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第七章
第七章 第一話
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五月三日 日曜日
夕方、俺達は中央公園に来ていた。
昼間はうちに皆で集まっていたのだが、解散した後、雪桜から連絡が来たのだ。
妖奇征討軍の二人を見掛けたが雪桜には化生が見えない。
それで神社に行って繊月丸を呼び出して中央公園に同行してもらい、化生がいるかどうかを聞くと猫又がいるという。
そして俺が助けた狸が駆け寄ってくると、雪桜に帰るように伝えろと繊月丸に言ったそうだ。
それを繊月丸から聞いた雪桜が俺達に報告してきた。
そこで俺はアーチェリーのケースを持って急いで駆け付けたのである。
秀は古いビデオカメラを持ってきていた。
あからさまに撮影中だという事を示せるカメラの方がいいだろうと判断したようだ。
カメラを回しているのが明らかにアマチュアだとしても本格的な撮影だと思えば避けてくれる通行人は多い。
祖母ちゃんに化かしてくれるように頼むにしても、いざというとき誤魔化せるように備えておいた方がいい。
俺達が到着した時、妖奇征討軍はいなかったが、その代わりゾウと同じくらいの大きさの巨大なネズミと、同じく虎のような大きさの猫が対峙していた。
虎サイズの猫は尾が二本ある。
あれが猫又だろう。
「雪桜、家に帰れ。あの大きさじゃ公園内のどこにいても巻き込まれる可能性がある」
「うん、気を付けてね」
雪桜は素直に帰った。
賢明な雪桜は、足手纏いになる自分がいたせいで結果的に俺達が被害を受けたりしないようにと考えたのだろう。
「祖母ちゃん、この公園全体、幻覚でなんとかなるか?」
「白狐が手助けしてくれるなら」
「スマホで呼べるか?」
「呼ばれるまでもない」
白狐の声に振り返るとそこにいた。
今日も来てたのか……。
「手伝ってくれるか?」
「良いだろう。油揚げ一つだ」
「油揚げ!?」
「油揚げってお稲荷さんじゃないの!?」
「狐ってホントに油揚げ食うのか!?」
俺達が同時に声を上げた。
「冗談だ」
白狐が真顔で答える。
時と場所を考えろよ……。
「雨月は人間が中に入ってこられないようにしてくれ。儂は中にいる人間達を追い出す」
俺は急いでアーチェリーのケースを開いた。
誰かに見られて通報されても祖母ちゃんと白狐が警察を化かしてくれるだろうし、秀だってそのためにカメラを持ってきたのだ。
「繊月丸!」
高樹が繊月丸を手に取る。
猫又が大ネズミに飛び掛かった。
ネズミが前脚を払う。
猫又は宙で体を開いて躱す。
ネズミが猫又に飛び掛かる。
猫又は避けずに爪を振り下ろした。
鼻先の敏感な部分を引っ掻かれたネズミが飛び退いた。
猫又とネズミは着地と同時に、また互いに飛び掛かっていった。
猫又とネズミが二度、三度とぶつかり合う。
動きが速くて狙いが定められない。
それは高樹も同じらしく繊月丸を構えたまま二匹の様子を窺っている。
祖母ちゃんや海伯、白狐は手を出す気がないのか、高樹や俺同様、助太刀しようがないのか離れたところから見ているだけだった。
頼母も来ていると言う事は介入の余地がないのかもしれない。
取っ組み合って転げ回っては飛び退き、またぶつかり合う。
その繰り返しだった。
ネズミも傷付いているが猫又は全身血塗れだ。
「猫又! ここは一旦引いて作戦を考えた方が……」
「そう言うわけにはいかぬのだ」
頼母が俺の言葉を遮った。
「天命とか言うヤツだからか? そんなの……」
「あのネズミは猫又の飼い主を狙っておるのだ」
白狐が言った。
「え?」
「飼い主は今日渡米する。ここで足止めして時間を稼げば飼い主を助けられる」
「なんでアメリカに連れてかないんだよ」
連れて行くなら検疫を受ける必要があるから今ここにはいないはずだ。
外国へ行くのに飼い猫を捨てていくような飼い主を命を掛けてまで守る必要があるのか。
「猫又は飼い主があのネズミに狙われているのを知って空港に連れていかれる前に家から逃げ出したのだ」
俺の表情を見た白狐が言った。
「じゃあ、探してるんじゃ……」
「そこら中の掲示板にあやつの写真の付いた貼り紙がある。ネットにも迷い猫として載せている」
「だったら……」
「言ったであろう。天命は変えられぬと。今日ネズミに襲われて死ぬのは変えようがない。それなら飼い主の命だけは助けたいと思ったのだ」
「あやつの死体を見なければ二度と会えずとも野良猫としてどこかで生きていると思えるからな」
「そんな……」
俺は改めてアーチェリーを構えるとネズミに狙いを付けた。
頼母まで来たのは最期を看取るためではなく助太刀のはずだ。
だったら俺達が手助けすれば……。
限界まで引いた弓で狙いを定める。
互いに飛び退いて着地した瞬間を狙って矢を放った。
矢が掠めたネズミの踵の一部が消える。
俺は即座に二の矢をつがえた。
掲示板やネットに出ているのなら助けて連絡すれば飼い主の元に行かせてやれる。
探しているくらいだから飼い主だって会いたいだろう。
例え命が尽きるとしても、猫又も飼い主も最期まで一緒にいたいはずだ。
絶対に助ける!
