24 / 33
第24話 素直に
しおりを挟む
橘さんの部屋に二人で向かった。
空気が重かった。
駅の近くで一緒にいた女の人は誰なんだろう。
部屋に入ってリビングに行ったら、橘さんはバルコニーに行った。
私はゆっくりと橘さんの後について行った。
橘さんは椅子に座って夜景を見ていた。
なんの話をされるのだろう。
もし橘さんに突き放されたら、私は仕事をちゃんとこなせるのだろうか。
何もかも失ってしまうの?
手を伸ばした夢も。
──暫く沈黙が続いた。
「……ごめん」
橘さんから出た言葉が意外だった。
でも、それがどういう意味かわからない。
「何の事でしょうか……」
「俺はあの日、美鈴を放置してしまった。嫉妬して」
嫉妬……だったんだ。
「自分で蒔いた種なんで、橘さんは気にしないでください」
「何でお前は強がるんだよ。確かに小説については厳しくすると言った。でも、美鈴は自分から線を引いている」
「それは……今の関係を壊したくなかったからで……。橘さんの足を引っ張りたくないんです」
私達は両想いだけど恋人ではない。
私は橘さんを縛れない。
「で、あれからどうしてるんだ?書いてるのか?何か」
「何も書いてません。小説も読んでません。」
「気持ちはどうだ?すっきりしたか?」
「いえ……空っぽになっちゃいました」
小説を手放した私は、ただ毎日を漂っていた。
特に目標もなく。
「これからどうしたい?」
わからない。何もわからない。
涙が溢れてきた。
「泣くくらいなら素直になれよ」
「素直って何ですか?」
「今のお前を曝け出せよ」
「え?」
「今日、駅前にいただろ。視線を感じて見たら美鈴だった。」
……まさか見られていたなんて。
「あれは会社に新しく来た子で、歓迎会の帰りに一緒になっただけだ」
「そうだったんですね」
「安心した?」
「言いたくないです」
嫉妬してる自分なんて見せたくない。
「もうさ、そうやって我慢しないで全部言えよ」
橘さんに引っ張られて抱きしめられた。
「美鈴の気持ち俺に全部ぶつけて。何も余計な事考えないで」
橘さんの優しい声に胸の奥が震えて、涙が止まらなくなる。
「橘さんが他の人と一緒にいるの見て、凄く嫌でした。誰にも渡したくないです。橘さんに触れていいのは私だけです。小説を書けるようになりたいです」
次々と溢れてくる本音。
「そうか……安心した」
「私……みっともないです」
「みっともなくない。俺を好きなら当然出る感情だろ」
そういう気持ちを剥き出しにする人間にはなりたくなかった。
でも、それが本心。
「じゃあ俺を縛ればいい。俺がどこにも行けなくなるくらい。美鈴が安心するように」
「……わかりました。もう我慢するのはやめます」
橘さんの香りの中、私は素直になってみようと思った。
──なのに、なぜだろう……
何で私は縛られてるんだろう。
私の手はネクタイで縛られている。
俺を縛れと橘さんは言ったはず。
「どういう事なんでしょうこれは……」
「美鈴が素直になると言ったから、素直になれるように」
意味がわからない……。
「もう何も隠すな。恥じらうな。美鈴の全てを俺に曝け出せ」
「何をするんですか?」
橘さんは何かを考えていた。
「よし……お前は夫に飼われてる人妻だ。マッチングアプリで出会った大学生と恋に落ちる」
また設定を出してきた。
「また書かせるんですか!?」
「俺は言ってるだけ。書くかは美鈴次第」
また勝手に物語が頭の中に広がる。
自分が作った設定だと上手く書けないのに。
「本当の気持ちは言わない、認めない、でも体は正直。まるで美鈴そっくりな女」
橘さんの唇が身体に触れるたびに声を漏らしてしまう。
「男は言うよ『認めろ』って。『俺しかもう反応しないくせに』って。」
「橘さんに似たキャラですね…その大学生…」
「俺と美鈴の別の物語だから」
私と橘さんの物語……。
二人で紡ぐ物語……?
そう考えるのが正しいかはわからない。
ただ、人妻は大学生に、泣きながら愛の言葉を溢した──
◇ ◇ ◇
橘さんが寝静まったあと、バッグに入れてた三浦さんからもらった小説を出した。
何が書かれているのか気になっていた。
そこに書いてあったのは──
高校生の男の子と歳上の女の人の切ない恋物語だった。
びっくりしたのが、そういうシーンがあった事だった。
繊細な表現で、主人公の気持ちが溢れてくる。
私は結末に涙した。
「……ふーん。いい話だね」
「わっ!」
いつの間にか橘さんも見ていた。
「いつ渡されたの?」
「今日偶然会った時です」
そのあと最後のページの隅に何か小さく文字が書いてあった。
"嫌な気持ちにさせてごめん"
私と次会った時に渡そうと、ずっとこれを持っていたのかな……。
「やっぱり三浦さんは凄いですね。こんな素敵な話が書けるなんて」
「俺は?」
「翠川先生は私の中でナンバーワンですよ」
もう小説を書くのをやめようかと思ったけど、また書いてみようと思えた。
空気が重かった。
駅の近くで一緒にいた女の人は誰なんだろう。
部屋に入ってリビングに行ったら、橘さんはバルコニーに行った。
私はゆっくりと橘さんの後について行った。
橘さんは椅子に座って夜景を見ていた。
なんの話をされるのだろう。
もし橘さんに突き放されたら、私は仕事をちゃんとこなせるのだろうか。
何もかも失ってしまうの?
手を伸ばした夢も。
──暫く沈黙が続いた。
「……ごめん」
橘さんから出た言葉が意外だった。
でも、それがどういう意味かわからない。
「何の事でしょうか……」
「俺はあの日、美鈴を放置してしまった。嫉妬して」
嫉妬……だったんだ。
「自分で蒔いた種なんで、橘さんは気にしないでください」
「何でお前は強がるんだよ。確かに小説については厳しくすると言った。でも、美鈴は自分から線を引いている」
「それは……今の関係を壊したくなかったからで……。橘さんの足を引っ張りたくないんです」
私達は両想いだけど恋人ではない。
私は橘さんを縛れない。
「で、あれからどうしてるんだ?書いてるのか?何か」
「何も書いてません。小説も読んでません。」
「気持ちはどうだ?すっきりしたか?」
「いえ……空っぽになっちゃいました」
小説を手放した私は、ただ毎日を漂っていた。
特に目標もなく。
「これからどうしたい?」
わからない。何もわからない。
涙が溢れてきた。
「泣くくらいなら素直になれよ」
「素直って何ですか?」
「今のお前を曝け出せよ」
「え?」
「今日、駅前にいただろ。視線を感じて見たら美鈴だった。」
……まさか見られていたなんて。
「あれは会社に新しく来た子で、歓迎会の帰りに一緒になっただけだ」
「そうだったんですね」
「安心した?」
「言いたくないです」
嫉妬してる自分なんて見せたくない。
「もうさ、そうやって我慢しないで全部言えよ」
橘さんに引っ張られて抱きしめられた。
「美鈴の気持ち俺に全部ぶつけて。何も余計な事考えないで」
橘さんの優しい声に胸の奥が震えて、涙が止まらなくなる。
「橘さんが他の人と一緒にいるの見て、凄く嫌でした。誰にも渡したくないです。橘さんに触れていいのは私だけです。小説を書けるようになりたいです」
次々と溢れてくる本音。
「そうか……安心した」
「私……みっともないです」
「みっともなくない。俺を好きなら当然出る感情だろ」
そういう気持ちを剥き出しにする人間にはなりたくなかった。
でも、それが本心。
「じゃあ俺を縛ればいい。俺がどこにも行けなくなるくらい。美鈴が安心するように」
「……わかりました。もう我慢するのはやめます」
橘さんの香りの中、私は素直になってみようと思った。
──なのに、なぜだろう……
何で私は縛られてるんだろう。
私の手はネクタイで縛られている。
俺を縛れと橘さんは言ったはず。
「どういう事なんでしょうこれは……」
「美鈴が素直になると言ったから、素直になれるように」
意味がわからない……。
「もう何も隠すな。恥じらうな。美鈴の全てを俺に曝け出せ」
「何をするんですか?」
橘さんは何かを考えていた。
「よし……お前は夫に飼われてる人妻だ。マッチングアプリで出会った大学生と恋に落ちる」
また設定を出してきた。
「また書かせるんですか!?」
「俺は言ってるだけ。書くかは美鈴次第」
また勝手に物語が頭の中に広がる。
自分が作った設定だと上手く書けないのに。
「本当の気持ちは言わない、認めない、でも体は正直。まるで美鈴そっくりな女」
橘さんの唇が身体に触れるたびに声を漏らしてしまう。
「男は言うよ『認めろ』って。『俺しかもう反応しないくせに』って。」
「橘さんに似たキャラですね…その大学生…」
「俺と美鈴の別の物語だから」
私と橘さんの物語……。
二人で紡ぐ物語……?
そう考えるのが正しいかはわからない。
ただ、人妻は大学生に、泣きながら愛の言葉を溢した──
◇ ◇ ◇
橘さんが寝静まったあと、バッグに入れてた三浦さんからもらった小説を出した。
何が書かれているのか気になっていた。
そこに書いてあったのは──
高校生の男の子と歳上の女の人の切ない恋物語だった。
びっくりしたのが、そういうシーンがあった事だった。
繊細な表現で、主人公の気持ちが溢れてくる。
私は結末に涙した。
「……ふーん。いい話だね」
「わっ!」
いつの間にか橘さんも見ていた。
「いつ渡されたの?」
「今日偶然会った時です」
そのあと最後のページの隅に何か小さく文字が書いてあった。
"嫌な気持ちにさせてごめん"
私と次会った時に渡そうと、ずっとこれを持っていたのかな……。
「やっぱり三浦さんは凄いですね。こんな素敵な話が書けるなんて」
「俺は?」
「翠川先生は私の中でナンバーワンですよ」
もう小説を書くのをやめようかと思ったけど、また書いてみようと思えた。
10
あなたにおすすめの小説
雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった
九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
久我くん、聞いてないんですけど?!
桜井 恵里菜
恋愛
愛のないお見合い結婚
相手はキモいがお金のため
私の人生こんなもの
そう思っていたのに…
久我くん!
あなたはどうして
こんなにも私を惑わせるの?
━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━
父の会社の為に、お見合い結婚を決めた私。
同じ頃、職場で
新入社員の担当指導者を命じられる。
4歳も年下の男の子。
恋愛対象になんて、なる訳ない。
なのに…?
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
昨日、あなたに恋をした
菱沼あゆ
恋愛
高すぎる周囲の評価に頑張って合わせようとしているが、仕事以外のことはポンコツなOL、楓日子(かえで にちこ)。
久しぶりに、憂さ晴らしにみんなで呑みに行くが、目を覚ましてみると、付けっぱなしのゲーム画面に見知らぬ男の名前が……。
私、今日も明日も、あさっても、
きっとお仕事がんばります~っ。
私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜
みかん桜
恋愛
身長172センチ。
高身長であること以外ごく普通のアラサーOL、佐伯花音。
婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。
「名前からしてもっと可愛らしい人かと……」ってどういうこと?
そんな男、こっちから願い下げ!
——でもだからって、イケメンで仕事もできる副社長……こんなハイスペ男子も求めてないっ!
って思ってたんだけどな。気が付いた時には既に副社長の手の内にいた。
親愛なる後輩くん
さとう涼
恋愛
「神崎部長は、僕と結城さんがつき合っているのを知りながら彼女に手を出したんですよ」
雨宮一紗(33歳)。離婚して3年。
同じ会社に勤める元夫・神崎敦朗と復縁したくて、ある日食事に誘ったら、神崎から恋人がいると知らされる。相手は20代の部下・結城史奈だという。
さらに神崎のもうひとりの部下である蓮見閑《しずか》から、彼女(結城)を神崎に略奪されたと聞かされてしまい、大きなショックを受ける……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる