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しおりを挟む褌のような下着に、一見スカートのように見えるパンツ、上半身は甚平のような構造の服。そんな衣服をサザードの手で着せられた朝陽が案内されたのは居間のような空間だ。板張りの床で、中央部分に必要性のよくわからない微妙な段差があり、その高いところだけが畳のように草で編まれている。草なのに絨毯のような模様が編み込まれているのが不思議だ。
取り囲む人々は一様に顔を布面で隠し、板の床の上に立っている。料理の並ぶ皿は草で編まれた段差の上。まさか、あの低さでテーブルなのだろうかと朝陽は訝る。
サザードは躊躇うことなく、料理と同じ段差の上に胡座をかき、その膝上に朝陽を座らせた。ざわり、と場が騒がしくなる。テーブルに座るようなものなのかな?と朝陽が驚いたのも束の間、サザードが一瞥しただけで人々は静まり返った。
「紹介しよう。これが我が嫁だ」
「ちょっと待て。誰が誰の嫁だって?」
ヤッただけで彼氏面どころか夫面かよ!と朝陽が反論の声を上げると、周囲の者達は畏怖するようにその場でひれ伏した。サザードは気にしない。
「アサヒ。実は我が国では三日三晩を目交った後、神聖な水で身を清めながら互いの名前を呼び、口付けを交わすと、神に夫婦として認められるのだ」
浴室じゃないことを少しばかり不思議に思った。何故このタイミングで名乗ったのだろうとも思いはした。
とはいえ、異界出身の朝陽にわかるわけがない。
そもそも、三日三晩経っていたことに気づいていなかった。それくらい穿たれては死んだように眠ることを繰り返していたのだ。
通りで腹が空いているわけだ。空腹のピークなんて、とっくの昔に過ぎ去って気持ち悪いくらいの絶食具合である。
「先に言えよ!!」
「言ったら嫌がるだろう?」
「この先お前の巨根なしでイける気がしないんだが!?」
今も尚、気を抜くと尻穴がパクパクと喘ぐのを感じてしまう。そんな己の身体に覚えた不安が、うっかり口をついて出てしまった。
ざわ、と周囲が再び動揺したことに気づき、朝陽は己の発言を後悔する。
「………寝室に戻るか?」
サザードの要らぬ気遣いに、これ以上醜態を晒すまいと口を閉ざし、朝陽は顔を背けた。
食事は、以前テレビで見た南国を思い出させた。粘りのある果物を練り焼き上げたパンや、植物の葉で包んで蒸した餅のようなもの。座したまま、手掴みで食べるのが基本らしい。
段差の上は身分の高い者だけが座ることを許される上座で、身分の低い者達は板の間に座るそうだ。上座に座るサザードの、更にその膝上に座る朝陽が最上位になるらしい。
───サザードって何者?と問いかけると、知る必要はないと言われてしまった。朝陽の前にいるサザードは単なる男で、それだけなのだと。公私の分別というか、この世界ではそういうものなのかもしれない。あるいは朝陽が異界人だからなのか。
「俺にもなんか仕事くれ」
前の世界では社会人として毎日働いていたのだ。この世界でもただ養われるだけではいかないだろう。そんな理性と良心からの発言だった。
サザードは逡巡する。
「まだこの世界の常識も知らないだろう。まずは慣れることが先決だ」
それもそうかと朝陽は納得する。不思議と会話には困らないが、文字はどうなのか。読めるのだろうか。最低でも書けないと仕事にならないかもしれない。考え込み始めた朝陽の尻を、サザードの手が撫でる。
「俺が手取り足取り教えてやろう」
「魂胆が見え見え…って、あ!ちょ、」
ニートでいてもいいなら喜んで甘える。それが朝陽の本質なので、サザードとの生活が当たり前になると現状維持でもいいかという考えになってきた。
そもそも、この世界には魔法があり、魔力があるのが当然で。魔力を持たない朝陽に出来ることがあるのかも謎である。
サザードに問いかけても誤魔化されるだけのような気がした。彼は朝陽の外出を一切許さない。自由なのは屋敷の中だけ。お互い何も言わないが、明らかにサザードは朝陽を軟禁している。
最近わかったことだが、朝陽のいる場所はかなり特殊らしい。首都の中に高い塀に囲まれた敷地があり、その敷地内に複数の建物があるのだとか。その最奥の建物は巨大な中庭を有していて、その巨大な中庭に、また家が建っている。マトリョシカを思い出させるような家の中の家こそ、サザードのプライベート空間であり、朝陽の居場所だ。限定された空間のはずなのに広くて中庭があるとか、屋敷全体の規模はどのくらいなのだろう。考えただけで恐ろしい。逃げられる気がしない。
サザードと暮らすようになって半年経ったらしく、記念にと贈られた指輪を眺める。飾り気のないシンプルな金の指輪は、まるで結婚指輪のようにも見えて。いっそ首輪でもくれればまだ割り切れるのにと、朝陽は嘆息する。
「今度結婚式を挙げよう」
───あれ、だいぶ温度差があるな?
確かに嫁とは言われたが、思い返しても性行為しかしていないため、性欲解消用のペットみたいな物かと自認していた朝陽は目を大きく見開いてサザードを凝視して。
「うん………、まぁ、いいか」
今更元の生活に戻れる気がしないのもあり、朝陽は大人しく同意した。後悔はない。たぶん。
[完]
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