103 / 148
三界巡行編
序章・一
しおりを挟む朔耶が精霊によって異世界はオルドリアの地に召喚されてから、既に二年以上の月日が流れた。沢山の出会いと別れ。国家間規模の巨大な陰謀に巻き込まれるなど、様々な経験と紆余曲折を経て成長していった朔耶は、今やオルドリアの地で『知らぬ者はない』と言われるほどの有名人。
精霊の力を宿した異界の魔術士、『戦女神サクヤ』と呼ばれ、現在もオルドリアの地に君臨する四大国のひとつ『フレグンス王国』を中心に活躍を続け、その名を轟かせ続けている。
吟遊詩人が謡う朔耶の活躍は、仰々しくも華々しい冒険活劇な英雄譚にも聞こえるが――
「お腹空いたな~。バルにお昼ご飯でもたかるか」
本人は至って「自分は庶民」を標榜している。誰とでもフレンドリーに接する人懐っこい性格は相変わらず、その自由な生き方を貫いていた。ちなみに、今し方呟いたバルとは、四大国の一角を担うグラントゥルモス帝国を治める第十四代皇帝バルティア・トラディアス・グランという人物の事を指す。
帝国の首都となる帝都クラティシカ。山頂に聳えるは巨大な城塞都市でもある帝都城。
その上層階を歩く朔耶は、帝都の民からは『皇帝の黒后』等と呼ばれて親しまれており、同時に畏怖の対象でもあった。
皇帝バルティアが、幾度となく朔耶に求愛しては、スルーされたり殴られたりしている姿がよく目撃されており、二人の微笑ましい? 仲睦まじさ? は帝都民にもすっかり馴染んでいる。
そんな、説得力の欠片も無い自称庶民な朔耶は現在、フレグンス王国の高官『王室特別査察官』という立場での公務で帝国を訪れていた。
この度、帝都に設立される事になった帝都学園と、帝国領の山の麓に建設が進んでいる完成間近な機械車競技場に関して、両国間で協力する催し物についての段取りである。
「やほ~バル、来たよー」
「おお、待っていたぞ」
「いらっしゃ~いサクヤちゃん」
いつもの皇帝の執務室に入ると、いつもの重厚な執務机で書類を捌く仕事をしているバルティアに、いつもの軽い調子の挨拶を返す皇帝補佐官アネットことヴィヴィアンが迎えてくれる。
ちなみにヴィヴィアンとは、元々密偵をやっていたアネットが王都フレグンスに潜入していた時の偽名だが、朔耶からの呼び名として定着している。
「向こうの大学院とこっちの学園の交流企画案の書類持って来たよ」
「うむ。ご苦労だった」
一度アネットに渡してから、バルティアに回される企画書などの各種書類。執務机に並べられたそれらに目を通しつつ、大まかな部分を口頭で伝える。
「機械車競技場の共同開催は、ティルファも交えてまた話し合おうってさ」
「そうだな。どの道、我が帝国製のサクヤ式機械車と競うのは、ティルファ式機械車だからな」
フレグンス国内にも機械車競技場の建設は進んでいるが、フレグンス製の機械車という乗り物はまだ製造されていない。ついでに言うなれば、帝国製のサクヤ式機械車というのも、心臓部である動力部分は朔耶の弟の孝文が制作した『四石筒モーターエンジン』という、地球製魔力石モーターを使っているので、純粋な帝国製でも無い。
そういう意味では、オルドリア独自の技術による機械車はティルファの魔術式機械車がもっとも真っ当な国産車と言える。知の都を標榜するティルファの面目躍如といったところであった。
概ね必要な事は伝え終えたと、任務完了で肩の荷を下ろした朔耶は、さっそくご飯を集る。
「お昼ごはん、こっちで食べて帰ろうと思うんだけど」
「そうか、ならば上の食堂に用意させよう」
久しぶりに食事を共に出来ると、喜びを隠しきれないバルティアは、実に自然な流れでこんな事を切り出した。
「ところで、サクヤもそろそろ良い年頃だ。余との婚姻の時期を決めないか」
「なに勝手に既定事項にしてんのよ」
速攻でズビシとチョップを入れてツッコむ朔耶に、何だか嬉しそうなバルティア。そんな二人を眺めるアネットは、『こりゃ進展は難しいわ』とこっそり溜め息を吐く。バルティアが朔耶の恋愛対象になるには、もう一波乱二波乱のイベントが必要そうであった。
昼食を済ませて帝都から地球世界の自宅庭へと帰還した朔耶は、そのまま王都フレグンスに転移すると、今日の公務の成果を報告に城の上層階へと飛ぶ。
フレグンスでは、近々迎える西方はフラキウル大陸からの訪問者、大国グランダールより飛来する魔導船団の受け入れ準備が進められていた。
グランダール王国の第一王子、レイオスが率いる魔導船団は、オルドリア大陸ではまだ馴染みの無い魔導技術による航空機を使っての冒険飛行の一環で、ここフレグンス王国を訪れる。
西方大陸の国々とは、これまで交易商人達による細々とした交流はあったが、国家間の本格的な交流は今回が初めてとなる。その切っ掛けは、先月ほど前に騒ぎが終息した凶星騒動にあったが、やはりというか当然というべきか、朔耶の活動が深く関わっていた。
「あ、レティ」
「サクヤ、帝国から戻ったのですね」
「うん、今から報告に行くところ」
フレグンス城近くの上空で、朔耶はレティレスティアと鉢合わせた。最近はレティレスティアもよく王都の空を飛んでいる。凶星騒ぎの時はあまり活躍を見せられなかったが、半年ほど前に王都で精霊文化祭という催しがあった時に起きた大盗賊の襲撃事件では、『精霊姫』としての力を存分に振るって戦いに参加していた。
「いつもご苦労様です。無理はなさらないでくださいね?」
「大丈夫、結構楽しんでやってるからね」
フレグンスの守護神として『戦女神サクヤ』と並び称される『精霊姫レティレスティア』。ただ、それほどの存在になってしまった事は、それはそれで問題でもあるらしい。彼女をフレグンス王室歴代最高の精霊術士にした王妃アルサレナが、国王カイゼルに叱られた理由。
それは、『次代やその先の王室に混乱をもたらせる事になる』というもの。
レティレスティアが、半分だが精霊と『重なる者』になれたのは、朔耶の力があってこそだが、朔耶自身が非常に稀な存在である以上、今後同じような力を持つ者が現れる可能性は極めて低い。このままでは歴代唯一の『重なる者』で終わる。次世代に継承出来ない力を持たせてしまった事は、今後の時代で王室の権威失墜に繋がる要素となり易い。
今のレティレスティアの力をフレグンス王室の象徴にすると、次世代以降の王室は力を失ったと見做される。それは朔耶の存在にも同じ事が言える。
この二人が健在な今の時代の内に、出来るだけ国家の地盤を固めておかなければ、後は衰退するだけとなった時に一気に崩れる。カイゼル王はそんなフレグンスの将来を危惧していた。
今の内に発展出来るだけ発展しておく。グラントゥルモス帝国との積極的な交流や、国内で多くの文化的なイベント開催が許可されるのは、その為の布石。西方フラキウル大陸に君臨する大国、グランダール王国との国交も、それらの一環なのである。
「サクヤは、この後はどうされるのですか?」
「今日はこっちの公務が終わったら、大学院に顔出してから悠介君のところに行く予定だよ」
「ユースケ様というと、あの凶星が存在した世界の邪神の人の事ですね?」
「そうそう、邪神の人」
朔耶から狭間世界での出来事についても色々と話を聞いているレティレスティアは、フラキウル大陸の魔王退治で朔耶と共闘もしたという『邪神ユースケ』には、是非とも一度お目に掛かりたいと興味を示していた。
「うーん、悠介君はロリキラー属性があるからなぁ」
レティレスティアならギリギリ引っ掛かりそう等と冗談を言う朔耶に、レティレスティアは――
「私は、イーリスとサクヤ一筋ですから大丈夫ですわ」
「そこにあたしを交ぜるんじゃない」
冗談とも本気ともつかない言葉を返して朔耶にツッコまれる、天然第一王女様なのであった。
10
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異界の錬金術士
ヘロー天気
ファンタジー
働きながら大学に通う、貧乏学生のキミカ。ある日突然、異世界トリップしてしまった彼女は、それと同時に、ちょっと変わった能力をゲットする。なんと念じるだけで、地面から金銀財宝が湧き出てくるのだ! その力は、キミカの周囲に富をもたらしていく。結果、なんと王様に興味を持たれてしまった! 王都に呼び出されたキミカは、丁重にもてなされ、三人のイケメン護衛までつけられる。けれど彼らを含め、貴族たちには色々思惑があるようで……。この能力が引き寄せるのは、金銀財宝だけじゃない!? トラブル満載、貧乏女子のおかしな異世界ファンタジー!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……
(第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。