サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

文字の大きさ
202 / 205
第六章 ベトナム旅行記・アイスコーヒーウイズミルク

202

しおりを挟む


        第24話


    天井のホーチミン 第二話


 ベトナム女性に恋をしてしまった旅人にアドバイスをしてもらおうと、彼女とオレンジさんとを彼に紹介した。

 「すみません、笑ってください」

 彼は少し恥ずかしそうにしながら、弱気なことを言った。

 ところが彼女は、「あんたその娘と恋愛してどうするのよ。日本に連れて帰るの、それともサイゴンに住む気あるの?ベトナムの女性は日本人女性とは全然違って堅いんだから、軟派みたく気軽に考えていたら駄目だよ!」とまくしたてた。

 「い、い、いえ、中途半端なその場限りなことをいっているのではありません。本当に真剣に惚れてしまったようなのです。
 僕は彼女を日本にいずれ連れて帰ってもいいくらいに考えています。いい加減な気持ちじゃありません」

 彼はいきなりのきつい言葉にややうろたえた感じで言うのだが、【おいおい本当かよ?】と思った。

 彼はまだ若いから一時的な感情に違いないが、純粋な気持ちであることは確かなのだろう。

 彼は学卒後三年間サラリーマンをしてお金を貯めて、数ヶ月前からインドを起点に旅をしているとのことであった。
 当初は男性二人だったが、タイからカンボジアなどで知り合ったバックパッカーと同行し、現在女性一名と男性四名といったおかしな組み合わせになってしまったらしい。

 「ここで彼等と別れて彼女のもとに戻るべきじゃないか。でないとあとから後悔するよ。そしてもし彼女と駄目だったら再び仲間と合流できるようにしておけばいいじゃないか、今やインターネットもあるのだしさあ。思ったことはしておかないといけないよ」

 僕もとりあえず彼の純粋な気持ちを尊重して言った。

 どこかの誰かがインドシナを旅する女性に会いに向ったように(我輩のことだが)、彼の気持ちを駆り立てるような無責任なことを散々アドバイスして、僕達は日の暮れかかったサ・パの街に散策に出た。
 

 夕暮れのサ・パの街は、それはそれで趣があってなかなか素敵だった。

 僕達は市場の方には行かずに手前を曲がって、サッカー場の横の坂道を登って行った。
 昨日通った道から左に逸れて、雨で少し歩きにくくなっている道を登っていくと、そこはラオ・カイからのミニバスに連れていかれた例のゲストハウスの近くだった。

 「ここを曲がったところにある、あのゲストハウスに到着したんだよ」

 といってその方を見たら、たまたまあのサッカー大好きベトナム青年コックが玄関に立っていた。(本当にサ・パという街は小さいし、偶然会うことが度々ある)

 手を上げて合図を送ってみると、彼も笑いながら手を振るのだった。

 少し行くと今度は有名なヴィクトリアホテルに通じる道があり、僕達はその方向にゆっくりと歩いて行った。
 その道は少し高台になっているので、夕方のサ・パの街並みが眺められ、教会の斜塔やその向こうのホテルのネオンサイン、広場や市場に集まる人々、時々聞こえる話し声やバイクや車の音、それらは僕をセンチメンタルな気分にさせた。

 彼女は何を考えているのかさっぱり分からないが、僕の十数メートル前で下を向きながら、足で石ころを蹴飛ばしているような格好で歩いている。

 僕はオレンジさんに語りかけた。

「今日ね、マイノリティーの民家でマイケル君の手作りの食事をご馳走になったり、広大な田園を歩いたりしている時に、何故かちょっと胸が一杯になってきてね。
 それはどんな感情なのか分からないけど、彼等の貧困に同情したり、自分が今彼等よりも幸せな暮らしをしているなんてことを感じてのものじゃないんだ。
 彼等は経済的には貧困かもしれないが、決して心は貧しくなくて、むしろ例えば黒モン族の女性達の明るさは、きっと自分達の生き方に誇りを持っているものからだと思うんだ。
 僕達は日本に帰ればいろいろな情報が溢れていて、それが日常生活とは切っても切れないものとなっていろんなメディアから絶え間なく入ってくるだろ。
 それに押しつぶされそうになりながらも、自分をしっかり見つめて生きていくなんて、皆んな至難の技を駆使して毎日暮らしているようなものだと思うんだ。
 本当に自分が求めている生活スタイルはどんなものなのか、明確に描くことも出来ないまま暮らしてはいないかな?
 勿論そんな疑問を持たないまま、毎日平然と暮らしている人だってたくさんいるわけだから、それはそれで問題視することじゃないんだけど。
 僕はきっかけが何であれ、今回自分なりに苦労して、それは彼女やオレンジさんにとっては、本当によちよち歩きの幼児が自宅の庭をさまよって、ようやく玄関にたどり着いた程度の苦労かもしれないが、僕にとってはとってもエキサイティングなことだったんだ。
 そしてサ・パで君達と会えることができて、本当に日本では経験し得ないリラックスを感じたり、マイノリティーの部落を訪問したり、いろんな人たちと出会ったり、それぞれの暮らしや人生があることが当たり前なんだけど、忘れていたものを思い出したような感じで、日本でそんなに肩を張って生きなくてもいいじゃないかという気分になった。
 そしてマイケル君の手料理で、しかも部落の民家にお邪魔していただいたことなどに感動してしまって、いろんな感情が一気に頭の中を駆け巡って、不覚にも目頭が熱くなってしまったんだ。僕って変な男に思うだろ?」

 オレンジさんは僕の長い言葉にも嫌な顔をせずに聞いてくれて、「そうだね、私も今日は結構感動したね。探偵さんのいっていることは本当に良く分かるよ」と答えてくれた。

そして、「私達って本当に幸せなんだよね」と少し意味の違ったことをおっしゃるのであった。

そんな会話をしていると、サ・パでは最も一流とされるヴィクトリアホテルの玄関に着いて、僕達は中に入っていった。

つづく・・・
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...