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魔法の剣
カヤルーサ
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ハザ山ふもとの森は、希少な天然資源が生い茂る自然希宝の一つだ。
自然希宝は、世界中央府が指定する場所が登録されており、ハザ山ふもとの森は〈実り深き山麓の蒼森〉と登録されている。
「まさに私が探していた、理想のスポットですぅ」
道に迷ってなお能天気なハトゥルだが、突然の殺気に思わず振り返った。
「さすがだな、ハトゥル」
「やっぱり、来ちゃいましたね」
ドムカ=カヤルーサ。
殺し屋でありながら十三傑という変わった経歴の青年だ。
「死神には上手く取り入ったようだな」
「違いますぅ、私、私」
ハトゥルは泣きそうな声で、敵意のある言葉に対した。もっとも、ハトゥルの考えは神にさえ読めないので、泣きそうなのがなぜなのか、それは誰にも分からないのだ。
「単刀直入に言う。魂の剣を寄越せ。それは俺が使うべき力だ」
「へっ、でもぉ、私、私」
また泣きそうになるハトゥルに苛立ったドムカは、忍刀をハトゥルに投げつけた。
「―――なっ?!」
ハトゥルは一歩も動かない。忍刀の方が、ハトゥルの前で止まったのだ。
「剣さん、助けてくださぁい」
その声に呼応するように、ハトゥルの第五剣が姿を表した。
自由色の板。それがキジュアの第五剣でもあったハトゥルの力だ。
「うえぇぇえぇん」
泣きながら、ハトゥルがドムカを恐る恐る見ると、ドムカの頬が切れた。第五剣は保護色を取れるので、不可視の飛び道具がハトゥルの意思だけで飛ばせる。そしてそれが今、ドムカの身に起きた事だ。
「クソが。俺は十三傑だぞ?どいつもこいつも、バカにしやがって」
ドムカ=カヤルーサは暗殺組織、スカーの幹部だ。行方不明になった妹を探し出さないと、機密が漏れたと見なされて殺されてしまうという事態にある、不遇の殺し屋である。
妹の名はマジル。
家族というより、優秀な部下として誇りに思っていたが、今は邪魔でしかないと彼は考えている。
絶対的な冷徹。ドムカの根幹には常にその感覚が一線を画した意識の奥に根付いている。
殺し屋が十三傑となっている事が知れれば異議は多いだろう。しかし十三傑となるのは、実力がないと不可能だ。つまり、ドムカは殺し屋と知られないで、慎重に十三傑を勝ち取った。
そして、あくまで十三傑争いには実力で参戦していた事はドムカに自信を付けもしたのだ。
しかしそんな孤高のドムカのプライドをへし折ったのがハトゥル=アレマだ。
暗殺の標的となってもなぜか死なない超幸運の持ち主。それがハトゥルだ。
そしてハトゥルのその生まれ持った幸運が、魂の剣、魔法剣の勇者として選ばれた理由なのだろう。
ドムカは度重なる暗殺失敗という屈辱の中で薄々、超幸運の概念に気付き始めた。そして、完全なる暗殺のため、殺し屋である事は伏せた上でハトゥルに冒険者仲間、あくまで十三傑として接し始めたのだ。
「今日のドムカさん、怖いですうぅ」
「えっ!?あ、ああ、すまんすまん。つい、機嫌が悪くてな」
お花畑なところがあるハトゥルには、こんな言い訳でも通じてしまう。明らかにどんなに殺されかけていても、である。
あるいはどこかで、本当にドムカを信じているのかもしれない。「まさかな」とドムカは心の中で笑いはするが、ハトゥルにはそうした不思議な力がある気がするのも、彼にとっては事実なのだ。
「すごいじゃないか、ハトゥル。魂の剣、よく使いこなしてるね」
「はわわ、誉めてもアメも出ませんから」
魂の剣を知る者は限られている。十三傑ですら、全員は知らないかもしれないほどの極秘事項だ。
しかし、そんな剣の事をなぜかハトゥルは、暗殺の対象となるずっと前から知っていたようだ。だからこそ、魂の剣という言葉を普通に使っても会話が成り立っている。
「鬼をやっつけるの、手伝ってくださいぃ」
「えっ、お前、強いじゃん。頑張れ。じゃっ」
ドムカは、ハトゥルが苦手だ。
暗殺対象としてだけでなく、長く接するほど運気が吸われている気がするからだ。そういうわけで、早々とハトゥルから退散するため、ドムカは冷たく彼女から逃げ帰ったのだった。
「道に迷っていまぁす、誰かいませんかぁ」
ハトゥルは、とぼとぼと森をさすらった。すると、直感が突如として働いた。
世界級鬼は大きい。だから木に登れば、目的地が分かるはずだ。
「うんしょ、うんしょ」
ハトゥルはじり、じりと木登りしていった。体力にそんなに自信があるわけでなく、木登り自体した事がないのもあって、手のひらは血やマメでボロボロだ。
「うっうっう。お医者さんに見せるの、恥ずかしいですぅ」
乙女心なのだろう。うら若き女子が血だらけの手を治してもらいに病院に行くのは、確かになんとなく恥ずかしいのかもしれない。
「あんなに遠いんですかぁ」
皮肉にも、ハトゥルが油を売っている間に、鬼はハトゥルがいる所からも、 ムナムナヤ村からも遠ざかりつつあった。
