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第18話:狂信的な取り巻きと認知的不協和
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学園中が、イザベラは嘘つきかもしれない、という空気に傾き始めても、決して揺るがない集団がいた。
イザベラを崇拝する男子生徒や、取り巻きの令嬢たちで構成された親衛隊だ。
放課後の裏庭。
リリアは彼らに囲まれていた。
「リリア・アシュベリー! 貴様、よくもイザベラ様を陥れてくれたな!」
リーダー格の男子生徒、ラルフが唾を飛ばして怒鳴った。
彼は騎士道精神を履き違えたような熱っぽい瞳をしている。
「ストーカー騒ぎも、ドレスの件も、すべて貴様の仕組んだ罠だろう! あの純粋で慈悲深いイザベラ様が、あのようなことをするはずがない!」
「そ、そうですわ! イザベラ様は被害者です! 貴女と辺境伯が、彼女を精神的に追い詰めて、異常な行動を取らせたのです!」
取り巻きの令嬢たちも同調する。
彼らの目には迷いがない。
むしろ、追い詰められれば追い詰められるほど、信仰心が増しているようにさえ見えた。
リリアは悲しくなった。
「どうしてですか……? イザベラ様が自分で転んで嘘をついたのも、皆さんは見ていたはずです。それでも、まだ彼女が正しいと言うのですか?」
「黙れ! 見た目が全てではない! 俺たちはイザベラ様の心を知っているんだ!」
ラルフが拳を振り上げた、その時だ。
「――心、か。実に非科学的な臓器の話だな」
木の陰から、アルヴィスが姿を現した。
彼は読みかけの本を閉じると、憐れむような目で親衛隊を見回した。
「貴様、辺境伯……! 貴様の口車には乗らんぞ!」
「口車? 私は事実を陳列しているだけだ。……だが、君たちのその異常な執着、サンプルとしては興味深い」
アルヴィスはラルフの前に立った。
「君たちはなぜ、これほど証拠が揃ってもイザベラを擁護する? それは彼女への忠誠心ではない。動物行動学におけるペッキング・オーダー(順位制)の維持本能だ」
「ぺ、ぺっきんぐ……?」
「鶏の群れでは、つつく順位が決まっている。下位の個体は、上位の個体(ボス)に従うことで、群れの中での自分の安全を確保する。君たちはイザベラというボス鶏に従属することで、学園のカースト上位に居座ってきた。彼女が失脚すれば、自分たちの地位も危うくなる。だから必死に守ろうとしているだけだ」
「ち、違う! 俺たちは彼女を愛しているから……!」
「愛? いいや、それは認知的不協和の解消プロセスだ」
アルヴィスは、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「人間は、自分の信念(イザベラは素晴らしい)と、現実(イザベラは悪人だ)が矛盾した時、強烈な不快感を覚える。この矛盾を解消するには、二つの方法しかない。自分の信念を変えるか、現実の方をねじ曲げて解釈するかだ」
彼はラルフの胸を指先で突いた。
「君たちはこれまで、彼女のために多くの時間と金と労力を費やしてきた。今さら、彼女は悪人だったと認めることは、自分たちが尽くしてきた人生は無駄だった、自分たちは馬鹿だったと認めることになる。それは君たちのプライドにとって、あまりに痛みが強すぎる」
アルヴィスは周囲の取り巻きたちにも視線を送る。
「だから君たちは、現実の方をねじ曲げた。『彼女は悪くない、嵌められたんだ』『あれは彼女なりの正義なんだ』と無理やり解釈することで、自分の心の平穏を保とうとしている。……君たちが守っているのはイザベラではない。彼女を信じた自分自身だ」
「う……、うあああっ!」
ラルフが頭を抱えた。
図星だったのだ。
薄々は、おかしいと気づいていた。
でも、それを認めてしまえば、今までの自分が崩壊してしまう。
だから盲信するしかなかった。
「さらに言えば、君たちの判断は愛着による偏向に汚染されている」
アルヴィスは冷徹にトドメを刺す。
「『好きな人は正しい』『嫌いな奴は間違っている』という感情的なショートカット(近道思考)だ。好意は証拠にはならない。裁判官が被告人のファンだからという理由で無罪判決を出したら、それは法治国家の崩壊だ」
親衛隊たちは崩れ落ちるように座り込んだ。
信じる者の仮面が剥がれ、そこには、騙されたと認めたくない弱者の顔があった。
「……君たちは被害者でもある」
アルヴィスは声を少しだけ和らげた。
「だが、カルト教団から抜けるには、自分で洗脳を解くしかない。イザベラは君たちを守ってくれるボスではない。君たちを盾にして逃げる寄生虫だ。……そのことに、いい加減気づきたまえ」
アルヴィスはリリアの手を引いて背を向けた。
背後からは、ラルフたちのすすり泣く声が聞こえた。
それは悔し涙か、それとも目が覚めた痛みによる涙か。
リリアは小さく呟いた。
「……悲しいですね。信じることが、毒になるなんて」
「盲信は猛毒だ。だからこそ、君には常に疑う知性と私という絶対的な正解が必要なんだ」
その傲慢すぎる慰めに、リリアは苦笑しながらも、強く彼の手を握り返した。
