小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

文字の大きさ
81 / 82
第4章 リューべルへの道

穢れた魔力

しおりを挟む

「あ、うん。ごめん俺肉の方が好き」

「まぁ、俺もそうだな」
「だな」

 焼き魚が別に不味いってわけでは無いんだけど、肉の方が噛んだ瞬間じゅわって脂が溢れ出るのとか、肉の味そのものがあるっつぅか、魚は淡白で、味付けした塩の味しかしないっていうか、うん、ともかく肉の方が好き。

 ディーもアレクも俺の意見にむしろ同調してた。うん、肉の方が美味いよな。

「あー、テオランの海辺の街とかならもっと違った料理があるんだが」

「海辺!?」

「あぁ。この国と違って海に出れるからな。漁もするし、色んな魚食うし、何より……」

「「何より?」」

 ディーが言葉をためるなんて珍しい。
 思わず俺とアレクの声が重なった。

「魚を生で食う」

「「……え?」」

 魚を……生で……?

「……なま?」

 俺は思わず聞き返した。
 生って……火を通さずに、ってことだよな?

 アレクは口を半開きにして固まってる。

「おいディー、それ……大丈夫なのか?魔力とか毒とか……」

「調理法を間違えなければな。海辺の街には“捌き方”ってのがあって、骨も内臓も綺麗に取って、身だけを切るんだ」

 ディーはさらっと言うけれど、
 頭の中で想像したらちょっと怖くなってきた。

 生の魚を切って……そのまま……食う……?

「……その、美味いの?」

 聞くしかなかった。
 想像が追いつかない。だって肉は生では食べない。魚は生で食える……?

 疑問がそのまま顔に出てたのか、ディーが笑った。
 なんだよ、その“知ってるやつの余裕”みたいな顔は!

「美味いぞ。脂の乗ったやつなら、肉よりも濃い」

「「濃い!?」」

 俺とアレクの声がまた同時に重なった。

「いやいやいや、魚より肉の方が濃いだろ」

「肉は……肉だぞ?魚とは違う」

 アレクの意見も正しい。
 肉は肉だ。魚は魚だ。
 でもディーは首を横に振った。

「海の魚は別物だ。この川魚とは全然違う。……テオランに行ったら食わせてやるよ」

「……え、マジで?」

 テオランに着いたら生の魚、食わしてくれるの?
 肉派なのに、なんかワクワクしてきた。

 川沿いで食べた焼き魚も悪くはなかったけど、“生で食う魚”なんて想像できない新世界だ。

「でも、まだ旅の途中だろ。今は肉だな」

 ディーが焚き火にもう一本枝をくべる。
 ぱち、ぱち、と火が弾ける音がした。

 アレクが尻尾をぶんぶん振りながら言う。

「じゃあ次はやっぱり狩りだな」

「肉!!」

 気づいたら俺も叫んでいた。
 魚の話してたのに、結局肉の話に戻るのは……まぁ、しょうがない。

 肉は偉大だ。

 焚き火の火がぱちぱちと小さく弾ける。
 肉の話で盛り上がったあと、俺たちはそれぞれ横になったり、座ったりして、川の夜風を楽しんでいた。

 その時だった。

 ぴしゃっ……ぴちゃん……

「……水音?」

 川の音とは違う、“踏みしめる音”が混じっている。

 俺とディーはそれぞれ剣と斧を構えた。

 アレクがふっと肩に飛び乗り、背中の毛を逆立てて小さく唸った。

「……来る。二匹」

 煙みたいに白い揺らぎが、川の方でふわっと膨らむ。
 それがだんだん形を持つ。

 狼だ。
 いや、狼“みたいなもの”。

 身体の半分がもやもやとした魔力の煙に包まれている。

「スモークウルフ……!」

「エル、右の足を狙え。動きを止める」

「了解!」

 もう考えるより先に体が動いてた。

 ウルフが跳んだ瞬間、俺は地面を蹴って横に転がる。
 爪が空を切る。

 立て直すより早く、俺は足元へ滑り込むように踏み込み、後ろ脚に剣を滑らせた。

 ザッ

 手応えが走る。

 ウルフが体勢を崩した、その瞬間

「どけ!」

 ディーの声。

 俺が跳ね退いた直後、
 斧が音を置き去りにして振り下ろされ、スモークウルフは煙になって消えた。

「一体!」

 振り返ると、もう一体がアレクを狙って跳んだ。

「こっちこい!」

 俺はわざと大きく地面を蹴って
 自分の気配をぶつけるように前に出る。

 ウルフが標的を俺に切り替える。

 よし、狙い通り!

 俺が右へ飛んだ瞬間、ウルフも同じ方向へ食いつくように軌道を変えた。

 そっちには……ディーがいる。

「今だ!」

 俺が飛び退くと同時に、
 ディーの斧が左から叩き込まれた。

 煙がぱあっと散る。

 静寂。
 夜風の音が戻ってくる。

 ディーが斧を肩に担いで俺を見る。

「……悪くない」

 心の奥がじわっと温かくなった。

「ほんと!?えへへ……!」

 アレクが肩の上で尻尾をぶんぶん振る。

「今の連携、前よりずっと良かったぞ!」

 確かに今までよりスムーズに動けた気がする。褒められた嬉しさにニマニマしていると、俺はあることに気づいた。

「って、遺体が残らないんだけど!肉は??」

 確かに手応えはあった。確実に斬った。
 でも、今、倒したはずのモヤッとした狼みたいなものの亡骸はない。

「知らねぇのか。こいつは実体のない魔物なんだ」

「……え?」

 実体のない魔物?でも、斬った感触は確かにあったんだけど……。

「実体のない?実態がなければ、俺らが倒さなくても実体が無いんだから、怪我しないんじゃ?」

 なんか言ってて訳わかんなくなってきた。
 実態はない魔物。でも斬った感触はあった。でも遺体は残らない。だって、実体がないんだから。だったら俺らも怪我しないんだし放っておけば良いのでは?ん?でも斬った実感があったんだって、えっと、だから……?

「穢れた魔力は時に集まり、魔物のように実体を伴う事がある。それは、さっきみたいな狼だったり、鳥だったり、時には魚だったり様々だ。実体を伴って、動き襲ってくる。その時は実体がある状態だから、もちろん怪我もする。倒せば元は実体のない存在だ。霧となって消える」

 えっと、襲ってくる時は実体があるって事だから……

「襲ってくるなら倒せって事?」

「ま、そーいう事だな」

「あんま見ることないんだけどなー。穢れた魔力なんて普通自然に浄化されちまうし、残ったとしてもさっきみたいのか、なにかの死体に取り付いてアンデッドもどきくれーだよなー」

 アレクがまた俺の周りを飛びながら説明した。

「アンデッド……もどき??」

 アンデッド。それは死体を魔術で動かして攻撃させる死骸冒涜しがいぼうとくの魔法。
 術者の魔力が切れるか、攻撃できないくらいに細切れにしない限り襲ってくる恐ろしい術。

 でも、今回はアンデッド"もどき"とアレクは言った。

「……術者が居ないから、"もどき"?」

 アンデッドとの違いは術者がいないこと。それがどうして"もどき"になるのかは分からないんだけど。

「そうそう!結局死体に取り付いたって、穢れた魔力自体が無くなっちまえば動かなくなるんだしなー。そもそも死体に取り付くほどの量が浄化されずに残ってる事自体稀だからなー」

「なるほど?じゃあさっき見たいのは時々?見かけるかもしえないけど、アンデッドもどきはほとんどいないって事?」

「ま、そーゆーことー」

 言いながらくるくる飛んで、ぽすっと俺の頭に着地する。
 ずしっと首にアレクの体重を感じた。

 パチパチと爆ぜる焚き火を見やる。
 魔力の氾濫に穢れた魔力か。なんとも言えない気持ちが湧いてきたが、それをどうにか飲み込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

転生したら猫獣人になってました

おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。 でも…今は猫の赤ちゃんになってる。 この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。 それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。 それに、バース性なるものが存在するという。 第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。 

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず
BL
俺は、敵組織ディヴァイアンに所属する、ただの雑魚モブ。 毎回出撃しては正義の戦隊ゼットレンジャーに吹き飛ばされる、ただのバイト戦闘員。 ……の、はずだった。 「こんにちは。今日もお元気そうで安心しました」 「そのマスク、新しくされましたね。とてもお似合いです」 ……なぜか、ヒーロー側の“グリーン”だけが、俺のことを毎回即座に識別してくる。 どんなマスクをかぶっても。 どんな戦場でも。 俺がいると、あいつは絶対に見つけ出して、にこやかに近づいてくる。 ――なんでわかんの? バイト辞めたい。え、なんで辞めさせてもらえないの? ―――――――――――――――――― 執着溺愛系ヒーロー × モブ ただのバイトでゆるーく働くつもりだったモブがヒーローに執着され敵幹部にも何故か愛されてるお話。

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

処理中です...