忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥

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第9章:アルカノア農場戦記 ~器を満たす者~

第132話 引き金

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 その頃。玄太はリオックを背負い、半壊した屋敷の地下へ降りていた。

 コンバインの背には、丸焦げになったラクター。地下に駆け込んだ瞬間、誰もが息を呑む。

「コンバイン、それって……まさか……?」

 コンバインは小さくうなずいた。

「はぁ?それがラクターさんだって言うのか?うそだろ……!」
「おい、大丈夫なのか!?」

 仲間たちの声が一斉に上がり、すすけた空気に不安と絶望が広がる。

「……シーダ。隊長を……隊長をたのむ!!!」

 コンバインは歯を食いしばり、背中の重みを支えながら必死に言った。

「ええ……!手を尽くしましょう!!」

 シーダがすぐに駆け寄り、ラクターの体を受け止める。仲間たちは青ざめた顔で固まっていた。

 玄太は重傷のリオックをソファに寝かせると、誰かが口を開いた。

「で、ゲドは……?」

「上は……、農場はどうなっちまってるんだよ!」

 重苦しい空気を破った問いに、誰も答えられない。だがリオックが弱々しく顔を上げた。

「……天貴殿が……一人で踏ん張っている……!」

 その言葉が玄太の胸を突き刺す。

「さすが神の器だ!」

「神の器ならなんとかしてくれるぜ、きっと!」

 自分勝手な農夫たちの期待と、何もできない自分に悔しさがこみ上げる。

(……ざけんな。てんぱいが一人って、そんなの持つわけねぇだろ)

 無茶なスカイリンクを使っているに決まってる。あの力で、全部背負い込もうとしている。

(このままスカイリンク使ってたら、てんぱいの天秤がMAXになっちゃうじゃん……!)

 奥歯を噛みしめ、血が滲むほど拳に力を込めた。

(いや待って。マジでMAXになったらどうなっちゃうんだ?)

 息を詰め、拳を固く握った。

「……そんなんダメだ!」

 突然声を荒げる玄太に周りの皆が注目する。

「玄太、どうした?」

 仲間の声が飛ぶが、玄太は答えなかった。

「このままじゃてんぱいが……危ない!」

 言葉が勝手に口を突いて出る。

 わかる。このままてんぱいがスカイリンクを使えば、本当に取り返しがつかなくなる。

「コンバインさん、リオックさんお願いします!……俺、行くっす!!」

 返事を待たずに、地上への階段を駆け上がった玄太。

「な…、玄太!?待て、外は危険だ!」

 玄太を呼び留める声を背に、玄太は天貴の元へ飛び出した。

 *****

 一方その頃――。

 俺は膝をつきかけながら、必死にブルーストライクを支えていた。背中の痛みは焼けつくようで、頭の奥はずっとゴォォ……と耳鳴りが鳴りっぱなしだ。

「はぁっ……はぁっ……くそ……!」

 視界の端で、ゲドが余裕の笑みで立っている。相変わらずムカつくぜ。

「さぁ……おとなしく喰われるがいい……」

 闇をまとったゲドが低く笑う。エクリプス・ブレードがドクン、ドクンと脈動し、空気まで揺れてやがる。

(どうする……玄太……)

「天貴!?しっかりして……!天貴!………んき!」

 アリスの声が遠くに霞んでいく。

(玄太……俺、どうしたらいい……!!?)

 頭ん中がぐらぐら沈んで、視界の端が黒く滲む。ああ、もうだめか……そう思った、その時だった。

「…………てんぱーーっ!!」

 胸にガツンとぶち込まれる。稲妻みてぇな声。俺が一番聞きたかった声。

(……え……玄太!?)

 瓦礫を蹴っ飛ばし、埃まみれの相棒が飛び込んできやがった。

「てんぱいっ!!」

 その声で意識がビリビリ戻ってくる。胸が熱ぇ。けど同時に喉から勝手に叫びが漏れた。

「ば、ばか……!なんで来た……戻れって……!」

 けど、玄太の足は止まらねぇ。真っ直ぐ俺を見て走ってくる。足音一つ一つが、俺の耳に突き刺さる。

「ん?……おまえ、見覚えがあるぞ」

 ゲドのいやな笑い。玄太を射抜く目が細くなる。

「ああ……あの時の人質。クク……いいことを思いついた」

「お前、ゲドとかいう悪者!?その姿、悪魔に魂でも売ったんすか!?」

 初めて見るゲドの人外の姿に、玄太の直球の感想。うん、俺もそう思う。

「……だ、黙れ!子豚!!」

 次の瞬間、黒煙が蛇みてぇに絡みつき、玄太の体を締め上げた。

「うあっ……ぐっ……!」

 玄太の苦しむ声。アリスの悲鳴。視界は霞んでるのに、分かっちまう……玄太が捕まった。

「………や、やめ……ろ……!」

 俺の必死の形相に、ゲドは愉快そうに嗤いやがる。

「ほう?やはり、その反応……器をただ殺すだけじゃ退屈だったところだ……」

 黒剣の切っ先が玄太の肩に触れた瞬間――

 ザシュッ。

「ぎゃああああっ!いだあぁぁぁぁぁ!」

 森が震える玄太の悲鳴。俺の胸の奥までズタズタにされる。

「や、やめろ……ッ!やめて……くれ……頼む……」

 口も体が言うことをきかねぇ。頭もぐらぐらで吐き気がする。それでも目の前の惨状だけはくっきり見えてしまう。

 宙吊りの玄太のツナギに、見たくない赤色が広がっていく。

(くそ……くそ……玄太が傷つけられんのだけは……耐えらんねぇって……!)

「お前が大事にしている人間が、少しずつ壊れていくのを……じっくり味わうがいい」

 ゲドの声が冷たく響く。

「次はここかぁ……?そらっ!」

 また剣の切っ先が玄太の腕を裂いた。

「ぐああぁぁぁぁぁぁ!あづいぃぃぃぃ!!!!」

 玄太の体が痙攣する。その度に俺の中の何かが、ブチブチ……と切れていく。

(やめろ……やめろやめろやめろぉぉぉ!!)

 だめだ。玄太がやられてるってのに、声も力も、まともに出ねぇ。

「っく……げん……た……」

 それでも玄太は、血と涙にまみれながら必死に顔を上げた。

「て、てんぱい……!今のうちに……に、逃げて……逃げてください……!」

(っは……ぁ……何言って……やがる……玄太……)

「っぐ……おれのことは……いいから……」

 必死の顔が滲む。俺の胸は張り裂けそうだ。

「もう……スカイリンクは使わないでぇぇぇ!!!!」

(こんな時に、俺の事なんか気遣ってんじゃねぇよ……バカ玄太!!)

 胸が……痛ぇ。痛すぎて……もう……。

 ――でも、もう分かってた。

(……玄太……俺、やるしかねぇわ)

 震える腕を無理やり持ち上げ、ブルーストライクを天へ掲げる。空気がビリビリと逆巻き、髪の毛が逆立った。

「てんぱい、や、やめてぇぇぇっ!!」

 玄太が血を吐きながら泣き叫ぶ。

「ダメダメダメダメ、絶対ダメェェェェ!!」

 涙と血に濡れた声が胸を刺す。

(うるせぇ……うるせぇよ玄太……!!)

「ダウンバーストォォォォォォッ!!」

 咆哮と同時に、空が裂けた。
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