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第1部 子爵家の次男
嵐のあとで *リュカリオ視点
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それからエイルは今までと変わらず、魔道具や魔術、鍛錬に精を出していた。と、言うのはエイルに付けた護衛からの報告だ。
あの後、俺が王宮の庭園に誘っても、パーティを開こうかと言っても「自分は魔道具いじる方が好きだから」と誘いに乗ってはくれなかった。
気にしてないように見えるが、やはりあの時のパーティがある種のトラウマにでもなってしまったのだろうか。
エイルが心配で仕方なかったけど、俺は休暇が終わると学園に戻って行くしかなかった。
だから休みのたびに、俺は珍しい魔道具を持っていくようになった。
それを見たエイルは目を輝かせて、すぐに解体しようと夢中になる。
一緒に新しい魔道具を作っているときの彼は、心から楽しそうで、その姿を見るたびに、あの時の心配は杞憂だったのかもしれないと思えてきた。
そう思えてしまうくらい、エイルが無邪気にはしゃぐから。
特に霞影のマントを持って行った時は目がキラッキラしててもの凄く可愛かったな。
あれは、とても高価な魔道具で、なんでも"霞が揺らめくように、姿が意識からすり抜けていく"という謳い文句で、要するに意識に残りづらいから魔物等から逃げる時に役に立つマントだ。
これは2人で色々試したな。目の前でマントを羽織っても効果は薄い。しかし、隠れてからマントを付けて視界の端っこに立ってもらっても認識しづらい。流石に目の前だと認識出来るが、これを付けて隠れんぼをしてみたが、お互いに全く見つけられなくて、でもマントを外すとすぐ見つけることが出来てなんとも不思議な魔道具だった。
他にも目の色を変える魔道具もあった。エイルが俺と同じ目の色にした時は「ぇへへ、リュカ様と同じ」なんて言いながら頬を赤く染めたり、最近見かけるようになったブレスレット型の魔道具が外れなくて困ったこともあったな。あれもエイルが後先考えず勝手に腕にはめちゃうから、2人で焦って説明書を読みまくったっけ。結局紙の裏側に小さく解呪の呪文があってようやく外すことが出来たな。あの後2人で大笑いしたっけ。あとブローチ、指輪型のものなども持って行って2人でわいわいやったな。
珍しいものを手に入れて、持って行って、エイルと研究して、たまには思いっきり鍛錬して体を動かして、そんな事をしているうちにあっという間に時が過ぎ、もうすぐでエイルの入学式。
制服合わせも一緒にやったな。エイルの家系はあまり大きくはならない。だから裾も少しなら伸ばすことができるからと何度も言ってピッタリサイズを勧めたのに「ぼくはもっと大きくなります!」と結局大きめの制服になってしまった。それはそれで可愛いけど、身長が伸びなかったらどうするんだろうか。ルアンという見本がいる手前、素直に「そうだな、まだまだ伸びるな」なんて無責任な事は言えなかった。
そしてその数ヶ月前にはエイルの母君の妊娠がわかって、エイルはすごく嬉しそうだった。何でも最近、双子だということもわかって、さらにエイルはテンションが上がっていた。
「僕は兄上みたいに、この子達の立派な兄になるんです」
と笑顔で言っていたエイルはすごく眩しかった。まだまだ先なのに一緒に読み聞かせする絵本も選んだっけ。エイルの母君は「あらあらまぁまぁ」って笑ってたけど家令に片付けられちゃって、2人してまた笑ったっけ。今度は生まれてきたら一緒に選ぼうって約束もしたな。
そしてエイルの入学が近付いてきた。
俺たち在学生は迎える者として新入学者より3日ほど早く学園に戻って準備をする。本当は、入学式の朝からエイルと一緒に居たいけど、これは学園のルールだから仕方がない。ルアンも隣で「行きたくない一緒に行きたい」と愚痴っている。
兄バカは相変わらずだな。
そんな事をしていると、空がだんだん曇ってきた。
この時期特有の春の嵐だ。今日か明日に嵐が過ぎ去ってくれれば、きっとエイルの入学式は晴天だろう。
「兄上~、3日後に会えますから~。雨降る前に出発した方がいいですよ~」
「ほら、エイルが困っているぞルアン」
なんで俺がルアンを窘めなくちゃいけないんだ。ルアンは俺よりも年上だろうが。
「じゃあエイル。学園で待ってる」
「はい、3日後に。気をつけて」
エイルがにこっと笑って言う。
しかしその笑顔にほんの僅かな違和感を覚えた。どこがと言われてもはっきり答えることが出来ない、ほんの僅かな違和感。
ゴロゴロ……
遠くの空から雷鳴が聞こえてきた。
時期にこちらに来るだろう。先程よりも雲が厚い。エイルの言う通り雨が落ちる前に出発した方が良さそうだ。
「それじゃあ行ってくる」
「はい」
馬車がゆっくりと動き出す。エイルは馬車が見えなくなるまでずっと手を振っていた。
寮に着く頃には雨が降り、風も強くなってきた。
夜になっても嵐は収まるどころか勢いをつけ、窓を打ち付ける雨粒は次第に大きくなる。
ベッドに横になっても、胸の奥がざわついて眠れない。
エイルの笑顔と、あの違和感が頭から離れず、何度も寝返りを打った。
「……なんだってんだ」
舌打ちして立ち上がり、窓辺に立つ。
稲光が夜空を裂き、校舎の影を白く照らし出す。
その閃光と同時に、言いようのない不安が広がった。
「……エイル」
名前を呼んでも答えは返らない。当たり前だ。今ここにいるわけじゃない。
だが、胸のざわめきは収まらない。