学園を覆っていたイザベラの支配は、その根幹である信者たちの崩壊によって、完全に終わりを告げようとしていた。
イザベラを崇拝する男子生徒や、取り巻きの令嬢たちで構成された親衛隊だ。
放課後の裏庭。
リリアは彼らに囲まれていた。
「リリア・アシュベリー! 貴様、よくもイザベラ様を陥れてくれたな!」
リーダー格の男子生徒、ラルフが唾を飛ばして怒鳴った。
彼は騎士道精神を履き違えたような熱っぽい瞳をしている。
「ストーカー騒ぎも、ドレスの件も、すべて貴様の仕組んだ罠だろう! あの純粋で慈悲深いイザベラ様が、あのようなことをするはずがない!」
「そ、そうですわ! イザベラ様は被害者です! 貴女と辺境伯が、彼女を精神的に追い詰めて、異常な行動を取らせたのです!」
取り巻きの令嬢たちも同調する。
彼らの目には迷いがない。
むしろ、追い詰められれば追い詰められるほど、信仰心が増しているようにさえ見えた。
リリアは悲しくなった。
「どうしてですか……? イザベラ様が自分で転んで嘘をついたのも、皆さんは見ていたはずです。それでも、まだ彼女が正しいと言うのですか?」
「黙れ! 見た目が全てではない! 俺たちはイザベラ様の心を知っているんだ!」
ラルフが拳を振り上げた、その時だ。
「――心、か。実に非科学的な臓器の話だな」
木の陰から、アルヴィスが姿を現した。
彼は読みかけの本を閉じると、憐れむような目で親衛隊を見回した。
「貴様、辺境伯……! 貴様の口車には乗らんぞ!」
「口車? 私は事実を陳列しているだけだ。……だが、君たちのその異常な執着、サンプルとしては興味深い」
アルヴィスはラルフの前に立った。
「君たちはなぜ、これほど証拠が揃ってもイザベラを擁護する? それは彼女への忠誠心ではない。動物行動学におけるペッキング・オーダー(順位制)の維持本能だ」
「ぺ、ぺっきんぐ……?」
「鶏の群れでは、つつく順位が決まっている。下位の個体は、上位の個体(ボス)に従うことで、群れの中での自分の安全を確保する。君たちはイザベラというボス鶏に従属することで、学園のカースト上位に居座ってきた。彼女が失脚すれば、自分たちの地位も危うくなる。だから必死に守ろうとしているだけだ」
「ち、違う! 俺たちは彼女を愛しているから……!」
「愛? いいや、それは認知的不協和の解消プロセスだ」
アルヴィスは、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「人間は、自分の信念(イザベラは素晴らしい)と、現実(イザベラは悪人だ)が矛盾した時、強烈な不快感を覚える。この矛盾を解消するには、二つの方法しかない。自分の信念を変えるか、現実の方をねじ曲げて解釈するかだ」
彼はラルフの胸を指先で突いた。
「君たちはこれまで、彼女のために多くの時間と金と労力を費やしてきた。今さら、彼女は悪人だったと認めることは、自分たちが尽くしてきた人生は無駄だった、自分たちは馬鹿だったと認めることになる。それは君たちのプライドにとって、あまりに痛みが強すぎる」
アルヴィスは周囲の取り巻きたちにも視線を送る。
「だから君たちは、現実の方をねじ曲げた。『彼女は悪くない、嵌められたんだ』『あれは彼女なりの正義なんだ』と無理やり解釈することで、自分の心の平穏を保とうとしている。……君たちが守っているのはイザベラではない。彼女を信じた自分自身だ」
「う……、うあああっ!」
ラルフが頭を抱えた。
図星だったのだ。
薄々は、おかしいと気づいていた。
でも、それを認めてしまえば、今までの自分が崩壊してしまう。
だから盲信するしかなかった。
「さらに言えば、君たちの判断は愛着による偏向に汚染されている」
アルヴィスは冷徹にトドメを刺す。
「『好きな人は正しい』『嫌いな奴は間違っている』という感情的なショートカット(近道思考)だ。好意は証拠にはならない。裁判官が被告人のファンだからという理由で無罪判決を出したら、それは法治国家の崩壊だ」
親衛隊たちは崩れ落ちるように座り込んだ。
信じる者の仮面が剥がれ、そこには、騙されたと認めたくない弱者の顔があった。
「……君たちは被害者でもある」
アルヴィスは声を少しだけ和らげた。
「だが、カルト教団から抜けるには、自分で洗脳を解くしかない。イザベラは君たちを守ってくれるボスではない。君たちを盾にして逃げる寄生虫だ。……そのことに、いい加減気づきたまえ」
アルヴィスはリリアの手を引いて背を向けた。
背後からは、ラルフたちのすすり泣く声が聞こえた。
それは悔し涙か、それとも目が覚めた痛みによる涙か。
リリアは小さく呟いた。
「……悲しいですね。信じることが、毒になるなんて」
「盲信は猛毒だ。だからこそ、君には常に疑う知性と私という絶対的な正解が必要なんだ」
その傲慢すぎる慰めに、リリアは苦笑しながらも、強く彼の手を握り返した。
学園を覆っていたイザベラの支配は、その根幹である信者たちの崩壊によって、完全に終わりを告げようとしていた。
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