65 / 66
第二章 華燭
63 希望の灯り
しおりを挟む
*
三日後ーー。
「もう、離してったら!」
「ガーッハッハッ、ちっとも懲りねえなあ、お前さんは」
小蘭は、懲りずに正面突破に挑んでいた。
泣きつき、恫喝、色仕掛け(?)……あらゆることを試したが、その度にこの門番は、仁王様のように立ちはだかる。
「ねえ、お願い。通してよ。知ってるでしょう……戦、もうすぐ戦が始まっちゃうの。……逃げようなんて思ってないわ。――ただ蒼龍に会いたいだけ」
男はぎょろりと目を剥いた。
が、その表情は、眉尻を下げ、困っているようにも見える。
「……まあ、何つーかよ、お前さんの会いたいって気持ちは分らんでもないがよ」
「だったら……!」
男は一瞬、門の内側を振り返った。
それから、ぎゅっと歯を食いしばるようにして、首を振った。
「だがな、その蒼太子様から念押しされてんのよ。ここは誰も通しちゃならねえ。特に、金色の髪の小さい娘は、ってな」
「――そんな!」
男は、少し困った顔をして、いつまでも首を横に振り続けた。
*
晩秋の夕暮れは早く、空はすっかり真っ暗だ。
そんな中、小蘭はとぼとぼと自房へ向かっていた。
――金の髪の娘なんて、私か黎妃様くらいしかいない。黎妃様は脱走なんかしないから、蒼龍は、私を名指しで「出すな」と言ったことになる。
一体、なぜ。
そんなに、私に会いたくない?
無遠慮に心配を口にして、彼の日鳳を困らせたせい?
鬱陶しいと思われた?
――それとも。
私が思っているほど、私は必要とされていない。
「守るべきもの」じゃなく、ただの「足手まとい」?
ぐるぐると考えを巡らせるうちに、いつしか小蘭は、自分の房とは、まるで見当違いの場所にいた。
ふと顔をあげると、目の端に、見覚えのある老人がひょこひょこ動く姿が見える。
あれ、もしかして、ここは……。
小蘭は、懐かしい気持ちでいっぱいになった。
そうだ、蒼龍に出会ったばかりの夜に、逃げ込んだあの馬小屋だ。
冷たく沈んでいた心に、ほんの少し、暖かみが差した。
そうよ。初めて会った時から、私たちの間に遠慮なんてなかった。
皇帝のお妃に夜這いをかけるだなんて、出会った時から無茶苦茶な奴だったけれど……。
それならば、後宮から脱け出して蒼龍に逢いに行こうとしている自分だってそう。
意気投合して語り合った夜、そんな彼に、不覚にもときめいてしまった。
ふと、胸の奥が温かくなった。
〝嫌いになった〟だなんて、どうして思ったんだろう。
蒼龍は、誰よりも私を知っているじゃない。
御前試合の時だって、こないだの火事の時だって、ずっと守ってきてくれた。
ならばきっと今回だって、私と同じ考えのはず。
要は、
「危険に近づけたくないから」じゃないの?
元気になると、途端に考えが楽観的になってきた。
そうだ、あの馬を奪って――!
そこまで考え、小蘭はすぐに首を振った。
ダメだ。
それでは、誰かが必ず罰を受けてしまう。
……やっぱり私には、待つことしかできないのか。
それは――蒼龍の人生から、外に置かれるということ。
そんなの嫌だ。でも……。
と、見つめる先の景色に、ふとあるものが目に入った。
東の方向。
春明の庵に、灯りが灯っている――!
