忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第9章:アルカノア農場戦記 ~器を満たす者~

第131話 神の器VS闇の器

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 黒い光の中でエクリプス・ブレードがカタカタ不気味に震えていた。

「……まだ終わってねぇってのかよ」

 思わず口をついた俺の声に、アリスが強く首を振った。

「天貴、気を付けて!」

 その声と同時に、剣は勝手に浮かび上がった。もう完全に生き物だ。

「ああ……ただの武器じゃねえ」

 キィィィィ……と耳障りな音。刀身がぐにゃりと捩じれ、刻まれた紋様がまるで心臓みてぇにドクドク脈打ってやがる。

(……嫌な予感しかしねぇ。今のうちに主を仕留めねぇと……!)

 俺はブルーストライクを握り直し、血溜まりに転がるゲドへ飛び込んだ。

「天貴っ!?」

 アリスの叫びが背中に届く。だが構ってられるか。

(構わねぇ、この一瞬しかねぇ!)

「うおおおおォォォォッ!!」

 振り下ろしたブルーストライクの刃が、ゲドの胸を貫こうとしたその時。

 ガァンッ!!

 目の前に火花が散った。

「な……!?」

 間に割り込んできやがったのは、宙を漂っていたエクリプス・ブレードだ。

「け、剣が、ゲドを……守った!?」

 クソッ、あり得ねぇ。こいつ、意志を持つ生き物みたいに、俺の攻撃を受け止めやがった。

 ズズズズッ……!

 次の瞬間、剣は黒い靄を撒き散らしながら、倒れてるゲドの手へ吸い込まれていく。

「なっ……!?まさか!?」

 ピクッ……。

 血溜まりに沈んでいたゲドの指が、わずかに動いた。

「ぐ、ぅぅ……あ、あぁぁ……」

 潰れた肺から搾り出すように声を漏らすゲド。

 そして――。

 ドクンッ!!

 エクリプス・ブレードの刀身が光り、ゲドの全身に黒い脈が走った。折れた骨がゴキゴキ繋がり、裂けた肉が黒い糸で無理やり縫い合わされていく。

「バカな……あいつ……剣と一体化しやがったのか!?」

 俺は息を呑んだ。

「……ふ、ふは……ははははは!!」

 ゲドの口角が血で濡れながらも吊り上がる。

「これだ……!これこそが……闇の力……!」

 よろめきながらも、あいつは立ち上がった。手には禍々しく脈動を続けるエクリプス・ブレード。

「くっ……!」

 俺が後退りした瞬間、黒煙が蛇みたいに伸びてきて足に絡みつこうとする。

「天貴!!」

 あっぶねえ……!アリスが俺の腕を引っ張ってくれなきゃ、絡め取られてた。

 黒煙は地を這い、触れた岩をジュゥゥゥ……と溶かしやがる。焦げ臭え匂いが鼻を突いて、視界が歪む。

「な、なんだよこれ……硫酸か!?」

 顔をしかめる俺を、ゲドがゆっくり見上げてきた。

「その目、もう人間じゃねぇな」

 漆黒に濁った眼窩に、赤黒い光が宿ってやがる。

「見ろ……!俺は選ばれた……!神をも超える“闇の器”としてなァ!!」

 ゲドが剣を振りかざす。瞬間、凶悪な衝撃波が叩きつけられた。

 ドゴォォォォンッ!!

 空気が裂け、大地が抉れる。吹き荒れる黒風にアリスが悲鳴を上げた。

「きゃあっ!」

「アリスッ!……か、風!!」

(ドックン……脈動する背中の天秤)

 咄嗟に抱き寄せ、ブルーストライクを振り上げる。突風を巻き起こして防御の陣を張る。

「ぐっ……おぉぉぉ……!!」

 腕に響く衝撃で骨が軋む。だが、踏ん張るしかねぇ。

「く……くく……ギャハハハハ!!」

 ゲドが血まみれの顔で狂ったように笑いやがる。

「神の器ァァ!お前の血も、肉も、魂も、全部この闇に喰わせろォォ!!」

 黒煙が渦を巻き、背に羽みてぇな影を作っていく。怨嗟と憎悪の塊そのものだ。

(……逃げ場なんざねぇ。ここで決めるしかねぇ!)