まるで、この嵐がただの嵐じゃないと告げているようで——。
結局その夜、まともに眠れぬまま朝を迎えた。
——そして。
「エイルが……屋敷からいなくなった」
清々しい晴天とは裏腹に、最悪の知らせが俺の元へ届いた。
あの後、俺が王宮の庭園に誘っても、パーティを開こうかと言っても「自分は魔道具いじる方が好きだから」と誘いに乗ってはくれなかった。
気にしてないように見えるが、やはりあの時のパーティがある種のトラウマにでもなってしまったのだろうか。
エイルが心配で仕方なかったけど、俺は休暇が終わると学園に戻って行くしかなかった。
だから休みのたびに、俺は珍しい魔道具を持っていくようになった。
それを見たエイルは目を輝かせて、すぐに解体しようと夢中になる。
一緒に新しい魔道具を作っているときの彼は、心から楽しそうで、その姿を見るたびに、あの時の心配は杞憂だったのかもしれないと思えてきた。
そう思えてしまうくらい、エイルが無邪気にはしゃぐから。
特に霞影のマントを持って行った時は目がキラッキラしててもの凄く可愛かったな。
あれは、とても高価な魔道具で、なんでも"霞が揺らめくように、姿が意識からすり抜けていく"という謳い文句で、要するに意識に残りづらいから魔物等から逃げる時に役に立つマントだ。
これは2人で色々試したな。目の前でマントを羽織っても効果は薄い。しかし、隠れてからマントを付けて視界の端っこに立ってもらっても認識しづらい。流石に目の前だと認識出来るが、これを付けて隠れんぼをしてみたが、お互いに全く見つけられなくて、でもマントを外すとすぐ見つけることが出来てなんとも不思議な魔道具だった。
他にも目の色を変える魔道具もあった。エイルが俺と同じ目の色にした時は「ぇへへ、リュカ様と同じ」なんて言いながら頬を赤く染めたり、最近見かけるようになったブレスレット型の魔道具が外れなくて困ったこともあったな。あれもエイルが後先考えず勝手に腕にはめちゃうから、2人で焦って説明書を読みまくったっけ。結局紙の裏側に小さく解呪の呪文があってようやく外すことが出来たな。あの後2人で大笑いしたっけ。あとブローチ、指輪型のものなども持って行って2人でわいわいやったな。
珍しいものを手に入れて、持って行って、エイルと研究して、たまには思いっきり鍛錬して体を動かして、そんな事をしているうちにあっという間に時が過ぎ、もうすぐでエイルの入学式。
制服合わせも一緒にやったな。エイルの家系はあまり大きくはならない。だから裾も少しなら伸ばすことができるからと何度も言ってピッタリサイズを勧めたのに「ぼくはもっと大きくなります!」と結局大きめの制服になってしまった。それはそれで可愛いけど、身長が伸びなかったらどうするんだろうか。ルアンという見本がいる手前、素直に「そうだな、まだまだ伸びるな」なんて無責任な事は言えなかった。
そしてその数ヶ月前にはエイルの母君の妊娠がわかって、エイルはすごく嬉しそうだった。何でも最近、双子だということもわかって、さらにエイルはテンションが上がっていた。
「僕は兄上みたいに、この子達の立派な兄になるんです」
と笑顔で言っていたエイルはすごく眩しかった。まだまだ先なのに一緒に読み聞かせする絵本も選んだっけ。エイルの母君は「あらあらまぁまぁ」って笑ってたけど家令に片付けられちゃって、2人してまた笑ったっけ。今度は生まれてきたら一緒に選ぼうって約束もしたな。
そしてエイルの入学が近付いてきた。
俺たち在学生は迎える者として新入学者より3日ほど早く学園に戻って準備をする。本当は、入学式の朝からエイルと一緒に居たいけど、これは学園のルールだから仕方がない。ルアンも隣で「行きたくない一緒に行きたい」と愚痴っている。
兄バカは相変わらずだな。
そんな事をしていると、空がだんだん曇ってきた。
この時期特有の春の嵐だ。今日か明日に嵐が過ぎ去ってくれれば、きっとエイルの入学式は晴天だろう。
「兄上~、3日後に会えますから~。雨降る前に出発した方がいいですよ~」
「ほら、エイルが困っているぞルアン」
なんで俺がルアンを窘めなくちゃいけないんだ。ルアンは俺よりも年上だろうが。
「じゃあエイル。学園で待ってる」
「はい、3日後に。気をつけて」
エイルがにこっと笑って言う。
しかしその笑顔にほんの僅かな違和感を覚えた。どこがと言われてもはっきり答えることが出来ない、ほんの僅かな違和感。
ゴロゴロ……
遠くの空から雷鳴が聞こえてきた。
時期にこちらに来るだろう。先程よりも雲が厚い。エイルの言う通り雨が落ちる前に出発した方が良さそうだ。
「それじゃあ行ってくる」
「はい」
馬車がゆっくりと動き出す。エイルは馬車が見えなくなるまでずっと手を振っていた。
寮に着く頃には雨が降り、風も強くなってきた。
夜になっても嵐は収まるどころか勢いをつけ、窓を打ち付ける雨粒は次第に大きくなる。
ベッドに横になっても、胸の奥がざわついて眠れない。
エイルの笑顔と、あの違和感が頭から離れず、何度も寝返りを打った。
「……なんだってんだ」
舌打ちして立ち上がり、窓辺に立つ。
稲光が夜空を裂き、校舎の影を白く照らし出す。
その閃光と同時に、言いようのない不安が広がった。
「……エイル」
名前を呼んでも答えは返らない。当たり前だ。今ここにいるわけじゃない。
だが、胸のざわめきは収まらない。
まるで、この嵐がただの嵐じゃないと告げているようで——。
結局その夜、まともに眠れぬまま朝を迎えた。
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