小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

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第2章 冒険者に必要なもの

アレク

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「おいエル。俺はお前になんて言った?」

「も、森には入るなと言われました」

「ああ?じゃあお前は今どこから戻ってきた?」

「……森です」

「あ?だから俺はなんて言ったんだよ」

「森には入るな、と」

「で?」

「森に入ってました!すいませんでしたぁあ!」

 俺の謝罪が森に響く。
 ディーの表情は逆光で未だに見えない。……低い地を這うような声と相まって、それがさらに恐怖心を煽る。

「…………」
「…………」

 ディーは何も発さない。
 それが余計に怖い。

 ディーが喋らないから俺も喋れない。

 しばらく2人の沈黙が続いた。

「なぁ、いつまでそうしてんの?」

 2人の沈黙を破ったのは、いつの間にか俺の右肩に落ち着いていたウーパールーパーもどきだった。

「……なんだそいつは」

 ディーの声は、表情は見えないがなんとなく引いてる感じがする。

「えと、俺が助けて、助けてもらった?」

「はぁ??」

「えと、あの。こいつの声が聞こえて、それで、森に入った。そしたら蜘蛛の巣に絡まってるこいつが居て、助けた。そしたら森の奥からでっかい蜘蛛が出てきて、こいつが助けてくれた」

「蜘蛛だぁ??」

「えっと、なんだっけ?タランチュラ?だっけ?」

「このちっこいのが?タランチュラを?……おい、現場を見せろ」

 そう言って俺を追い越してずんずんと森に入って行ってしまう。

「おい、早くしろ」

 振り返って俺を呼ぶ。
 夕日に照らされた顔は、多分もうそこまで怒ってない。怒りで毛羽立っていた耳毛も幾分か大人しくなっているようだ。

「うん」

 怒りが納まってきたのが分かって少しホッとした俺は慌ててディーを追う。

「こっち」

 案内した先は未だに異様な臭いが漂う丸焦げのタランチュラ。
 ディーは近寄り無言でナイフを取り出し、丸焦げだけどそれでも損害が少ない脚を切ってカバンに入れた。

「うぇ、それ持っていくの?」

 丸焦げで死んでいてもタランチュラという巨大な蜘蛛はただただ気持ち悪い。そんな気持ち悪い蜘蛛の脚を持って行くなんて。

「ちげぇよ。ギルドに提出すんだよ。森の浅い所にこんなでっけぇ蜘蛛出たら危ないだろうが」

「あ、あぁそういう事ね」

「場合によったら謝礼金出るぞ」

「謝礼金!?」

 依頼を受けてないのにお金貰えるの!?あ、でも俺が倒した訳じゃないから貰えるにはこの変なウーパールーパーもどきか。

「なぁ、もういいか?俺こいつからまだ名前貰ってないんだ」

 それまで俺の右肩でじっと黙りこくっていたウーパールーパーもどきが口を開いた。

 それを聞いて何故かディーが口を開いたり閉じたりパクパクしている。

「ディー、どうしたんだ?」

「お、お前、その珍妙な魔獣に、魔獣……だよな?喋ってるし。いや、そんな事よりそいつに魔力渡したのか!?」

「え?魔力というか、こいつ俺の炎食ってたけど」

「なっ、お前それがどういう事がわかってんのか!?」

 ディーが驚愕の顔をして俺に詰め寄る。
 え、嘘、俺まずいことしたっぽい?

「あ、えーと、ごめんなさい、わからないです」

 ディーが左手で目を覆って天を仰いでしまった。
 俺、なんだか相当な事をしたっぽい。

「なぁんだ、お前、そんな事も知らずに俺に魔力渡したのか」

 その点こいつはケラケラと笑っている。
 1人と1匹の対比がすごい。

「魔力というか、炎だけど」

 なんだか俺だけおいてけぼりにされた気がして、少し不貞腐れてポツリと零す。

「お前が魔力で作った炎はお前の魔力そのものと変わんないだろ」

 まぁ、そうかも知れないけど。

「エル、お前は……はぁぁ。知らなかったなら教えてやる、魔物に魔力を譲渡することはその魔獣を従魔にする行為だ」

「じゅうま?」

 "魔獣をじゅうまにする"ってなんだろう?