 ゲドの眼窩が赤黒く光り、黒煙がさらに噴き上がる。足元の地面が焼け焦げ、ひび割れていく。

「死ねぇぇぇぇぇ!!!」

 黒剣が振り抜かれ、無数の闇刃が飛び散った。

 シュババババッ!!

 空を切り裂く黒刃の雨。

「くそっ!雷雨っ!!」

 叫びと同時にブルーストライクを振り上げる。頭上の雲が裂け、稲光と豪雨が一気に叩きつけられた。

 バリバリバリッ!!ザァァァァァッ!!

 雷で闇刃を焼き払い、雨で黒煙を散らす。

「フハハハハッ!小賢しい!」

 ゲドの野郎は、間髪入れず剣を一閃しやがった。俺が呼んだ雨雲なんざ、ズバッと真っ二つだ。

 ズドォォォォンッ!!

 空が裂け、雷も雨も一瞬で消え失せる。ゲドは血塗れの顔で笑いながら、黒剣を掲げた。

「ハァァ……見せてやる、闇の真髄をなァ!!」

 ゲドの黒剣がギギギ……と嫌な音を立て、刀身が脈打ちやがる。

 その瞬間、黒い靄が膨れ上がり、ドバァッ!!っと無数の怨霊が剣から噴き出した。

 ギャアアアアアアッ!!

 数え切れねぇ断末魔。顔も形もない亡者どもが渦を巻き、一斉に俺へ突っ込んでくる。

「うわっ――!」

 とっさに飛び退いた。次の瞬間、怨霊がぶち当たった木がバサァッと枯れ落ち、黒い灰になって崩れ落ちた。

「やべぇ……!これ、直撃したら、生命力ごと吸われる!」

「ええ!天貴、風で反らして!!」

「分かった!……突風!(っつ……背中が)」

(ドックン……脈動する背中の天秤)

 俺もブルーストライクを振り抜き、烈風をぶちかます。

 バシュウゥゥッ!!

 怨霊の群れをまとめて吹き飛ばした。

 ……だが、その瞬間だった。

「甘ェなァ!!」

「なにっ!」

 俺が怨霊を避けたスキを狙って、ゲドの野郎が黒剣を振り抜いてきた。

 ゴォォォンッ!!

 真横から迫る闇刃。やべえ!これ、避けきれねぇ……!

 ザシュゥゥッ!!

 黒い閃光が、俺の背中を切り裂いた。

「ぐあぁぁぁぁっ!!」

 焼け付くような痛みが一気に走る。血が噴き出したわけじゃねぇ。皮膚の下から肉が焦げるみたいに熱く、骨まで焼かれてる感覚だ。

「天貴っ!!」

 アリスの叫びが遠くに聞こえる。視界がチカチカして、足が勝手にふらつく。

 ドックン……!!

 その時、突然頭の中にもやがかかったような感覚に襲われた。視界の端が暗く滲み、耳鳴りがゴォォと鳴り響く。

(クソ……!い、意識が……飛ぶ……!)

 握ったはずのブルーストライクが遠くに感じる。手の感覚も、地を踏みしめる足の力も、どんどん抜けていく。

 ガサッと音がして、アリスが駆け寄ってきた。

「天貴、斬られた背中見せて!」

 無理に体を捻って見せると、アリスの指が裂けたツナギを掴み、剥がすようにめくった。

「え……!なに、これ……」

 アリスの声は震えてかすれた。指先が俺の背を押さえたまま、びくびく震えている。

「な、なんだ……よ……傷、やべえのか?」

 意識が飛びそうな中、アリスは俺に答えられなかった。

 ――裂けた布の下に現れたのは、恐ろしいほど真っ赤に染まった天秤だった。
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