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三界巡行編
序章・二:魔導船団の来訪
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この日、朔耶は朝から狭間世界――邪神・田神悠介の所属するカルツィオ大陸と、勇者アルシアが居るポルヴァーティア大陸のある世界に来ていた。
現在こちらの世界では、カルツィオとポルヴァーティアの代表勢力による和平交渉が模索されており、それぞれの使者を選定する会議が予定されている。
カルツィオ側は、ポルヴァーティア軍と直接戦ったフォンクランク国やガゼッタ国が代表の使者を出す方向で進めているようだ。
「それで、アルシアちゃんは出ないの?」
「私が代表者として表に出るのは、あまり適切では無いだろうからな」
朔耶の問いにそう答えたアルシアは、エプロン姿で魚料理を作っていた。今二人が居る場所は、悠介によって改変された新生カーストパレスの密集囲郭都市群の一つ。ポルヴァーティア人地区の一画で、アルシアが後ろ盾となった有力組織が支配している地域の居住区が立ち並ぶ一帯。
そこに設けられた『勇者食堂』なるアルシアのお店である。
店と言っても、ポルヴァーティアには貨幣になるものが流通しておらず、勇者食堂での食事は商いではない。ほぼ料理の無料体験コーナーのようなものであった。
旧体制時代のポルヴァーティアでは、住人の食事は全て配給で賄われてきた。食糧生産ユニットによる味気ない栄養ブロックのみで、料理という概念は失われて久しい。
悠介がその栄養ブロックに味付けや歯応えのカスタマイズを施した事が切っ掛けで、アルシアに味覚の欲求が蘇り、「美味しいものが食べたい」という気持ちが膨らんだ。
朔耶と悠介の協力も得たアルシアが簡単な料理を嗜むようになり、それらが組織の構成員に振る舞われるうち、ポルヴァーティア人の間にも少しずつ食べる楽しみが広まっている。
ちなみに、食材はカルツィオからの輸入に頼っているが、近々ポルヴァーティアでの農業や近海での漁も始まる予定らしい。
「そっか。アルシアちゃんの役割も、少しづつ裏方に変わっていくんだね」
「そうだな……大神官のところの信徒達も、この頃は世界の見方が変わってきているようだ」
かつてポルヴァーティアの全てを支配していた大神官。アルシアにとっても、以前は心の拠り所だった。
かの御仁を話題にする時、若干微妙な表情を見せるアルシアだが、既に気持ちに区切りは付けているようだ。今後、大神官の組織と対立するような事があっても、昔のように引け目を感じる事は無いだろう。
「ところで、サクヤの方はどうなのだ?」
自身の近況について語る事で現状を再確認したアルシアは、いつも世界を飛び回っている朔耶の身辺について訊ねる。
「あたしはまあ、何時も通りかな~。そろそろ新しいイベントが始まりそうだけど」
「ほう?」
もう直ぐフラキウル大陸のグランダール王国から、レイオス王子の魔導船団が飛来する。
そんな自身の近況を語った朔耶は、アルシアと別れると地球世界の自宅庭を経由して再び狭間世界へ。
カルツィオ大陸はフォンクランク国の首都、サンクアディエットの中心地区に立つ悠介の屋敷前に転移した。
「やほー、悠介君」
「こんちは。来る頃だと思ってましたよ」
「こんにちはサクヤさん」
「スンちゃんもやほー」
悠介邸の執事の案内で広間まで通されると、いつもの黒い隊服姿の悠介と普段着のスンに出迎えられた。そして広間にはもう一人、メカニカルな雰囲気のメイド服調な衣装を纏う少女の姿。
レクティマという名の彼女は、実は人間ではなく『ガイドアクトレス』という、魔導技術で作られたロボットのような存在であった。魔導技術と言っても、ポルヴァーティアとは関係が無い。
朔耶が異世界から連れて来た、古代魔導文明の遺産である。
「ティマちゃんの様子はどう?」
「大きな変化は無いけど、少しずつ昔の記憶が戻ってるっぽいですね」
現在、レクティマは記憶を失っている状態にある。正確には『記憶を正常に呼び出せない状態』。朔耶が彼女をここに連れて来たのは、十日ほど前。レイオス王子の魔導船団が立ち寄った無人島にて古代遺跡が見つかり、そこで数々の古代文明の遺産が発掘された。
