取引先のエリート社員は憧れの小説家だった

七転び八起き

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第25話 決意と告白

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 その日私は激しく落ち込んでいた。
 橘さんが、私の会社の担当から外れたからだ。
 新しいプロジェクトのリーダーを任されたみたいで、後任に新しい人を連れてきた。
 凄く仕事ができそうな女性社員で、橘さんも信頼を寄せている感じだった。

「今後は後任が担当させて頂きますので、宜しくお願いします」

 後任の方は仕事ができそうな女性社員だった。
 寂しい。
 プライベートでも会えるけど、この繋がりがあったから今の私達がある訳で……。

 でも担当が変わるなんてよくある話だ。
 私は運が良かったんだ。

 会議が終わって、私が自分のオフィスに戻ろうとすると、橘さんに呼び止められた。

「言ってなくてごめん。っていうか言い忘れていた……」
「そんな大事な事なんで忘れるんですか!」
「ここ最近仕事も忙しかったし、プライベートの方も色々あったし」
「確かにそうなんですけど!」

 私がメソメソしだしたら、橘さんにエレベーターに乗せられ、またあのフロアのあの部屋に連れて行かれた。

 人目を忍んで私達はキスをしていた。
 まるで最後の別れのように。
 別れではない。
 だけど、二人の思い出がここにはある。
 色々思い出して胸が熱くなる。

「橘さん寂しいです」
「そういう事言われると止まらなくなる」

 エスカレートする私達。

 素直になってしまったせいで、堰を切ったように溢れる想い。

「仕事中も私の事考えていてください」
「美鈴は仕事ちゃんと集中しろ」

 その時、橘さんのスマホから音が鳴った。
 急いで橘さんが電話に出て話している。

「もう直ぐそっちに向かうから。待たせてごめん。駅前で待ってて」

 後任の女性の声──
 嫉妬で心が渦巻く。

 私は最低な意地悪をした。
 まだ電話している橘さんのに触れた。
 びっくりして私の方を睨む橘さん。

 私以外の女と話すなんて嫌。

「ごめん後でかけ直す……」

 橘さんはとうとう電話不可能に。

「何してるんだよ」

 怒っている。

「嫉妬してしまったんです……」

 橘さんは私の頭を撫でた。

「何も心配はいらない。ただ……」
「はい」
「最後まで責任とれ」

 私は甘い快楽の中で、ちゃんと責任を果たした。

「凄く気持ちよかったです……」
「……流石に素直になりすぎだろ」

 素直になって何となくわかった事。
 私は、結構淫らだ……。

 嫌がってたくせに、本当は悦んでいた。
 だから抵抗できなかった。

 むしろ待ち望んでいたのかもしれない。

 繋がっている時は、このまま世界が滅びてもいいと思っている。

 そういう、認めたくないもの、隠したいもの、隠れていたもの、それが橘さんの作った設定に無意識に反応して、頭の中から溢れ出たんだと思う。

 もう変態と思われてもいい。

 私は無理にプラトニックを書こうとすることをやめようと思った。

 橘さんが設定した世界を、切なくて苦しくて官能的書いてる時が、一番心が動いた。

 例えコンテストで選ばれなくても、私が書いてて心が動かなければ、私は書けない。

 そして、その決意を胸に歩き出すことにした。

 ◇ ◇ ◇

 私はその日カフェにいた。
 運悪く段々と雨が降り、外は大雨。
 暫くすると、三浦さんが来た。

「遅くなってごめん!」

 雨で少し濡れていた。

「三浦さん、この小説見せてくれてありがとうございました。」

 私は渡された小説を返した。

「データは持ってるから返さなくてよかったのに……」

「いえ……捨てる事も、家に置いて置くことも私にはできなくて。」

 三浦さんはバッグにそれをしまった。

「サークル、やめちゃうの?」
「はい。もう決めたんです」
「俺のせいで本当にごめん」

 三浦さんは俯いていた。

「三浦さん、私、翠川さん…橘さんと付き合う事にしたんです」

「もうそういう関係なんだと思ってたけど」

「いえ、あの時はまだ、そういう決心ができてなくて……。でも、もう素直になる事にしたんです」

「素直に?」

 私は深呼吸をして勇気を出した。

「私は、官能も含めた小説を書いていきます。あれは、橘さんに勧められて書いてたんですけど、それを書いてる時が、一番物語を描けるんです」

 三浦さんは私の突然の決意表明にびっくりしていたけど

「うん、俺も、神谷さんのそういう作品もっと見たい。」

「あ……三浦さんもそういうシーン書いてたじゃないですか!びっくりしました!でもすごい感動しました」

「俺、実は女の人と付き合った事とかなくて……言うの恥ずかしいんだけど、そういう事もした事ないんだ。だから、あくまで想像。」

「映画館で一緒だった子は?」

「あれは同じ学校で文学部の同級生」

「そうなんですね……でも、そのうち三浦さんまだ高校生ですし、これから恋愛して、色んな事を知る事ができますよ」

「そうかな……」

 その後、私達はカフェを出た。
 もうだいぶ外は暗くなっていた。
 雨も落ち着いていた。

「あ、よければ近くの本屋に行かない?」

 どうしようかな……もう三浦さんと会う事もないかもしれない。

「いいですよ」

 そのまま本屋まで二人で歩いた。
 その時、雨で濡れた階段で足を滑らせてしまった。
 咄嗟に三浦さんが腕を掴んでくれて、事なきを得て振り返った時、唇が触れてしまった。

 お互いびっくりして離れた。

 三浦さんは真っ赤になっている。

「す、すみません、助けてくれてありがとうございます……」

 どうしよう……!
 事故だとはいえ、キスしてしまった……
 本屋どころではない。

「すみません、私帰ります」

 駅の方に向かおうとしたその時──

「あの小説に書いたストーリー。あれは俺の神谷さんへの気持ちが入ってるんだ。」
「え……?」
「神谷さんの事を想って書いた」

 想いってのはつまり……。

「不謹慎だけど、初めてのキスが神谷さんでよかった……」

 頭の中が混乱して言葉が出ない。

「次いつ会えるかわからないけど、俺は本気だよ。それまでに翠川先生くらい有名になれるように頑張る」

 とんでもない事を私に打ち明けた三浦君は、そのまま駅に行ってしまった……。

 放心状態の私は、橘さんからの電話に出られなかった。
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