失礼ながら殿下……私の目の前に姿を現すな!!

星野日菜

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おまけ ~ひと休みメモリー sideアイレーン~

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昨日、今日と殿下がいないので私の仕事はもっぱら掃除だった。

私の元々の仕事はバルド様付きの侍女兼非常時出動隊。

この屋敷での『非常時』とはアメリア様がいらっしゃった場合だけ。

そのため掃除くらいしかすることがなかった。……アメリア様専用部屋の。

しかしこの部屋には誘惑が多い。

アメリア様が触ったであろう扉。アメリア様が眠ったであろうベッド。

ああ……ベッドに飛び込めたなら……



誘惑に負けてしまうことはマズい。

それ自体はわかっている。信者である私が一人だけ出し抜くことはできないのだ。

……けれど……

ふと思う。

他の信者と私の差。それを考えれば出し抜くことも許されるのではないか……

いや、このようなこと考えてはならない。

今の私はアメリア様がいなければなかったのだ。言うなれば、私はアメリア様のモノ。

モノがでしゃばることなんて許されはしない……



――十二年前――



今日は全く売れなかった。

両親が亡くなり、財産もゼロ。そんな幼い少女が生きていく方法など皆無。

とはいえ少し器用な手を活かし、小さなブーケを作り、それを売って生きている私はその日その日を食いつなぐことならばできていた。

だが今日は……



ううん、一日くらい大丈夫だよね。



ほっぺたをペチンと叩き、気合いを入れる。

今日だけ。ごはんが食べられないのは、今日だけ。

暗くなってきたので寝る準備。無駄な体力は消耗したくない。

その時、突如後ろから声をかけられた。

「そんな花誰かが買うと思う?」

声の主はまだ五つくらいの幼女。

「ねえ。あんたそんなのが売れると思っているの?」

冷やかしか……

明らかに裕福そうである。

私のことをからかっているのだろう。自分のような貧乏人を。

「ねえねえ」

だんまりを決め込む。こんなのに付き合っていられないんだ。

「こんな地味なの買うわけないでしょ?」

と、ブーケを一つ手に取る。

「それは商品で……」

止めようとするが、ゴソゴソとバッグをあさる彼女は無視。

「ほら、これでマシになった」

しばらくして私に差し出された手には

……ティーカップ?

ティーカップに入っているのは紅茶ではなくブーケ。

「こっちの方が売れるわ」

確かに可愛い。インテリアのようだ。

「このティーカップ、あげるわよ。たくさん持ってるし五十個くらいでいい?」

「でも今日はもう……」

「閉めるんでしょ? 見てたからわかる。
だったらティーカップ、使えないね……だから買ってあげるわ」

「……え」

思わず耳を疑う。

「そうね……五十個ちょうだい。いくら?」

「買っていただけるんですか?」

「いくらかときいているの。答えなさい」

「ど……銅貨五十枚です……」

威圧的な態度だが、悪意はないようだ。

「高いわね」

等と言いつつ少女が渡してきたのは銀貨一枚。

銅貨百枚で銀貨一枚なのだから倍の値段を払ってくれたことになる。

「こ、こんなに……」

「閉める直前に邪魔して悪かったわ。迷惑料よ」

「あ、ありがとうございます!」

そのまま五十個のブーケを取ると後ろを向き、歩いて行ってしまう。

「あのっ」

考えるより前に体が動いていた。

「なに?」

彼女が顔だけで振り向く。

「お名前は……なんというのですか……?」

そっと口を開き教えてくれた名は『アメリア』だった。






あの日もらったお金で新しい服を買い、メイドの面接を受けた。

無事に受かったために私は今、ここにいる。

あの日のことは永遠に忘れないだろう。



ああ……あの方はいつか気づかれるだろうか?

私のことに。そして"あれ"と同じブーケが部屋に飾ってあることに……














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