何千年か、何万年も昔に存在した超古代魔導文明時代の、リゾートホテルのような施設。廃墟と化している施設は今でも一部の機能が生きており、レクティマの他に二体の『ガイドアクター』が稼働を続けていた。
ちなみに『ガイドアクター』は自律型魔導人形の総称で、男性型を『ガイドアクター』女性型を『ガイドアクトレス』と呼び分けているらしい。
遺跡で稼働していた二体のガイドアクターは、古代文明が滅んだ後も『業務』を続けていた為、基本的に遺跡から連れ出す事は出来なかったのだが、朔耶は遺跡を探索していた冒険者コウ少年と共謀、試行錯誤し、彼女達の『所属を変更する』という方法で連れ出す事に成功した。
その二体のガイドアクター――レクティマの同僚機であるエイネリアと警備ガイドアクターも、悠介にカスタマイズ能力で修理してもらっている。
レクティマはその二体と違い、機能停止からかなりの年月が経過して鉄塊のようになった状態でここに運び込まれた。記憶障害が出ているのは、そんな状態からの復活だった為だと思われる。
「ある程度まで回復したら、同僚機のエイネリアに会わせるのも良いかも」
「そだね。正常に戻ったらまた所属の変更とか必要かもしれないし、コウ君にも話しておくよ」
「コウ君か……あの子も不思議な子だったなぁ」
「まあ見た目は子供だけど、中身は結構老獪というか、割とエグい事もやれる子だからね~」
中々の悪戯っ子だし、とコウ少年の事を評した朔耶は、そのコウ少年絡みでアルシアに説明した近況を、悠介にも話しておく。
冒険飛行中のレイオス王子率いる魔導船団が、今日にもオルドリア大陸に到着するので、そちらの活動が忙しくなるのだと。
「いつかコウ君もこっちに喚べたら、荷物運び役で連れて来るね」
「確か『異次元倉庫』っていう特殊能力があるんでしたっけ?」
無機物であれば、ありとあらゆる物をほぼ無制限に保管して運べる異空間の倉庫を持っている。朔耶が常々羨ましがっている『特殊能力』であった。
狭間世界の悠介邸から地球世界の自宅庭に帰還した朔耶は、次いで異世界の王都フレグンスへと転移した。いつものフレグンス城の庭園に出ると、色とりどりの花々に出迎えられる。
今日はこのまま『フレグンス王室特別査察官』の公務として、魔導船団の来訪に備えるのだ。
『さあ、今日もお勤めに励みましょうかね』
ウム キンベンナルハ ビトクナリ
仕事前から世界を飛び回る、相変わらずバイタリティ溢れる朔耶の呟きに、神社の精霊も称賛で応えるのだった。
庭園から城の上層階へ直接飛び上がり、まずは宮廷魔術士長の執務室に向かう。
「やほーレイス、おっはよー」
「おはようございます。サクヤは今日も元気ですね」
「おはようございます、サクヤ様」
この頃はすっかり事務仕事が板について、貫禄も感じさせる宮廷魔術士長レイスや、その補佐官フレイとも挨拶を交わした朔耶は、今日の予定について確認する。
「今どの辺りに来てるの?」
「先程、ティルファの上空を通過したとの連絡がありました」
「そっか、じゃあもう直ぐ来るね」
実は朔耶は、ある人物の送り迎えで航行中の魔導船団にも頻繁に顔を出している。
なので直接乗り込んでしまえば、わざわざ位置の確認などする必要はないのだが、今回はフレグンスの――というか、オルドリア大陸側の情報伝達網の実証試験も兼ねていた。
現在オルドリアには、四大国の中でもフレグンスの出資でティルファが中心になって研究開発を進めている『魔術式投影装置』という通信装置がある。
以前、王女レティレスティアが『重なる者』になる為に、朔耶の協力で地球世界へ招待された。科学文明の利器に触れ、空調や照明に感嘆したレティレスティアは、特にテレビやラジオといった媒体が一般民にもたらす影響力に関心を示していた。
彼女は、精霊神殿に置いてある連絡用伝送具『水鏡』の簡易版を作る事が出来れば、色々と便利に使えるのではという考えを燻らせていたのだが、半年前の事件を切っ掛けに本格的な研究が進められる事になり、最近それが形になった。
一番の難題だった装置を稼働させる為の『魔力の供給源』も、グランダール王国の天才魔導技師、アンダギー博士による『魔導器』の技術支援によって解決している。
