小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると

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第4章 リューべルへの道

レンガの街

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「この街超えたら、国境まで小さな集落や農村ばかりだ。なんなら国境越えてもしばらく続く」

「へぇ……!」

 俺たちは国内最後の街――国外からの商人や旅人が最初に立ち寄る"玄関口"でもあるアーンクレイにたどり着いた。道中では、何度か魔獣や魔物に遭遇したが、俺とディー、時々アレクを加えた連携で危なげなく進むことが出来た。

「すごい!レンガの街だ!」

 街に一歩足を踏み入れた瞬間、
 焼けた土の、レンガ独特の香ばしい匂いと、赤褐色に染まった積み上がったレンガの景色がぱぁっと広がった。
 道も建物もすべてレンガでできていて、夕陽に照らされたようにほんのり赤く輝いている。

 初めて見る光景に、心が一気に浮き立った。

 駆け出しそうになったところを

「おい、まずは宿だ」

 の一言で慌ててストップ。一緒に耳のうぶ毛もぴくっと動いて、俺は小走りになりながらディーの背中を追った。

 今までの街は道を跨ることはなく、街の入口から奥に向かって広がる形だった。
 けれどこの街――アーンクレイは違う。
 王都から伸びる大きな街道を中心に外側へと広がっている。
 そのせいで、街道を歩き続けるならまずは街に入らなくてはならない。街に入らないのなら大きく迂回をしなくては行けないんだけど、その必要があるのは後ろめたいことのある人だけ。

 もちろん俺たちは難なく検問を通り抜けて、今に至る。

「宿はここだな」

 とりあえず目についた宿屋に入る。
 レンガ調の建物だが、宿屋の看板、扉、窓枠など所々に木を使っていて暖かい感じの建物だった。

「外観からしてオシャレなんだけど」

 ノルデンとは街からして趣が全く違う。こんなオシャレな宿屋なんて高そうと思ったけど、周りを見渡しても似たような建物ばかり。
 オシャレだから高級とかじゃなくて、そういう街、って事なんだよね。

「いらっしゃい」

 扉をくぐると大きな耳のネズミのおばちゃんが出迎えてくれた。

 ベッドが2つのいつもの部屋をとる。
 最近アレクがカバンからはみ出るくらいにでかくなってきたから、次こそはベッド3つの部屋にしないといけないかもしれない。そうしないと俺の寝る場所がなくなる気がする。

「あー、ベッド最高ー」

 部屋に入った途端、ベットに吸い寄せられた。倒れ込むとぎし、と抗議の声を上げながらも俺を受け止めてくれる。
 野宿は野宿で狩りとか焚き火とか楽しくて好きだけど、ベッドで寝れないのがね。やっぱりベッドで寝ないと疲れは取れない。

「おぃ、寝るなよ」

「寝ない!寝ない!」

 ディーの言葉に慌てて飛び起きた。
 ……気が抜けて、脱力しかけていたことを必死に取り繕う。

「この先、国境を超えてからも必要な物資が手に入るとは限らない。ここで揃えていくぞ」

「おぅ!」

 そっか、国境を越えるんだ。それはある意味山越えを意味する。本格的な冬を迎える前にテオランで宿を取りたいって言ってたからな。のんびりしている暇はない。

 今の季節は夏。ノルデンみたいに冬は雪が沢山降る地域は脱したけれど、寒い中の野宿は最悪生死に関わる。本格的に寒くなる前に山を超えたいのは皆同じ。

 そんなわけで、山越えの装備を売ってる店もまぁ繁盛しているわけで。

「くそぅ、宿で昼寝しているアレクが羨ましい」

 人がひしめく中、ついポロッと愚痴が零れる。
 山越えの装備なんて俺には全く分からないので、ディーの説明の中、それっぽいのを選んでいく。

 山越え等のブーツ、手を守るグローブ、雨を弾くマント。普段触れない装備ばかりで、見ているだけでも胸が高鳴った。
 でも、見ているだけじゃなくて、選ばなくちゃ。
 最悪命に関わるとディーに言われたので、しっかりした素材で作られたもので、自分にしっくりと合うものを選んだ。

 今まで森といっても浅い所ばっかりで山に入ったことはない。しかも今回は国境を越えるいわゆる山越えだ。揃えた装備を眺めるだけでもワクワクしてくる。

「次は武器屋だ」

 休んでる暇なんてなく、次は武器屋だ。

「俺は整備に出すけど、お前はどうする?」

「うーん……」

 今の俺の剣は、家から持ってきた“刃を潰していない鍛錬用”。
 整備らしい整備もしてないし、本気の戦い向きじゃない。
 懐もあったかいし、この機会に新調するのもありだよな……と考えていたところに、

「背も伸びてるし、この際新調したらどうだ?」

「え、俺背ぇ伸びた!?」

 思わず声が弾んだ。
 ディーがそう言うなら間違いない。うへへ!

