後宮恋歌 ―皇帝になる男と、ただ一人の妃―

佳乃こはる

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第二章 華燭

63 希望の灯り

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 三日後ーー。
 
「もう、離してったら!」
「ガーッハッハッ、ちっとも懲りねえなあ、お前さんは」

 小蘭は、懲りずに正面突破に挑んでいた。
 泣きつき、恫喝、色仕掛け(?)……あらゆることを試したが、その度にこの門番は、仁王様のように立ちはだかる。
 
「ねえ、お願い。通してよ。知ってるでしょう……戦、もうすぐ戦が始まっちゃうの。……逃げようなんて思ってないわ。――ただ蒼龍に会いたいだけ」

 男はぎょろりと目を剥いた。
 が、その表情は、眉尻を下げ、困っているようにも見える。

「……まあ、何つーかよ、お前さんの会いたいって気持ちは分らんでもないがよ」
「だったら……!」

 男は一瞬、門の内側を振り返った。
 それから、ぎゅっと歯を食いしばるようにして、首を振った。
 
「だがな、その蒼太子様から念押しされてんのよ。ここはだあれも通しちゃならねえ。特に、金色の髪の小さい娘は、ってな」
「――そんな!」

 男は、少し困った顔をして、いつまでも首を横に振り続けた。

 *
 
 晩秋の夕暮れは早く、空はすっかり真っ暗だ。
 そんな中、小蘭はとぼとぼと自房へ向かっていた。

 ――金の髪の娘なんて、私か黎妃様くらいしかいない。黎妃様は脱走なんかしないから、蒼龍は、私を名指しで「出すな」と言ったことになる。

 一体、なぜ。
 そんなに、私に会いたくない?
 無遠慮に心配を口にして、彼の日鳳あいぼうを困らせたせい?
 鬱陶しいと思われた?
 
 ――それとも。
 私が思っているほど、私は必要とされていない。
「守るべきもの」じゃなく、ただの「足手まとい」?
 
 ぐるぐると考えを巡らせるうちに、いつしか小蘭は、自分のへやとは、まるで見当違いの場所にいた。
 ふと顔をあげると、目の端に、見覚えのある老人がひょこひょこ動く姿が見える。

 あれ、もしかして、ここは……。

 小蘭は、懐かしい気持ちでいっぱいになった。
 そうだ、蒼龍に出会ったばかりの夜に、逃げ込んだあの馬小屋だ。
 
 冷たく沈んでいた心に、ほんの少し、暖かみが差した。

 そうよ。初めて会った時から、私たちの間に遠慮なんてなかった。
 
 皇帝おとうさまのお妃に夜這いをかけるだなんて、出会った時から無茶苦茶な奴だったけれど……。
 それならば、後宮から脱け出して蒼龍かれに逢いに行こうとしている自分だってそう。

 意気投合して語り合った夜、そんな彼に、不覚にもときめいてしまった。
 
 ふと、胸の奥が温かくなった。
 
 〝嫌いになった〟だなんて、どうして思ったんだろう。
 蒼龍は、誰よりも私を知っているじゃない。
 御前試合の時だって、こないだの火事の時だって、ずっと守ってきてくれた。
 
 ならばきっと今回だって、私と同じ考えのはず。

 要は、
「危険に近づけたくないから」じゃないの?

 元気になると、途端に考えが楽観的になってきた。

 そうだ、あの馬を奪って――!
 そこまで考え、小蘭はすぐに首を振った。
 ダメだ。
 それでは、誰かが必ず罰を受けてしまう。

 ……やっぱり私には、待つことしかできないのか。

 それは――蒼龍の人生から、外に置かれるということ。

 そんなの嫌だ。でも……。
 

 と、見つめる先の景色に、ふとあるものが目に入った。

 東の方向。
 春明の庵に、灯りが灯っている――!

 瞬間、小蘭は、走り出していた。
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