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第六章
第六章 第七話
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「動物の猫が日本に来たのは二千年くらい前だな。猫又の記録は平安時代の日記に残ってるぞ」
白狐が言った。
〝動物の猫〟って事は化猫はもっと前なのか?
ていうか平安時代、既に猫又になるような年の猫がいたのか……。
どれくらい生きたら猫又になるのかは知らないが。
千年くらいが普通なのだとしたらまだ四百年程度の祖母ちゃんは心配なさそうだ。
そういや白狐が今千年くらいであと百年とか言ってたな……。
それはともかく、海伯が来てくれたのでナマズ退治に行く事になった。
俺達は待ち合わせの時間と場所を決めた。
五月二日 土曜日
「またここで良いと思うか?」
明け方、俺達は神田川沿いの小道にいた。
街灯は川面は照らさないから夜では姿が見えない。
直接斬り掛かる高樹はともかく、俺は目視出来なければ狙いが付けられない。
どうせ祖母ちゃんが目眩ましをしてくれるのだからと言う事で日の出直前のこの時間帯に来たのだ。
「いいんじゃないか? っていうより、ナマズって事は川沿いじゃないとダメなんだろ。空が飛べる高樹はともかく、俺はあんまり離れた場所からじゃ手も足も出ないぞ」
俺の言葉に、
「じゃ、ちょっくら行ってくるわ」
海伯はそう言うと川に飛び込んだ。
また……!
準備が終わってからにしてくれよ。
俺は心の中でボヤきながらアーチェリーのケースを開いた。
弓の用意が出来ると同時に神田川の川面に大きな黒い影が浮かんできた。
こちらに真っ直ぐに進んでくる。
「祖母ちゃん、あれどっちだ?」
俺は大きな影を見ながら訊ねた。
間違えて海伯を攻撃してしまったら大変だ。
「大ナマズ」
祖母ちゃんの答えに俺はアーチェリーで黒い影に狙いを付けた。
高樹が空を飛んで、向かってくる影の前方に回り込む。
高樹が前方から影に斬り付けると、影が止まった。
俺がすかさず矢を放つ。
水面に飛び込んだ矢が影の脇腹を掠める。
影の一部が抉れた。
身を翻そうとした影に高樹が斬り付ける。
影が素早く前進する。
少し小さめの影が阻止するように前に回り込んだ。
影同士がぶつかる。
動きの止まった影に高樹が斬り付けるのと俺が矢を放つのは同時だった。
前後左右どこに避けてもどちらかの攻撃は当たる、と思った瞬間、影が水から飛び出し――。
ナマズが空を飛んだ!
「待て!」
高樹が飛んで追い掛ける。
「ナマズが飛んでる!?」
俺は驚いて声を上げた。
「驚くような事?」
「当たり前だろ!」
「綾さん、普通はナマズが飛んでたらびっくりするよ」
と秀が平静な声で言った。
なんでお前は冷静なんだよ……。
と、突っ込みたかったが今はそれどころではない。
ナマズに狙いを定めようとした瞬間、朝日で目が眩んだ。
「高樹! 東に回り込んでくれ!」
俺がそう言った理由を悟ったらしい。
高樹がナマズの下を通って東側に移動する。
ナマズが西へ飛んでいく。
あまり離れてしまっても矢が届かない。
俺は急いでナマズに狙いを付けた。
ぎりぎりまで矢を引き絞ってからナマズ目掛けて矢を放つ。
ナマズの尾が消える。
しかし射程外に出られてしまった。
高樹が追い掛ける。
不意に川の水面から水柱が立ってナマズを弾き飛ばした。
後ろに飛ばされたナマズを高樹が斬り付ける。
ナマズが際どいところで避ける。
高樹はナマズの前に回って俺の方に追い込むように斬り付けた。
ナマズはそれを避けると川に飛び込んだ。
黒い影がこちらに泳いでくる。
俺は狙いを定めると矢を放った。
矢が水面に突き立った瞬間、黒い影が水面から飛び上がる。
待ち構えていた高樹が影に斬り付けた。
影が水飛沫を上げて川に落ちる。
