後宮恋歌 ―皇帝になる男と、ただ一人の妃―

佳乃こはる

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第一章 

15 蒼龍の策

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「もう、どこに行ってたのよ。4日も顔を見せないでさ。私、てっきり見捨てられたのかと」
「悪いな、親父のご機嫌取るのにちょっと手間取っていたんだよ。無事か?」
 ん、と首を傾げた顔が近づきすぎている。
 顔を真っ赤にした小蘭は、ようやく自分が蒼龍に抱き上げられていることに気がついた。
 
「見ての通りよ。下ろして、ちゃんと自分で歩けるから!」
「ははっ、遠慮すんなって。俺は力が有り余ってるし、君は羽のように軽いから」
「遠慮してないっ、下ろせ!」
 自分を抱いたままで歩き出そうとした蒼龍の腕から、小蘭はもがき出るようにして飛び降りた。

「なんだよ、楽でいいだろう。この国じゃあ、高貴な姫君は自分の足で出歩かない」
「ふん、私はそんなの嫌だもの。自分の足で歩けないなんてつまらないわ」
「ははっ、その発想は嫌いじゃない」

 あっけらかんと笑う蒼龍を、小蘭は上目に睨んだ。
 今日会えたことが嬉しいくせに、つい悪態をついてしまう。
 
「……蒼龍のバカ。何であんな意地悪するの? 普通に声をかけてくれたらいいじゃない」
「ふふん、悪口なんて言ってるからだ。人が折角、君の助命策を手配してきたっていうのに」
「本当!?」
 ぱっと顔を輝かせた小蘭に、蒼龍は誇らしげに胸を張った。

「うん、それで春明のところに行こうとしていたんだ。そうしたら君が李園りえんに入っていくのが見えたから」
「へーえ、よく私だって分かったわね。後宮ここの人は、誰も気が付かないのに」
「嘘だろ? どこからどう見ても小蘭だったぞ。堂々と表を歩いてるからびっくりびっくりした」
「えー……。この変装、結構上手くいってると思ったのに。……それより教えてよ、一体どんな作戦なの?」
 
 蒼龍は、得意げに笑ってみせる。
「まあ、続きは後でゆっくり話してやるさ。貸せよ、それくらいは持ってやる、善は急げだ」
 蒼龍は半ば強引に小蘭から薬壺を奪うと、まるで李園から早く離れたいかのように足早に先を歩き出した。
 小蘭が慌ててその後に続く。
 
「いいじゃない、先生より先に教えて?」
「あとで!」
「何でよ、私自身のことなのに」
「まあ……、お楽しみは後にとっておくほうがいいだろ?」
 甘えた口調でねだる小蘭に、蒼龍は楽しそうに笑うばかり。小蘭が何度尋ねても、ついに教えてはくれなかった。
 
 そうこうするうちに、目前に春明先生の診療所が見えてきた。ふたりの姿に気が付いた春明が、小蘭に声を掛ける。
「おや孩子、随分と時間が掛かったね……と、これは蒼太子」

 縁側に、小さな乳鉢がたくさん並べてある。調薬の最中だったのだろう、春明はそれを横に寄せると、小蘭に茶の用意を促した。

 *

 茶が湯呑に注がれる音が、静かに庵の空気を満たしている。

「で、策とは」
「……さく?」
「……点心おやつを漁りに来たのではないでしょう」
 よほどお腹を空かせているのか、点心にがっつく蒼龍に、春明が呆れたようにため息をつく。

 蒼龍は、蒸籠せいろの中身を小蘭の分まで奪い、ようやく満腹したらしかった。腹を撫でながら、のんびりと茶をすすっている。
 
「むぅ~」
 大事にキープしていた点心を奪われ、恨めしそうに蒼龍を睨む小蘭の横で、春明が蒼龍に問いかけた。

「さっそく本題に入りましょう。改めて尋ねます。蒼太子は小蘭をどうするつもりですか」

「うん」
 ひとつうなずくと、蒼龍はひどく真面目な顔つきをした。
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