獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき

文字の大きさ
3 / 5

さん

しおりを挟む



 褌のような下着に、一見スカートのように見えるパンツ、上半身は甚平のような構造の服。そんな衣服をサザードの手で着せられた朝陽あさひが案内されたのは居間のような空間だ。板張りの床で、中央部分に必要性のよくわからない微妙な段差があり、その高いところだけが畳のように草で編まれている。草なのに絨毯のような模様が編み込まれているのが不思議だ。

 取り囲む人々は一様に顔を布面で隠し、板の床の上に立っている。料理の並ぶ皿は草で編まれた段差の上。まさか、あの低さでテーブルなのだろうかと朝陽あさひは訝る。

 サザードは躊躇うことなく、料理と同じ段差の上に胡座をかき、その膝上に朝陽あさひを座らせた。ざわり、と場が騒がしくなる。テーブルに座るようなものなのかな?と朝陽あさひが驚いたのも束の間、サザードが一瞥しただけで人々は静まり返った。

「紹介しよう。これが我が嫁だ」

「ちょっと待て。誰が誰の嫁だって?」

 ヤッただけで彼氏面どころか夫面かよ!と朝陽あさひが反論の声を上げると、周囲の者達は畏怖するようにその場でひれ伏した。サザードは気にしない。

「アサヒ。実は我が国では三日三晩を目交まぐわった後、神聖な水で身を清めながら互いの名前を呼び、口付けを交わすと、神に夫婦として認められるのだ」

 浴室じゃないことを少しばかり不思議に思った。何故このタイミングで名乗ったのだろうとも思いはした。

 とはいえ、異界出身の朝陽あさひにわかるわけがない。

 そもそも、三日三晩経っていたことに気づいていなかった。それくらい穿たれては死んだように眠ることを繰り返していたのだ。

 通りで腹が空いているわけだ。空腹のピークなんて、とっくの昔に過ぎ去って気持ち悪いくらいの絶食具合である。

「先に言えよ!!」

「言ったら嫌がるだろう?」

「この先お前の巨根なしでイける気がしないんだが!?」

 今も尚、気を抜くと尻穴がパクパクと喘ぐのを感じてしまう。そんな己の身体に覚えた不安が、うっかり口をついて出てしまった。

 ざわ、と周囲が再び動揺したことに気づき、朝陽あさひは己の発言を後悔する。

「………寝室に戻るか?」

 サザードの要らぬ気遣いに、これ以上醜態を晒すまいと口を閉ざし、朝陽あさひは顔を背けた。



 食事は、以前テレビで見た南国を思い出させた。粘りのある果物を練り焼き上げたパンや、植物の葉で包んで蒸した餅のようなもの。座したまま、手掴みで食べるのが基本らしい。

 段差の上は身分の高い者だけが座ることを許される上座で、身分の低い者達は板の間に座るそうだ。上座に座るサザードの、更にその膝上に座る朝陽あさひが最上位になるらしい。

 ───サザードって何者?と問いかけると、知る必要はないと言われてしまった。朝陽あさひの前にいるサザードは単なる男で、それだけなのだと。公私の分別というか、この世界ではそういうものなのかもしれない。あるいは朝陽あさひが異界人だからなのか。

「俺にもなんか仕事くれ」

 前の世界では社会人として毎日働いていたのだ。この世界でもただ養われるだけではいかないだろう。そんな理性と良心からの発言だった。

 サザードは逡巡する。

「まだこの世界の常識も知らないだろう。まずは慣れることが先決だ」

 それもそうかと朝陽あさひは納得する。不思議と会話には困らないが、文字はどうなのか。読めるのだろうか。最低でも書けないと仕事にならないかもしれない。考え込み始めた朝陽あさひの尻を、サザードの手が撫でる。

「俺が手取り足取り教えてやろう」

「魂胆が見え見え…って、あ!ちょ、」





 ニートでいてもいいなら喜んで甘える。それが朝陽あさひの本質なので、サザードとの生活が当たり前になると現状維持でもいいかという考えになってきた。

 そもそも、この世界には魔法があり、魔力があるのが当然で。魔力を持たない朝陽あさひに出来ることがあるのかも謎である。

 サザードに問いかけても誤魔化されるだけのような気がした。彼は朝陽あさひの外出を一切許さない。自由なのは屋敷の中だけ。お互い何も言わないが、明らかにサザードは朝陽あさひを軟禁している。

 最近わかったことだが、朝陽あさひのいる場所はかなり特殊らしい。首都の中に高い塀に囲まれた敷地があり、その敷地内に複数の建物があるのだとか。その最奥の建物は巨大な中庭を有していて、その巨大な中庭に、また家が建っている。マトリョシカを思い出させるような家の中の家こそ、サザードのプライベート空間であり、朝陽あさひの居場所だ。限定された空間のはずなのに広くて中庭があるとか、屋敷全体の規模はどのくらいなのだろう。考えただけで恐ろしい。逃げられる気がしない。

 サザードと暮らすようになって半年経ったらしく、記念にと贈られた指輪を眺める。飾り気のないシンプルな金の指輪は、まるで結婚指輪のようにも見えて。いっそ首輪でもくれればまだ割り切れるのにと、朝陽あさひは嘆息する。

「今度結婚式を挙げよう」

 ───あれ、だいぶ温度差があるな?

 確かに嫁とは言われたが、思い返しても性行為しかしていないため、性欲解消用のペットみたいな物かと自認していた朝陽あさひは目を大きく見開いてサザードを凝視して。

「うん………、まぁ、いいか」

 今更元の生活に戻れる気がしないのもあり、朝陽あさひは大人しく同意した。後悔はない。たぶん。



[完]
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

運動会に盛り上がってしまった父兄

ミクリ21
BL
運動会で盛り上がってしまった男達の話。

王太子が護衛に組み敷かれるのは日常

ミクリ21 (新)
BL
王太子が護衛に抱かれる話。

パパの雄っぱいが大好き過ぎて23歳息子は未だに乳離れできません!父だけに!

ミクリ21
BL
乳と父をかけてます。

王と宰相は妻達黙認の秘密の関係

ミクリ21 (新)
BL
王と宰相は、妻も子もいるけど秘密の関係。 でも妻達は黙認している。 だって妻達は………。

処理中です...