瞬間、小蘭は、走り出していた。
三日後ーー。
「もう、離してったら!」
「ガーッハッハッ、ちっとも懲りねえなあ、お前さんは」
小蘭は、懲りずに正面突破に挑んでいた。
泣きつき、恫喝、色仕掛け(?)……あらゆることを試したが、その度にこの門番は、仁王様のように立ちはだかる。
「ねえ、お願い。通してよ。知ってるでしょう……戦、もうすぐ戦が始まっちゃうの。……逃げようなんて思ってないわ。――ただ蒼龍に会いたいだけ」
男はぎょろりと目を剥いた。
が、その表情は、眉尻を下げ、困っているようにも見える。
「……まあ、何つーかよ、お前さんの会いたいって気持ちは分らんでもないがよ」
「だったら……!」
男は一瞬、門の内側を振り返った。
それから、ぎゅっと歯を食いしばるようにして、首を振った。
「だがな、その蒼太子様から念押しされてんのよ。ここは誰も通しちゃならねえ。特に、金色の髪の小さい娘は、ってな」
「――そんな!」
男は、少し困った顔をして、いつまでも首を横に振り続けた。
*
晩秋の夕暮れは早く、空はすっかり真っ暗だ。
そんな中、小蘭はとぼとぼと自房へ向かっていた。
――金の髪の娘なんて、私か黎妃様くらいしかいない。黎妃様は脱走なんかしないから、蒼龍は、私を名指しで「出すな」と言ったことになる。
一体、なぜ。
そんなに、私に会いたくない?
無遠慮に心配を口にして、彼の日鳳を困らせたせい?
鬱陶しいと思われた?
――それとも。
私が思っているほど、私は必要とされていない。
「守るべきもの」じゃなく、ただの「足手まとい」?
ぐるぐると考えを巡らせるうちに、いつしか小蘭は、自分の房とは、まるで見当違いの場所にいた。
ふと顔をあげると、目の端に、見覚えのある老人がひょこひょこ動く姿が見える。
あれ、もしかして、ここは……。
小蘭は、懐かしい気持ちでいっぱいになった。
そうだ、蒼龍に出会ったばかりの夜に、逃げ込んだあの馬小屋だ。
冷たく沈んでいた心に、ほんの少し、暖かみが差した。
そうよ。初めて会った時から、私たちの間に遠慮なんてなかった。
皇帝のお妃に夜這いをかけるだなんて、出会った時から無茶苦茶な奴だったけれど……。
それならば、後宮から脱け出して蒼龍に逢いに行こうとしている自分だってそう。
意気投合して語り合った夜、そんな彼に、不覚にもときめいてしまった。
ふと、胸の奥が温かくなった。
〝嫌いになった〟だなんて、どうして思ったんだろう。
蒼龍は、誰よりも私を知っているじゃない。
御前試合の時だって、こないだの火事の時だって、ずっと守ってきてくれた。
ならばきっと今回だって、私と同じ考えのはず。
要は、
「危険に近づけたくないから」じゃないの?
元気になると、途端に考えが楽観的になってきた。
そうだ、あの馬を奪って――!
そこまで考え、小蘭はすぐに首を振った。
ダメだ。
それでは、誰かが必ず罰を受けてしまう。
……やっぱり私には、待つことしかできないのか。
それは――蒼龍の人生から、外に置かれるということ。
そんなの嫌だ。でも……。
と、見つめる先の景色に、ふとあるものが目に入った。
東の方向。
春明の庵に、灯りが灯っている――!
瞬間、小蘭は、走り出していた。
0
あなたにおすすめの小説
大正浪漫? 夫婦契約致しました ~暗闇の中、契約夫と密やかにはぐくむ愛~
佳乃こはる
キャラ文芸
老舗製糸屋・両口屋家のひとり娘、陽毬(17)は、父の事業失敗の責任を負う形で、成金の物産商・権藤家へ嫁いだ。
それは恋ではなく、家を救うための契約の婚姻。
しかも、夫となる権藤宿禰(26)は病のため人前に出られず、屋敷の地下で暗闇に閉ざされて暮らしているという。
不安と恐れを胸に、初めて対面した夜。
陽毬が出会ったのは、噂とはまるで違う、知的で誰より暖かい心を持つ夫だった。
契約から始まった夫婦は、言葉を交わし、寄り添い、少しずつ心を育んでいく。
これは、温かな闇の中で選び合う、切なくも、けなげな愛の物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
冷たい王妃の生活
柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。
三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。
王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。
孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。
「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。
自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。
やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。
嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる