小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

文字の大きさ
80 / 82
第4章 リューべルへの道

舟と川と魚と

しおりを挟む

「……あれ、船!?渡し船だ!!」

 川辺に小さな船着き場が見えた瞬間、テンションが一気に突き抜けた。
 木の船がゆらゆらと水に揺れているだけで胸がどきどきしてくる。
 うわぁ……本物だ。本当に“川を渡る船”だ!

 気づいたら勝手に歩調が駆け足になっていた。

「お前……こんなもんでそんなに喜ぶのか」

 ディーが呆れたように言うけど、俺は止まらない。

「だって船だぞ!?川を渡るんだぞ!?これはテンション上がるやつでしょ!」

 耳が完全にぴょこぴょこしているのが自分でも分かる。
 止めようと思っても止められない!

 船着き場にいた船頭のおじさんが、にこっと笑って「乗るかい?」と声をかけてきた。

「の、乗ります!!」

 即答してしまった。
 たぶん食い気味だった。自覚はある。

 ディーが「落ち着け」って俺の肩を掴んでくるけど、耳のうぶ毛ががぴこぴこしてるのは隠せなかった。

 船に足をかけた瞬間、ぐらりと揺れた。

「うおっ!?……え、思ったより揺れるなこれ!」

 船頭さんが「最初はみんなそうだよ」と笑う。
 ディーは無言で乗り込んだくせに、わずかに尻尾がふわっと膨らんでた。
 そういうの俺は見逃さないんだからな。

 舟が岸を離れると、ゆっくり水の流れに乗って進み始めた。

「うわ……すごい!ほんとに動いてる……!」

 胸の奥がじゅわっと熱くなる。
 木の舟が水に沈まずに浮いてるのがすごい。その上に俺らが乗ってるのに沈む気配なんてこれっぽっちもない!
 ただ川を渡るだけなのに、何か特別なことをしているみたいだ。

 その時、俺の鞄が“もぞっ”と動いた。

「川か……舟か!」

 船頭さんにバレないように小声で喋りかけてくるが、アレクもテンションが上がっているようで、鼻先が鞄から出てきそうだ。

 バレないように、舟から川が見える位置にカバンを移動してやる。

「おぉ」

 アレクの感動している声が聞こえて俺もつい口元が緩んだ。

 川の真ん中に出ると、風が気持ちよくて、
 遠くで蓮畑がゆらゆら揺れて見えた。

「……なんか、旅してるって感じだな」

 小さくつぶやくと

「最初から旅だろうが」

 ディーがぼそっと返してくる。

 でも、今日の俺には特別に感じるんだ。

 ゆらゆら揺れる船の上。
 陽の光を反射してキラキラ光る川。
 遠ざかっていく蓮の花の淡い桃色。
 どれも今しか見られない景色だ。

 俺はその全部を、ぎゅっと目に焼き付けた。

 10分もせずに舟は向こう岸へたどり着いてしまった。

「短かったけどすっごい楽しかった!帰りもこれ乗りたい!」

 帰ってくるのかは、知らないけど。
 テオランの、ディーの故郷に行ったら、帰ってくるんじゃなくて今度は別のとこへ旅立つかもしれない。

 そしたらきっと別の楽しい何かが待ってる気がする。

「おっと」

 舟から降りる時、ぐらっと舟が傾いた。
 船に乗る時より、降りる時の方が難しいかもしれない。だってぐって踏ん張ったらその分舟が揺れちゃうから。

「ったく、せっかく乗ったのにここで落ちんなよ」

 そう言いながらも手を差し伸べてくれるディー。ありがたくその腕を借りた。

 船頭さんに別れを告げてしばらく川沿いの道を歩く。今までずっと森の中だけあって、凄く新鮮だった。

「あ、跳ねた!」

 川を眺めながら歩いていると魚が跳ねた。

「あれ、食えるのかな。魚だし食えるよね?」

「毒持ってるやつもいるから一概に食えるとは言えねぇ」

「そっか、そうだよな」

「食べるなら俺が獲って来ようかぁ?」

 周りをふよふよ飛んでいたアレクが俺の肩に着地しながら言う。

「……魚って美味いの?」

「ものによる」

「だよなぁ」

 バチャンッ

 また魚が跳ねる。

「……俺、魚って食ったことないんだよな」

「「え」」

 ディーとアレクがびっくりした顔を俺に晒した。
 えぇ、そんなにびっくりすることかなぁ?

「だって、川の近くに住んでた訳じゃないし、魚を食べる機会がなかったんだよ」

 そう、王都の食事事情に魚はほとんどないし、海なんて王都から離れてるうえに断崖絶壁だから海に降りる事などない。

 川の近くに住んでないと魚なんて食べる機会がないのが普通なのだ。

「よっしゃ!」

 一声言ったアレクがぱたっと肩から飛び降りて、そのまま川ぎわへ一直線に走っていく。

「え、おい待てアレク!?今行くの!?」

「魚は“跳ねたあと”が狙い目なんだよー!」

 川へ向かっていくアレクの耳と尻尾が、やたら楽しそうに揺れてる。
 完全に狩りモードだ。

 ディーが俺の横で腕を組んで呆れ混じりに言った。

「……まったくあいつは」

 正直、俺はめちゃくちゃワクワクしてきた。
 だって、魚なんて食べたことないんだし。

 川の水がきらっと光った瞬間、

「そこだっ!」

 アレクの声と同時に、
 バシャッッッ!!と大きな水しぶきが上がった。

「おお!!」

 思わず声が出る。

 数秒後、アレクが胸を張って戻ってきた。

 両腕に、でっぷり太った川魚を一匹抱えて。

「ほら捕ったぞー!でかいだろ!」

「……え、すご!!でか!!」

「お前、魚見るのも初めてか?」

 ディーが半分呆れたように言う。

「見たことはあるけど、こう……獲れたてはない……生きてるのとか」

 魚は銀色で、日の光を反射してキラキラしていた。
 少しだけ、魔力の粒みたいなのも見える。

 アレクは得意げに尾びれをぴんぴんさせて言った。

「こいつらは毒なし。焼いたら美味いぞ!」

「焼く!?た、食べられるの!?」

「食べるために獲ったんだろうが!」

 アレクが吠えた。

「野宿の飯にはちょうどいい。火起こすぞ」

「……マジか。初めての魚……!」

 胸が高鳴った。
 渡し船の余韻がそのまま、今度は“初めての夕飯”へのワクワクに変わる。

 アレクが魚を両手に抱え、周りをぐるぐる旋回しながら言う。

「任せろー!今日はご馳走にしてやる!」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

処理中です...