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第1話
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「君を信じた僕が馬鹿だったというわけか…。やはり最初からリリアーナの事だけを信じていればよかったんだ…」
わかりやすく不機嫌そうな表情を浮かべながら、私の婚約者であるルーグル様はそう言葉を発する。
伯爵としての位をもつ貴族様である彼が、このような形で不機嫌さをアピールするのは珍しい。
本当の彼を知らない人々は口をそろえてそう言葉を発するけれど、私に言わせれば彼のこんな姿は日常的に当たり前の姿だった。
「エリナ、君はなぜこの場にいる?なぜ僕の婚約者になったのだ?すべては僕の心を満足させてくれるためのものだったのではないのか?君がそういうつもりだったからこそ、僕は君の事を婚約者として受け入れることを決めたんだぞ?にもかかわらずこのような体たらく、恥ずかしいとは思わないのか?」
非常に高圧的な口調でそう言葉を発するルーグル様。
まるで私がすべて悪いような言い方だけれど、そこに本当の真実は一切含まれていなかった。
そもそも私がルーグル様と婚約を結ぶことになったのは、彼の方から関係を持ち掛けられたからだった。
それまではただの平民として、ごく普通の生活を送っていた私。
しかしある日、そんな私の事を偶然街で見つけたルーグル様が私に話しかけてきて、それをきっかけにして私たちの関係は始まった。
「エリナ、君がここに来てくれた時はリリアーナも大いに喜んでいたのだがなぁ…。どうして彼女との関係を良いものにすることが出来なかったのか…」
ルーグル様が私をここに招き入れた一番の理由は、そこにあった。
彼は自身の妹であるリリアーナの事を心から溺愛しており、彼女のいう事ならなんだって聞いていた。
彼女が宝石が欲しいと言えばすぐに宝石を買いそろえ、お城が欲しいと言えば近くのお城を丸ごと用意することさえもあったほど。
私はそんなリリアーナの遊び相手をするという形でここに呼ばれることになり、ルーグル様が私に期待していたのはただただそれだけだった。
けれど、そんなある日の事、ルーグル様は大きな誤解をその心の中に抱いたのだった。
リリアーナの事を溺愛している彼ならまだしも、私は彼女の激しい性格に付き合ってあげられるほど彼女に対して愛情を抱いてはいなかった。
だからこそ、いやなものには嫌だと言ったし、誰かに迷惑をかけるような事には付き合えないと彼女の言葉を断ることもあった。
…すると彼女は、私に対して執拗ともいえる嫌がらせを始めたのだった。
「リリアーナだって、最初は君との関係を楽しんでいたじゃないか。この僕を嫉妬させるほどにな。それがまさか、これほどに関係を悪いものにしてしまうとは…。エリナ、君にはむしろそういう才能の方があるのではないか?」
しかし、このルーグル様は嫌がらせをしてくるリリアーナと私の関係を、なぜか非常に仲が良いものだと認識するようになり、次第に私に対して嫉妬心を抱き始めた。
その果てに彼は、自身と私との関係を婚約者とすることを決めた。
そうすれば私とリリアーナの関係は義理の姉妹という事になり、ルーグル様と私の関係は夫婦という事になるため、私の時間をリリアーナから自分の元へと割《さ》こうとしたのだろう。
…初めから私とリリアーナの関係など、良好でもなんでもないというのに…。
「エリナ、残念だが君との婚約関係はもう終わりにさせてもらうことにしたよ。この話はすでにリリアーナにも相談していて、僕たち二人で話し合ったうえで決めたことだ。当然君に拒否権はない。…せっかく若き伯爵たる僕との婚約関係を結ぶに至ったというのに、こんな形になってしまって後悔しかないことだろうが、まぁそれも自分が招いたことだから仕方がないよな?」
まるで私がルーグル様との婚約を心待ちにしていたかのような言い方。
私にそんな思いなんて少しもないというのに、その自信は一体どこから湧いて出てくるのだろうか?
「リリアーナは最初僕に言っていた…。エリナとの婚約はやめておいた方がいいと…。今になってその意味がよくわかったよ。こんな形で僕の思いを裏切ってくるなどとは、とても思っていなかったのだからな」
「……」
…今までは完全に向こうの言いたいように言われ続けている私。
少しくらいは反論したっていいよね??
「ルーグル様、お言葉ではありますが、ルーグル様はリリアーナに心酔しすぎなのではありませんか?」
「はぁ?」
「正直言って、妹の事を溺愛する兄が受け入れられるのは子どもの時だけではありませんか?伯爵家の長になってもなお何よりも妹のわがままを優先されるだなんて、普通に考えて気持ち悪いとは思いませんか?」
「……」
「これは私の主観ではありませんよ?他の方に話を聞いたって間違いなく同じことをおっしゃられると思います。私のいう事の方がリリアーナよりも正しいと思いますけれど」
「うるさい!!!!!!」
…ルーグル様はこれまでにないくらい大きな声を出し、私の言葉を途中で遮った。
「お前とリリアーナの言っていることと、どちらが正しいかなど子どもでもわかることだ。婚約破棄されるのが悔しいからと、負け惜しみを言っても、なんにもならないぞ?もうこの決定を覆すことなどないのだからな。わかったらさっさと自分の運命を受け入れて、ここから立ち去れ。まったく下品な女め…」
…非常に強気な口調でそう言葉を発したルーグル様。
その言葉が後々、自分の胸に突き刺さることになるという事を、この時の彼はまだ知らないのだった…。
わかりやすく不機嫌そうな表情を浮かべながら、私の婚約者であるルーグル様はそう言葉を発する。
伯爵としての位をもつ貴族様である彼が、このような形で不機嫌さをアピールするのは珍しい。
本当の彼を知らない人々は口をそろえてそう言葉を発するけれど、私に言わせれば彼のこんな姿は日常的に当たり前の姿だった。
「エリナ、君はなぜこの場にいる?なぜ僕の婚約者になったのだ?すべては僕の心を満足させてくれるためのものだったのではないのか?君がそういうつもりだったからこそ、僕は君の事を婚約者として受け入れることを決めたんだぞ?にもかかわらずこのような体たらく、恥ずかしいとは思わないのか?」
非常に高圧的な口調でそう言葉を発するルーグル様。
まるで私がすべて悪いような言い方だけれど、そこに本当の真実は一切含まれていなかった。
そもそも私がルーグル様と婚約を結ぶことになったのは、彼の方から関係を持ち掛けられたからだった。
それまではただの平民として、ごく普通の生活を送っていた私。
しかしある日、そんな私の事を偶然街で見つけたルーグル様が私に話しかけてきて、それをきっかけにして私たちの関係は始まった。
「エリナ、君がここに来てくれた時はリリアーナも大いに喜んでいたのだがなぁ…。どうして彼女との関係を良いものにすることが出来なかったのか…」
ルーグル様が私をここに招き入れた一番の理由は、そこにあった。
彼は自身の妹であるリリアーナの事を心から溺愛しており、彼女のいう事ならなんだって聞いていた。
彼女が宝石が欲しいと言えばすぐに宝石を買いそろえ、お城が欲しいと言えば近くのお城を丸ごと用意することさえもあったほど。
私はそんなリリアーナの遊び相手をするという形でここに呼ばれることになり、ルーグル様が私に期待していたのはただただそれだけだった。
けれど、そんなある日の事、ルーグル様は大きな誤解をその心の中に抱いたのだった。
リリアーナの事を溺愛している彼ならまだしも、私は彼女の激しい性格に付き合ってあげられるほど彼女に対して愛情を抱いてはいなかった。
だからこそ、いやなものには嫌だと言ったし、誰かに迷惑をかけるような事には付き合えないと彼女の言葉を断ることもあった。
…すると彼女は、私に対して執拗ともいえる嫌がらせを始めたのだった。
「リリアーナだって、最初は君との関係を楽しんでいたじゃないか。この僕を嫉妬させるほどにな。それがまさか、これほどに関係を悪いものにしてしまうとは…。エリナ、君にはむしろそういう才能の方があるのではないか?」
しかし、このルーグル様は嫌がらせをしてくるリリアーナと私の関係を、なぜか非常に仲が良いものだと認識するようになり、次第に私に対して嫉妬心を抱き始めた。
その果てに彼は、自身と私との関係を婚約者とすることを決めた。
そうすれば私とリリアーナの関係は義理の姉妹という事になり、ルーグル様と私の関係は夫婦という事になるため、私の時間をリリアーナから自分の元へと割《さ》こうとしたのだろう。
…初めから私とリリアーナの関係など、良好でもなんでもないというのに…。
「エリナ、残念だが君との婚約関係はもう終わりにさせてもらうことにしたよ。この話はすでにリリアーナにも相談していて、僕たち二人で話し合ったうえで決めたことだ。当然君に拒否権はない。…せっかく若き伯爵たる僕との婚約関係を結ぶに至ったというのに、こんな形になってしまって後悔しかないことだろうが、まぁそれも自分が招いたことだから仕方がないよな?」
まるで私がルーグル様との婚約を心待ちにしていたかのような言い方。
私にそんな思いなんて少しもないというのに、その自信は一体どこから湧いて出てくるのだろうか?
「リリアーナは最初僕に言っていた…。エリナとの婚約はやめておいた方がいいと…。今になってその意味がよくわかったよ。こんな形で僕の思いを裏切ってくるなどとは、とても思っていなかったのだからな」
「……」
…今までは完全に向こうの言いたいように言われ続けている私。
少しくらいは反論したっていいよね??
「ルーグル様、お言葉ではありますが、ルーグル様はリリアーナに心酔しすぎなのではありませんか?」
「はぁ?」
「正直言って、妹の事を溺愛する兄が受け入れられるのは子どもの時だけではありませんか?伯爵家の長になってもなお何よりも妹のわがままを優先されるだなんて、普通に考えて気持ち悪いとは思いませんか?」
「……」
「これは私の主観ではありませんよ?他の方に話を聞いたって間違いなく同じことをおっしゃられると思います。私のいう事の方がリリアーナよりも正しいと思いますけれど」
「うるさい!!!!!!」
…ルーグル様はこれまでにないくらい大きな声を出し、私の言葉を途中で遮った。
「お前とリリアーナの言っていることと、どちらが正しいかなど子どもでもわかることだ。婚約破棄されるのが悔しいからと、負け惜しみを言っても、なんにもならないぞ?もうこの決定を覆すことなどないのだからな。わかったらさっさと自分の運命を受け入れて、ここから立ち去れ。まったく下品な女め…」
…非常に強気な口調でそう言葉を発したルーグル様。
その言葉が後々、自分の胸に突き刺さることになるという事を、この時の彼はまだ知らないのだった…。
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