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魔法の剣
捕食者
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テックは、暗い空間で目を覚ました。
「あ、あれ。なんだ、ここは」
見覚えのない場所。黒界を思い出させたが、それともまた違っている。
「なんか、とても臭い」
悪臭がたち込めているのだ。視界は効かない代わりに、何かが物凄く腐ったようなニオイがテックの鼻孔に訴えかけてくる。
「それに、トリモチみたいなのは、なんなんだ」
しばらくして、ほんの少しずつだが、そのトリモチみたいなモノはテックの皮膚を溶かしている事に気付いた。
それは、胃液。
テックは世界級鬼に食べられたのだ。
「お、思い出した。ヤツの口がやけに近付いて来たから、なんだと思ったんだ」
食べられるというより、丸飲みにされたテックはこうして、鬼の消化器官、つまり胃袋にいるわけである。
「ヤバいじゃねえか。どうにかしてここから出ないと、溶かされて栄養にされちまう」
テックは焦った。だが、今までの戦いから考えるならば魔法剣を使えば、鬼は破壊出来ないほど頑丈ではないはずだ。
《涅槃》
テックは炎剣を、手当たり次第に振りまくった。視界は効かないが、どこかで胃壁に当たればそこが脱出口になると考えられるからだ。
しかし、手応えはあるものの鬼の胃袋はビクともしない。
「えっ。な、なんで」
理由は不明だが、内側からでは鬼は斬れないようだ。あるいは、自らの体内構造を学習し、鬼が戦法として採用したのかもしれない。
「困ったぞ。ハトゥルでも十三傑でも誰でもいい。俺の代わりにコイツを倒してくれ、―――!」
ハトゥルは、のんびり優雅に歩きながら鬼のいる所に向かっていた。テックが食べられている事など知らないため、動きがのろい鬼を走ってまで追いかけるのは、肌に悪くて気が進まないのだ。
「はあぅ。先輩、まだ戦ってるなぁ。やだなぁ、私、戦いなんて好きじゃないよぅ」
【ハトゥル、聞こえるか】
誰かの声がしたが、ハトゥルはまだ魔法剣をよく分かってないので、それがテックからの第三剣テレパシーだとは分からない。
(え、なになになに。怖い怖~い)
【ハトゥル、返事をしろ。第三剣を出して、カッコよくて最強でイケイケのテック先輩とどうしても話がしたいと念じるんだ】
(え、無理ぃ。何なの、このヤバい人)
【ハトゥル、ハトゥル!じゃあ、普通にテック先輩と定期連絡の時間としよう。これからは義務だからな】
(え~、まさかテック先輩?何のイタズラですかぁ?)
第三剣を出してないので、会話にならない。ハトゥルはたまに、人の話を聞いてないのだ。
【ハトゥル。俺、テックは今、デカい鬼に食われちまったみたいだ。だから早くアイツを倒してくれ】
(わ、わわ、分かりましたぁ。なるべくあと20分くらいで行きま~す)
【多分、俺は5分ともたない。急いでくれ】
(え~、無理無理ぃ、それは絶対絶対無理ぃ)
しかし、ハトゥルは閃いた。遠くから、鬼を攻撃してしまえば良いのだ。
「はぁ~、もぉ、しょうがなしですね」
《戒律》
ハトゥルの潜在的な魔力は、実はキジュアより遥かに上だ。そのため、同じ白銀十字剣でも出来る事のレベルが違う。
魂の剣、つまり魔法剣は、召喚には魔法剣自体の内蔵魔力しか使わない事は前にも述べた。しかし、技の威力や効果、使える技そのものすら、召喚者である勇者の魔力によって決まるのである。
「そーれ、そーれ」
緊張感ゼロ、いやマイナスの掛け声だが、ハトゥルは第二剣を鬼に向かって振り始めた。
すると、剣の軌道に応じた氷のかたまりが鬼に向かってどんどん飛んでいく。
「ぎっぎぎゅぎらきぎゅき」
大鬼まではまだ10kmほどあるが、音速を超える速さで氷は何度も何度も鬼に直撃した。
そして、これがハトゥルの超幸運なのだが、大鬼と距離を取っている事により、彼女は鬼に食べられずに済んでいるのである。
「い~けどんどん、それどんど~ん」
どこで考えたのかすら謎の歌に合わせて気分が乗ってきたのか、ハトゥルは巨大な氷を放てるようになってきた。
十三傑キアのパーティーが一丸となって成せる殲滅力。それをハトゥルはたった1人で出しているのだ。
「キャハ、ヒャハハハ」
ハトゥルの様子がおかしくなり始めたが、鬼は急速に削られ、しぼんでいく。
「ふっふう・・・。あれれ、私、何かしてましたっけ」
ハトゥルは我に返った。戦いの途中から、記憶があまりないのだった。
「先輩、テックせんぱ~い」
「ん、ハ、ハトゥル、か」
「あらら~、どうしたんですか先輩、えらく傷だらけですぅ」
「まあ、お前の攻撃は俺にも来たからな」
「そ、それは早く言ってくださいよぅ。私のせいだって怒られちゃいますよぅ」
途中から第四剣で無効化するまでは、ハトゥルからの攻撃をもろに食らっていたテックなのだった。
「ご苦労だったんだぜ。新人、偉く活躍したそうだな」
「はいぃ、頑張らされましたよぅ」
そしてやる気ゼロの勇者は、へらっとした笑顔を浮かべていたのだった。
「あ、あれ。なんだ、ここは」
見覚えのない場所。黒界を思い出させたが、それともまた違っている。
「なんか、とても臭い」
悪臭がたち込めているのだ。視界は効かない代わりに、何かが物凄く腐ったようなニオイがテックの鼻孔に訴えかけてくる。
「それに、トリモチみたいなのは、なんなんだ」
しばらくして、ほんの少しずつだが、そのトリモチみたいなモノはテックの皮膚を溶かしている事に気付いた。
それは、胃液。
テックは世界級鬼に食べられたのだ。
「お、思い出した。ヤツの口がやけに近付いて来たから、なんだと思ったんだ」
食べられるというより、丸飲みにされたテックはこうして、鬼の消化器官、つまり胃袋にいるわけである。
「ヤバいじゃねえか。どうにかしてここから出ないと、溶かされて栄養にされちまう」
テックは焦った。だが、今までの戦いから考えるならば魔法剣を使えば、鬼は破壊出来ないほど頑丈ではないはずだ。
《涅槃》
テックは炎剣を、手当たり次第に振りまくった。視界は効かないが、どこかで胃壁に当たればそこが脱出口になると考えられるからだ。
しかし、手応えはあるものの鬼の胃袋はビクともしない。
「えっ。な、なんで」
理由は不明だが、内側からでは鬼は斬れないようだ。あるいは、自らの体内構造を学習し、鬼が戦法として採用したのかもしれない。
「困ったぞ。ハトゥルでも十三傑でも誰でもいい。俺の代わりにコイツを倒してくれ、―――!」
ハトゥルは、のんびり優雅に歩きながら鬼のいる所に向かっていた。テックが食べられている事など知らないため、動きがのろい鬼を走ってまで追いかけるのは、肌に悪くて気が進まないのだ。
「はあぅ。先輩、まだ戦ってるなぁ。やだなぁ、私、戦いなんて好きじゃないよぅ」
【ハトゥル、聞こえるか】
誰かの声がしたが、ハトゥルはまだ魔法剣をよく分かってないので、それがテックからの第三剣テレパシーだとは分からない。
(え、なになになに。怖い怖~い)
【ハトゥル、返事をしろ。第三剣を出して、カッコよくて最強でイケイケのテック先輩とどうしても話がしたいと念じるんだ】
(え、無理ぃ。何なの、このヤバい人)
【ハトゥル、ハトゥル!じゃあ、普通にテック先輩と定期連絡の時間としよう。これからは義務だからな】
(え~、まさかテック先輩?何のイタズラですかぁ?)
第三剣を出してないので、会話にならない。ハトゥルはたまに、人の話を聞いてないのだ。
【ハトゥル。俺、テックは今、デカい鬼に食われちまったみたいだ。だから早くアイツを倒してくれ】
(わ、わわ、分かりましたぁ。なるべくあと20分くらいで行きま~す)
【多分、俺は5分ともたない。急いでくれ】
(え~、無理無理ぃ、それは絶対絶対無理ぃ)
しかし、ハトゥルは閃いた。遠くから、鬼を攻撃してしまえば良いのだ。
「はぁ~、もぉ、しょうがなしですね」
《戒律》
ハトゥルの潜在的な魔力は、実はキジュアより遥かに上だ。そのため、同じ白銀十字剣でも出来る事のレベルが違う。
魂の剣、つまり魔法剣は、召喚には魔法剣自体の内蔵魔力しか使わない事は前にも述べた。しかし、技の威力や効果、使える技そのものすら、召喚者である勇者の魔力によって決まるのである。
「そーれ、そーれ」
緊張感ゼロ、いやマイナスの掛け声だが、ハトゥルは第二剣を鬼に向かって振り始めた。
すると、剣の軌道に応じた氷のかたまりが鬼に向かってどんどん飛んでいく。
「ぎっぎぎゅぎらきぎゅき」
大鬼まではまだ10kmほどあるが、音速を超える速さで氷は何度も何度も鬼に直撃した。
そして、これがハトゥルの超幸運なのだが、大鬼と距離を取っている事により、彼女は鬼に食べられずに済んでいるのである。
「い~けどんどん、それどんど~ん」
どこで考えたのかすら謎の歌に合わせて気分が乗ってきたのか、ハトゥルは巨大な氷を放てるようになってきた。
十三傑キアのパーティーが一丸となって成せる殲滅力。それをハトゥルはたった1人で出しているのだ。
「キャハ、ヒャハハハ」
ハトゥルの様子がおかしくなり始めたが、鬼は急速に削られ、しぼんでいく。
「ふっふう・・・。あれれ、私、何かしてましたっけ」
ハトゥルは我に返った。戦いの途中から、記憶があまりないのだった。
「先輩、テックせんぱ~い」
「ん、ハ、ハトゥル、か」
「あらら~、どうしたんですか先輩、えらく傷だらけですぅ」
「まあ、お前の攻撃は俺にも来たからな」
「そ、それは早く言ってくださいよぅ。私のせいだって怒られちゃいますよぅ」
途中から第四剣で無効化するまでは、ハトゥルからの攻撃をもろに食らっていたテックなのだった。
「ご苦労だったんだぜ。新人、偉く活躍したそうだな」
「はいぃ、頑張らされましたよぅ」
そしてやる気ゼロの勇者は、へらっとした笑顔を浮かべていたのだった。
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