82 / 83
友人Aの独白
5
しおりを挟む「……で、結局どうなったの?」
「休憩だったからさ、そのまま時間来て終了……
ホテル前で別れた」
「その後は? 会ってねぇのか?」
「あぁ。俺は普通に会社入社して、そいつは海外行ったんだ。
貧しい国の手助けする団体のやつ。その試験に受かって、今もどっかの国にいるはず」
「へぇ、そうなんだ」
カラン…と音を立てて氷が溶ける。
水っぽくなってしまった酒を煽って、空のグラスをカウンターへ置いた。
「俺、さ。ずっとずっと、今も忘れられねぇんだ……」
これまでの人生、あんなに自分を愛してくれた人はいただろうか?
歴代の彼女より……どんな女よりも、ずっと俺を見て、愛してくれていた。
それがあのたった数時間の間で…一度抱いただけで痛いほど伝わってきて……今も、胸が苦しくなる。
「そいつ、本当にこれまで付き合ったことがなかったんだ」
きっと、やりたいことがたくさんあった。
一緒に出かけたり、2人だけで飯食ったり、家でのんびりしたり、手を繋いだり……
そんな、当たり前のことを望んでいたはず。
「あの日も会ってすぐにホテルだったし、全然何処にも行ってねぇ。帰りも…なんにも声かけれなかった。
そいつの雰囲気というか…なんかもう、吹っ切れたように笑ってたんだ。それがほんと、消えそうで……けど、どうすればいいか…わかんなくて……
俺、俺は──」
(嗚呼、それは多分……そいつの〝優しさ〟だ)
告白してしまった以上変に意識されるだろうし、そんな自分と一緒に街なんて歩きたくないだろうと踏んでのこと。
(ほんと……優しい奴だったんだな)
そんなに一途に想っていて、でも相手を思って気持ちを押さえつけて、後ぐされなく笑ってふわりと消えて。
会ったことはないけれど……なんとなく、今もどこかの国で人のため一生懸命動いてるそいつが想像できる。
(なぁ、お前は前に進んだんだな)
自分とは違うって。
自分と一緒にいても子どもは望めないし、こいつは普通の奴だから、自分の処に引きずっちゃ駄目だって。
今もきっと、こいつの幸せを…未来を、願ってんだろ?
──だったら、俺はそれに賛同するよ。
「ね、奥さんはどんな人なんだ?」
「ぇ、ぁ…あいつ、は……
会社の奴に合コン誘われて、そこにいて……俺の2個下で、おっとりしてよく笑ってて…話してみたら結構話あったんだ。それで仲良くなって……料理はちょっとだけ得意で、あと──」
ビクリと肩を震わせながら、ポツリポツリ思い出すように話し始める。
(なぁ? もしお前が本当にそいつを忘れられねぇんなら、きっと海外まで追いかけてるよな?)
日本の会社なんか入らず、そいつが所属してる協力隊なり青年団なり調べて、意地でも会いにいってんだろ?
──この決断には、〝勇気〟がいる。
世間体を捨てる覚悟と、これまで描いてた未来を捨てる覚悟。
親の反対や白い目で見てくる友人・社会全てを押し切ってまで、この世界の普通から外れて生きていく勇気があるならば きっと──
(それをしなかった。選べなかった、そして他に愛する人を見つけた…… それだけだ)
だから だから
「なぁ、おい」
バシッ!と項垂れるように丸まったままの背中を叩いて、シャンとさせる。
「結婚、おめでとう」
(お前も、もう 前向けよ)
「────っ、
あ、りがとう……っ、」
目は潤み、声は掠れ、唇は震え、顔は泣いているかのように歪んでいて
それでもあいつは、クシャリと笑った。
(そのときの あいつの顔を)
(俺は、今でも忘れられずにいる。)
fin.
20
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
発情期のタイムリミット
なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。
抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック!
「絶対に赤点は取れない!」
「発情期なんて気合で乗り越える!」
そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。
だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。
「俺に頼れって言ってんのに」
「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」
試験か、発情期か。
ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――!
ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。
*一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
『定時後の偶然が多すぎる』
こさ
BL
定時後に残業をするたび、
なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。
仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。
必要以上に踏み込まず、距離を保つ人――
それが、彼の上司だった。
ただの偶然。
そう思っていたはずなのに、
声をかけられる回数が増え、
視線が重なる時間が長くなっていく。
「無理はするな」
それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、
彼自身はまだ知らない。
これは、
気づかないふりをする上司と、
勘違いだと思い込もうとする部下が、
少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。
静かで、逃げ場のない溺愛が、
定時後から始まる。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる