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第3章 強くなるために
そもそも隠すっていう概念がないのかも
しおりを挟む「なっ……あ?……はぁ?」
ディーの口からは言葉にならない声が漏れた。
「アレク??」
「おぅ」
ディーの呼び掛けにアレクは軽く返事する。
「アレク……なのか?」
暫くの沈黙の後、恐る恐るたずねたディー。
まだ信じられないみたいだ。ちょっと面白い。
「だからアレクだって。ディー大丈夫か?」
「……ダメ、かもしれん」
あ、出た。俺と全く同じ反応。しかも真顔。かなり面白い。
「な?俺すげぇだろ?出来そうって思ってからかなり時間かかったけど!見ろよ、結構いい出来じゃねぇ?」
そう言って、全裸に俺の上着だけを羽織ったアレクはその場でくるくる回る。
それは傍から見たら異様な光景だ。
「……まじでアレクだ」
ポツリと零したディーは顔を両手で覆って項垂れちゃうし。……ん?この光景前にもどこかで見たな?どこだっけ。
とりあえずディーはそっとしておこう。
「アレク、……えっと、アレク?なんで人型に?ってか"ヒト"?なのか?うん?"ヒト"ってちっちゃい時はみんな羽の生えたウーパールーパーなの?」
そういえば純粋な"ヒト"って見たことないなぁと思った。もしかしたらアレクは純粋な"ヒトなのかも、と。
このティアスタン王国は獣人の国だ。純粋な"ヒト"は滅多に居ない。少なくとも俺は、今まで一度も会ったことがない。
「んなわけねぇだろ、アホが」
ディーが復活して俺にツッコミを入れた。そっか、じゃあアレクは"ヒト"ではないんだな。
この短時間でディーは眉間にシワが寄ってなんだかすごく疲れた顔になってしまった。いや、急に年取っちゃったみたいな感じでもある。
「……大丈夫か?」
「ああ、なんとか」
つい心配で聞いてしまった。ディーはなんとか折り合いをつけたらしい。さすがだ。
「でもディー。このまま街に帰ったら大騒ぎだよ?……全裸だし」
俺の上着をかけているからと言って、大事なとこは全部丸出し状態だ。小さい子という訳でもないし、このまま帰ったら危険人物判定になる事間違いなし。
「"変化"したって事なら元に戻れるだろ」
ディーは疲れたように言った。……いや本当に疲れてんだろうな。いつにも増してため息が多い。
「戻れるけどよー。だってカバンの中狭いんだぜ?入ってみろよ?」
「はぁ」
「いや、無理だし」
ディーはため息で。俺は素直に返答した。
確かに出会った頃のアレクは片手から少しはみ出る位だったのに今では両手で収まりきらないほど大きくなった。そりゃあ狭いよね。
「でも、さすがに全裸のままじゃあ街に帰れないよ。身分証も無いし」
そう、俺も初めて街に入る時も大変だったのだ。アレクもきっと同じ事になるに違いない。
とりあえず、帰る頃には戻ってもらう事にして、今のアレクを観察する。
身長は俺とディーの間くらい。
髪色はアレク本体と同じ土色。あ、でもちょっと濃くなってるかな?それが肩下までサラッと伸びている。瞳の色は羽の黒色。クリっとしていて可愛い。無駄な贅肉のない、程よく筋肉の付いた肢体。見慣れないのは、まず耳。俺の耳から産毛を無くした感じ。多分"ヒト耳"ってやつ。尻尾も無いし、肌は羽も毛もなくてツルッとしている。
うーん、これなら女の子でもいけるんじゃないかな、ってくらい整っている。
「しゃーねーなぁ。じゃあ帰る時は戻ってやるよ」
そう言って全裸に上着だけのアレクはふらふらと歩き出した。
「いや、ごめん。目のやり場に困るから元に戻って?」
……大事なところ全て隠れてないからね?
「えー。っていうか、エルは俺のご主人様なのに褒めてくれねぇの?」
「……え?何を?」
否定の後の、アレクの言ったことの意味が全然分からなかった。褒めるって何を?
「せっかくエルが大変そうだから"ヒト"に化けてやったのに~!」
「俺の為だったの!?」
「だって前に言ってたじゃん、"獣魔登録が出来ねぇ"って!だから俺、ヒトに化けるようになれればって言ったじゃん!」
「……言ったっけ?」
えぇー。全然覚えてない。そんな会話いつしたよ?
でも多分その会話があって、こうやって"ヒト化"?してくれたんだよな?それで、それを褒めて欲しいって事だよな?
「あれ?じゃあ最近ずっと窓から街を見てたのは、この為……?」
「あったり前だろ?俺だって迷惑ばっかりかけていたくねぇっての!」
「アレク……」
俺は感動してた。だって、こいつ、俺のためを思って健気に人化の練習をしてくれていたんだろ?
最近のアレクの謎の行動が全部この為だったんだと繋がった。
胸の内がじんわりと暖かくなるのを感じた。
「アレク凄い!カッコイイ!本当に"ヒト"に化けちゃうなんて!しかも見た目もカッコイイ!綺麗な筋肉!最高!」
「へへんっ、まあな!」
俺のありったけの賛辞にアレクも嬉しそうだ。
「はぁー。"ヒト化""人語""知的生物""感情"……」
ずっと黙っていたディーが顔を手で覆ってブツブツ呟いていて怖い。
「ディー?だ、大丈夫、か?」
恐る恐る尋ねてみると
パンッ!!
と、両手で頬を思い切り叩いて顔を上げた。
あ、なんか大丈夫かも?熊耳もピンっと張っているし、何より表情が清々しくなった。
「ふぅー……」
深く息を吐いて、俺たちに向き直る。
「あー、アレクはエルの為に擬人化?したって事でいいんだよな?」
「まあな」
ディーの問にアレクは自慢げに答える。
腰に手を当てて笑顔で胸を張るアレクがなんだかちょっと可愛い。いや、うん。ほぼ全裸なんだけども。
「……なら、その格好ではダメだ」
「理解はしているつもりだ。街で裸のやつなんかいなかった!」
またしても自信満々に答えるアレク。
あ、そこんとこ分かってはくれているのね?少しだけほっと安心した。……今、丸出しなんだけどね。
「買いに行かねぇと」
そう、アレクは俺とディーの間の身長。俺のだと小さすぎ、ディーのだと胴回りも合わせて大きいのだ。
「今ならまだ街に戻ってもお店開いてるよね?」
「そうだな。……早い方がいいか」
「カッコイイやつにしてくれよな!」
こうして俺たちは、依頼は明日に持ち越して、アレクの服を買いに行くことになった。
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