10 / 33
第10話 最初のレビュー
しおりを挟む
私は一週間かけて「ノルウェイの森」を読み、必死にレビューを書いた。
そして、橘さんの家に来た。
インターフォンを鳴らす。
玄関のドアがゆっくり開いた。
「よく来た」
いつもの橘さんと雰囲気が違った。
心なしか顔つきが作家に見える。
これは翠川雅人だ!
「先生!レビューを持ってきました!」
「先生?その呼び方やめて」
書斎に案内された。
私は印刷したレビューを渡した。
「『ノルウェイの森』を読みました」
橘さんは私の手からレビューを受け取ると、その場でざっと目を通し始めた。
私は緊張しながら待っていた。
数分後──
「これ、感想文だね」
「え?」
「レビューじゃない。ただの感想文」
橘さんの表情が厳しい。
「『主人公に共感しました』『キャラが可哀想でした』『魅力的でした』。……これ、中学生の読書感想文と同じレベル」
う──
「で、この作品の何を学んだの?」
「え……と、恋愛の複雑さとか」
「それだけ?」
橘さんはため息をついた。
「神谷さん、小説家になりたいんでしょ?だったらもっと技術的に読まなきゃダメ」
「技術的……ですか?」
わからない。
「作者がなぜこれほど多くの読者に愛されるのか、その理由を考えた?」
「いえ。そこまで考えてませんでした」
「読者として楽しむのと、書き手として学ぶのは全然違う。君はまだ読者のままだ」
橘さんはレビューを私に返した。
「書き直し。今度は作家志望として読んで」
「はい……」
想像以上のダメだしにショックを受けた。
先生はちょっとバツが悪そうにしていた。
「最初からそんなに上手くいくわけない。俺だって昔はそうだった」
少し優しい声になった。
「でも、本気で小説家になりたいなら、読み方を変えないといけない。わかる?」
「はい、頑張ります」
厳しいけど、この人に認められたい。
私は気持ちを新たに、また書き直そうと決意した。
「ご指導ありがとうございます!では、また読み返してきます!」
私は自分の部屋に戻ろうとした。
──けどやっぱり。
「すみません。休みの日じゃないとまともに読めないし、書けないんです」
橘さんに壁際に追い詰められている。
「このまま帰すと思った?」
「橘さんも執筆でお忙しいと思うので、これ以上邪魔をしたくないです」
「迷惑かけてるって思ってる?」
「はい……」
「だったらこのマンションに住まわせる訳ないだろ」
強く抱きしめられた。
「今度は俺に教えて。どうすれば美鈴が俺の事をちゃんと好きになるか」
「そ…それは私にもよくわかりません」
「俺の小説の、どんな言葉やシチュエーションが好きなの?」
「えーと、主人公が夢を叶える為に東京に行くシーンで、『俺を思い出さなくていい。でも忘れないで』ってヒロインに言うところが好きです」
「何言ってるんだよ。俺を置いてどこかに行くなんて許さないし、忘れるなんてもっての外だ」
「自分が聞いたんじゃないですか!」
翠川雅人の小説の世界と、現実の彼の世界は全く別物なんだと改めて理解した。
「俺達が出会ったのは運命なんだから、もう後は美鈴が自覚するだけだよ」
運命──。
橘さんはロマンチストだ。
「……ちゃんと指導したから、お礼が欲しい」
「お礼……?」
嫌な予感がした。
「ご褒美あげるから」
「ご褒美??」
私はそのまま橘さんに押し倒された。
橘さんの欲望が迫ってくる。
「これはご褒美じゃありません!」
「じゃあ毎回欲しくなるようにする」
ダメだ!耐えるんだ私!
