サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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第六章 ベトナム旅行記・アイスコーヒーウイズミルク

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        第23話


   天井のホー・チ・ミン 第一話


 マイケル君たちが帰って行ったあと、宿の娘さんが帰って来た。

「姉ちゃん! ここのコーヒーはネスカフェ?」と彼女が聞いた。

 娘さんはペコちゃんのような大きな目をクリクリとさせながら、「Yes」と答えた。
(ネスカフェといっても日本のインスタントとは違います)

 彼女はきっとハノイのロータスツーリスト・ゲストハウスの、例の〝アイスコーヒー・ウイズ・ミルク〟のようなものを飲みたいんだなと思ったが、やはり世界のネッスルなんだな。

 彼女はネスカフェのアイスコーヒーを三つ注文した。

 僕達はシャワーを浴びてから少し散歩に行こうということになり、濡れた服を着替えるためにそれぞれの部屋に戻った。

 雨に濡れ続けた体にホットシャワーがありがたい。
 シャワーのあと僕は黒のTシャツに茶の綿パンを身につけて、バンダナは外してようやく普通の格好で彼女達の部屋を訪ねた。

 「ペロ吉~、さっき宿のお姉ちゃんに頼んだコーヒーまだ来ないから見て来てよ」

 部屋に入るなり彼女がいうので一階に降りて行ったら、ロビーには例の日本人若者五人組の一人が机に向かって何かをしていた。

 「やあ! トレッキングはなかなか良かったよ。ちょっと雨できつかったけどね」

 「本当に元気ですねぇ。ずっとあちこち歩き回っているじゃないですか」
 と彼は僕のはしゃぎぶりに苦笑いをしていた。

 彼がノートに何か書いているので尋ねてみると、何とベトナム語の勉強をしているとのことであった。

 「君は熱心だねぇ。ベトナム語って難しいのじゃないか?」

 「難しいですよ。発音が微妙に異なる言葉が多くて。実は正直にいいますが、サイゴン(ホーチミンシティー)に滞在していた時に、ホテルの従業員の女の子に一目惚れしてしまったのですよ。
 一週間程サイゴンにいたのですが、思い切って食事に誘ったら、これが以外にも喜んで来てくれたのです。
 とても綺麗な女性で、翌日また食事に誘ったら、今度も来てくれたのですよ。僕は嬉しくなってしまって、彼女を前から知っているような錯覚に陥っていろんな話をしました。
 名前と住所を聞いて、僕の日本の住所なども紙に書いて渡したのですが、心配でサイゴンから離れたくなくなりました。仲間との旅の日程もありますから恋を取るか仲間を取るか随分迷ったのですが、結局仲間と予定通り行動をともにしているというわけです。でもサイゴンに戻りたくって・・・。毎日頭の中は彼女のことばかりなんですよ。どうすればいいでしょうか?」

 僕は笑いを辛うじて堪えながら紳士的に「君達のこれからの予定はどうなの?」と聞いた。

 すると彼等はこれから中国に入って、北京でビザを取得して西に向かい、トルキスタンとかウズベキスタンとか何とかいう国を通って、シルクロードからトルコに行くという、いわゆるユーラシア大陸横断予定とのことであった。
 僕はここにも恋狂いの野郎がいたのだと、少しホッとした気持ちになったものだ。

 「君!あとでまた来るから、ここでずっとベトナム語の勉強をしてろよ」

 僕は宿の娘さんが作ってくれた三人分のアイスコーヒーをお盆に載せて彼女の部屋に急いだ。
 勿論、恋狂いの彼に彼女から恋のアドバイスをしてもらうためである。

 彼女達の部屋に入ると、ちょうど彼女がシャワー室から出てきてベッドに腰をかけながら髪の毛を拭いているところだった。
 ちょっと透けて見えるシャツをひっかけているだけの格好で、なんとも眼のやり場に困ったが、僕達はアイスコーヒーを飲みながらくつろいだ。

 「ねえ、さっき一階のロビーで、例の日本人若者五人組の一人がベトナム語を勉強してるんだよ。熱心だねっていったら、実はサイゴンで恋をして彼女のことが頭から離れないので、ともかくベトナム語くらい勉強しておこうということらしいんだ。
 旅を続けるかベトナムに戻って告白するか迷っているらしいんだが、何かアドバイスをしてやってよ」

 僕は恐る恐る話した。

 「いるんだよねぇ、そういう若いのが。でもいいことじゃない、サイゴンに戻ったらいいじゃん!」

 以外にも彼女はあっさりと言い、オレンジさんまでもが、「ベトナムの女性って綺麗だから、日本の若い男の子は惚れちゃうんだよね。ペロ吉さんも誰か見つけて帰ったら?」と言うのだ。

 「一階でしばらく勉強してろって待たせているんだ。恋の達人からアドバイスをしてもらおうと思ってね。よろしく頼むよ彼は相当重症そうだったよ」

 「何でよ、ペロ吉のほうが私より何十倍も恋愛経験があるのじゃない?知らないよ」

 ともかく僕達はアイスコーヒーを飲み終えて、散歩に出かけるため一階に降りていった。

 ロビーでは相変らず熱心に机に向かっている青年の姿があった。

 「よう!色男。ちょっと適切なアドバイスをしてもらおうと思って、お姉さん達を連れてきたよ」と僕は軽い気持ちで言った。


つづく・・・
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