助けて、飼い主の元に送ってやる。
ネズミが威嚇するように俺に牙を剥いた。
俺に飛び掛かろうとした時、高樹が反対側から斬り掛かった。
ネズミが横に飛び退く。
俺は弓を引き絞った。
ネズミが俺に近付けないように高樹が間に割り込む。
空を飛んで俺の身長より高い位置にいるから射線上には入らない。
ネズミが高樹に飛び掛かる。
だが高樹が更に高く舞い上がり、僅かに牙が届かなかった。
俺は矢を放ったがネズミの背を掠めただけだった。
飛び上がって隙を見せたネズミの腹に猫又が食らい付いた。
猫又とネズミが一緒に転がる。
ネズミが猫又の背に牙を突き立てた。
だが猫又はネズミを放さなかった。
互いに噛み合って塊になる。
俺は限界まで弓を引き絞った瞬間、
「猫又、離れろ!」
と怒鳴った。
猫又が後ろに飛び退く。
牙を突き立てられたままの背が大きく裂ける。
俺はネズミに矢を放った。
だが間一髪のところで避けられてしまった。
夕方、俺達は中央公園に来ていた。
昼間はうちに皆で集まっていたのだが、解散した後、雪桜から連絡が来たのだ。
妖奇征討軍の二人を見掛けたが雪桜には化生が見えない。
それで神社に行って繊月丸を呼び出して中央公園に同行してもらい、化生がいるかどうかを聞くと猫又がいるという。
そして俺が助けた狸が駆け寄ってくると、雪桜に帰るように伝えろと繊月丸に言ったそうだ。
それを繊月丸から聞いた雪桜が俺達に報告してきた。
そこで俺はアーチェリーのケースを持って急いで駆け付けたのである。
秀は古いビデオカメラを持ってきていた。
あからさまに撮影中だという事を示せるカメラの方がいいだろうと判断したようだ。
カメラを回しているのが明らかにアマチュアだとしても本格的な撮影だと思えば避けてくれる通行人は多い。
祖母ちゃんに化かしてくれるように頼むにしても、いざというとき誤魔化せるように備えておいた方がいい。
俺達が到着した時、妖奇征討軍はいなかったが、その代わりゾウと同じくらいの大きさの巨大なネズミと、同じく虎のような大きさの猫が対峙していた。
虎サイズの猫は尾が二本ある。
あれが猫又だろう。
「雪桜、家に帰れ。あの大きさじゃ公園内のどこにいても巻き込まれる可能性がある」
「うん、気を付けてね」
雪桜は素直に帰った。
賢明な雪桜は、足手纏いになる自分がいたせいで結果的に俺達が被害を受けたりしないようにと考えたのだろう。
「祖母ちゃん、この公園全体、幻覚でなんとかなるか?」
「白狐が手助けしてくれるなら」
「スマホで呼べるか?」
「呼ばれるまでもない」
白狐の声に振り返るとそこにいた。
今日も来てたのか……。
「手伝ってくれるか?」
「良いだろう。油揚げ一つだ」
「油揚げ!?」
「油揚げってお稲荷さんじゃないの!?」
「狐ってホントに油揚げ食うのか!?」
俺達が同時に声を上げた。
「冗談だ」
白狐が真顔で答える。
時と場所を考えろよ……。
「雨月は人間が中に入ってこられないようにしてくれ。儂は中にいる人間達を追い出す」
俺は急いでアーチェリーのケースを開いた。
誰かに見られて通報されても祖母ちゃんと白狐が警察を化かしてくれるだろうし、秀だってそのためにカメラを持ってきたのだ。
「繊月丸!」
高樹が繊月丸を手に取る。
猫又が大ネズミに飛び掛かった。
ネズミが前脚を払う。
猫又は宙で体を開いて躱す。
ネズミが猫又に飛び掛かる。
猫又は避けずに爪を振り下ろした。
鼻先の敏感な部分を引っ掻かれたネズミが飛び退いた。
