スピリット・マイグレーション

ヘロー天気

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よろずの冒険者編

第三十六話:宵闇のマスターマインド

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 銭湯からの帰り道。人気ひとけの無い通りに差し掛かったところで突如コウ達を取り囲んできた若者グループ。
 コウが彼等の内心を読み取ったところ、後方の四人は昼間に揉めた狂暴なグループのメンバーだと分かった。

 正面を塞いでいる大柄な三人は初顔だったのでその内心情報を探ってみると――

『――まったく、社長の火遊びは相変わらずか――』
『――先生の親馬鹿にも困ったもんだ――』
『――いくら孫が可愛いからって、こんな事を続けていては……――』

 そんな愚痴っぽい心情を抱いていた。その三人の後ろから、大袈裟に包帯を巻いた件の若者が、取り巻きと共に現れた。

 昼間、エイネリアが魔導通信機能による情報収集ハッキングで特定したその若者は、北条ほうじょう 宗近むねちかという23歳。一応、企業家。
 祖父が代議士をやっており、その祖父に大層可愛がられていて学生時代からかなりやんちゃをしていたらしい。

 宗近はコウを見るなり、正面の三人に顎で示す。

「おぅ、こいつだ」

 三人はコウを見て内心で『えぇ……』という反応を浮かべつつ、自分達の役割仕事を果たすべく口を開いた。

「あんたらその子の保護者か?」
「何ですか? あなた達は」

 コウと、寄り添う美鈴を庇うように、半歩前に出ているケイが対応する。

「お前んとこのガキが突っ込んで来てうちの社長が怪我したんやが?」
「機材も壊されたそうですが、どう責任とってくれるんですかねぇ」

 この三人はどうやら宗近の『祖父』が『孫』に付けている配下らしく、用心棒のような立場で宗近が起こしたトラブルの処理や後始末を担っているようだ。
 それぞれ特徴的な役付けをしているようで、比較的普通に話す役と、やたらドスを効かせて威圧する役。それに嫌味たらしい言い回しで要求をちらつかせる役といったところ。

 脅迫罪や強要罪に触れないよう、巧みに言葉を選んで要求を通そうと脅し付けようとしている。この三人が交渉役として動く時は、普段の取り巻き達はただ大人しく控えて指示に従っているようだ。

「俺の聞いた話だと、そこの大袈裟な包帯男が子供達に暴力を振るったそうだけど?」

 ケイが彼等との会話で情報の引き出しと時間稼ぎをしている間に、コウはエイネリア経由で警察に連絡を入れておいた。

 コウから念話通信を受けたエイネリアが、魔導通信で仙洞谷駐在所に匿名通報。正確な位置と状況を伝えているので、現場を目撃した地元民からの通報と判断されるだろう。

 そう時間も掛からずあのベテラン警官が駆け付けるであろう事を予想しつつ、コウは雑なミイラみたいな恰好になっている宗近から更に詳しい情報を抜きに掛かる。

 読み取れた内容は次の通り。


 高価な機材が壊されたという訴えは嘘のいちゃもん。自身が派手に転んだ際に巻き込んだので、傷くらいはついている。
 怪我をしたというのも大袈裟な包帯姿と同様に嘘であるが、傘下の病院で祖父の息の掛かった掛かり付けの医師に診断書を作らせるので問題無い。


 そうして慰謝料や修理費をせしめようという企みだった。

 コウにぶっとばされた事に関しては、狭い範囲に密集して機材を並べていた為、足元や周囲に目が届かなかった状況から鑑みて、幾つかの偶然が重なった結果だと思っているようだ。

 あの時、コウの姿を見失う瞬間に強烈な風圧を感じた事などから、山間特有の強風に煽られてバランスを崩した際、こっそり不意打ちで加勢した者が居た、という仮説を推している。

 小さい子供に大の大人が殴り飛ばされた、等という絵面に現実味が薄かったので、その仮説を信じたらしい。

 なので宗近の認識は、突然の強風で体勢を崩したところにタイミングよくコウが突っ込んで来た。
 そうして転びかけている自分を、周りにいた他の撮り鉄の誰かが偽善を働かせて突き飛ばした、という事になっている。

(ふーむ?)