一拍おいて大きな魚のようなものが浮いてきた。
見た目は確かにナマズっぽい。
「仕留めたわね。早く弓をしまって」
祖母ちゃんの言葉に俺は急いでアーチェリーをケースに仕舞った。
「早く帰ろう。学校に遅刻する」
高樹が言った。
そうだ……。
今日は平日だから学校がある。
俺達は急いで家に向かった。
神田川はうちから遠いからこれ以上川に棲む化生は出てこないでくれ、と祈りながら。
放課後、俺達はファーストフード店にいた。
近くまで来ていたとかで白狐も一緒だった。
「今朝は時間がなくてちゃんと礼を言えなかったが助かったよ」
俺は海伯に礼を言った。
「気にすんなって。ウェ~イ」
「しかしナマズが空を飛ぶとはな」
今朝は余裕がなかったが高樹も驚いてはいたらしい。
「魚のナマズと同じだと思うから驚くのだ」
「つまり魚が年を経たとかじゃないって事なのか?」
「そういうのもいるがな。今でこそ別物とされているが昔は龍とナマズはほぼ同一視されていたからな」
「龍!?」
俺達は驚いて声を上げた。
「ナマズも龍と同じく天変地異を起こせるのだ。地震もそのうちの一つと言うだけで地震しか起こせぬ訳ではない」
「大雨や雷なんかも起こす事が出来るんだよね~」
「雨はともかく、雷なんか落とされてたらヤバかったな。それに地震も」
高樹は空を飛んでいるから普通以上に雷が落ちやすいだろうし、地震で地面が揺れていたら俺も矢で狙いを付ける事など出来ない。
「あれはそんな大物じゃなかったね~」
「天変地異を起こせるような大物となると化生と言うより神だからな。碌に修行もしてないような未熟な人間では呼び出す事は能わぬでな」
「大物じゃなくても十分手子摺ってるんだが……」
俺はげんなりして言った。
白狐が言った。
〝動物の猫〟って事は化猫はもっと前なのか?
ていうか平安時代、既に猫又になるような年の猫がいたのか……。
どれくらい生きたら猫又になるのかは知らないが。
千年くらいが普通なのだとしたらまだ四百年程度の祖母ちゃんは心配なさそうだ。
そういや白狐が今千年くらいであと百年とか言ってたな……。
それはともかく、海伯が来てくれたのでナマズ退治に行く事になった。
俺達は待ち合わせの時間と場所を決めた。
五月二日 土曜日
「またここで良いと思うか?」
明け方、俺達は神田川沿いの小道にいた。
街灯は川面は照らさないから夜では姿が見えない。
直接斬り掛かる高樹はともかく、俺は目視出来なければ狙いが付けられない。
どうせ祖母ちゃんが目眩ましをしてくれるのだからと言う事で日の出直前のこの時間帯に来たのだ。
「いいんじゃないか? っていうより、ナマズって事は川沿いじゃないとダメなんだろ。空が飛べる高樹はともかく、俺はあんまり離れた場所からじゃ手も足も出ないぞ」
俺の言葉に、
「じゃ、ちょっくら行ってくるわ」
海伯はそう言うと川に飛び込んだ。
また……!
準備が終わってからにしてくれよ。
俺は心の中でボヤきながらアーチェリーのケースを開いた。
弓の用意が出来ると同時に神田川の川面に大きな黒い影が浮かんできた。
こちらに真っ直ぐに進んでくる。
「祖母ちゃん、あれどっちだ?」
俺は大きな影を見ながら訊ねた。
間違えて海伯を攻撃してしまったら大変だ。
「大ナマズ」
祖母ちゃんの答えに俺はアーチェリーで黒い影に狙いを付けた。
高樹が空を飛んで、向かってくる影の前方に回り込む。
高樹が前方から影に斬り付けると、影が止まった。
俺がすかさず矢を放つ。
水面に飛び込んだ矢が影の脇腹を掠める。
影の一部が抉れた。
身を翻そうとした影に高樹が斬り付ける。
影が素早く前進する。
少し小さめの影が阻止するように前に回り込んだ。
影同士がぶつかる。
動きの止まった影に高樹が斬り付けるのと俺が矢を放つのは同時だった。
前後左右どこに避けてもどちらかの攻撃は当たる、と思った瞬間、影が水から飛び出し――。
ナマズが空を飛んだ!