──でも無理だった。
合わさった時に何もかも満たされてしまう。
毎回こんな状況になってしまうけど、私は小説を書けるようになりたい。
憧れの翠川雅人の側で。
◇ ◇ ◇
次の出勤日の朝、インターフォンが鳴った。
モニターにはスーツの橘さん。
寝ぼけ眼で玄関のドアを開けた。
橘さんは休日の姿とは打って変わってスーツをビシッと着こなし、髪をセットしている。
別人みたいだ。
「おはようございます。橘さん朝早いですね」
「ギリギリに出社するタイプだろ?」
バレている。
「じゃあ行ってくる。美鈴も早く準備しろ」
「いってらっしゃいませ~」
なんであんなに偉そうなんだろう。
私部下じゃないのに。
創作だと先生と生徒みたいな立場だけど。
私はその後すぐに準備して出社した。
◇ ◇ ◇
会社に着いたら上司に呼びだされた。
「神谷さん、来週の企業案件で君を指名したいと要望が来ている」
「え、誰からの指名ですか?」
「長島商事の橘さんだよ」
聞いてない……!
「神谷さんの仕事ぶりを見て、是非出張に同行して欲しいとの事だよ」
出張──いったいどうなるの?
「わかりました……」
私は橘さんが考えていることがよくわからず、悩んでいた。
そして、橘さんの家に来た。
インターフォンを鳴らす。
玄関のドアがゆっくり開いた。
「よく来た」
いつもの橘さんと雰囲気が違った。
心なしか顔つきが作家に見える。
これは翠川雅人だ!
「先生!レビューを持ってきました!」
「先生?その呼び方やめて」
書斎に案内された。
私は印刷したレビューを渡した。
「『ノルウェイの森』を読みました」
橘さんは私の手からレビューを受け取ると、その場でざっと目を通し始めた。
私は緊張しながら待っていた。
数分後──
「これ、感想文だね」
「え?」
「レビューじゃない。ただの感想文」
橘さんの表情が厳しい。
「『主人公に共感しました』『キャラが可哀想でした』『魅力的でした』。……これ、中学生の読書感想文と同じレベル」
う──
「で、この作品の何を学んだの?」
「え……と、恋愛の複雑さとか」
「それだけ?」
橘さんはため息をついた。
「神谷さん、小説家になりたいんでしょ?だったらもっと技術的に読まなきゃダメ」
「技術的……ですか?」
わからない。
「作者がなぜこれほど多くの読者に愛されるのか、その理由を考えた?」
「いえ。そこまで考えてませんでした」
「読者として楽しむのと、書き手として学ぶのは全然違う。君はまだ読者のままだ」
橘さんはレビューを私に返した。
「書き直し。今度は作家志望として読んで」
「はい……」
想像以上のダメだしにショックを受けた。
先生はちょっとバツが悪そうにしていた。
「最初からそんなに上手くいくわけない。俺だって昔はそうだった」
少し優しい声になった。
「でも、本気で小説家になりたいなら、読み方を変えないといけない。わかる?」
「はい、頑張ります」
厳しいけど、この人に認められたい。
私は気持ちを新たに、また書き直そうと決意した。
「ご指導ありがとうございます!では、また読み返してきます!」
私は自分の部屋に戻ろうとした。
──けどやっぱり。
「すみません。休みの日じゃないとまともに読めないし、書けないんです」
橘さんに壁際に追い詰められている。
「このまま帰すと思った?」
「橘さんも執筆でお忙しいと思うので、これ以上邪魔をしたくないです」
「迷惑かけてるって思ってる?」
「はい……」
「だったらこのマンションに住まわせる訳ないだろ」
強く抱きしめられた。
「今度は俺に教えて。どうすれば美鈴が俺の事をちゃんと好きになるか」
「そ…それは私にもよくわかりません」
「俺の小説の、どんな言葉やシチュエーションが好きなの?」
「えーと、主人公が夢を叶える為に東京に行くシーンで、『俺を思い出さなくていい。でも忘れないで』ってヒロインに言うところが好きです」
「何言ってるんだよ。俺を置いてどこかに行くなんて許さないし、忘れるなんてもっての外だ」
「自分が聞いたんじゃないですか!」
翠川雅人の小説の世界と、現実の彼の世界は全く別物なんだと改めて理解した。
「俺達が出会ったのは運命なんだから、もう後は美鈴が自覚するだけだよ」
運命──。
橘さんはロマンチストだ。
「……ちゃんと指導したから、お礼が欲しい」
「お礼……?」
嫌な予感がした。
「ご褒美あげるから」
「ご褒美??」
私はそのまま橘さんに押し倒された。
橘さんの欲望が迫ってくる。
「これはご褒美じゃありません!」
「じゃあ毎回欲しくなるようにする」
ダメだ!耐えるんだ私!
──でも無理だった。
合わさった時に何もかも満たされてしまう。
毎回こんな状況になってしまうけど、私は小説を書けるようになりたい。
憧れの翠川雅人の側で。
◇ ◇ ◇
次の出勤日の朝、インターフォンが鳴った。
モニターにはスーツの橘さん。
寝ぼけ眼で玄関のドアを開けた。
橘さんは休日の姿とは打って変わってスーツをビシッと着こなし、髪をセットしている。
別人みたいだ。
「おはようございます。橘さん朝早いですね」
「ギリギリに出社するタイプだろ?」
バレている。
「じゃあ行ってくる。美鈴も早く準備しろ」
「いってらっしゃいませ~」
なんであんなに偉そうなんだろう。
私部下じゃないのに。
創作だと先生と生徒みたいな立場だけど。
私はその後すぐに準備して出社した。
◇ ◇ ◇
会社に着いたら上司に呼びだされた。
「神谷さん、来週の企業案件で君を指名したいと要望が来ている」
「え、誰からの指名ですか?」
「長島商事の橘さんだよ」
聞いてない……!
「神谷さんの仕事ぶりを見て、是非出張に同行して欲しいとの事だよ」
出張──いったいどうなるの?
「わかりました……」
私は橘さんが考えていることがよくわからず、悩んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった
九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
久我くん、聞いてないんですけど?!
桜井 恵里菜
恋愛
愛のないお見合い結婚
相手はキモいがお金のため
私の人生こんなもの
そう思っていたのに…
久我くん!
あなたはどうして
こんなにも私を惑わせるの?
━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━
父の会社の為に、お見合い結婚を決めた私。
同じ頃、職場で
新入社員の担当指導者を命じられる。
4歳も年下の男の子。
恋愛対象になんて、なる訳ない。
なのに…?
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
昨日、あなたに恋をした
菱沼あゆ
恋愛
高すぎる周囲の評価に頑張って合わせようとしているが、仕事以外のことはポンコツなOL、楓日子(かえで にちこ)。
久しぶりに、憂さ晴らしにみんなで呑みに行くが、目を覚ましてみると、付けっぱなしのゲーム画面に見知らぬ男の名前が……。
私、今日も明日も、あさっても、
きっとお仕事がんばります~っ。
私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜
みかん桜
恋愛
身長172センチ。
高身長であること以外ごく普通のアラサーOL、佐伯花音。
婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。
「名前からしてもっと可愛らしい人かと……」ってどういうこと?
そんな男、こっちから願い下げ!
——でもだからって、イケメンで仕事もできる副社長……こんなハイスペ男子も求めてないっ!
って思ってたんだけどな。気が付いた時には既に副社長の手の内にいた。
親愛なる後輩くん
さとう涼
恋愛
「神崎部長は、僕と結城さんがつき合っているのを知りながら彼女に手を出したんですよ」
雨宮一紗(33歳)。離婚して3年。
同じ会社に勤める元夫・神崎敦朗と復縁したくて、ある日食事に誘ったら、神崎から恋人がいると知らされる。相手は20代の部下・結城史奈だという。
さらに神崎のもうひとりの部下である蓮見閑《しずか》から、彼女(結城)を神崎に略奪されたと聞かされてしまい、大きなショックを受ける……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる