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第三話 宴の支度
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犠牲者が2800名を超えるという史上最悪の大惨事となったアドリアティック号の海難事故は、当然ながら世界的なニュースとなった。
世界各国の政府や海運業界、そして海軍は氷山対策を求められ、氷山を事前に発見する手段の技術開発に奔走することとなる。
当初、そんな夢物語のような技術は一朝一夕には出来ないと思われていた。だが実は基礎となる技術はすでに存在していた。
まずレーダーについては、3年前の1904年にクリスティアン・ヒュルスマイヤーが電波を用いて船を検出する装置(テレモビロスコープ)の実験を行い特許を取得していた。
アレイアンテナこそ未発明だがダイポールアンテナは19世紀末にジェームズ・クラーク・マクスウェルが理論的に予言しハインリヒ・ルドルフ・ヘルツが実験で実証している。
もうひとつの重要な技術である検波と発振についても、昨年の1906年にはリー・ド・フォレストが三極管を発明し効率よく出来るようになっていた。
検知した情報を表示するために欠かせないブラウン管もフェルディナント・ブラウンが19世紀末にその基礎となる陰極線管を発明し、1907年にはボリス・ロージングが映像装置として実現している。
ソナーについても基礎となる水中音響や電気音響は既に19世紀に理論化がなされおり、聴音素子の肝となる圧電効果、磁歪効果をもつ物質も同様に19世紀にいくつか発見されている。
アクティブソナーの実現に必須であるダイナミックスピーカーも1898年にオリバー・ロッジが現代と同じコイルを用いたものを発明している。
レーダーやソナーの複雑な回路を制御するために必要不可欠となるリレーも19世紀にジョセフ・ヘンリーによって発明され、今の形に近いものも1900年に開発されている。
つまり必要な技術や理論はすべて揃っていたのだった。これらの技術を用いて各国はレーダーとパッシブ・アクティブ両ソナーの開発を進めていくことになる。
その過程であらたな技術も次々と開発され、氷山の危険がある北大西洋航路を通る船舶や艦艇、付近の灯台などを中心にレーダーやソナーが徐々に装備されていく。
そしてアドリアティック号の事故から5年後の1912年、アドリアティック号が遭難したのと同じ海域、同じ日時に、同じく処女航海でニューヨークに向かう途上だったホワイトスターライン社のタイタニック号が巨大氷山に遭遇した。
しかし前回と違い彼女は当時最新のレーダーとソナーを装備していた。これによりタイタニック号は氷山との衝突を見事に回避することに成功する。
この運命的なニュースが大々的に報じられたことで、あらためてレーダーやソナーの有効性が確認され、その開発と船舶への装備が加速されていくこととなる。
■第一次世界大戦への影響
こうして第一次世界大戦が始まった1914年の頃になると、各国の艦艇や船舶のほとんどが実用的なレーダーとソナーを備える状況となっていた。
この状況下で英国に対し潜水艦戦を挑んだドイツ帝国は、最初こそ戦果を上げる事ができたものの、その状況を維持できたのはわずか1年足らずであった。
元々、レーダーやソナーといった警戒装置が整っていた事に加えて、護衛方式や対潜戦術が急速に進化したためである。
更に戦争後半にはヘッジホッグに代表される前方投射兵器やセンチ波レーダーすらも投入されるに至り、ドイツ帝国の潜水艦部隊はなんら戦果をあげることなく壊滅に追い込まれてしまった。
航空機についても大戦初期からレーダーによる警戒が行われていたことに加え、大戦後半にはレーダー情報を統合した防空システムの構築と進化した通信装置による的確な誘導により、航空作戦は自殺行為と同等なレベルまで抑え込まれてしまう。
この第一次世界大戦の結果から、潜水艦と航空機は主戦力としては全く当てにならないという事が、各国の軍事関係者の共通認識となった。
それは各国の建艦計画に大きな影響を与えていく事になる。
■Z計画への影響
第一次世界大戦に敗れたドイツはヴェルサイユ条約により潜水艦を持つことを禁じられていた。だがドイツ海軍自身も潜水艦を見限っていたのでZ計画のリストから潜水艦は消え去り、かわりに潜水艦に使われるはずだったリソースは他の艦種に回される事となった。そして軍部の意向とナチの台頭により大型艦の計画が次々と前倒しされていった。
見直された計画では、1940年の時点でドイツ海軍は大型戦艦4隻、中小型戦艦4隻、空母2隻を有する事になってる。ネックとなるクルップ社の装甲板製造能力も軍の支援で年々強化され、Z計画は着々と進められていった。
ちなみに空母については、空軍司令ゲーリングが海軍司令と大喧嘩をした挙句、売り言葉に買い言葉で艦載機だけでなく空母そのものの建造も所有も空軍が行うと宣言した事で決着がついた。レーダーに連動した対空火器の発達で航空機による艦船攻撃に疑問が持たれていた事も海軍が折れた理由の一つであった。
結局、最終的には空母だけでなく、それを護衛する駆逐艦や巡洋艦までも空軍の予算で建造される事となった。乗員も空軍水兵として空軍所属となる。これらも皮肉なことにZ計画を予算面、人員面で後押しすることとなった。
当然ながら、これほど大っぴらに海軍拡張を再開したドイツに対抗して、英米仏も建艦計画の大幅見直しを行っていくこととなる。
【後書き】
タイタニック号の処女航海の5年前、同じホワイトスターライン社の新型客船アドリアティック号が氷山に衝突して沈没してしまいます。これにより第一次世界大戦の前にレーダーとソナーが開発され配備が促進されます。タイタニック号の事故を切欠にレーダーとソナーの開発が促進されたのは事実です。
この世界では第一次世界大戦の時点でレーダーとソナーが急速に発展したため、Uボートは完全に封殺されてしまいました。
次回は少し時間が飛んで第二次世界大戦前、ドイツ人が空母赤城を見学するお話です。
世界各国の政府や海運業界、そして海軍は氷山対策を求められ、氷山を事前に発見する手段の技術開発に奔走することとなる。
当初、そんな夢物語のような技術は一朝一夕には出来ないと思われていた。だが実は基礎となる技術はすでに存在していた。
まずレーダーについては、3年前の1904年にクリスティアン・ヒュルスマイヤーが電波を用いて船を検出する装置(テレモビロスコープ)の実験を行い特許を取得していた。
アレイアンテナこそ未発明だがダイポールアンテナは19世紀末にジェームズ・クラーク・マクスウェルが理論的に予言しハインリヒ・ルドルフ・ヘルツが実験で実証している。
もうひとつの重要な技術である検波と発振についても、昨年の1906年にはリー・ド・フォレストが三極管を発明し効率よく出来るようになっていた。
検知した情報を表示するために欠かせないブラウン管もフェルディナント・ブラウンが19世紀末にその基礎となる陰極線管を発明し、1907年にはボリス・ロージングが映像装置として実現している。
ソナーについても基礎となる水中音響や電気音響は既に19世紀に理論化がなされおり、聴音素子の肝となる圧電効果、磁歪効果をもつ物質も同様に19世紀にいくつか発見されている。
アクティブソナーの実現に必須であるダイナミックスピーカーも1898年にオリバー・ロッジが現代と同じコイルを用いたものを発明している。
レーダーやソナーの複雑な回路を制御するために必要不可欠となるリレーも19世紀にジョセフ・ヘンリーによって発明され、今の形に近いものも1900年に開発されている。
つまり必要な技術や理論はすべて揃っていたのだった。これらの技術を用いて各国はレーダーとパッシブ・アクティブ両ソナーの開発を進めていくことになる。
その過程であらたな技術も次々と開発され、氷山の危険がある北大西洋航路を通る船舶や艦艇、付近の灯台などを中心にレーダーやソナーが徐々に装備されていく。
そしてアドリアティック号の事故から5年後の1912年、アドリアティック号が遭難したのと同じ海域、同じ日時に、同じく処女航海でニューヨークに向かう途上だったホワイトスターライン社のタイタニック号が巨大氷山に遭遇した。
しかし前回と違い彼女は当時最新のレーダーとソナーを装備していた。これによりタイタニック号は氷山との衝突を見事に回避することに成功する。
この運命的なニュースが大々的に報じられたことで、あらためてレーダーやソナーの有効性が確認され、その開発と船舶への装備が加速されていくこととなる。
■第一次世界大戦への影響
こうして第一次世界大戦が始まった1914年の頃になると、各国の艦艇や船舶のほとんどが実用的なレーダーとソナーを備える状況となっていた。
この状況下で英国に対し潜水艦戦を挑んだドイツ帝国は、最初こそ戦果を上げる事ができたものの、その状況を維持できたのはわずか1年足らずであった。
元々、レーダーやソナーといった警戒装置が整っていた事に加えて、護衛方式や対潜戦術が急速に進化したためである。
更に戦争後半にはヘッジホッグに代表される前方投射兵器やセンチ波レーダーすらも投入されるに至り、ドイツ帝国の潜水艦部隊はなんら戦果をあげることなく壊滅に追い込まれてしまった。
航空機についても大戦初期からレーダーによる警戒が行われていたことに加え、大戦後半にはレーダー情報を統合した防空システムの構築と進化した通信装置による的確な誘導により、航空作戦は自殺行為と同等なレベルまで抑え込まれてしまう。
この第一次世界大戦の結果から、潜水艦と航空機は主戦力としては全く当てにならないという事が、各国の軍事関係者の共通認識となった。
それは各国の建艦計画に大きな影響を与えていく事になる。
■Z計画への影響
第一次世界大戦に敗れたドイツはヴェルサイユ条約により潜水艦を持つことを禁じられていた。だがドイツ海軍自身も潜水艦を見限っていたのでZ計画のリストから潜水艦は消え去り、かわりに潜水艦に使われるはずだったリソースは他の艦種に回される事となった。そして軍部の意向とナチの台頭により大型艦の計画が次々と前倒しされていった。
見直された計画では、1940年の時点でドイツ海軍は大型戦艦4隻、中小型戦艦4隻、空母2隻を有する事になってる。ネックとなるクルップ社の装甲板製造能力も軍の支援で年々強化され、Z計画は着々と進められていった。
ちなみに空母については、空軍司令ゲーリングが海軍司令と大喧嘩をした挙句、売り言葉に買い言葉で艦載機だけでなく空母そのものの建造も所有も空軍が行うと宣言した事で決着がついた。レーダーに連動した対空火器の発達で航空機による艦船攻撃に疑問が持たれていた事も海軍が折れた理由の一つであった。
結局、最終的には空母だけでなく、それを護衛する駆逐艦や巡洋艦までも空軍の予算で建造される事となった。乗員も空軍水兵として空軍所属となる。これらも皮肉なことにZ計画を予算面、人員面で後押しすることとなった。
当然ながら、これほど大っぴらに海軍拡張を再開したドイツに対抗して、英米仏も建艦計画の大幅見直しを行っていくこととなる。
【後書き】
タイタニック号の処女航海の5年前、同じホワイトスターライン社の新型客船アドリアティック号が氷山に衝突して沈没してしまいます。これにより第一次世界大戦の前にレーダーとソナーが開発され配備が促進されます。タイタニック号の事故を切欠にレーダーとソナーの開発が促進されたのは事実です。
この世界では第一次世界大戦の時点でレーダーとソナーが急速に発展したため、Uボートは完全に封殺されてしまいました。
次回は少し時間が飛んで第二次世界大戦前、ドイツ人が空母赤城を見学するお話です。
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