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第3章 強くなるために
1年
しおりを挟むなんだか最近、アレクが部屋の窓から外を眺めていることが多い。「何か面白いものでもあるの?」って聞いても「そういうんじゃない」って何を見ているのか教えてくれない。
なんか最近でかくなったし、カバンに詰め込むのも大変。アレクも苦しいのかもしれない。いや、それがどうして外を眺めることに繋がるんだって話なんだけど。
「アレク、ギルド行くよ」
そんなわけで、今日も今日とて2人+1匹でギルドへ向かう。
「お姉さんこれ!」
カウンターに依頼票を出すといつもの犬耳お姉さん対応してくれる。
「エルくんもあと1年で見習い卒業ね」
「えへへっ。見習い卒業したらあっという間にA級まで登りつめてやるんだから!」
「あら、ふふ。頑張ってね」
A級冒険者。それは冒険者の最高ランク、の1個下。最高ランクはS級だけど、それは国が滅びるような災害クラスの魔物や魔獣の被害を収めた人が受ける称号らしくて、現実問題、そんな被害があったら溜まったもんじゃないのと、起こって欲しくないという事で伝説級なんだって。
過去数度だけ、暴れ龍を討伐した者がその称号を受け取ってるみたい。要するに、現実には有り得ないってこと!
「俺ねぇ、たまに魔獣も討伐してるんだよ!だからあっという間に昇級しちゃうよ?」
くふくふ笑っていると俺の頭に拳が降ってきた。
「いってぇ」
「黙れ」
あれ、なんでかディーが不機嫌だなと思っているとすぐその理由が分かった。
犬耳お姉さんが呆れた顔でディーを見ている。
「ディーさん。ルールですから」
「わかってる」
あ!見習いは討伐依頼に参加しちゃいけなかったんだった!それを俺はギルドの職員さんに「討伐してるぜ」なんて意気揚々と言ってしまったわけで……。
ディーの冷たい視線が突き刺さる。俺はそっと視線を逸らして知らんぷりした。
「もぅ。エルくん、無茶しちゃダメよ」
「はぁーい」
犬耳お姉さんは俺とディーの依頼手続きをする為にカウンターの奥へと引っ込んだ。
ふと先程のお姉さんの言葉を思い返す。"あと1年で見習い卒業"。……あと1年かぁ。
ちらっと隣を見るとそれに気づいたディーが「なんだ?」と口を開く。
「俺とディーが出会って1年経ってたんだなぁ、と思って」
「なんだ、そんな事か。……俺が居なかったらお前は今頃」
「"ダイアウルフの腹の中"はもういいって!」
「いや、糞になって糞ももう分解されてるな」
「きったねぇ例えすんな!!ダイアウルフ如き今の俺なら余裕だし!」
「ほーおそうか?俺が居なくてもか?」
「う、ぐ、多分……」
正直自信は無い。だってディーは俺が倒しやすいように後ろに流してくれてるの、知ってるし……。
「はは、まだまだだな」
「くそぅ」
「ディーさん、ダメですってば」
そんな俺たちの会話を戻ってきた犬耳お姉さんが窘める。おっと、聞かれちゃった。俺は見習い、討伐は禁止っと。
「ディーさん、お手紙届いてました」
「あ?捨てといて」
依頼票と一緒に封筒を渡されたディーは、差出人を見るなりお姉さんに突っ返した。
「手紙?誰から誰から?彼じょ、いたっ!」
俺が興味津々で覗こうとしたらおでこにチョップが落ちてきた。げんこつより痛くないけど、痛いもんは痛い!
「そうやってすぐ暴力に頼る」
ボソッと言ったつもりだけど、ディーの耳は俺の言葉をしっかりと捉えてたようで。
「なんか言ったかクソガキ」
「いたたたた、何も言ってないです!すいませんでしたあ!」
俺の耳が引きちぎれんばかりに引っ張られた。
森へ向かいつつ、ディーに問いかける。
「手紙、まじで捨ててたけど大丈夫なの?」
「あ?ああ。問題ない」
「え~。捨てていい手紙なんてあるのかなぁ」
手紙を送ってくれた人に失礼じゃないの?せめて中身を1回見るくらいしてもいいと思うんだけど。
「はぁ」
俺の表情を見ながらため息を吐くディー。
「ただの身内からだから」
その一言だけ言ってスタスタと行ってしまう。
いや、身内からでも捨てちゃダメでしょ。
……でも、そうだよな。ディーにも家族は居るんだよな。ご両親かな?心配して手紙送ってくれたのかも。でも兄弟っぽくはないよな……。
うーん、もし兄弟がいるなら“下”って感じがする!なんだかんだで面倒見ちゃうタイプだし!
……ま、本人に聞けそうにないけどな。手紙のことだけでもあんな感じだし。
「ぷはぁ。開けてくれてもいいじゃんかよ」
「あ、ごめんごめん」
最近アレクが大きくなって、カバンから出るのも一苦労みたいだ。
やっぱりカバン小さいよなぁ……。このままどんどん大きくなったら、入らなくなっちゃうんじゃ?
……その時は、その時だ。俺に新しいカバンを買うお金は無いから、どう頑張ってもアレクに我慢してもらうしかないな。
……そっか。アレクと出会ってからも1年なのか。そりゃあ大きくなるか。
・
・
・
その夜、俺は1年ぶりに寂しさに襲われた。
ディーと出会って1年。
それは俺が家出をしてから1年という事だったから。
1年も経ってしまった。きっとみんな俺のことは忘れて、新しい人生を歩んでるはず。歩んでくれないと困る。だって俺はもう帰らないんだから。
リュカ様もきっと俺との婚約解消して新しい婚約者が居るはずだ。だって公爵家の次男だもの。そうでないと、困るし……。
どうしよう、また会いたくなっちゃった。
でももう会えない。だって俺はもう、エイルじゃなくてエルなんだから。
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