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第2章 冒険者に必要なもの
魔物
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……おかしい。
もう2日も歩き続けているのに、どうして街道に出ないんだ?
本来ならこんな薄暗い森の中ではなく、もっと歩きやすい街道を歩いているはずだったのに。
もしかして道を間違えた?いや、そんなはずはない……でも、森をひとりで歩くなんて初めてだし、もしそうだとしたら……。
いやいや、大丈夫。今からでも軌道修正すれば問題ない!
頭の中で地図を広げてみる。
……ダメだ。現在地が分からない。いや、仮に分かったとしても、肝心の方角が分からない。完全に詰んでる!
ふぅ、と息を吐いて空を仰ぐ。
木々の隙間から見える空は、嵐が過ぎ去った後の青空。雲ひとつない快晴だ。
けれど足元は違う。
鬱蒼とした木々が陽を遮り、嵐の雨はまだ乾かず、地面はぐちゃぐちゃにぬかるんでいる。
街道にさえ出られれば、水はけも良くてもうとっくに乾いているはずなのに。
でも仕方ない。進むしかない。
「いや、大丈夫……きっと、もうすぐ街道が見えるはず……」
そう自分に言い聞かせながら足を動かす。
鳥の鳴き声、新緑の香り。風に混じる小動物の気配。……もし足元さえ泥じゃなければ、まるでピクニックの陽気なのに。
けれど僕の気持ちは、ぬかるんだ地面と同じでぐちゃぐちゃだった。
それでも、とにかく進むしかない。
気づくと、森は一層濃くなっていた。
上から差していた光もほとんど届かない。まるで奥へ奥へと迷い込んでしまったみたいだ。
鳥の鳴き声も変わっていた。さっきまでは「チュンチュン」と愛らしかったのに、今では「ギィエェ!」と耳障りな威嚇の声になっているし、小動物の気配も、すっかり消えている。
……やばい。完全に間違えてる。
とにかく引き返そう。魔物に出くわす前に。
そう思って踵を返した、その瞬間――
ガサガサッ。
茂みが揺れた。
小動物が走り抜ける軽い音じゃない。湿った土を踏みしめ、枝を押し分ける……重い。確実に“大きな何か”の気配。
全身の毛が一斉に逆立った。
冷たいものが背中を駆け抜け、息が浅くなる。喉が詰まって、呼吸音すら大きすぎる気がして止めたくなる。
……いる。
姿は見えない。けれど確かに茂みの奥から、こちらを射抜くような視線を感じた。
圧迫感。肌をじりじりと焼くような殺気。森の空気が一瞬で変わる。
さっきまで聞こえていた鳥の鳴き声も、風に混じる葉擦れの音も消え失せた。まるで森そのものが息を潜めている。
ごくり。喉が勝手に鳴った。
足が鉛のように重い。逃げ出したいのに、動けない。
――魔物だ。
もしそうなら、いや、今まで感じたことの無い気配、絶対そうだ。……なら、やるしかない。
僕は剣を抜き、腰を落として構えた。
茂みの奥、赤みがかった黄色い瞳が3匹分、ぎらりと光った。
風が止み、獣臭が辺りに漂う。
「3匹……いけるか?いや、やらなくちゃ……!」
息を吐き、剣に炎を纏わせる。
火を恐れる魔物もいると聞いた。だがこいつらは怯まない。
つまり、それだけ強いってことだ。
バサバサッ!
「ぐるるるるぅぅっ!!」
鳥たちが一斉に飛び立った音が合図となり、三匹の影が唸りながら地面を蹴った。
鋭い牙と爪、泥を蹴散らして迫ってくるオオカミ型の魔獣。
「うりゃっ!」
叫んで、剣を横薙ぎに振る。炎が弧を描き、先頭の一匹をかすめた。
「キャンッ!」
毛が焦げ、悲鳴があがる。よし、まずは一撃!
だが喜ぶ暇はなかった。残る2匹は素早く左右に散り、挟み込むように僕を狙ってきた。
振り返る暇もなく、片方の爪が頬をかすめる。熱い痛みと共に血が滲む。
「くっ!」
血が流れ、慣れない痛みに視界が揺らぐ。
下がろうとした足が泥に取られ、体勢を崩した。
その隙を逃さず一匹が飛びかかってきた。牙が目前に迫る――!
必死に剣を突き出した。炎の刃が喉元に食い込み、獣の重みがどさりと圧し掛かった。
「うぐぅ!」
泥と血と獣臭で息が詰まりそうになる。必死に押しのけてなんとか立ち上がるが、残り二匹はまだ健在だ。
「はぁっ、はぁっ……!」
腕が震える。心臓が破裂しそうだ。
それでも、剣を構え直す。ここで倒れたら、冒険者の夢が叶えられず、全てが終わりだ。
黄色い瞳が、じりじりと僕を追い詰めていく。
「グルルルルルゥ」
低く唸りながら、地面を自在に駆け回り、牙を剥き、じりじりと距離を詰めてくる。
泥を跳ね上げる足音が、心臓の鼓動と重なり合うように響いた。
次の瞬間、右の1匹が影が弾かれたように飛び出す。
「――っ!」
反射的に剣を振る。けれど、泥でぬかるんだ柄が手の中で滑った。
狙いが僅かに逸れ、炎の刃は空を切る。
直後――
「ガァッ!」
閃く爪が肩口を裂いた。
鋭い痛みが灼ける鉄のように走り、思わず声が漏れる。
「ぐっ……あぁッ!」
熱い液体が頬を伝い、泥と雨に混じって滴り落ちる。
息が荒く乱れ、腕に力が入らない。剣先が震え、地面に吸い込まれそうになる。
視界の端で、狼の目が赤く光った。
「ぐっ――!」
灼けるような痛みに体勢を崩した僕の視界に、もう一匹が飛び込んでくるのが見えた。
思うように体が動かせない、白い牙が、喉元に迫って――
避けられない……!
その瞬間。
――ドゴォッ!!
轟音。横合いから巨大な影が飛び込んできた。
振り抜かれた斧の一撃で魔獣が吹き飛び、木の幹に叩きつけられる。
「まったく……ガキがひとりで森の奥に入るんじゃねぇ!」
低く、よく響く声。
振り返った僕の目に飛び込んできたのは、斧を片手に持った、逞しい熊獣人の男だった。
その時――
「アォォォォォン!!」
目の前の魔獣から狼のような遠吠えが森に響き渡った。
空気が震え、木々の間に反響して消えていく。
「……っ!」
「くそ、仲間を呼びやがったな」
血の気が引く。
仲間を呼んだ――!?
嫌な予感が全身を駆け抜ける。
茂みの奥からガサガサと複数の気配が動き始めた。四つ、五つ……それ以上?
数が多すぎる!こんなのを相手にしなくちゃいけないの?
----------------------
すいません、森の鬱蒼さと戦闘シーンにかなり四苦八苦しましたm(_ _)m
もう2日も歩き続けているのに、どうして街道に出ないんだ?
本来ならこんな薄暗い森の中ではなく、もっと歩きやすい街道を歩いているはずだったのに。
もしかして道を間違えた?いや、そんなはずはない……でも、森をひとりで歩くなんて初めてだし、もしそうだとしたら……。
いやいや、大丈夫。今からでも軌道修正すれば問題ない!
頭の中で地図を広げてみる。
……ダメだ。現在地が分からない。いや、仮に分かったとしても、肝心の方角が分からない。完全に詰んでる!
ふぅ、と息を吐いて空を仰ぐ。
木々の隙間から見える空は、嵐が過ぎ去った後の青空。雲ひとつない快晴だ。
けれど足元は違う。
鬱蒼とした木々が陽を遮り、嵐の雨はまだ乾かず、地面はぐちゃぐちゃにぬかるんでいる。
街道にさえ出られれば、水はけも良くてもうとっくに乾いているはずなのに。
でも仕方ない。進むしかない。
「いや、大丈夫……きっと、もうすぐ街道が見えるはず……」
そう自分に言い聞かせながら足を動かす。
鳥の鳴き声、新緑の香り。風に混じる小動物の気配。……もし足元さえ泥じゃなければ、まるでピクニックの陽気なのに。
けれど僕の気持ちは、ぬかるんだ地面と同じでぐちゃぐちゃだった。
それでも、とにかく進むしかない。
気づくと、森は一層濃くなっていた。
上から差していた光もほとんど届かない。まるで奥へ奥へと迷い込んでしまったみたいだ。
鳥の鳴き声も変わっていた。さっきまでは「チュンチュン」と愛らしかったのに、今では「ギィエェ!」と耳障りな威嚇の声になっているし、小動物の気配も、すっかり消えている。
……やばい。完全に間違えてる。
とにかく引き返そう。魔物に出くわす前に。
そう思って踵を返した、その瞬間――
ガサガサッ。
茂みが揺れた。
小動物が走り抜ける軽い音じゃない。湿った土を踏みしめ、枝を押し分ける……重い。確実に“大きな何か”の気配。
全身の毛が一斉に逆立った。
冷たいものが背中を駆け抜け、息が浅くなる。喉が詰まって、呼吸音すら大きすぎる気がして止めたくなる。
……いる。
姿は見えない。けれど確かに茂みの奥から、こちらを射抜くような視線を感じた。
圧迫感。肌をじりじりと焼くような殺気。森の空気が一瞬で変わる。
さっきまで聞こえていた鳥の鳴き声も、風に混じる葉擦れの音も消え失せた。まるで森そのものが息を潜めている。
ごくり。喉が勝手に鳴った。
足が鉛のように重い。逃げ出したいのに、動けない。
――魔物だ。
もしそうなら、いや、今まで感じたことの無い気配、絶対そうだ。……なら、やるしかない。
僕は剣を抜き、腰を落として構えた。
茂みの奥、赤みがかった黄色い瞳が3匹分、ぎらりと光った。
風が止み、獣臭が辺りに漂う。
「3匹……いけるか?いや、やらなくちゃ……!」
息を吐き、剣に炎を纏わせる。
火を恐れる魔物もいると聞いた。だがこいつらは怯まない。
つまり、それだけ強いってことだ。
バサバサッ!
「ぐるるるるぅぅっ!!」
鳥たちが一斉に飛び立った音が合図となり、三匹の影が唸りながら地面を蹴った。
鋭い牙と爪、泥を蹴散らして迫ってくるオオカミ型の魔獣。
「うりゃっ!」
叫んで、剣を横薙ぎに振る。炎が弧を描き、先頭の一匹をかすめた。
「キャンッ!」
毛が焦げ、悲鳴があがる。よし、まずは一撃!
だが喜ぶ暇はなかった。残る2匹は素早く左右に散り、挟み込むように僕を狙ってきた。
振り返る暇もなく、片方の爪が頬をかすめる。熱い痛みと共に血が滲む。
「くっ!」
血が流れ、慣れない痛みに視界が揺らぐ。
下がろうとした足が泥に取られ、体勢を崩した。
その隙を逃さず一匹が飛びかかってきた。牙が目前に迫る――!
必死に剣を突き出した。炎の刃が喉元に食い込み、獣の重みがどさりと圧し掛かった。
「うぐぅ!」
泥と血と獣臭で息が詰まりそうになる。必死に押しのけてなんとか立ち上がるが、残り二匹はまだ健在だ。
「はぁっ、はぁっ……!」
腕が震える。心臓が破裂しそうだ。
それでも、剣を構え直す。ここで倒れたら、冒険者の夢が叶えられず、全てが終わりだ。
黄色い瞳が、じりじりと僕を追い詰めていく。
「グルルルルルゥ」
低く唸りながら、地面を自在に駆け回り、牙を剥き、じりじりと距離を詰めてくる。
泥を跳ね上げる足音が、心臓の鼓動と重なり合うように響いた。
次の瞬間、右の1匹が影が弾かれたように飛び出す。
「――っ!」
反射的に剣を振る。けれど、泥でぬかるんだ柄が手の中で滑った。
狙いが僅かに逸れ、炎の刃は空を切る。
直後――
「ガァッ!」
閃く爪が肩口を裂いた。
鋭い痛みが灼ける鉄のように走り、思わず声が漏れる。
「ぐっ……あぁッ!」
熱い液体が頬を伝い、泥と雨に混じって滴り落ちる。
息が荒く乱れ、腕に力が入らない。剣先が震え、地面に吸い込まれそうになる。
視界の端で、狼の目が赤く光った。
「ぐっ――!」
灼けるような痛みに体勢を崩した僕の視界に、もう一匹が飛び込んでくるのが見えた。
思うように体が動かせない、白い牙が、喉元に迫って――
避けられない……!
その瞬間。
――ドゴォッ!!
轟音。横合いから巨大な影が飛び込んできた。
振り抜かれた斧の一撃で魔獣が吹き飛び、木の幹に叩きつけられる。
「まったく……ガキがひとりで森の奥に入るんじゃねぇ!」
低く、よく響く声。
振り返った僕の目に飛び込んできたのは、斧を片手に持った、逞しい熊獣人の男だった。
その時――
「アォォォォォン!!」
目の前の魔獣から狼のような遠吠えが森に響き渡った。
空気が震え、木々の間に反響して消えていく。
「……っ!」
「くそ、仲間を呼びやがったな」
血の気が引く。
仲間を呼んだ――!?
嫌な予感が全身を駆け抜ける。
茂みの奥からガサガサと複数の気配が動き始めた。四つ、五つ……それ以上?
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