東京の空の下 ~当節猫又余話~

月夜野 すみれ

文字の大きさ
11 / 46
第二章

第二章 第六話

しおりを挟む
 拓真が帰った後、入れ違いで秀と雪桜、高樹がやってきた。

「綾さんに聞いてきたよ」
「それで? なんだって?」
「武蔵野が言うには新宿駅を中心とした半径三キロメートル以内のどこかで化生を呼び寄せる儀式をしたヤツがいるらしい」
 高樹が答えた。
「冗談だろ!?」
「迷惑だよね」
 秀も困ったような顔をしている。

「それで? どうすればいいって?」
「儀式の跡を見付けてそれを浄化すればいいって」
「浄化ってどうすればいいんだ?」
 俺が訊ねると三人は黙り込んだ。
「方法は? まさか分からないとかじゃないよな?」
「実は……」
 秀は言いにくそうに答えた。

「分からない」

 と。

「じゃあ、どうすんだ?」
 あんな化物に頻繁ひんぱんに出てこられても困る。
「とりあえず、儀式の跡だけでも探そう」
 高樹がそう言うと、雪桜がスマホで地図アプリを開いた。
 俺達もそれぞれスマホで開く。
「半径三キロメートルってかなり広いな」
 しかもその儀式の跡とやらが、どこかの敷地にあったら見付けるのはまず無理だ。
 一々他人の敷地に忍び込んで、あるかどうかも分からない儀式の跡というものを探すわけにはいかない。
 そもそもオフィスビルなどは忍び込むことすら出来ないだろう。
 そのうえ儀式の跡というのがどういうものなのかも分からないという。
 となると目の前にあっても気付かない可能性が高い。

「あ、儀式をしたのは神社だって」
 かなり絞られるがそれでも神社は沢山ある。
 住宅街の中の小さな神社というのは意外と多い。
 そして新宿の大半は住宅地だ。
 通りに面しているところが軒並みオフィスビルや商業ビルだから分からないだけで、実はその裏のほとんどは住宅街なのである。
 高層マンションも大半は大通りに面していて裏側の住宅は一戸建てばかりである。
 通り沿いのビルが大きいから目隠しになってしまっていて後ろが見えないから分からないだけなのだ。
 住宅地の中は小さなマンションやアパートがある程度で基本的には一戸建てだ。
 そしてその住宅街の中に小さな神社が点在てんざいしている。
 江戸は伊達に『伊勢屋、稲荷に犬のフン』と言われていたわけではないのだ。
 伊勢屋と言う名前の店と稲荷神社は山ほどあった……らしい。それと犬のフンも。
 伊勢屋は伊勢丹くらいだが稲荷神社はほとんどが今も残っているようだ。
 まぁ四谷より西は江戸郊外だが。

「綾……には場所が分かるんじゃないのか? 化生なんだし」
 俺には『綾』という言葉が言いにくかった。
 もしかしたら祖母ちゃんかもしれないのだ。
「近すぎて分からないんだって。綾さんは元々ここにいた化生だし」
 秀の言葉にがっくりした。
 しかし俺は祖母ちゃんだと信じてない割には綾に頼り切ってるな。
 それはともかく神社は沢山あるから全部回るには何日掛かるか分かったものではない。

「新宿駅から半径三キロっていったら新宿からはみ出ちゃうぞ」
 新宿駅は新宿の端に近いから西に行ったら中野区だし、南に行けば渋谷区だ。
「新宿には特にこだわってないみたいだよ」
 この近辺ならどこでもいって事か。
「そういえば……」
 雪桜が口を開いた。
妖奇征討軍ようきせいとうぐんって言ってたっけ。あの人達、この前、近くの神社で見掛けたよ」
「どこだ?」
 俺の問いに雪桜が近所の神社の名をげた。

「もしかしたら何かがいたのかもしれないけど――」
 雪桜は全く見えないから何かがいたとしても分からない。
「――化生退治してるようにも見えなくて……。この前の狸さんの時は結構騒いでたでしょ」
 一瞬、あの狸が退治されてしまったのではないかという不安が脳裏をよぎったが、雪桜の言うようにあの時も大騒ぎしながら追い掛け回していた。
 そう言う風には見えなかったなら少なくともあの狸ではないだろう。
「なら、まずそこに行ってみよう。そこで見付からなければ新宿中を回るしかないな」

 それと中野と渋谷も……。

 地図アプリを見たら明治神宮も三キロ圏内に入っている。
 俺は溜息をいた。

 半径三キロを当てもなく彷徨さまようなど冗談ではないのだが……。

「一応、綾さんも誘ってみるよ」
 秀が言った。
 まぁ秀からしたら男同士で一日中歩き回るより彼女が一緒の方が楽しいだろう。
「幸い明日は土曜日だ。早速明日から回ってみよう」
「それしかないようだな」

 仕方ない……。

 俺は諦めて覚悟を決めた。

「あ、雪桜は来なくていいぞ」
「どうしてよ」
 雪桜がふくれた。
「分かってるのか? 半径三キロ以内のところを歩き回るのがどれだけ大変か」
「相当な重労働だよ」
「女の子のすることじゃないぜ」
 俺達が口々に説得すると、雪桜は渋々諦めた。
 翌日の待ち合わせの場所と時間を決めると三人は帰っていった。

 深夜、目が覚めるとまたもや女の子の幽霊が座っていた。
 よく見ると女の子はミケの側にいる。

「おい、ミケ! お前が化けてるんじゃないだろうな」
『何の事よ』
 ミケはうるさそうに顔を上げる。
 幽霊が消えた。
 どうやらミケの仕業ではないらしい。

 じゃあ、本物……。

 顔から血が引くのが分かった。
 俺は慌てて布団をかぶると見なかった振りをした。

 何もいない、何もいない、何もいない、何もいない、何もいない……。

 目をキツくつぶり必死で自分に言い聞かせているうちにいつの間にか眠ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...