忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第8章:アルカノア農場戦記 ~因縁の戦い~

第105話 君を縛るもの

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 デカい兵士に抱えられたまま、玄太は裏手の停船所へ連れて行かれる。

「こらぁぁぁ!てんぱいをあのままにしとく気かぁ!!」

「うるせえ!大人しくしてろ!」

 バシィ!!

「うああっ!!」

 抱えられながら、思いきりケツを引っ叩かれた。

「いってぇ……ってか、裏に船ってマジ!?」

 振り返ると、倉庫のすぐ向こうに停泊している小型の船。その現実に、背筋がぞわっとした。

(これ、やばい!海に出たら、もう戻れない!!)

「くそ!本来ならこの地下で喰わせる予定だったが、番狂せだぜ!」

(喰わせる?そういや、さっきも餌って!?)

 甲板に近づくにつれ、心臓がどんどんバクバクしてくる。なんとか抜け出そうと暴れるが、敵兵の腕はまるで鉄みたいに動かない。

「やだッ!やだやだぁ!!てんぱいを置いてくなんて、ぜっっっったいやだ!!」

「うるせえ!あいつは危険だ!このまま放置する!」

「ほ、放置……!?」

「くくっ!あの鎖はなぁ、暴れる竜ですら封殺する。餓死するまで、ずーっとあのままだ!」

「餓死って、死ぬまであのまま?おれのてんぱいが?」

 蘇る地下のヴィジョン。

 大好きな人が、暗くて冷たい地下で、あんなふうにひとりぼっちで、動けなくなってるなんて。

 そんな姿、一生に一度だって見たくなかったのに。

「んなわけあるかあああああ!!てんぱいがひとりで泣いてんだよぉぉぉ!!」

 自分のせいで、てんぱいをあんな目に遭わせたこと自体が、もう、死ぬほど悔しくて、苦しくて……。

 そのときだった。

「ッがぷぅ!!」

「ギャッ!!?」

 クータンが兵士の腕に飛びかかり、ガブリと噛みついた!

「不味い!甘乳パンとは比べモノにならん!」

「クータン!!ナイスすぎる!!」

 兵士が腕を振り回し、クータンを振りほどこうとする。玄太はその隙に体をひねり、なんとか振りほどく。

「ぬ、逃がすか!!」

 しかし、別の兵士が玄太の足を押さえ込んだ。

「うわっ!?しつこっ!!離せぇぇぇ!!」

 クータンの一撃虚しく、逃亡チャンスを逃した玄太。

「クータン!!てんぱいのとこ行けぇ!!お前だけでも、てんぱいの側に!!」

「……ふむ!」

 クータンは鋭く返事をすると、玄太の胸元から飛び降りた。

 ぴょん。ぴょん。

 兵士の隙間をすり抜け、倉庫の中へ一直線。

「おい、なんだこの仔牛!?止めろ!!」

「無理だって!速すぎるっ!」

 跳ねるように物陰を渡りながら、クータンは地下への階段へ飛び込んだ。

「クータン……!お願い、てんぱいを!てんぱいを、頼むっすよ……!」

 ボロボロと涙がこぼれる。

「絶対、ひとりにしないで!絶対……!」

*****

 俺は、冷たく湿った地下で、封魔鎖に縛られたまま目を覚ました。

「……っ……なんだ、この鎖……重てぇ……!」

 鎖は鉛みたいに重く、体の奥まで冷たさが染み込んでくる。なんだよこれ、拷問か?

「ちくしょう……力、入んねぇ……」

 息を吐くと、白い霧がふわっと漂った。

 しんと静まり返った地下。壁越しに、どこか遠くで波の音がかすかに響く。

 鼻につくのは、鉄が錆びたみたいな嫌な匂い。鼻、曲がりそう。

「……なんで、こんなに……人が……」

 視線の先、暗がりの床に広がる黒い染み。乾ききらず、じっとり光っている。

 あれ全部、人の……か?

 こんな場所で、俺は一人だ。

「……俺もこのまま……ここで死ぬ……?」

 口にした瞬間、心臓の奥がぞわっと冷えた。笑えねぇ冗談だ。

 玄太の声も、足音も、何も聞こえない。

「……お~い……玄太ぁ……」

 返事はない。自分の息遣いだけがやけに耳に残る。やけにデカく響くな、ここ。

「……くそ!二度と会えないとか……笑えねぇぞ」

 そのとき、階段の上から軽い音が降りてきた。

 コツ、コツっと、蹄が床を打つ、小さくて確かな音。

 暗がりから、ぴょこんと小さな影が現れる。

「え?クータン……?」

「ぬしか…天貴に戻ったようじゃの」

 ああ、1人じゃない!良かった……って、いや、安心してる場合か。

(てか、俺に戻ったって?なんだ?)

「ってか、玄太は!?」

「ふむ。デカい水の上の舟に乗せられた」

「なっ!じゃあ、急がねえと……!クータン、この鎖……どうにかなんねぇかな?」

 クータンはじっと天貴を見て、こくんと頷く。

「お、お前……できるのか!?」

 一筋の希望が胸をよぎる。

 おもむろにクータンは鎖に手を……いや、蹄を伸ばす。

 ──バチッ!!

「ぷぎゃっ」

「……えっ?」

 クータンは軽く弾かれ、蹄をふーふー吹きながら首をかしげた。

「いや、無策かよっ!!」

 身体は重いけど、突っ込まずにはいられなかった。いや、そもそもクータンが封印解除とか知ってるわけがなくて、頼ったのがバカだったか。

「ふむ。これは、我の知る術ではない」

「……そっか」

 握った拳が震える。玄太を助けに向かいたいのに、どうすればいいのか、何もわからない。

 その時。

 カツン……カツン……

 階段の上から甲冑の軋む音。そして澄んだ声が響いた。

「器様に、我が名を呼ばれた気がした……」

 その声にクータンがヒョイと視線を移した。

「ほう、雄が来たの」

「雄って……リオックか!?」

 青い鎧の男が颯爽と降りてくる。

「て、天貴殿!?なんというお姿!!」

 そして、俺を縛る鎖を見るや、すぐさま険しい顔になる。

「む!?これは封魔鎖!帝国が竜狩りに使う、禁忌の鎖……!」

「さすがは人の雄。騎士なだけある」

「ああ!だな……!で、解除出来そうか?」

「やりますとも。器様を捕える不浄は、我が騎士の使命において、必ずや清めてみせましょう」

 リオックは鎖に向かって手をかざす。指先から青白い輝きが走る。

「セラフィックブレード!」

「おお!?リオックのアストラか!?」

「愛と忠誠にかけて!器様を縛る穢れ、今ここで断ち切る!!」

 空気が震える。天から降る光の剣が鎖を貫こうとした、その瞬間。

「……玄太が、待ってる!」

 弱々しい声が、鎖の中から漏れた。

 その言葉にリオックの瞳がかすかに揺れる。

「…………………御意」

 ──ガキィィィン!!

 金属の裂ける轟音と共に、鎖が火花を散らし、絡まった束がほどけていく。
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