っている数人の気配と思考を拾っていた。
 その中に、単なる他人の好奇心ではなく、明確に『タリスに接触する者を探る』という意図を持って観察している者がいたのだ。そして現在、その人物に尾行を受けている。

 覇権主義派が勧誘したいタリスの動向を探っているのか、覇権主義派の動きを警戒する対立勢力や政府側が、監視や護衛目的で付いているのかはまだ分からない。
 もし覇権主義派の人物だった場合、早々に彼等の根城を発見できるので手間が省けると判断したコウは、酒場から尾行してくる追跡者の思考を読みつつ宿が並ぶ通りに足を向ける。
 酒場でタリス達との会話を盗み聞きしていたなら、この少女フョルテコウは最近ガゼッタにやって来たばかりで、街の勝手が分からない一般人の娘であると自称している事は把握している筈。

 ただの素行調査であれば、宿泊先の確認と宿の人間に聞き込みくらいはするだろう。コウはそんな事を考えていたのだが――

『――神技の波動も小さいし、アレを使えば洗脳も難しくない。これでタリスを引き込める――』

 追跡者は致命的ともいえる思考を浮かべ、コウはそれを読み取った。

(これは大当たりっぽい)

 適当な宿に入り、部屋を借りて宿泊しつつ相手の出方を覗うも、追跡者は宿を確認すると離れて行った。

(今日は仕掛けてこないのかな?)

 もっと近くに寄れば色々な情報を根こそぎ読み取れるのだが、流石に距離があり過ぎては、こちらに向けて来る意識を通じてしか読み切れない。
 今から追跡者を追うのも、この少年型召喚獣の身体能力を考えるとリスクが高い。捕まってアジトに運ばれるなら良いが、逃げられると恐らく追い付けないだろう。
 せっかく掴んだ敵対勢力らしき手掛かりなので、ここは大人しく相手からのアプローチを待つ事にした。ベッドに入り、寝たふりで過ごす。

(ついでに倉庫の整理もしておこう)

 異次元倉庫に浮かぶ様々な保管物をチェックする。取り込んだまま捨て忘れていた瓦礫の一部などが散らばっていたので、木片と石材に選別して纏めておく。
 そんな調子で、明け方まで時間を潰したのだった。


 翌朝。

(けっきょく誰も来なかったなぁ)

 昨夜は襲撃も無く、静かに朝を迎えたコウは、一度召喚を解いて再召喚する事で汚れも埃も無い、出来立てのまっさらな身体になると、少女の姿に変装して部屋を出る。
 昨夜の追跡者の仲間が来るかもしれないので、この宿にはもうしばらく泊まる事にした。コウは、カルツィオの文字はまだ書けない為、台帳への名前記入等は宿の受付人に代筆を頼んでいる。

「お食事はいいのかい?」
「うん、外でとるから」

 若い受付人が応対するカウンターで三日分の代金を前払いしたコウは、宿を出てタリス達の訓練を見学しに軍施設のある区画へと向かった。

(そうだ、なにか差し入れをもって行こう)

 異次元倉庫内には結構な量のお菓子が保管されている。アリス嬢の屋敷の使用人達がくれたお菓子と、ロゼス第三王子との秘密の憩い場でのお茶会でお土産にもらったお菓子などだ。
 適当にクッキーでも見繕って行けば喜んでもらえるだろう。別に餌付けではない。


 軍施設の区画にやって来ると、通りの入り口を見張る門番兵士に声を掛けられた。

「うん? お嬢ちゃん、誰かの身内の者かい?」
「いいえ、タリスさん達に誘われて、訓練場を見学させてもらえる事になってるんですが」

 昨夜のやり取りを掻い摘んで説明すると、門番の兵士は顔を見合わせて思わず溜め息を吐く。

「タリスか……アイツまただよ」
「とうとうこんな小さい子にまで……」

 タリスの女癖の悪さは兵士達の間でも有名らしく、村で立場を悪くしていた頃や、亡命して来た当時よりは大人しくなっているが、それでも一般的なガゼッタ男子から見て節操がないらしい。
 その時、軍施設区画の奥から昨夜ぶりの見知った顔が通り掛かった。

