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第六章 ベトナム旅行記・アイスコーヒーウイズミルク
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しおりを挟む第24話
天井のホーチミン 第二話
ベトナム女性に恋をしてしまった旅人にアドバイスをしてもらおうと、彼女とオレンジさんとを彼に紹介した。
「すみません、笑ってください」
彼は少し恥ずかしそうにしながら、弱気なことを言った。
ところが彼女は、「あんたその娘と恋愛してどうするのよ。日本に連れて帰るの、それともサイゴンに住む気あるの?ベトナムの女性は日本人女性とは全然違って堅いんだから、軟派みたく気軽に考えていたら駄目だよ!」とまくしたてた。
「い、い、いえ、中途半端なその場限りなことをいっているのではありません。本当に真剣に惚れてしまったようなのです。
僕は彼女を日本にいずれ連れて帰ってもいいくらいに考えています。いい加減な気持ちじゃありません」
彼はいきなりのきつい言葉にややうろたえた感じで言うのだが、【おいおい本当かよ?】と思った。
彼はまだ若いから一時的な感情に違いないが、純粋な気持ちであることは確かなのだろう。
彼は学卒後三年間サラリーマンをしてお金を貯めて、数ヶ月前からインドを起点に旅をしているとのことであった。
当初は男性二人だったが、タイからカンボジアなどで知り合ったバックパッカーと同行し、現在女性一名と男性四名といったおかしな組み合わせになってしまったらしい。
「ここで彼等と別れて彼女のもとに戻るべきじゃないか。でないとあとから後悔するよ。そしてもし彼女と駄目だったら再び仲間と合流できるようにしておけばいいじゃないか、今やインターネットもあるのだしさあ。思ったことはしておかないといけないよ」
僕もとりあえず彼の純粋な気持ちを尊重して言った。
どこかの誰かがインドシナを旅する女性に会いに向ったように(我輩のことだが)、彼の気持ちを駆り立てるような無責任なことを散々アドバイスして、僕達は日の暮れかかったサ・パの街に散策に出た。
夕暮れのサ・パの街は、それはそれで趣があってなかなか素敵だった。
僕達は市場の方には行かずに手前を曲がって、サッカー場の横の坂道を登って行った。
昨日通った道から左に逸れて、雨で少し歩きにくくなっている道を登っていくと、そこはラオ・カイからのミニバスに連れていかれた例のゲストハウスの近くだった。
「ここを曲がったところにある、あのゲストハウスに到着したんだよ」
といってその方を見たら、たまたまあのサッカー大好きベトナム青年コックが玄関に立っていた。(本当にサ・パという街は小さいし、偶然会うことが度々ある)
手を上げて合図を送ってみると、彼も笑いながら手を振るのだった。
少し行くと今度は有名なヴィクトリアホテルに通じる道があり、僕達はその方向にゆっくりと歩いて行った。
その道は少し高台になっているので、夕方のサ・パの街並みが眺められ、教会の斜塔やその向こうのホテルのネオンサイン、広場や市場に集まる人々、時々聞こえる話し声やバイクや車の音、それらは僕をセンチメンタルな気分にさせた。
彼女は何を考えているのかさっぱり分からないが、僕の十数メートル前で下を向きながら、足で石ころを蹴飛ばしているような格好で歩いている。
僕はオレンジさんに語りかけた。
「今日ね、マイノリティーの民家でマイケル君の手作りの食事をご馳走になったり、広大な田園を歩いたりしている時に、何故かちょっと胸が一杯になってきてね。
それはどんな感情なのか分からないけど、彼等の貧困に同情したり、自分が今彼等よりも幸せな暮らしをしているなんてことを感じてのものじゃないんだ。
彼等は経済的には貧困かもしれないが、決して心は貧しくなくて、むしろ例えば黒モン族の女性達の明るさは、きっと自分達の生き方に誇りを持っているものからだと思うんだ。
僕達は日本に帰ればいろいろな情報が溢れていて、それが日常生活とは切っても切れないものとなっていろんなメディアから絶え間なく入ってくるだろ。
それに押しつぶされそうになりながらも、自分をしっかり見つめて生きていくなんて、皆んな至難の技を駆使して毎日暮らしているようなものだと思うんだ。
本当に自分が求めている生活スタイルはどんなものなのか、明確に描くことも出来ないまま暮らしてはいないかな?
勿論そんな疑問を持たないまま、毎日平然と暮らしている人だってたくさんいるわけだから、それはそれで問題視することじゃないんだけど。
僕はきっかけが何であれ、今回自分なりに苦労して、それは彼女やオレンジさんにとっては、本当によちよち歩きの幼児が自宅の庭をさまよって、ようやく玄関にたどり着いた程度の苦労かもしれないが、僕にとってはとってもエキサイティングなことだったんだ。
そしてサ・パで君達と会えることができて、本当に日本では経験し得ないリラックスを感じたり、マイノリティーの部落を訪問したり、いろんな人たちと出会ったり、それぞれの暮らしや人生があることが当たり前なんだけど、忘れていたものを思い出したような感じで、日本でそんなに肩を張って生きなくてもいいじゃないかという気分になった。
そしてマイケル君の手料理で、しかも部落の民家にお邪魔していただいたことなどに感動してしまって、いろんな感情が一気に頭の中を駆け巡って、不覚にも目頭が熱くなってしまったんだ。僕って変な男に思うだろ?」
オレンジさんは僕の長い言葉にも嫌な顔をせずに聞いてくれて、「そうだね、私も今日は結構感動したね。探偵さんのいっていることは本当に良く分かるよ」と答えてくれた。
そして、「私達って本当に幸せなんだよね」と少し意味の違ったことをおっしゃるのであった。
そんな会話をしていると、サ・パでは最も一流とされるヴィクトリアホテルの玄関に着いて、僕達は中に入っていった。
つづく・・・
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