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しおりを挟む「灼熱の烈火!」
爆裂の叫びにより凄まじい火柱が突き上げた。
ゼットの唇がニィィと獰猛な笑みを刻んだ。
並みの者なら打ち上げることしかできない巨大な火柱だが、ゼットはそれを自在に操ることが可能だ。勝利を確信しその拳ごと火柱を打ち出す。
「氷の障壁」
「!!?」
氷の壁に炎はあっさりと阻まれた。
ガラスのように立ちはだかる氷の壁。
先と異なり短縮詠唱を唱えたのは余裕がなかったからではない。
そう誰もが理解した。
理解、させられた。
本来、レイが生み出した氷の障壁は氷属性の下級魔術だ。炎の上級魔術である灼熱の烈火を阻むのならもっと相応しい魔術がある。
それなのにあえてレイは下級魔術でゼットの全力を阻んで見せたのだ。
もはや誰の目にも実力の差は歴然だった。
「さて、そろそろお遊びは終わりでいいか?」
キラキラと砕けながら消失する氷の壁の向こうでレイはつまらなそうに首を傾げた。
丹精込めて造り上げられた人形のように美しい顔はどこまでも涼しいままだ。
「ゼットッ!!!」
ひび割れた声でイグナーが叫ぶ。
「協力シナサイ!!このままでは勝ち目ハありまセン!」
「……あ、ああ!」
グッと目を閉じ、拳を握りしめたゼットも覚悟を決めたように叫んだ。
降りかかる拳の雨。
炎と雷。
それらがレイを足止めする間に先程までよりさらなる陰鬱な声が低く響く。
もはや不気味な呟きのようにしか聞こえないイグナーのそれが止んだ時、ゼットが言葉に表せぬような咆哮をあげた。
全身の筋肉を膨張させ、涎を垂らしながら叫ぶ姿。
握った赤い瞳に正気の色はなかった。
「……洗脳かっ!」
ゼットの瞳を見たジェラルドが小さく叫ぶ。
異変はそれで終わらなかった。
すぅっと息を吸い込んだゼットが再び大きく口を開き、人の喉からでは決して発することのできない音が鳴り響くと結界内のオーガたちが同じように頭を押さえ苦しみだしたのだ。
「まさか……共鳴?」
「どうなっている?!」
様子の可笑しいオーガたちに結界内の魔族たちが騒ぎ出す。
騒然とする結界の中、オーガたちの叫びが響き渡った。
「……厄介だな」
オーガたちの狙いはあくまでレイのようだが、正気を失った彼らは見境を失っている。
ジェラルドをはじめ周囲の魔族も戦闘態勢に入ってはいるが……いかんせん数が多いうえにこれだけの魔族が乱闘になれば被害は小さくない。
暴れるオーガたちが統領であるゼットの叫びに従っているのだとしたら…………。
ひらりと地面を蹴ったレイはゼットに飛びつくとその首を掴んだ。
そのままガブリと牙を立てる。
ジュルジュルと血を啜る音が淫らに響いた。
埋めていた首筋から顔を上げれば、ポカンとしたゼットの表情があった。
腕で雑に口を拭い、レイは空を仰いだ。
そしてそのまま細い喉から言い表せぬ声を響かせる。
我に返ったオーガたちがやはりポカンとした表情でレイを見つめていた。
「……一体ナニがっ?」
なにが起きたのか理解できない表情でイグナーが呟いた。
そしてそれは周囲の魔族たちも同じだろう。
「オーガの支配権を奪い取っただけだ」
事も無げにレイが告げる。
レイは吸血によって相手の能力を奪うことができる。
…………もっとも、その効果は半日ほどだが。
ぶっちゃけ、さっきまで散々使っていた氷系統の魔術はジェラルドの魔術だ。奪うといっても自分も使えるようになるだけなので、ジェラルド自身はいまも魔術が使える。
なお、効果は魔力量に比例する。
なのでレイはゼットの能力値を上回りオーガの支配権を奪い取れたのだ。
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