ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

七転び八起き

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第一章 再会

第10話

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 その後——

 夏雄先生と会うことは、なくなった。
 あれから二週間が経った。

 特に用事もない。  
 いつものように、大学に行って、バイトをして、帰る。
 同じことの繰り返し。

 でも、その単調な日常が、今はありがたかった。
 何も考えずに過ごせる時間。
 先生のことを思い出さずに済む、貴重な時間。

 それでも、ふとした瞬間に思い出してしまう。
 電車の中で、街角で、誰かの後ろ姿を見た時に——

「もしかして先生?」と思ってしまう自分がいる。

 最近、異動で来たバイト先の社員・加藤さんは、だいたい先生と同じ年くらい。

 先生と比べると、明るくて、単純で、素直で、わかりやすい人。  
 まるで真逆のタイプだった。

 加藤さんは、無意識に変なことを言って笑わせたり、  
 嫌なことがあるとすぐ顔に出たりして、わかりやすい。

 ちょっと話しかけただけで、あれこれ勝手に話し始めて、話が脱線していって……  

 一緒にいると、自然と笑顔になれる。

 先生のことで心が弱っていた私には、加藤さんの明るさが救いだった。

 * * *

 今日は加藤さんと同じタイミングでバイトを上がった。 

「お疲れ様でした!」と声をかけると、「白乃ちゃんもお疲れ!今日も一日長かったねー」と、いつもの調子で返してくれる。
 駅まで二人で歩いていると、ご飯に誘われた。

「どうせ一人だし、白乃ちゃんも一人でしょ?だったら一緒に食べない?」

 断る理由もなかったし、最近は家に帰っても一人で考え込んでしまうことが多かった。

 中華料理店は賑やかで、働いている人たちの活気ある声が響いている。
 加藤さんが奢ってくれるというので、遠慮しつつもいろいろ食べた。  

「遠慮しないで!俺、今月ボーナス出たから!」
 そう言って、次々と料理を注文してくれる。

 美味しくて、自然と笑顔がこぼれた。
 久しぶりに、心から笑えた気がする。

「白乃ちゃんって、素直だよね」
 餃子を頬張りながら、加藤さんがぽつりと言った。

「加藤さんも、そうですよね」

 他愛もない話をたくさんして、会計を済ませて外へ出た。

 大学の話、バイトの愚痴、好きな食べ物の話——
 本当にどうでもないことばかりだったけど、それが心地よかった。
 久しぶりに美味しいものをたくさん食べられて、満足だった。
 こういう普通の時間が、今の私には必要なのかもしれない。

 加藤さんはお酒を飲んでいて、少しフラフラしていた。

「俺、彼女に振られたんだよね~。なんか、他に好きなやつができたとかでさ~」

「それは……お気の毒ですね……」

 酔っ払ってるうえに失恋話とか、めんどくさい。
 早く帰りたくなった。

「ちょっと、こっちに用事があるので。お疲れさまです……」

 そう言って逃げようとしたとき、手を掴まれた。

 加藤さんの目が、座っている。

「まだ行くなー!!」

 加藤さんの手に力が入る。
 酔っているとはいえ、男性の力は強い。

「いやです! 私はもう帰りたいんですー!!」 

 必死に手を振りほどこうとする。
 わーわー言い合っていた、その時だった。

 すっと、冷たい空気を感じた。

 振り返ると——

 そこには、夏雄先生がいた。

 心臓が止まりそうになった。
 なぜ、こんなところに?
 こんなタイミングで?

 先生の目は、いつも以上に鋭く、加藤さんを睨みつけていた。
 その瞬間、加藤さんの手から力が抜けた。

「申し訳ありませんが……水島は俺と用事があるので、これで失礼します」

 先生は私の腕を引っ張って、どこかへ歩き出した。

「先生、どこに行くんですか!?」

 先生は何も言わなかった。

 駐車場に着いた途端、先生は赤いスポーツカーの後部座席を開けて、私を押し込んだ。

「何するんですか!」

 あまりに強引な態度に、私は苛立った。

 その時——

 先生の目線が、氷のように冷たくて、  もしくは業火のように燃えていた。

「……あの男は誰?」

「先生に関係ないです……」

 私は目を逸らした。
 先生は私の顎を掴んで、無理やりキスをしてきた。
 欲望が、絡み合う。
 く、苦しい……。

「先生、なんでまたこんなことするんですか?」
「お前が、俺から逃げるからだよ」

 自分から人を追い詰めておいて、何を言ってるんだろう。この人は。
 矛盾してる。

「先生といると苦しいんです。辛いんです。  だから、もう私と関わらないでください!」

「……俺も苦しいよ。お前に、会えなくなるのが」

 先生が悲しそうな表情をする。

 ……それなら、なんでこんなことをするんだろう。
 また、深い闇の底に突き落とされた気がした。
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