第三剣では神託の庭には行けても、現実世界のワープとしては使えない。
つまり、歩いて追う以外にないのだった。
自然希宝は、世界中央府が指定する場所が登録されており、ハザ山ふもとの森は〈実り深き山麓の蒼森〉と登録されている。
「まさに私が探していた、理想のスポットですぅ」
道に迷ってなお能天気なハトゥルだが、突然の殺気に思わず振り返った。
「さすがだな、ハトゥル」
「やっぱり、来ちゃいましたね」
ドムカ=カヤルーサ。
殺し屋でありながら十三傑という変わった経歴の青年だ。
「死神には上手く取り入ったようだな」
「違いますぅ、私、私」
ハトゥルは泣きそうな声で、敵意のある言葉に対した。もっとも、ハトゥルの考えは神にさえ読めないので、泣きそうなのがなぜなのか、それは誰にも分からないのだ。
「単刀直入に言う。魂の剣を寄越せ。それは俺が使うべき力だ」
「へっ、でもぉ、私、私」
また泣きそうになるハトゥルに苛立ったドムカは、忍刀をハトゥルに投げつけた。
「―――なっ?!」
ハトゥルは一歩も動かない。忍刀の方が、ハトゥルの前で止まったのだ。
「剣さん、助けてくださぁい」
その声に呼応するように、ハトゥルの第五剣が姿を表した。
自由色の板。それがキジュアの第五剣でもあったハトゥルの力だ。
「うえぇぇえぇん」
泣きながら、ハトゥルがドムカを恐る恐る見ると、ドムカの頬が切れた。第五剣は保護色を取れるので、不可視の飛び道具がハトゥルの意思だけで飛ばせる。そしてそれが今、ドムカの身に起きた事だ。
「クソが。俺は十三傑だぞ?どいつもこいつも、バカにしやがって」
ドムカ=カヤルーサは暗殺組織、スカーの幹部だ。行方不明になった妹を探し出さないと、機密が漏れたと見なされて殺されてしまうという事態にある、不遇の殺し屋である。
妹の名はマジル。
家族というより、優秀な部下として誇りに思っていたが、今は邪魔でしかないと彼は考えている。
絶対的な冷徹。ドムカの根幹には常にその感覚が一線を画した意識の奥に根付いている。
殺し屋が十三傑となっている事が知れれば異議は多いだろう。しかし十三傑となるのは、実力がないと不可能だ。つまり、ドムカは殺し屋と知られないで、慎重に十三傑を勝ち取った。
そして、あくまで十三傑争いには実力で参戦していた事はドムカに自信を付けもしたのだ。
しかしそんな孤高のドムカのプライドをへし折ったのがハトゥル=アレマだ。
暗殺の標的となってもなぜか死なない超幸運の持ち主。それがハトゥルだ。
そしてハトゥルのその生まれ持った幸運が、魂の剣、魔法剣の勇者として選ばれた理由なのだろう。
ドムカは度重なる暗殺失敗という屈辱の中で薄々、超幸運の概念に気付き始めた。そして、完全なる暗殺のため、殺し屋である事は伏せた上でハトゥルに冒険者仲間、あくまで十三傑として接し始めたのだ。
「今日のドムカさん、怖いですうぅ」
「えっ!?あ、ああ、すまんすまん。つい、機嫌が悪くてな」
お花畑なところがあるハトゥルには、こんな言い訳でも通じてしまう。明らかにどんなに殺されかけていても、である。
あるいはどこかで、本当にドムカを信じているのかもしれない。「まさかな」とドムカは心の中で笑いはするが、ハトゥルにはそうした不思議な力がある気がするのも、彼にとっては事実なのだ。
「すごいじゃないか、ハトゥル。魂の剣、よく使いこなしてるね」
「はわわ、誉めてもアメも出ませんから」
魂の剣を知る者は限られている。十三傑ですら、全員は知らないかもしれないほどの極秘事項だ。
しかし、そんな剣の事をなぜかハトゥルは、暗殺の対象となるずっと前から知っていたようだ。だからこそ、魂の剣という言葉を普通に使っても会話が成り立っている。
「鬼をやっつけるの、手伝ってくださいぃ」
「えっ、お前、強いじゃん。頑張れ。じゃっ」
ドムカは、ハトゥルが苦手だ。
暗殺対象としてだけでなく、長く接するほど運気が吸われている気がするからだ。そういうわけで、早々とハトゥルから退散するため、ドムカは冷たく彼女から逃げ帰ったのだった。
「道に迷っていまぁす、誰かいませんかぁ」
ハトゥルは、とぼとぼと森をさすらった。すると、直感が突如として働いた。
世界級鬼は大きい。だから木に登れば、目的地が分かるはずだ。
「うんしょ、うんしょ」
ハトゥルはじり、じりと木登りしていった。体力にそんなに自信があるわけでなく、木登り自体した事がないのもあって、手のひらは血やマメでボロボロだ。
「うっうっう。お医者さんに見せるの、恥ずかしいですぅ」
乙女心なのだろう。うら若き女子が血だらけの手を治してもらいに病院に行くのは、確かになんとなく恥ずかしいのかもしれない。
「あんなに遠いんですかぁ」
皮肉にも、ハトゥルが油を売っている間に、鬼はハトゥルがいる所からも、 ムナムナヤ村からも遠ざかりつつあった。
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