 全てを目撃していた宗近の取り巻き達は、彼に何も教えなかったのか。宗近の思い込みが激し過ぎて言っても無駄だったのか。

(自分がそうだと思ったら、それが正しいと思い込んじゃうタイプかー)

 それでいて周りに逆らえる者が居ないので、彼の思い込みはより強固になってしまったのだろう。コウは北条ほうじょう 宗近むねちかの在り方をそんな風に感じた。


 それはそれとして、先程からケイと三人組の問答が続いているが、まだ誰もこの付近に近付いて来る者が居ない事に違和感を覚える。
 駐在所のあのベテラン警官も中々やって来ない。

 潟辺達を通報した時に比べて動きが遅い気がすると、コウがそんな事を考えた時――

「とりあえず、警察を入れて話し合おうか」

 ケイが三人組にそう促した。その瞬間、三人組と宗近の内心から『既に根回ししている』との思考が読み取れた。

『――田舎の駐在所の警官ごとき――』

 祖父の権力。これまでも散々、宗近が起こしたトラブルや軽犯罪はの圧力でもみ消してきたようだ。

 コウはケイの服の裾をくいくいすると、警察が当てにならない事を告げる。

「なんかあの人の親の親がダイギシとかで、コネと権力使って好きほうだいやってるみたいだよ」

 そんなコウの暴露話に、宗近は一瞬驚いた顔をするが、昼間に背中を蹴った暴力沙汰の件で訴えて袖にされたに違いないと判断して、にやにやし始めた。


「代議士ねぇ」
「向こうがエライ人のコネを使ってくるなら、こっちもエライ人のコネで対抗するよ」

 宗近達に胡乱な目を向けているケイに、コウはそう伝えてエイネリアに念話で追加の指示を出す。エライ人のくだりで美鈴が『あ~』と納得している。


 とりあえず、人通りが少ないとはいえこんな往来でいつまでも睨み合っているわけにもいくまいと、ケイは宗近達に道を開けるよう促した。

 が、彼等はコウ達を逃がす気は無いらしく、先程から後方の四人がじりじり距離を詰めて来ている。
 彼等の内心を詳しく読み取ってみると、なにやら身柄を確保後、個別に監禁状態にして用意しておいた契約書にサインさせるという計画が浮かんで来た。
 近くにそれ犯行用の車(ワンボックス)も停めているようだ。

 コウはケイにその事も報告しておく。

「――ってなこと企んでるよ」
「碌でもないな……」

 身長差がある為、コウの耳打ちを屈むような姿勢で受けたケイは、そう呟いて溜め息を吐いた。その動きを隙と見たのか、後ろの四人が一気に距離を詰めようとする思考を浮かべた。
 四人組の意識は主に美鈴に向いており、大分ゲスい事も考えているようだ。

 それらを察知したコウは、彼等に向き直って忠告する。

「美鈴に指一本でも触れたら、加減無しでぶっ飛ばすからね?」

 正面の三人組と対峙するケイと、間に美鈴を挟んで後ろの四人組を牽制するコウ。

 拳闘の構えを取ったコウは、魔力を練り上げて戦闘に備えた。
 別の世界で、幾度となく命のやり取りをして来た高ランク冒険者に睨まれ、謎の威圧感を感じた四人組は、足を踏み出せずに固まる。

 昼間、土手の向こうで子供コウを足蹴にした宗近が報復で殴り飛ばされた時の、あのざわつく雰囲気が漂う。
 彼等が不穏な動きを見せた事で、俄かに緊張感が高まっていく。

「お~い、君ら何してんのー!」

 そこへ、ようやくあのベテラン警官がやって来た。町の青年団(平均年齢50オーバー)を二十人くらい引き連れている。

「どうしたーどうしたー」
「あーこの辺ちょっと暗いなぁ」
「街灯付けてもらおうかいね」
「予算が……」

 どやどやと現れた駐在さんと青年団の姿に、舌打ちする宗近と、彼に視線で指示を仰ぐ正面の三人組。後ろの四人組は互いに顔を見合わせながらそわそわしている。

「ちょっと駐在所で話聞こうか?」
「ちっ、うっせーな俺ら忙しいんだよ。おい、引き揚げるぞ!」

 悪態を吐いた宗近が踵を返すと、三人組は彼をガードする位置取りで足早に去っていく。
 コウに睨まれていた四人組は、道の端へ避けるようにしながらコウ達の脇を通り抜けて、彼等の後を追っていった。

 こうして、ひとまずこの場は収められた。


「いや~、遅れてごめんねぇ」

 万常次まで移動しながら駐在さんに話を聞かれる。事情説明はケイが対応してくれているので、コウは駐在さんと警護してくれている青年団の内心を探って情報収集に勤しんだ。

 駐在さんの記憶情報を読んだ限り、昼間の件では既に町の住人から相談を受けていたらしい。コウが子供達に促した通り、皆自分達の家族に土手の向こうで何があったのか話していた。

(向こうも昼の内に根回ししてたのかー)

 そしてどうやら、ここの駐在さんはに当たる警察機関の役職の人から、宗近達への忖度を指示されていたようなのだ。


『北条さんとこの御子息がちょっと騒がせるかもしれんけど、まあ多目に見たってや』
「多目に言われましても、具体的にどういう事ですのん?」
『んーまあ、適当にお目溢しして? 何もなかったって流れにね?』
「それは、犯罪行為があっても見過ごせと?」
『いやあーそこまでハッキリとは言わんよ。ただそういうのはね? 確認しなきゃだしさ』

 犯罪行為があった事を確認できていなければ、それは無かったも同然。
 問題を上手く処理揉み消しすれば後で代議士先生から迷惑料が入るので、それを地域貢献に充てれば良い等と言いくるめる。

 子供に危害を加えるような集団を、見逃して捨て置けと言外に指示された駐在さんは、苦肉の策として、青年団のおじさん達に声を掛けた。
 上の意向に逆らわないポーズをとりながら、『目撃者を増やす』、『数での威圧』を狙ってこの人数を率いて来たのだ。


 概ね事情を読み取り終えたところで、一行は万常次に到着した。

「おかえりなさい――って、なにごと?」

 玄関で出迎えてくれた美奈子は、エイネリアからコウ達がトラブルに巻き込まれていると聞かされていたが、随分と大所帯で帰って来た事に困惑している。

「また何かあったら連絡してね」

 駐在さんはそう言って帰って行った。美奈子の両親と雑談していた青年団のおじさん達も解散する。

 その後、美奈子の家族も食堂に集まり、今日の昼間の出来事や銭湯の帰りに何があったのかを共有して、今後の対策を話し合った。

「それは大変だったねぇ」
「しばらくは絶対一人で出歩かないようにね?」

 美奈子と万常次夫妻は親身になってコウ達の事を慮り、町に滞在中は住人の皆で連携して件のグループ宗近たちの動きに目を光らせておいてくれるそうな。

「それにしても、性質の悪いのに目をつけられたもんだな」
「身内の代議士のコネで好き勝ってしてるって本当?」

 普通、政治家のような人は身内に問題を起こす人が居れば、直ぐに縁を切るなどしそうなのにという美奈子の疑問に、コウは宗近の祖父が彼を可愛がっているらしい事を明かした。

「身内贔屓にしても普通に犯罪だよなぁ」
「でも、コウ君なんでそんな事まで知ってるの?」

 ケイが、宗近達の行いは最早一線を踏み越えている事に言及する中、美奈子はコウの情報の出所について疑問を浮かべる。

「ボクもエライ人が知り合いにいるんだよ」

 コウのそんな答えに、美奈子は小首を傾げて美鈴に視線を向ける。が、美鈴は「あはは……」と困り笑いを浮かべて誤魔化した。

 美奈子は、普通の子に比べると随分しっかりしているとはいえ、まだ小さい子供コウ少年にそこまで突っ込んだ内容を教える知り合いのエライ人とは、一体どんな人物なのか気になったようだ。


 食堂での話し合いを終えて部屋に戻ったコウ達は、一度ケイの部屋に集まってもう一つの対策を話し合う。

 一周目の記憶を持っているケイと、その記憶内容を共有しているコウとしては、今日はこれから深夜を過ぎて朝まで何事もなく、無事に三日目を迎えられるか否か確信が持てない。

「今回、潟辺はこっちに泊まってないし、接点も大分離れたと思ったんだけど――」
「ホウジョウムネチカの方が問題だね」

 怨恨や報復で何かやらかしそうな脅威度としては、潟辺達より宗近の方が遥かに危険度が高い事は既に分かっている。

「備えておいた方がいいかも」
「そうだな。警察のパトロールとかは期待できないし、屋敷周辺の見張りは必要かな」

 見張りに関してはコウが『夢幻甲虫』で空に上がり、そこで精神体になれば一晩中でも見張っていられるので、問題は何か仕掛けられた時の対処だ。

「お屋敷の近くで怪しい動き見せたら、懐中電灯で照らすとか」
「うん、そのくらいが妥当かな」

 美鈴の提案に頷くケイ。危険な相手に近付いて行かずとも、遠くからしっかり見ている事を示すだけでも防犯効果はある筈だと。

「それならボクは上から見張ってるんで、エイネリアを哨戒させよう」

 エイネリアとは念話で常時連絡が取れるので、コウが異変を察知すれば直ぐにエイネリアを向かわせてライト照射で怯ませるという作戦。
 もう一体、レクティマも出動させれば効率は良さそうなのだが、流石にこの時間に新しくメイドさんが訊ねて来ましたとやるのは、不自然過ぎてアウトだろうと判断した。

 偶には自重できるコウなのである。


 明日の三日目を迎えるに当たり、今夜の万常次防衛計画が立ち上げられた。
 コウが早速、見張りに上がろうと甲虫ゴーレムを出したところで、壁際に控えていたエイネイリアが電話通信の受信を告げた。

「コウ様、連絡していた朔耶様からお電話です。お繋ぎします」

 ツッという接続音がして、エイネリア越しに朔耶の声が響く。

『もしもしコウ君? 留守電聞いたんだけど、どうしたの?』

 電話代わりにもなるエイネリア。ケイが目を丸くしているのを尻目に、コウはこちらの事情を説明するのだった。



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