小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

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第3章 強くなるために

アレクとは

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「ちょっと待ってろ」

 ギルドに入った瞬間、ディーにそう言われた。

 とりあえずいつものように依頼板から俺の分を取って、さてどうしようかなとキョロキョロする。

 イディアはもちろんいない。他の俺をからかってくる冒険者たちも、今日は生憎いなかった。

 ま、冒険者なんだし依頼に出てるのが普通だよね。

 仕方ないのでディーの用事が終わるまでどうしようかなと、辺りを見渡す。

 あれ、新聞なんて置いてあったんだ。知らなかった。ギルドの片隅に積まれていて、すぐ横にはイスもある。

 いつもは真っ直ぐに依頼板に向かって依頼を決めてそのままカウンターに直行していたから、全然気が付かなかった。

 どんな新聞があるのかなと興味本位で近付くと、この街の新聞、魔物・魔獣関係の新聞、貴族新聞の3種類が置いてあった。

 ふと気になった貴族新聞を開く。

「……え」

 中を開くと大きくレオニス・フェルダインの文字。しかし書いてある中身は婚約者の事だった。相手は侯爵令嬢。似顔絵を見るだけでも綺麗で可愛らしい。

 ほぇー、レオ様婚約者出来たんだぁ。なんだか気持ちがほっこりする。
 でも、俺が気になったのは別のところ。"弟のリュカリオ様の新しい婚約者は一向に決まらない"っていう1文だった。

 ……なんでだろ?年齢的にも新しい婚約者が決まっていておかしくないのに。……俺のせい?いや、リュカ様はそんな人じゃない。……いや、そうとも言いきれないかも。っていうか、リュカ様、俺の前ではいつもカッコつけたがりだったから本当のリュカ様っていまいち分かんないんだよなぁ。

 考えていたら色々と思い出してしまった。
 一緒に鍛錬したこと、ピクニックに行ったこと、パーティにも行ったなぁ。
 あ!だめだダメだ!もう俺には関係無いんだから、懐かしいとか、ましてや会いたいなんて絶対にダメ!

「どうした?」

 ふるふると頭を振っているとディーが戻ってきて、俺の行動を不審がった。

 ハッとして新聞を戻すと、ちらっと新聞を見たディーが訝しむ。

「新聞……文字、読めたのか」

「文字くらい読めますけど??」

 なんかバカにされたみたいで腹が立った。

「なぁ、用事ってなんだったの?」

「なんでもねぇ」

 なんでもないわけないじゃん。わざわざ俺を遠ざけたくせに。ま、でも俺に知られたくない事なんだろうからこれ以上は突っ込まない。

「ちぇ。さっさと依頼受けて森行こうぜ」




「俺今日はエルの草むしり手伝うー」

 バックから飛び出したアレクが俺の頭の周りをぐるぐる旋回する。
 それがかすかに風を起こして前髪がふわっと揺れた。

「え、めずらしー、ありがてー」

 正直一人で黙々と草むしり……もとい、薬草採取は正直つまらない。話し相手が居るだけで全然違うのだ。

「狩ってくる」

 ディーは一言だけ言って森の奥に消えてしまう。

「よっしゃやるぞー」

 俺はアレクもいる事だし、と気合い入れた。





「なんだよ少しくらい手伝ってくれてもいいじゃんかー!」

 けれどアレクは一向に手伝ってくれない。

「待て待て、もう少しで上手く行きそうなんだよ」

「だから何がだよ!?」

 さっきから"もう少し""あとちょっと""行ける気がする"みたいな事を散々言って俺の周りをぐるぐると飛んでいるだけ。

「あー、上手く行きそうなんだけどなぁ」

 そう言って岩の上に腰を下ろして休憩し出した。

「なんだよぉ、やっぱり手伝ってくれないんじゃん!」

 "手伝う"って言ったのに。
 俺はブツブツ文句を言いながら今日の依頼を終えたのだった。



 それから数週間、アレクのそんな行動が続いた。

 手伝うって言うのに一向に手伝ってくれないし、"あと少し!"と言ってぐるぐる飛び回るだけ。

 何がしたいのか、俺もディーにも全くわからなかった。

 正直、両掌からはみ出すくらいの大きさのアレクが俺の周りをぐるぐるぐるぐる……邪魔すぎる!

「もう、なんでもいーから、ちょっと離れてぇぇ!?」

「いける!」

 ぐるぐる飛んでいたアレクが今までにない速さで旋回している。しかも……なんか、蒸気が出てる?

 初めて見る光景にあんぐりと開いた口が閉じなかった。

 蒸気のような湯気のような、けれどもそれとは違う、淡い光を帯びた白い煙がアレクを包み、その輪郭がぼやけた気がした。
 熱いのか冷たいのかも分からない風が頬を撫でて、思わず息を呑む。

 どしん
「いてっ」

 アレクの声と何かが落ちる音が聞こえた。

 白い煙が無くなると、そこに居たのは一糸纏わぬ姿の少年だった。

「……え、誰?アレクは?」

「あ?俺だよ俺。俺がアレク!」

「え?……え?」

 そういえば目の前の人間の口から聞こえるのはアレクの声だ。

「え。……まじか」

「エルさっきから"え"しか言ってないんだけど?ダイジョブか?」

「えと……ダメ……かも?」

 いまいち理解が追いつかない。っていうか意味が分からないアレクは土色のウーパールーパーに黒い羽が生えた謎の生き物だったんだけど。
 そのアレクが白い煙に包まれて人間になってしまった。……そんな事ある??ないよね?でも今目の前で起きてるんだけど!?

「……アレクが人間になった」

「そーそー!そーいう事!」

 アレクは立ち上がって俺の方に近付く。

「!アレク、服!服着よう!?」

「俺服なんて着たことないけど?」

「え?」

 そんなことある……?あ!アレクはそうだ、着せたことなんか無かった!え、でもどうしよう、俺服持ってきてないし。えっと、ええっと!

 とりあえず、上着を脱いでアレクの肩にかけた。でも、俺のサイズじゃ下半身が隠れねぇ!!!

 どど、どうしよう!?これじゃあ確実に街に入った瞬間に、捕まっちゃう!

 ぐぃっ
「うぇっ??」

 その時誰かに肩を引っ張られた。
 よろけそうになるのを必死に堪える。

「ディー!?」

 肩越しに振り返ると焦った顔をしたディーが居た。

「おい、なんだそいつ、離れろっ」

 息を切らして急いで俺の元へ戻ってきてくれたんだろう。でも、その理由が分からない。

 離れろって"アレク"からって事?

「ディー、こいつ、アレク」

「は?」

 だよなぁ。分かる分かる。俺も今も信じられないもん。

「だからね、こいつはアレク」

 魚みたいに口をパクパクを開閉させるディーが面白い。

「……は?」

 ようやくディーの口から発せられた言葉がこれだった。
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