猫又とネズミは着地と同時に、また互いに飛び掛かっていった。
猫又とネズミが二度、三度とぶつかり合う。
動きが速くて狙いが定められない。
それは高樹も同じらしく繊月丸を構えたまま二匹の様子を窺っている。
祖母ちゃんや海伯、白狐は手を出す気がないのか、高樹や俺同様、助太刀しようがないのか離れたところから見ているだけだった。
頼母も来ていると言う事は介入の余地がないのかもしれない。
取っ組み合って転げ回っては飛び退き、またぶつかり合う。
その繰り返しだった。
ネズミも傷付いているが猫又は全身血塗れだ。
「猫又! ここは一旦引いて作戦を考えた方が……」
「そう言うわけにはいかぬのだ」
頼母が俺の言葉を遮った。
「天命とか言うヤツだからか? そんなの……」
「あのネズミは猫又の飼い主を狙っておるのだ」
白狐が言った。
「え?」
「飼い主は今日渡米する。ここで足止めして時間を稼げば飼い主を助けられる」
「なんでアメリカに連れてかないんだよ」
連れて行くなら検疫を受ける必要があるから今ここにはいないはずだ。
外国へ行くのに飼い猫を捨てていくような飼い主を命を掛けてまで守る必要があるのか。
「猫又は飼い主があのネズミに狙われているのを知って空港に連れていかれる前に家から逃げ出したのだ」
俺の表情を見た白狐が言った。
「じゃあ、探してるんじゃ……」
「そこら中の掲示板にあやつの写真の付いた貼り紙がある。ネットにも迷い猫として載せている」
「だったら……」
「言ったであろう。天命は変えられぬと。今日ネズミに襲われて死ぬのは変えようがない。それなら飼い主の命だけは助けたいと思ったのだ」
「あやつの死体を見なければ二度と会えずとも野良猫としてどこかで生きていると思えるからな」
「そんな……」
俺は改めてアーチェリーを構えるとネズミに狙いを付けた。
頼母まで来たのは最期を看取るためではなく助太刀のはずだ。
だったら俺達が手助けすれば……。
限界まで引いた弓で狙いを定める。
互いに飛び退いて着地した瞬間を狙って矢を放った。
矢が掠めたネズミの踵の一部が消える。
俺は即座に二の矢をつがえた。
掲示板やネットに出ているのなら助けて連絡すれば飼い主の元に行かせてやれる。
探しているくらいだから飼い主だって会いたいだろう。
例え命が尽きるとしても、猫又も飼い主も最期まで一緒にいたいはずだ。
絶対に助ける!
助けて、飼い主の元に送ってやる。
ネズミが威嚇するように俺に牙を剥いた。
俺に飛び掛かろうとした時、高樹が反対側から斬り掛かった。
ネズミが横に飛び退く。
俺は弓を引き絞った。
ネズミが俺に近付けないように高樹が間に割り込む。
空を飛んで俺の身長より高い位置にいるから射線上には入らない。
ネズミが高樹に飛び掛かる。
だが高樹が更に高く舞い上がり、僅かに牙が届かなかった。
俺は矢を放ったがネズミの背を掠めただけだった。
飛び上がって隙を見せたネズミの腹に猫又が食らい付いた。
猫又とネズミが一緒に転がる。
ネズミが猫又の背に牙を突き立てた。
だが猫又はネズミを放さなかった。
互いに噛み合って塊になる。
俺は限界まで弓を引き絞った瞬間、
「猫又、離れろ!」
と怒鳴った。
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牙を突き立てられたままの背が大きく裂ける。
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