 きょとんと分かりませんという顔をしていると、ディーが俺の顔を見てまた盛大に「はぁぁぁ」とため息を吐いた。

 ウーパールーパーもどきはまだケラケラと笑っている。

「たまに見かけるだろ。魔物と一緒に行動してる冒険者が」

「え?知らない」

 そもそも他の冒険者って言われても今日初めてギルドに行ったし。すぐディーに窓口に追いやられたからあんまり周りを観察する余裕もなかったんだよね。

 あ、でも、赤の勇者が確か魔獣を従えてた。そうそう確か、森で倒したウルフの王がその後赤の勇者の相棒として一緒に冒険してたんだよね。

「じゃぁ、こいつは俺の"相棒"って事??」

「ちが」
「その通り!!俺はお前の相棒だからな!なぁ、だから早く俺に名前を付けてくれよ!」

 何かディーが言ったような気がするけど、はやくはやくとウーパールーパーもどきは俺の周りを飛びながら急かしてくる。

 俺の相棒!そうだな、俺の相棒だもんな。名づけかぁ、どうしようかな。そういえば赤の勇者はウルフの王にも呼び名を付けていたっけ。

「まっ」
「よし!決めた!お前の名前はアレクだ!ってディー今何か」

 振り返ると今度はディーが今度は両手を地面に着いて項垂れていた。
 ……さっきから何をやってるんだ?今日のディーはなんだかおかしいな。

「……ディー、大丈夫か?」

「大丈夫じゃねぇ!!」

「うわっ!待っ」

 俺の問いかけにガバッと起き上がったと思ったら俺の肩を強引に揺さぶり始めた。

「エル!お前後先考えずにこの珍妙な魔獣に名づけしやがって!完全に従魔契約しちまったじゃねぇか!」

「それ、っのなぁ、にがっ、いけなっいん、だ?」

 肩を揺さぶられてるから頭も揺れて、要するに、話しづらいんだ。

 俺の言葉を聞いてパッと手を離してくれたが、まだ頭が揺れているような気がする。

「こんな得体の知れないやつ従魔登録出来ないだろうが!」

「従魔とうろく?今従魔にしたんじゃないの?」

 またディーは訳の分からないことを俺に言ってくる。今したじゃん、獣魔契約。

「冒険者は従魔を登録しなくちゃいけないルールなんだよ。でもこいつは出来ない。見たことないし、なんてたって喋るし」

「え!?ディーもこいつ知らないの?」

 なんてこった!俺、なんとなく漠然とディーなら知ってるだろうと思ってた。だって俺の知らない事いっぱい知ってるから……。

「そもそも喋れるやつは高ランクの魔獣だけだ。こんな手に平に乗るくらいのサイズで喋るヤツなんて俺は知らねぇ」

「まじかぁ。え、じゃぁお前すごいやつなの?」

「まぁな。因みに俺は同種に会ったことないから、居るか知らねぇけど、俺の方が絶対凄い!エルもそう思うよな!?」

「おぉ」

 自信満々に言うアレクはなんだかキラキラしてるぞ。ちっちゃいけどなんだかカッコイイ!

「あと俺はな、今はまだ無理だけどもう少し成長したらお前らみたいな形に化けることも出来るぞ。だからエル!エルって言ったよな?俺に飯をたらふく寄越せ」

 まぁ、アレクだけ飯抜きなんて可哀想だからそんな事しないけど。……魔獣のご飯って肉でいいんだよな?

「ところでお前って何食うの?」

「今のところお前の魔力が好物だ!」

「……ん?」

 俺の魔力って言った?さっきみたいに炎を食うのか?肉より炎?変なやつだな。

 ディーを見るとまた地面に両手を着いて項垂れていた。え、今日のディーはまじで大丈夫か?
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