博士の支援を取り付けるに当たって、魔力を直接視認出来るなどの能力を持つ冒険者コウにも、大いに協力してもらっていた。この件で文字通り世界を飛び回り、最も貢献したのは朔耶である。
まだオルドリア大陸に数台しか存在しない『魔術式投影装置』の試作機は、フレグンス領内の主要な街の騎士団本部や支部の他、四大国の首都などにも置かれていた。今回ティルファが魔導船団の上空通過を報せて来た連絡方法にも、この投影装置の試作機が使われている。
フレグンス城内でレイオス王子一行の歓迎の準備が整えられる中、やがて王都上空に魔導船団が到着した。
城に集まっている貴族達を始め、今日の為にティルファから駆け付けていた研究者や、王都に住む全ての民が、世にも珍しい空飛ぶ船の集団に感嘆している。
「さて、じゃあ行って来るね」
「よろしくお願いします」
「私達は謁見の間で待っていますね」
城の上層階にて、王女レティレスティアや王妃アルサレナとお茶で談笑しながら待機していた朔耶は、二人に送り出されて来訪者の出迎えと誘導に空へと上がった。
割と通い慣れた魔導船の甲板には、馴染みの顔が並んでこちらに手を振っている。彼等に手を振り返しながら甲板に下りた朔耶は、船団の着陸場所を指示した。
「いらっしゃーい、あそこの開けた場所に下ろしてくれる?」
「あそこで良いのか?」
城の近くに下りても良いのかと問うレイオス王子に、朔耶はあの場所は竜籠の発着場である事を説明する。
オルドリア大陸では、空を飛ぶこと自体にあまり馴染みが無いので、防空に対する概念などもまだ薄い。
「まあ最近まで色々あったんで、ちょっとずつ意識も変わって来てるんだけどね」
「ふむ、確かに向こうでも対空防衛を意識した街は多くは無いな」
他国の賓客を乗せた馬車が城の敷地まで乗り入れたとしても、別におかしい事ではない。魔導船は軍事兵器のカテゴリではあるが、あくまで乗り物として見るなら馬車と変わりはないのだ。
やはり一足飛びに飛行機械を発展させて制空権の概念をもたらせたグランダール国の魔導技術、というかアンダギー博士が特殊なのだろうと、レイオス王子が納得している。
ともあれ、無事フレグンス王国に到着した魔導船団は、歓迎を受けつつオルドリアの大地に着陸を果たしたのだった。
現在こちらの世界では、カルツィオとポルヴァーティアの代表勢力による和平交渉が模索されており、それぞれの使者を選定する会議が予定されている。
カルツィオ側は、ポルヴァーティア軍と直接戦ったフォンクランク国やガゼッタ国が代表の使者を出す方向で進めているようだ。
「それで、アルシアちゃんは出ないの?」
「私が代表者として表に出るのは、あまり適切では無いだろうからな」
朔耶の問いにそう答えたアルシアは、エプロン姿で魚料理を作っていた。今二人が居る場所は、悠介によって改変された新生カーストパレスの密集囲郭都市群の一つ。ポルヴァーティア人地区の一画で、アルシアが後ろ盾となった有力組織が支配している地域の居住区が立ち並ぶ一帯。
そこに設けられた『勇者食堂』なるアルシアのお店である。
店と言っても、ポルヴァーティアには貨幣になるものが流通しておらず、勇者食堂での食事は商いではない。ほぼ料理の無料体験コーナーのようなものであった。
旧体制時代のポルヴァーティアでは、住人の食事は全て配給で賄われてきた。食糧生産ユニットによる味気ない栄養ブロックのみで、料理という概念は失われて久しい。
悠介がその栄養ブロックに味付けや歯応えのカスタマイズを施した事が切っ掛けで、アルシアに味覚の欲求が蘇り、「美味しいものが食べたい」という気持ちが膨らんだ。
朔耶と悠介の協力も得たアルシアが簡単な料理を嗜むようになり、それらが組織の構成員に振る舞われるうち、ポルヴァーティア人の間にも少しずつ食べる楽しみが広まっている。
ちなみに、食材はカルツィオからの輸入に頼っているが、近々ポルヴァーティアでの農業や近海での漁も始まる予定らしい。
「そっか。アルシアちゃんの役割も、少しづつ裏方に変わっていくんだね」
「そうだな……大神官のところの信徒達も、この頃は世界の見方が変わってきているようだ」
かつてポルヴァーティアの全てを支配していた大神官。アルシアにとっても、以前は心の拠り所だった。
かの御仁を話題にする時、若干微妙な表情を見せるアルシアだが、既に気持ちに区切りは付けているようだ。今後、大神官の組織と対立するような事があっても、昔のように引け目を感じる事は無いだろう。
「ところで、サクヤの方はどうなのだ?」
自身の近況について語る事で現状を再確認したアルシアは、いつも世界を飛び回っている朔耶の身辺について訊ねる。
「あたしはまあ、何時も通りかな~。そろそろ新しいイベントが始まりそうだけど」
「ほう?」
もう直ぐフラキウル大陸のグランダール王国から、レイオス王子の魔導船団が飛来する。
そんな自身の近況を語った朔耶は、アルシアと別れると地球世界の自宅庭を経由して再び狭間世界へ。
カルツィオ大陸はフォンクランク国の首都、サンクアディエットの中心地区に立つ悠介の屋敷前に転移した。
「やほー、悠介君」
「こんちは。来る頃だと思ってましたよ」
「こんにちはサクヤさん」
「スンちゃんもやほー」
悠介邸の執事の案内で広間まで通されると、いつもの黒い隊服姿の悠介と普段着のスンに出迎えられた。そして広間にはもう一人、メカニカルな雰囲気のメイド服調な衣装を纏う少女の姿。
レクティマという名の彼女は、実は人間ではなく『ガイドアクトレス』という、魔導技術で作られたロボットのような存在であった。魔導技術と言っても、ポルヴァーティアとは関係が無い。
朔耶が異世界から連れて来た、古代魔導文明の遺産である。
「ティマちゃんの様子はどう?」
「大きな変化は無いけど、少しずつ昔の記憶が戻ってるっぽいですね」
現在、レクティマは記憶を失っている状態にある。正確には『記憶を正常に呼び出せない状態』。朔耶が彼女をここに連れて来たのは、十日ほど前。レイオス王子の魔導船団が立ち寄った無人島にて古代遺跡が見つかり、そこで数々の古代文明の遺産が発掘された。
何千年か、何万年も昔に存在した超古代魔導文明時代の、リゾートホテルのような施設。廃墟と化している施設は今でも一部の機能が生きており、レクティマの他に二体の『ガイドアクター』が稼働を続けていた。
ちなみに『ガイドアクター』は自律型魔導人形の総称で、男性型を『ガイドアクター』女性型を『ガイドアクトレス』と呼び分けているらしい。
遺跡で稼働していた二体のガイドアクターは、古代文明が滅んだ後も『業務』を続けていた為、基本的に遺跡から連れ出す事は出来なかったのだが、朔耶は遺跡を探索していた冒険者コウ少年と共謀、試行錯誤し、彼女達の『所属を変更する』という方法で連れ出す事に成功した。
その二体のガイドアクター――レクティマの同僚機であるエイネリアと警備ガイドアクターも、悠介にカスタマイズ能力で修理してもらっている。
レクティマはその二体と違い、機能停止からかなりの年月が経過して鉄塊のようになった状態でここに運び込まれた。記憶障害が出ているのは、そんな状態からの復活だった為だと思われる。
「ある程度まで回復したら、同僚機のエイネリアに会わせるのも良いかも」
「そだね。正常に戻ったらまた所属の変更とか必要かもしれないし、コウ君にも話しておくよ」
「コウ君か……あの子も不思議な子だったなぁ」
「まあ見た目は子供だけど、中身は結構老獪というか、割とエグい事もやれる子だからね~」
中々の悪戯っ子だし、とコウ少年の事を評した朔耶は、そのコウ少年絡みでアルシアに説明した近況を、悠介にも話しておく。
冒険飛行中のレイオス王子率いる魔導船団が、今日にもオルドリア大陸に到着するので、そちらの活動が忙しくなるのだと。
「いつかコウ君もこっちに喚べたら、荷物運び役で連れて来るね」
「確か『異次元倉庫』っていう特殊能力があるんでしたっけ?」
無機物であれば、ありとあらゆる物をほぼ無制限に保管して運べる異空間の倉庫を持っている。朔耶が常々羨ましがっている『特殊能力』であった。
狭間世界の悠介邸から地球世界の自宅庭に帰還した朔耶は、次いで異世界の王都フレグンスへと転移した。いつものフレグンス城の庭園に出ると、色とりどりの花々に出迎えられる。
今日はこのまま『フレグンス王室特別査察官』の公務として、魔導船団の来訪に備えるのだ。
『さあ、今日もお勤めに励みましょうかね』
ウム キンベンナルハ ビトクナリ
仕事前から世界を飛び回る、相変わらずバイタリティ溢れる朔耶の呟きに、神社の精霊も称賛で応えるのだった。
庭園から城の上層階へ直接飛び上がり、まずは宮廷魔術士長の執務室に向かう。
「やほーレイス、おっはよー」
「おはようございます。サクヤは今日も元気ですね」
「おはようございます、サクヤ様」
この頃はすっかり事務仕事が板について、貫禄も感じさせる宮廷魔術士長レイスや、その補佐官フレイとも挨拶を交わした朔耶は、今日の予定について確認する。
「今どの辺りに来てるの?」
「先程、ティルファの上空を通過したとの連絡がありました」
「そっか、じゃあもう直ぐ来るね」
実は朔耶は、ある人物の送り迎えで航行中の魔導船団にも頻繁に顔を出している。
なので直接乗り込んでしまえば、わざわざ位置の確認などする必要はないのだが、今回はフレグンスの――というか、オルドリア大陸側の情報伝達網の実証試験も兼ねていた。
現在オルドリアには、四大国の中でもフレグンスの出資でティルファが中心になって研究開発を進めている『魔術式投影装置』という通信装置がある。
以前、王女レティレスティアが『重なる者』になる為に、朔耶の協力で地球世界へ招待された。科学文明の利器に触れ、空調や照明に感嘆したレティレスティアは、特にテレビやラジオといった媒体が一般民にもたらす影響力に関心を示していた。
彼女は、精霊神殿に置いてある連絡用伝送具『水鏡』の簡易版を作る事が出来れば、色々と便利に使えるのではという考えを燻らせていたのだが、半年前の事件を切っ掛けに本格的な研究が進められる事になり、最近それが形になった。
一番の難題だった装置を稼働させる為の『魔力の供給源』も、グランダール王国の天才魔導技師、アンダギー博士による『魔導器』の技術支援によって解決している。
博士の支援を取り付けるに当たって、魔力を直接視認出来るなどの能力を持つ冒険者コウにも、大いに協力してもらっていた。この件で文字通り世界を飛び回り、最も貢献したのは朔耶である。
まだオルドリア大陸に数台しか存在しない『魔術式投影装置』の試作機は、フレグンス領内の主要な街の騎士団本部や支部の他、四大国の首都などにも置かれていた。今回ティルファが魔導船団の上空通過を報せて来た連絡方法にも、この投影装置の試作機が使われている。
フレグンス城内でレイオス王子一行の歓迎の準備が整えられる中、やがて王都上空に魔導船団が到着した。
城に集まっている貴族達を始め、今日の為にティルファから駆け付けていた研究者や、王都に住む全ての民が、世にも珍しい空飛ぶ船の集団に感嘆している。
「さて、じゃあ行って来るね」
「よろしくお願いします」
「私達は謁見の間で待っていますね」
城の上層階にて、王女レティレスティアや王妃アルサレナとお茶で談笑しながら待機していた朔耶は、二人に送り出されて来訪者の出迎えと誘導に空へと上がった。
割と通い慣れた魔導船の甲板には、馴染みの顔が並んでこちらに手を振っている。彼等に手を振り返しながら甲板に下りた朔耶は、船団の着陸場所を指示した。
「いらっしゃーい、あそこの開けた場所に下ろしてくれる?」
「あそこで良いのか?」
城の近くに下りても良いのかと問うレイオス王子に、朔耶はあの場所は竜籠の発着場である事を説明する。
オルドリア大陸では、空を飛ぶこと自体にあまり馴染みが無いので、防空に対する概念などもまだ薄い。
「まあ最近まで色々あったんで、ちょっとずつ意識も変わって来てるんだけどね」
「ふむ、確かに向こうでも対空防衛を意識した街は多くは無いな」
他国の賓客を乗せた馬車が城の敷地まで乗り入れたとしても、別におかしい事ではない。魔導船は軍事兵器のカテゴリではあるが、あくまで乗り物として見るなら馬車と変わりはないのだ。
やはり一足飛びに飛行機械を発展させて制空権の概念をもたらせたグランダール国の魔導技術、というかアンダギー博士が特殊なのだろうと、レイオス王子が納得している。
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