6 / 30
第一章 再会
第6話
しおりを挟む
その日、私はバイトが終わったあと、駅に向かって歩いていた。
早く家に帰ってお風呂に入りたい。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと思い出した。
──夜の九時
その日はお気に入りの作家の新刊が発売日だった。
楽しみにしていた続編で、どうしても今日中に手に入れたかった。
家の近くの本屋はもう閉まっているけど、あそこの本屋なら夜10時まで開いてるから、少し遠いけど、行ってみよう。
疲れていたけれど、その本を読みたい気持ちが勝った。
きっと読み始めたら、先生のことなんて忘れられるはず。
本屋に着いて、目当てのコーナーに向かった。
平日の夜だからか、店内は静かだった。
数人の客がパラパラといるだけで、BGMだけが小さく流れている。
小説を手に取った瞬間——
背筋がゾクッとした。
背後に、誰かの強い視線を感じる。
「水島サン」
その声。
まさか、そんなはずは——
恐る恐る振り返る。
——夏雄先生だった。
心臓が止まりそうになった。
どうしてここに……?
こんな遠い本屋に、こんな時間に?
「こ、こんばんは……」
また目を逸らしてしまう。
「また目を逸らすんだね」
ヤバい、露骨すぎた……。
「すみません、人と目を合わせるのが苦手で……」
そっと、先生の目を見た。
先生の瞳の奥は暗くてよくわからない。
それを見た瞬間、また動けなくなってしまう。
「こういうの読むんだ」
先生が、私の手に取った小説をじっと見ている。
その視線が、まるで私の心の中を覗き込むようで、居心地が悪い。
本のタイトルを見ているというより、私の趣味を品定めしているような——
「恋愛小説か」
片方の口角が、少しだけ上がった気がした。
その微笑みには、どこか嘲笑のようなものが混じっている。
「こういう恋愛に、憧れてたりするの?」
「いえ……好きな作家さんの新刊なので。内容にそこまで強いこだわりがあるわけじゃないです」
先生は、私の反応を確かめるように見ていた。
「俺は、もっと水島のことを知りたい」
——え?
驚いて顔を上げた瞬間、先生の顔がすぐ目の前にあった。
「教えてよ」
びっくりして、思いきり後ずさる。
その時、先生は突然、人が変わったようにニコッと笑った。
高校時代の、あの作られたような優しい笑顔。
「ごめん、水島の反応が面白くて。調子に乗った。じゃあ、帰り気をつけてね」
まるで何事もなかったかのように、先生は持っていた雑誌をレジに持って行き、そのままスッと消えた。
暗闇の中に。
……なんで、あんな目で見るの?
なんで、私の心を揺さぶるの?
なんで、最後は何もなかったような顔をするの?
私は、その場に立ち尽くしていた。
それでも。
不思議なことに——
「会えて嬉しい」と思ってしまう、この矛盾した気持ちが、私の中に確かにあった。
怖いし、理解できないし、振り回されてばかり。
なのに、なぜか心の奥が満たされている。
これって、恋……なの?
私が思い描いていた恋とは、まるで違った。
もっと甘くて、もっと優しくて、もっと分かりやすいものだと思っていたのに。
これは恋なのか、それとも別の何かなのか——
もう、自分でもわからなくなっていた。
早く家に帰ってお風呂に入りたい。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと思い出した。
──夜の九時
その日はお気に入りの作家の新刊が発売日だった。
楽しみにしていた続編で、どうしても今日中に手に入れたかった。
家の近くの本屋はもう閉まっているけど、あそこの本屋なら夜10時まで開いてるから、少し遠いけど、行ってみよう。
疲れていたけれど、その本を読みたい気持ちが勝った。
きっと読み始めたら、先生のことなんて忘れられるはず。
本屋に着いて、目当てのコーナーに向かった。
平日の夜だからか、店内は静かだった。
数人の客がパラパラといるだけで、BGMだけが小さく流れている。
小説を手に取った瞬間——
背筋がゾクッとした。
背後に、誰かの強い視線を感じる。
「水島サン」
その声。
まさか、そんなはずは——
恐る恐る振り返る。
——夏雄先生だった。
心臓が止まりそうになった。
どうしてここに……?
こんな遠い本屋に、こんな時間に?
「こ、こんばんは……」
また目を逸らしてしまう。
「また目を逸らすんだね」
ヤバい、露骨すぎた……。
「すみません、人と目を合わせるのが苦手で……」
そっと、先生の目を見た。
先生の瞳の奥は暗くてよくわからない。
それを見た瞬間、また動けなくなってしまう。
「こういうの読むんだ」
先生が、私の手に取った小説をじっと見ている。
その視線が、まるで私の心の中を覗き込むようで、居心地が悪い。
本のタイトルを見ているというより、私の趣味を品定めしているような——
「恋愛小説か」
片方の口角が、少しだけ上がった気がした。
その微笑みには、どこか嘲笑のようなものが混じっている。
「こういう恋愛に、憧れてたりするの?」
「いえ……好きな作家さんの新刊なので。内容にそこまで強いこだわりがあるわけじゃないです」
先生は、私の反応を確かめるように見ていた。
「俺は、もっと水島のことを知りたい」
——え?
驚いて顔を上げた瞬間、先生の顔がすぐ目の前にあった。
「教えてよ」
びっくりして、思いきり後ずさる。
その時、先生は突然、人が変わったようにニコッと笑った。
高校時代の、あの作られたような優しい笑顔。
「ごめん、水島の反応が面白くて。調子に乗った。じゃあ、帰り気をつけてね」
まるで何事もなかったかのように、先生は持っていた雑誌をレジに持って行き、そのままスッと消えた。
暗闇の中に。
……なんで、あんな目で見るの?
なんで、私の心を揺さぶるの?
なんで、最後は何もなかったような顔をするの?
私は、その場に立ち尽くしていた。
それでも。
不思議なことに——
「会えて嬉しい」と思ってしまう、この矛盾した気持ちが、私の中に確かにあった。
怖いし、理解できないし、振り回されてばかり。
なのに、なぜか心の奥が満たされている。
これって、恋……なの?
私が思い描いていた恋とは、まるで違った。
もっと甘くて、もっと優しくて、もっと分かりやすいものだと思っていたのに。
これは恋なのか、それとも別の何かなのか——
もう、自分でもわからなくなっていた。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる