三十路の社畜OLが出会った翌日に八才年下男子と結婚した件につきまして

七転び八起き

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第34話

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「兄が失礼なことを……すみません」
「ううん。そんな気にしてないよ」

 いや、だいぶイライラしている。
 でもきっと勇凛くんもそう。

「わざとああやって嫌味を言ってきたりする人なんで、あの人のいうことは無視してください」
「うん……」

 そのあと、勇凛くんと駅に向かって歩いた。

 その時、ふと目に入った。
 ジュエリーショップ。
 そういえば、私たちは結婚しているのに指輪をつけていない。

 結婚式もしていない。
 一緒に住んでもいない。
 親に挨拶もできてない。

 私が悶々としながら、その店を眺めてると勇凛くんがそれに気づいた。

「七海さん、見てみますか?」
「え?」
「気になるならいいですよ」
「ううん!大丈夫!」

 私と勇凛くんはまた歩き出した。

「七海さん、指輪買いませんか?」

 あ、私がさっき見ていたから……。

「いつでもいいよ!ごめんね、気にさせちゃって」
「いえ、俺も欲しいと思ったんです」

 弱ってる心にぐっと何かが込み上げてきた。

「……そんな高いものじゃなくていいから、買おうか」
「はい」

 私と勇凛くんは、さっきのジュエリーショップに向かった。

 ジュエリーショップに入ると、白い空間に包まれた清潔感あふれる内装だった。
 今の私の貯金で買えるものがあればいいが……。
 二人で指輪を見ていると、店員が来た。

「どんなデザインのものがお好みですか?」

 デザインじゃなくて値段なんだよ、と心の中で呟いた。

「デザインは特に気にしてないです」

 私が答えると、店員はお構いなしに色々紹介してくる。
 あー!ゆっくり探したかった!

 勇凛くんは店員の話はスルーしてずっと指輪を見ていた。

「……七海さんこれはどうですか?」

 勇凛くんが指を指したのは、シンプルで落ち着いたデザインの指輪だった。
 なんの装飾もなく、勇凛くんのように真っ直ぐな心を表しているかのようだった。

 値段を見ると──
 ペアで十万円だった。
 十万円ならなんとか……。

「うん、これにしよう!」

 私がカードを出そうとしたら、勇凛くんが先にカードを出した。

「一括で買います」

 ──え?

「え、勇凛くん、十万だよ……?」
「はい。貯金があるので大丈夫です」

 いくらあるんだろう。
 大学生のバイトで……。

「勇凛くん、私の分は自分で払うよ!」
「いえ、俺が七海さんに結婚指輪をあげたいんです」

 胸が熱くなった。

「うん……ありがとう」

 泣きそうだった。

 ちょうどサイズが合う指輪がそれぞれ在庫にあって、私たちは店から出てきた。

「勇凛くん、ありがとう」
「いえ、当然のことをしただけです」

 そのあと、勇凛くんと私の家に向かった。
 家に着くまで私たちは何も言葉を交わさなかった。
 明日のことで私は頭がいっぱいだった。

 ***

 私たちはマンションの前に着いた。
 勇凛くんが私の方を向いた。

「七海さん。あの……」
「どうしたの?」

 勇凛くんが指輪が入っている紙袋から、指輪のケースを取り出した。

「指輪、つけませんか?」
「え、今?」
「はい。ダメですか?」

 ダメなんかじゃない。
 ただ頭が明日の事でいっぱいになってしまっていた。
 本当に見なきゃいけないのは、勇凛くんなのに。

「ううん。つけたい」

 指輪のケースの中には二つ並んだ指輪。

「七海さん、手を出してください」

 私が手を差し出すと、勇凛くんが薬指に指輪をはめてくれた。
 結婚しているんだという実感が湧いた。

「こんな場所ですみません」

 勇凛くんが申し訳なさそうにしている。

「ううん。私は全然気にしないよ」

 私は勇凛くんの手を取った。
 もう一つの指輪を勇凛くんの指にはめた。
 この人が自分の夫だという実感も湧いた。

「なんか、指輪をつけただけなのに、急に夫婦の実感が湧いてきた」
「そうですね。不思議です」

 見ていると勇気が湧く。
 買ってきてよかった。

「ちゃんと改めて式もしましょう。七海さんのウェディングドレス姿見たいです」

 ウェディングドレス。
 一生着ることはないんじゃないかと思っていた。

「うん。私も着てみたい」

 私と勇凛くんは、星空の下、誓いのキスを交わした。

 教会でもない。
 特別な場所でもない。
 でも、私にとって、勇凛くんがいればそれだけで特別なんだ。

「じゃあ七海さん、また明日」
「うん。気をつけて帰ってね」

 その後、勇凛くんの背中が見えなくなるまで見送った。
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