83 / 83
「あなたが居ない」
1
しおりを挟む【僕は、あなたの記憶に残るのでしょうか?】
──ずっと、子供でいたかった。
おやすみなさいの、そのあと。
眠ってる間だけ来ることができる、不思議な不思議な夢のなかのお話。
子どもしか入ることのできないその世界は、大人たちからおとぎの国と呼ばれていた。
「やぁ!今日は来るのが早かったね」
「だって早く遊びたかったんだもんっ!!」
わいわい騒ぐ子どもたちの輪の中心には、この国の主人である緑色の帽子を被った彼。
今日も、さまざまな国からやってきた小さな訪問者たちを楽しそうに出迎えている。
……そんな君に恋をしたのは、一体いつからだったんだろう。
大抵の子は、起きた瞬間それまで見てた夢を忘れてしまう。
でも、僕は何故か彼との出来事をすべて覚えていて。
初めましての挨拶から鳥のように空を飛んだあの瞬間。
たくさんの冒険を共にして、見たことのない食べ物をお腹が膨れるほど食べて…そんな宝箱いっぱいの思い出を作ってきた。
「ここは願えばなんだって叶う場所なんだから、思いっきり楽しんで!!」
得意げにフフンッと鼻を鳴らした太陽のようなその笑顔に
──僕は、いつしか恋をしていたんだ。
(でも、ほんとに皮肉だなぁ)
これが恋だと気づいた途端、僕の中でなにかがカチリと動きだした。
それは時計の秒針のような音をしていて。
それが進むに連れ、僕は段々とこの世界に来ることができなくなってきた。
──多分、僕の中で大人になるための時間が…動きだしたんだと思う。
〝恋は人を成長させる〟とはよく言うけれど、でも
(君に恋をしてこうなるなんて、馬鹿みたいだね)
気づかなかったら…もっともっと一緒に過ごせたのに。
自分で自分の首を締めるとはこのこと。
でも、悲しくて悲しくて泣きそうになってしまっても、不思議と後悔はなくて。
「あれ? 久しぶりだなぁ、最近来なかったからびっくりした!!元気か?」
「…っ、うん、もちろん元気だよっ。久しぶりだね」
たくさんいる子どもたちのなかから見つけてくれて、しかも「久しぶり」なんて話しかけられて嬉しいはずなのに、胸がぎゅうっと切なくなる。
「……? どうした? やっぱり元気ない…」
「ふふ、そんなことないよ、すごく元気!
あ、でもそうだなぁ。君が手を繋いでくれたらもっと元気になるかも」
「ん、こう?」
パッと直ぐに繋がれた右手は、夢の中なのにまるで現実世界みたいにあったかくて。
「……ねぇ、このまま一緒に空を飛びたいな」
いつもは他の子たちに君を譲ってしまうけれど、
今日は…僕が独り占めしてもいいですか……?
返答の代わりに、いつもの楽しそうな顔でグイッ!と手を引かれ、宙を舞った。
──多分、あと少しで僕は此処へ来れなくなる。
(そしたら、僕もこの世界のこと…忘れちゃうの?)
そうやって、みんな大人になっていくの?
(嗚呼ほんと、なんて………)
なんて、馬鹿げた世界なんだろうね?
キラキラ光りを灯す、綺麗な綺麗な御伽の国。
それを空から眺める君の横顔を、そっと見つめる。
繋がれている手は、ただただ泣きたくなるくらいに…温かくて…切なくて……
(ねぇ?
もし僕がこの世界から居なくなってしまったら)
君は、気づいてくれるかな?
(「あなたが居ない」とか)
(言ってくれたらいいのにな)
(……なぁんて、ね。)
fin.
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
発情期のタイムリミット
なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。
抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック!
「絶対に赤点は取れない!」
「発情期なんて気合で乗り越える!」
そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。
だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。
「俺に頼れって言ってんのに」
「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」
試験か、発情期か。
ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――!
ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。
*一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
『定時後の偶然が多すぎる』
こさ
BL
定時後に残業をするたび、
なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。
仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。
必要以上に踏み込まず、距離を保つ人――
それが、彼の上司だった。
ただの偶然。
そう思っていたはずなのに、
声をかけられる回数が増え、
視線が重なる時間が長くなっていく。
「無理はするな」
それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、
彼自身はまだ知らない。
これは、
気づかないふりをする上司と、
勘違いだと思い込もうとする部下が、
少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。
静かで、逃げ場のない溺愛が、
定時後から始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる