白い結婚だったはずなのに、少し糖度が高すぎる気がするのですが。~殿下が今更復縁を懇願してきましたが、もう遅いです~

水上

文字の大きさ
19 / 40

第19話:海の恵み

しおりを挟む
 夕刻。
 港は、朝とは打って変わって熱気に包まれていた。

 帰港した船の喫水線は深く沈み、甲板には銀色に輝くニシンの山が築かれていた。

「大漁だーっ!!」

「網が破れなかった! あんなデカい群れを一網打尽にしても、ビクともしなかったぞ!」

 漁師たちが、カゴいっぱいの魚を抱えて走ってくる。
 彼らが涙目でヴィオラの手を両手で握りしめた。

「奥様! いや、ヴィオラ様! おかげで子供たちに腹いっぱい食わせてやれる! 本当に……、本当にありがとう!」

 ゴツゴツした、魚の臭いのする手。
 だが、その温かさは本物だった。

 ヴィオラは少し困ったように眉を下げたが、その手は振りほどかなかった。

「……当然の処置をしたまでです。網の引張強度が回復しただけの話ですから」

「へへっ、難しいことはわかんねぇが、あんたが俺たちの恩人だってことは確かだ! ほら、一番いい魚を持ってってくれ!」

 ピチピチと跳ねる、丸々と太ったニシンやカニ、エビが次々と差し出された。
 それを受け取ったブルーノは、ニヤリと笑った。

「いいサイズだ。……ヴィオラ、帰るぞ。今日は宴だ」

 屋敷のダイニングには、磯の香りと、食欲をそそるニンニクやサフランの香りが充満していた。

 テーブルの中央に置かれたのは、巨大な鍋。
 中では、新鮮な魚介類がトマトベースのスープでぐつぐつと煮込まれている。

「ベルンシュタイン風ブイヤベースだ」

 ブルーノが鍋の蓋を開けると、湯気と共に極上の香りが立ち上った。

 エビの赤、貝の白、ハーブの緑。
 スープには魚介の旨味が凝縮され、黄金色の油が輝いている。

「さあ、食え。甲殻類のアスタキサンチンと、魚の良質な脂質は、お前の肌と脳に必須だ」

 ブルーノによそってもらったスープを、ヴィオラは口に運んだ。
 熱いスープが喉を通る。

 カニの濃厚な甘みと、魚の出汁が複雑に絡み合い、体の芯まで染み渡るようだ。

「……美味しいです。細胞の一つ一つが活性化する気がします」

「そうだろう。獲れたてだからな」

 ヴィオラが夢中で食べていると、ふと視線を感じて顔を上げた。

 ブルーノが頬杖をつき、じっとこちらを見ている。

「……どうしました? 口元にソースが付着していますか?」

「いや」

 ブルーノは手を伸ばし、ヴィオラの頬に触れた。
 親指で、ふっくらとしてきた頬の肉を優しく撫でる。

「……よし。だいぶ良くなってきた」

「何が、ですか?」

「お前がここに来た時は、骨と皮だけみたいだった。だが、今は少し肉がついて、血色も良くなった。……俺の食事療法の成果が出ているな」

 彼は満足げに頷いた。
 ヴィオラは触れられた頬が、スープの熱さとは別に熱くなるのを感じた。

「……それは、重量増加を指摘しているのですか?」

「健康的になったと褒めているんだ。もっと食え」

 彼女は小さく「はい」と答え、スープのおかわりを要求した。

 窓の外では、冷たい北風が吹いている。
 だが、この部屋の中は、美味しい料理と、確かな信頼関係の温かさで満たされていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

婚約破棄された私は、号泣しながらケーキを食べた~限界に達したので、これからは自分の幸せのために生きることにしました~

キョウキョウ
恋愛
 幼い頃から辛くて苦しい妃教育に耐えてきたオリヴィア。厳しい授業と課題に、何度も心が折れそうになった。特に辛かったのは、王妃にふさわしい体型維持のために食事制限を命じられたこと。  とても頑張った。お腹いっぱいに食べたいのを我慢して、必死で痩せて、体型を整えて。でも、その努力は無駄になった。  婚約相手のマルク王子から、無慈悲に告げられた別れの言葉。唐突に、婚約を破棄すると言われたオリヴィア。  アイリーンという令嬢をイジメたという、いわれのない罪で責められて限界に達した。もう無理。これ以上は耐えられない。  そしてオリヴィアは、会場のテーブルに置いてあったデザートのケーキを手づかみで食べた。食べながら泣いた。空腹の辛さから解放された気持ちよさと、ケーキの美味しさに涙が出たのだった。 ※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開や設定は、ほぼ変わりません。加筆修正して、完成版として連載します。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。

朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。 ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――

隣国の王族公爵と政略結婚したのですが、子持ちとは聞いてません!?

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
「わたくしの旦那様には、もしかして隠し子がいるのかしら?」 新婚の公爵夫人レイラは、夫イーステンの隠し子疑惑に気付いてしまった。 「我が家の敷地内で子供を見かけたのですが?」と問えば周囲も夫も「子供なんていない」と否定するが、目の前には夫そっくりの子供がいるのだ。 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n3645ib/ )

ぐうたら令嬢は公爵令息に溺愛されています

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のレイリスは、今年で16歳。毎日ぐうたらした生活をしている。貴族としてはあり得ないような服を好んで着、昼間からゴロゴロと過ごす。 ただ、レイリスは非常に優秀で、12歳で王都の悪党どもを束ね揚げ、13歳で領地を立て直した腕前。 そんなレイリスに、両親や兄姉もあまり強く言う事が出来ず、専属メイドのマリアンだけが口うるさく言っていた。 このままやりたい事だけをやり、ゴロゴロしながら一生暮らそう。そう思っていたレイリスだったが、お菓子につられて参加したサフィーロン公爵家の夜会で、彼女の運命を大きく変える出来事が起こってしまって… ※ご都合主義のラブコメディです。 よろしくお願いいたします。 カクヨムでも同時投稿しています。

分厚いメガネを外した令嬢は美人?

しゃーりん
恋愛
極度の近視で分厚いメガネをかけている子爵令嬢のミーシャは家族から嫌われている。 学園にも行かせてもらえず、居場所がないミーシャは教会と孤児院に通うようになる。 そこで知り合ったおじいさんと仲良くなって、話をするのが楽しみになっていた。 しかし、おじいさんが急に来なくなって心配していたところにミーシャの縁談話がきた。 会えないまま嫁いだ先にいたのは病に倒れたおじいさんで…介護要員としての縁談だった? この結婚をきっかけに、将来やりたいことを考え始める。 一人で寂しかったミーシャに、いつの間にか大切な人ができていくお話です。

余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

処理中です...