38 / 83
美しい君
3
しおりを挟む「おはよう、カエデ。今日の天気はなんだい?」
〝本日は少し雲がありますが、いいお天気ですよ〟
「そうか」
ここへ来て早2ヶ月。
朝起きてメイドが運んできた朝食を食べ、着替えを終えてから窓から手を出す。
聞き始めはいつも天気。これが日課になってしまった。
(この前は豪雨の中手を出したら握り返してくれたな……あれは流石に焦った)
忠誠心が強いのだろうか?
まさかこんな天気の中居ないだろうと手を出したら〝危ないですよ!〟と強く書かれ、慌てるように窓の中に手を戻された。
「いやいやお前が危ないだろう!」とこちらが慌てて窓の外へ聞こえるように叫んだが……
「……っ、ふふふ」
〝?〟
「あぁすまない、思い出し笑いだ」
何度か会話をするうちに慣れてきたようで、今では躊躇なく手を握ってくれる。
(こうなるまでに1ヶ月はかかったな……まぁ壁を崩していくのは楽しかったが)
さてどうやって懐いてもらおうかと試行錯誤してようやくこの距離。
これまで私がこんなに人との距離感を詰めたいと思ったことがあっただろうか?
いや無かったからこそ初めての体験で、だからこそとても面白かった。
(ミートソースで釣って、使用人たちの話から両親の話までして、徐々に徐々にカエデの中へ私を擦り込ませたな……)
今では、こうしてしっかりとカエデの日常に私と話をするということが組み込まれている。
それを、とても嬉しいと思っている自分がいる。
まったくもって不思議な感覚だ。
「そう言えば、今はなにを育てているんだっけ」
〝ヒマワリです。今は夏ですからね。
太陽に向かって真っ直ぐ伸びていますよ〟
「そうか」
カエデは庭師の見習いなのだそうだ。
この家には庭師が数名いて、その者たちから様々なことを学んでいるらしい。
〝他にもいろいろな花を植えてるんですよ。アサガオやクレマチス、後プルメリアとか……それぞれに特徴があって育て方とか好きな場所が違うんです〟
「好きな場所?」
〝はい。例えば日影が好きな植物や暖かい所が好きな植物、日を長く当てすぎるといけないものなど様々です〟
「ほう、ではその特徴ごとに分けて世話しているのか……面白いな。因みにそれぞれどんな花を咲かすんだ?」
〝ヒマワリは黄色い花びらで大きな花を咲かせます。フェルナンド様の手のひらよりも大きな。
アサガオは──〟
いつもそう。
カエデは本当に植物が好きで、語り出すと止まらない。
好きなことに真っ直ぐで、羨ましいほどひたむきで──
ポツリ
「……いいな」
〝?〟
「私も、カエデが咲かせる花を、見てみたいな」
見たら、何かが変わるだろうか?
また仕事へ戻って、頑張っていけるだろうか。
あのつまらない日常を…少しでも、楽しむことが──
〝大丈夫です〟
「っ、」
ぎゅうっと、暖かい手が私の手を包む。
〝フェルナンド様の目はきっと良くなります。
焦らず、少しづつ治されてください。花たちも主人に見られることをきっと心待ちにしていますよ〟
「──っ、あぁ、ありがとう」
〝いいえ〟
クスクスとカエデが笑っているのがわかる。
多分……優しく微笑んでくれているのだろう。
「…ねぇカエデ。さっき植物には好きな場所があるって話をしたよね?」
〝はい、そうですね〟
「カエデはこの場所が好き?」
〝え、〟
「こうして窓辺で私と話をするこの時間は、好きかい?」
〝っ、っ?〟
あぁ、焦っているな。
ワタワタ指が動いているのが振動で伝わる。
(くくくっ、まったく。いじりがいがあるとはこのことか)
可愛らしくて、純粋で。
本当にカエデと話していると私は私のままでいられて。
焦りまくったカエデが〝そ、そろそろ仕事に戻らないと〟と早足で書くまで、ずっとからかっていた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
発情期のタイムリミット
なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。
抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック!
「絶対に赤点は取れない!」
「発情期なんて気合で乗り越える!」
そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。
だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。
「俺に頼れって言ってんのに」
「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」
試験か、発情期か。
ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――!
ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。
*一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
『定時後の偶然が多すぎる』
こさ
BL
定時後に残業をするたび、
なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。
仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。
必要以上に踏み込まず、距離を保つ人――
それが、彼の上司だった。
ただの偶然。
そう思っていたはずなのに、
声をかけられる回数が増え、
視線が重なる時間が長くなっていく。
「無理はするな」
それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、
彼自身はまだ知らない。
これは、
気づかないふりをする上司と、
勘違いだと思い込もうとする部下が、
少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。
静かで、逃げ場のない溺愛が、
定時後から始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる