小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

文字の大きさ
47 / 82
第2章 冒険者に必要なもの

拷問

しおりを挟む
 俺も言われた通り腹を割いて内臓を出した。
 ぬるりとした感触と血生臭さに、二度と思い出したくない作業だと心の底から思う。
 捌く上で必要な作業だけど……内臓なんて食べなきゃ、この中から取り出す必要もないんじゃないか?
 そんな甘い考えが頭をよぎるが、すぐ横のディーを見てその考えを押し殺した。

 内臓を取り出したあと、川で身と一緒に洗って戻るとディーは既に棒にさしてあとは焼くだけ状態で俺を待っていた。

「うぇぇ、それ本当に食べるの?」

 ディーの手には赤くて小さな塊も串に刺さっている。

「当たり前ぇだ。エルもとっとと串にさせ」

 ディーが後ろから俺の手元を監視する。「そうじゃねぇ」「ここだろ刺すのは」と文句を言われながらも何とか刺し終えた。俺が串に刺したネズミ肉をじっと見つめながら言う。

「ま、初めてだかんな」

 それは"まだまだ"って事かよ……。
 少し落ち込みながらもディーの真似をして焚き火の周りに串を刺した。

「よし、焼くぞ。エル、焚き火を強くしろ」

「任せろ!」

 俺は勢いよく返事をすると、落ちていた枝や枯れ葉をどんどん放り込む。
 元々小さくなりかけてた火が、枝や枯葉に埋もれてさらに小さくなっていく。

 でも大丈夫。なんてったって俺は火属性、強くすればいいんだろう?ここから一気に火をつけるつもりだ。

 ぼわっ

「うおっ、熱っ!」

 熱風と共に火柱が一気に立ち上がり、串の先の肉が一気に黒くなり炭の匂いが漂ってくる。

「おい!強すぎだ馬鹿!せっかくの肉が丸焦げになるだろうが!」

「えぇ!?だってディーが強くしろって言ったじゃん!」

「強くしろっつって火柱起こせとは言ってねぇ!!」

「むぅぅ……加減が分からないんだよ!」

 俺が口を尖らせると、ディーは涙を拭きながら盛大に腹を抱えて笑い出した。

「はははっ、やっぱり坊ちゃんだな!焚き火すら使いこなせねぇとは!」

「うるさい!次は上手くやるもん!」

「よしよし、じゃあ次は俺が見本見せてやる。料理も冒険者の修行だ、覚えとけよ」

 そう言ってディーは一旦川の水を使って火を消した。別の場所に焚き火を作って枯葉や枯れ木を移動した。

「あーあ、食えねぇのもあんじゃん勿体ねぇ。エル、ここ、ここだけ火をつけろ」

 そう言って枯れ枝の1つを指さした。

 これだけ火をつけるの?
 疑問に思いながらもそれに火をつけた。

 ディーはまず枯葉に火を移す。少し大きくなったところで枯れ枝にも火を移し始めた。
 みるみるうちに火は大きくなっていき、昨日の夜と同じくらいの大きさにあっという間になってしまった。これなら肉を焦がさず焼くことが出来る。

「すごい」

 小さな火種からあんなに大きくするなんて。俺はただただディーを尊敬した。

 ディーはそんな俺を見て「ふ」と鼻で笑いながら炭になった肉を捨てて焚き火の周りに串を刺していく。

 俺も慌ててそれを手伝った。

 串に刺した肉と臓物を焚き火にかざしながら、ディーがにやりと笑った。

「よし、まずはマメだ。ほら、食え」

「えぇ!?いきなり!?」

 差し出された串を渋々、腎臓を口に放り込む。

「……っっくっさ!!なにこれ!!川のドブか!?いや、井戸掃除した後の桶!?ちょ、飲み込めないって!」

 あまりの臭いに鼻を摘まないと飲み込めない。やっとの思いで飲み込み、水で口の中を綺麗にした。
 その様子をディーが横でゲラゲラ笑う。

「ははっ!やっぱり坊ちゃんにはキツかったか。まぁそういう味だ」

「味ってレベルじゃないよ!?拷問だよ!!」

 ディーはお構いなしに次の串を差し出してきた。

「次は肝臓だ」

「うぅ……もうやだ……」

 仕方なくかじった瞬間、舌にじわっと広がる苦味と鉄臭さと何とも表現しがたい食感。

「うぇぇぇ!舌がしびれる!鉄食ってるみたい!これ血液そのものじゃん!!」

「栄養はあるんだぞ」

「栄養があってもマズいもんはマズいんだぁぁ!」

 ディーがニヤニヤしながら最後の串を差し出す。

「じゃあ最後、心臓、ハツだ。これで締めだ」

 恐る恐るかじると、これは意外にもあっさりしていて、食感もコリコリしていて美味しい。先程の2つとは雲泥の差だ。

「……ん?あれ、これ美味しい!?」

「だろ?ハツは旨ぇんだよ。噛み応えもあって肉に近ぇ」

「なんで最初からこれ食わせてくれなかったのさぁぁ!!」

 ディーが腹を抱えて笑う。

「順番ってのが大事なんだよ、エル」

 ディーはニヤつきながら、最後に串に刺さった肉の方をぐいと突き出してきた。

「ほら、臓物ばっかじゃねぇ。次は正真正銘の“肉”だ。これなら文句ねぇだろ」

「……ほんとに?また変な部位とかじゃないだろうな?」

「疑うなって。ほら、ちゃんと回せ。焦げ目がついてきたらひっくり返すんだ」

 言われた通り串を回してみる。肉からじゅわっと脂が落ち、火がぱちぱちと弾けた。
 煙に混じって漂ってくる香りは、臓物の匂いとはまるで違う。美味しそうな肉の焼ける匂いが食欲を刺激してくる。

「……うわ、なんかすごい匂いする!美味そう!」

「それが肉の力ってやつだ。滴る肉汁は旨味そのものだ、逃がすなよ」

 ごくりと喉を鳴らしながら、ちょうどいい焦げ目を狙って一口かじった。

「――っ!?うまぁぁぁぁっ!!」

 噛んだ瞬間、じゅわっと広がる肉汁。鉄臭さも苦味もなく、ただただ香ばしくて旨い。
 今まで食べてきた料理とは全然違うけど、それ以上に身体に染み込むような美味しさだった。

「なんだこれ、さっきの臓物と同じ生き物の肉とは思えない!臓物が地獄なら、これは天国だよ!」

 感動してがぶがぶ食べようとした瞬間、串が手から滑りかけた。

「あっ! 落ちるっ!」

 慌ててキャッチしようとする俺。だが熱々の肉を素手で掴んでしまい、「熱っっ!!!」と思わず放り投げそうになったところをディーが片手でひょいっと受け止める。

「おまっ……大事な肉を投げ捨てる気か!?」

「ち、違う!手が熱かっただけで!」

 ディーは呆れ顔のまま、けれど肩を震わせて笑っていた。

「ははっ、やっぱり坊ちゃんだな!焚き火でも肉でも騒がしい」

「うるさいっ、次は絶対落とさない!」

「ははっ、まぁいい。……けどな」

 ディーは少しだけ真剣な声に戻った。

「この味は“自分で仕留めて、自分で捌いた”からだ。忘れんな」

 俺は肉を見下ろして、改めて噛みしめる。
 確かに、ただの料理じゃない。昨日まで知らなかった“重み”が、そこにあった。

「……自分で獲って、捌いた肉。だからこそ美味しいんだな」

「そういうこった」

 ディーは満足そうにうなずき、また肉をかじった。

 俺も思わず笑みをこぼしながら、次の一口を頬張った。

「よし、次は俺がもっと上手く仕掛けて、もっと美味しい肉を獲ってやる!」

 肉を頬張りながら宣言すると、ディーが「ふっ」と鼻先で笑った。

「まぁ、ノルデンまではまだあるからな。どれだけ成長できるか見物だな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

処理中です...