「あっ! フョルテちゃーん!」
「ありゃ、昨夜の子だ」
「おお、本当に来たのか」

 装備前の甲冑を肩に掛けて、どやどや歩く白族の戦士の集団。その中に、タリスを始め昨夜交流した若者グループが居た。
 これから訓練場に向かうところだったらしく、コウは彼等の案内で軍施設区画に足を踏み入れた。


 パトルティアノーストの外壁付近にある訓練場は、屋内部分と屋外部分が繋がった造りになっており、有事の際にはここに集結して直ぐに出撃できる仕組みだ。。
 城塞都市の外壁と、都市を囲む防壁の隙間はそこそこ広く、騎馬による訓練にも対応していた。屋内部分の壁の片側には見学者向けの観覧席もあって、フョルテコウはそこに案内される。

 訓練場では既に数人の若い白族戦士達が剣技や筋力トレーニングに励んでおり、彼等の何人かはタリス達のグループが連れて来た少女が気になってか、ちらちらと視線を向けている。

 その思考を読んでみれば、ほとんどは門番兵士と同じく『またタリスか』という呆れとも憤慨ともつかない内容だった。――が、それらの中に幾つか、不穏なものがあった。

『――昨夜の報告にあった女か……まだ子供のようだが、タリスのあの様子なら使えるな――』
『――あまり気が進まないやり方だが、何とか決起の日までにタリスを引き込めそうだ――』

 案山子が並ぶ一角にて、木刀で打ち込みをやっている若者と、そのとなりで休憩している若者。いずれも白族戦士の正規兵のようだ。

(あそこの二人は覇権主義派の人かー。なんか狙ってるみたいだし、適当に隙をみせておこう)

 グループ単位で自主鍛錬に励むガゼッタの戦士達を眺めつつ、時々休憩しているタリス達と談笑するなどして交流を深める。
 普段は若い堅気の女性が近付く事など有り得ない、殺伐として荒々しく、汗臭い訓練場に、一陣の清浄な風が吹き抜ける。

「おつかれさまですー、お茶でもどうですか」
「うおおー、いただきます!」
「俺も俺も」

 タリス達のグループのみならず、居合わせた他の小隊グループも集まって来ては、フョルテ嬢コウの用意したお茶とお菓子にありつこうとする。
 そのじつ、皆お近付きになろうと目論んでいた。

「ええい、お前らは鍛錬に励んでろよっ」
「独り占めよくない!」
「たくさんありますから、ごゆっくりどうぞ~」

 むさ苦しい筋肉ダルマな集団に囲まれてもニコニコと朗らかな笑みを崩さない少女フョルテは、出会いの少ない若い戦士達にとって、すっかり癒しのアイドルと化していた。

 そんな調子で昼頃まで過ごし、ここで得られる情報を回収し終えたコウは、引き揚げに掛かる。

「それではまた、お会いしましょう」
「フョルテちゃん、またなー!」
「明日もまってるぜー!」

 多くの若人達に見送られながら、軍施設区画を後にした少女フョルテなコウは、そのまま宿泊先の宿屋へと向かう。
 訓練場を出る際、例の覇権主義派の二人組の片方が兵舎に向かっていたのだが、その時に彼等が少女フョルテコウに意識を向けていたので、かなりの遠距離から思考を読む事が出来た。
 内容は『実行部隊に身柄の確保を指示する』というものだった。

(たぶん昨夜の人が来るかも。より道せずに真っ直ぐ帰って、部屋で待機してよう)

 少女に変装して諜報活動中のコウは、攫われる気満々で宿への帰り道を急ぐのであった。



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