「なんだ、自分で気づいてねぇのか」

「えへへ。俺はもっとでかくなる。いずれディーも越える」

「そうか」

 興味なさそうに視線を商品に戻したディー。
 ちぇ……背が伸びたって言ってくれたくせに。

 でも、ディーが“買い替えろ”と言うなら、それが正解なんだろう。

 そう思いながら、片っ端から剣を握っていく。
 手に収まる感じ、重量、重心、刃の幅……どれも悪くないけど決め手がいまいち。

 数え切れないくらい持ち上げて、そろそろ腕が疲れてきた頃

「あ、これいいかも」

 今までとは違う“ぴたり”とした感触の剣に出会った。

 手に吸い付くように馴染む。
 持ち上げれば少し重い。でも、すぐ慣れる重さ。
 長さは……ちょっとだけ長い?
 けど違和感じゃない。“未来の俺”にはむしろ丁度よさそう。

 迷っていると、おっちゃんが声をかけてきた。

「坊主、気になるなら裏で振ってみてもいいぞ」

「うん!ありがとう!」

 店の裏で構えてみる。

 ……お?

 さっき感じた重量が、構えた瞬間すっと消えた。
 長さも気にならない。いや、むしろ心地いい。

 ブンッ

「……っ!!」

 空気を裂く感触が手にびりっと伝わった。
 抵抗が少なく、でも芯が通っている。
 細身で扱いやすくて、振り抜いた瞬間に“これだ”って分かる。

 あぁこれだ。
 絶対これ。
 もう他の剣なんて眼中にない。

「おっちゃん!俺これにする!!」

「まいど!」

 それから、肉屋で干し肉を買ったり、道具屋で細々としたものを揃えたりしてから宿に戻った。

 夕飯までの間、部屋で荷物を広げて整理する。

 テーブルに買い込んだ干し肉を広げて、ディーがポツリとこぼした。

「あー、やっぱりもうちょっと干し肉は買っておいた方がいいか」

「え、まだ足りない?」

 いつもより多めに買い込んだと思ったんだけど。
 まだ足りないのか、ディーは干し肉を見つめながら続けた。

「国境越えまではまだ距離があるしな。狩りが毎回成功するとも限らねぇし、腐らなねぇもんは多いに越したことねぇだろ」

 ディーの実用主義が滲む言葉に「あー、確かに」とうなづいた。

「じゃあ俺が今から買ってこようか!?」

 ふと思い立って声を上げる。

 だってディーはこの後整備をしてもらった斧を受取に行かなくちゃいけないし、俺は特にこれといった用事は無い。1度ディーと一緒に買いに行ってるし、大丈夫だろう。

 それに、肉屋に行くまでに美味しそうな出店が沢山並んでた。買って食べたい欲ももちろんある!

 俺はルンルンで出かける用意を始めた。

「場所は大丈夫か?変な寄り道すんなよ?干し肉だけ買って帰って来い。大袋1つ。間違えんなよ?」

「大丈夫大丈夫!俺もう見習い卒業したんだっての!チャチャッと行ってくる!」

 なんだか必要以上に心配された気がするけど、気にせず宿を飛び出した。

 夕陽色に染まった街は昼間とはまた違った装いで俺の気持ちをワクワクさせる!

 さぁて、何を買い食いしよっかなー!



 ーーーーーーーーーーーーーー

 皆様いつも読みに来てくださってありがとうございます!!!

 ちょっと仕事が大変で今年中の更新が心の底から分かりません!不定期更新がさらに亀の勢いになる気配があり、誠に申し訳ございません!

 一応年内も書けたら更新!の予定ですが、本当に分からなくて……すみません。

 皆様風邪、インフルにはお気をつけてお過ごしくださいませー(・ω・)ノシ
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