「待て!」
高樹が飛んで追い掛ける。
「ナマズが飛んでる!?」
俺は驚いて声を上げた。
「驚くような事?」
「当たり前だろ!」
「綾さん、普通はナマズが飛んでたらびっくりするよ」
と秀が平静な声で言った。
なんでお前は冷静なんだよ……。
と、突っ込みたかったが今はそれどころではない。
ナマズに狙いを定めようとした瞬間、朝日で目が眩んだ。
「高樹! 東に回り込んでくれ!」
俺がそう言った理由を悟ったらしい。
高樹がナマズの下を通って東側に移動する。
ナマズが西へ飛んでいく。
あまり離れてしまっても矢が届かない。
俺は急いでナマズに狙いを付けた。
ぎりぎりまで矢を引き絞ってからナマズ目掛けて矢を放つ。
ナマズの尾が消える。
しかし射程外に出られてしまった。
高樹が追い掛ける。
不意に川の水面から水柱が立ってナマズを弾き飛ばした。
後ろに飛ばされたナマズを高樹が斬り付ける。
ナマズが際どいところで避ける。
高樹はナマズの前に回って俺の方に追い込むように斬り付けた。
ナマズはそれを避けると川に飛び込んだ。
黒い影がこちらに泳いでくる。
俺は狙いを定めると矢を放った。
矢が水面に突き立った瞬間、黒い影が水面から飛び上がる。
待ち構えていた高樹が影に斬り付けた。
影が水飛沫を上げて川に落ちる。
一拍おいて大きな魚のようなものが浮いてきた。
見た目は確かにナマズっぽい。
「仕留めたわね。早く弓をしまって」
祖母ちゃんの言葉に俺は急いでアーチェリーをケースに仕舞った。
「早く帰ろう。学校に遅刻する」
高樹が言った。
そうだ……。
今日は平日だから学校がある。
俺達は急いで家に向かった。
神田川はうちから遠いからこれ以上川に棲む化生は出てこないでくれ、と祈りながら。
放課後、俺達はファーストフード店にいた。
近くまで来ていたとかで白狐も一緒だった。
「今朝は時間がなくてちゃんと礼を言えなかったが助かったよ」
俺は海伯に礼を言った。
「気にすんなって。ウェ~イ」
「しかしナマズが空を飛ぶとはな」
今朝は余裕がなかったが高樹も驚いてはいたらしい。
「魚のナマズと同じだと思うから驚くのだ」
「つまり魚が年を経たとかじゃないって事なのか?」
「そういうのもいるがな。今でこそ別物とされているが昔は龍とナマズはほぼ同一視されていたからな」
「龍!?」
俺達は驚いて声を上げた。
「ナマズも龍と同じく天変地異を起こせるのだ。地震もそのうちの一つと言うだけで地震しか起こせぬ訳ではない」
「大雨や雷なんかも起こす事が出来るんだよね~」
「雨はともかく、雷なんか落とされてたらヤバかったな。それに地震も」
高樹は空を飛んでいるから普通以上に雷が落ちやすいだろうし、地震で地面が揺れていたら俺も矢で狙いを付ける事など出来ない。
「あれはそんな大物じゃなかったね~」
「天変地異を起こせるような大物となると化生と言うより神だからな。碌に修行もしてないような未熟な人間では呼び出す事は能わぬでな」
「大物じゃなくても十分手子摺ってるんだが……」
俺はげんなりして言った。
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