小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

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第2章 冒険者に必要なもの

選択 *ディー視点

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 部屋に戻ってきたらエルは寝てやがった。

 まじかよ、あんなに腹減ったって言ってたのに普通寝るか?……いや、腹減っても寝れるくらい疲れたって事か。

 ベッドの上で仰向けに寝ているエルに布団をかけてやろうと近寄ると、その顔には泣いたような跡がうっすらと残っている。

 ……基本真面目で時々おちゃらけてるけど、村が魔物に襲われて、突然1人になっちまったんだもんな。そりゃあセンチメンタルになる時もあるか。

 見なかった振りをして布団をかけてやった。

 コンっ

 ノックとは違う、ドアを叩く音が1回だけした。
 そう、1回だけだ。中にいる人に用があるならノックは2回か3回が一般的だ。

 不信感を露わにしてドアに意識を向けた。

 1人。扉の向こう側にいる。

 しばらくドアを睨んでいると、スっと床との隙間に紙が入れられた。そして、ドアの向こうにいた人が遠ざかっていく気配がした。

 完全に居なくなってから紙を拾う。

 羊皮紙に、深紅の封蝋。
 そこに押されているのは、この国でも限られた家柄の、とある貴族の印章だった。

 ーー逆らえるわけが無い。

 そう思い、そこに書いてある呼び出しに応じる他はなかった。










「なんで起こしてくれなかったんだよ!!」

 朝から元気なエルの声が部屋に響く。
 寝不足の俺には少々きついものがある。

「先に寝るのが悪い!」

「俺だって腹減りながらディーを待ってたのにぃ!」

 もう過ぎてしまったことをぎゃんぎゃんと喚くところはまんまガキだな。

「うるせぇ!」

 ごんっ

 エルの頭にげんこつを落とす。

 あ、やべ。落としてから昨夜の出来事を思い出して内心焦る。……あんまり手はダサいほうがいいかもしれん。いや、でも今まで結構手を出してきてたな……じゃあ大丈夫か。

「今から朝飯食いに行くんだから昨日の分まで食えばいいだろ」

「……そうする」

 エルの納得のいってない顔がまた、故郷の弟妹たちと重なって少し懐かしい気持ちになる。

 いつもは故郷の事なんて思い出しもしないのに。はぁ、寝不足だからかな。

 ふぅ、とため息で気持ちを切り替えて、エルと一緒に食堂へ向かった。







「お店?何買うの?」

 エルと鞄に詰められたアレクを連れて鞄屋へ来た。鞄しか取り扱っていない鞄専門の店だ。

 ノルデンは冒険者も商人も多い。鞄以外にも専門店があってかなり良い物が手に入る。……金次第だけどな。

「お前のそれ。色々突っ込んだ中に、突っ込まれて可哀想だろが。それに貴重品は基本ベルトポーチとかで肌身離さず持つのが基本だ。ほら、こうやって」

 そう言って俺のベルトポーチを見せる。

「おぉ」

 初めて見たのか、目をきらきらさせながら何かに気づきはっとした。

「あ、でも俺金ない……」

 金無ぇんだ。昨夜のことが頭をよぎってふとそんな事を思ったが、それを除いても一般的に子供は金を持たないから当たり前か。

「昨日のタランチュラが良い仕事をしてくれた」

 そういいながらじゃらっと、小袋をエルにチラ見せする。昨日謝礼金については触れたからわかってくれるだろう。

「え、すごい!謝礼金貰えたんだ」

 さっきとは打って変わってエルの表情がきらきらしだす。コロコロ変わる表情も見ていて飽きないな。

 本当に子供のくせに頭の回転が早い。時々突拍子もない返答が来ることもあるが、基本は頭がいいと言うかなんというか。投げ出しやすい俺がこいつの面倒を見てられるのも、こいつのこういうとこがあるからだよなぁ。

「あぁ。長く持つようにいいもの買うぞ」

「まぢで!?」

 そう言って何故かバックパックが置いてある方へ歩き出すエル。襟首を掴んで「そっちじゃない阿呆」とベルトポーチが置いてあるところまで連れて行ってやった。

 じっと商品を見比べるエル。あっちみたりこっちみたり、一通り見終わったあとで結局「どれが良い物かわかんない」とへにゃっと眉を垂らしながら聞いてきた。

 まぁ、お前の年齢で良い物が判断わかったら正直驚きだ。

「まず、値段を見ろ。安いのは簡単に手に入る素材。高いのはそれほど手に入らない素材だ」

「なるほど。じゃあ、これは?柔らかくて使いやすそう」

 "良い物"という事で革の薄い物を持ってきたエル。

「布は論外な。革は使えば使うほど自然と柔なくなっていく。だから選ぶ基準はそこじゃない」

「なるほど。じゃあ、こういうの?」

 エルは数あるポーチの中から落ち着いた焦げ茶色の物を手に取った。

「革が厚めで丈夫そう。しっとりしてて、触り心地も好き」

「……鹿革だな。見た目よりも丈夫で、水にも強い。悪くねぇな」

「ほんと!?じゃあこれにする!」

 こういうとこだ。
 少し説明すりゃ、自分で考えて答え出そうとする。
 依頼なんて、情報が全部出揃う事の方が少ねぇんだ。そういう時に必要なのは、こういう勘の良さだ。

 保護者になるって決めたの、案外間違ってなかったかもな。
 ただの勘だったが……。こういう瞬間を見る度に確信に変わっていく。

 視界の端でもごもご動く鞄が気になった。

 そろそろ出してやらねぇときついか。

「さっさと買って森に行くか。昨日の続きだ。今日で終わらせるぞ」

「続きというか、初めからなんだけど……」

「分かってんならさっさと歩け」

 この先きっとエルは強くなる。
 根拠なんてねぇけど、俺の勘がそう言ってんだ。

 ーーずっと一人で旅をしてきたけど、案外面白い相棒に出会えたかもしれねぇな。

 エルの成長に、心を密かに弾ませて、俺たちは店を出た。
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