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第1章:忘れ物の日々
第12話 忠犬、焦る
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「見てくるか、だって?」
玄太は身体に似合わない速度でズバァッ!と正座。まるで音速を超えたような勢いで、クータンの前にぴたりと座り込む。
「見れるっすか!? 話せるっすか!? まさか会えるっすか!!?」
「落ち着け、仔豚よ…」
「ブー!! 豚でもいいっす!教えてブー!」
あまりにも必死な仔豚、もとい玄太の姿に、クータンはぱちくりとまばたきをした。そして、おもむろに甘乳パンの最後のひとくちを放り込む。
「…あれ?今スルーされた?」
「もぐもぐ……」
緊張の糸が妙な方向に切れそうになったその時、クータンは最後の一口を飲み込んだ。
「では、参るかの」
「え!?どこへ!?」
クータンはすうっと目を閉じると、体全体がわずかに光りだした。
*****
異世界・アルカノア農場
「ふう、散々だったな…」
雨でずぶ濡れになった天貴は、農場の娘さんに促されるまま風呂に入るためツナギを脱ぎ捨てる。すると突然パチっと空気が弾けるような音がして目の前の空間が、ぐにゃりと歪む。
「…ん?」
次の瞬間、そこには見覚えのある黒白の仔牛がジジジ……っと、宙に浮かんで現れた。
「おぉ、ぬしか!久しいの」
「…は?…ク、クータン!?」
唐突すぎる再会に、俺はパンイチでフリーズする。
「いかにも。ぬしはどうしておる?」
「え…あの、風呂…」
異世界の脱衣所に微妙な空気が流れる。
「ところで彼の地でうまくやれそうかの?」
「ってか、クータン!?なんで生きて……」
すると突然、クータンの顔がゆがむ。
「…むぅ、時間じゃ。達者でな」
「はぁ!?お、おい!待っ…」
ジジジ…と光が弾けるように、仔牛はそのままフェードアウトしていった。
「三日過ぎてるのに…まさか、仔牛の幽霊…?」
少し背中がゾクっとしながらも、あまりにも一方的すぎるゴリ押し再会に思考が追いつかない俺は、ツナギに片足だけ突っ込んだ状態で、しばらくパンイチフリーズしていた。
*****
発光していた体がすぅっと元に戻り、閉じていた目をゆっくり開けるクータン。意識が戻ると同時に、ふぅっと肩で息をする。そして、目の前には固唾を飲んで見守る玄太の姿が。
「クータン!まさか、思念体で異世界行ってたっすか!?」
深呼吸しながら、大きく息を整えるクータン。
「むぅ。流石に彼の地は遠すぎるの…」
「おつかれっす!!で、てんぱいどうでした!?」
ふむ、と言って何かを思い出すように首を傾けて答える。
「風呂、と申した」
「風呂!?えぇ、そんないきなり!?っひょ~!」
玄太は久々のてんぱい情報に興奮気味にぐいっと前のめりになる。クータンは少し考えて、さらに続けた。
「蒼きステテコじゃったの」
「青パンっすか!?そ、それは重要な情報っす!!」
小出しにするクータンにグイグイ詰め寄る玄太。
「それでそれで!柄は!?素材感は!?」
もはや、肝心な元気かどうか”を聞くのを忘れ、どうでもいいステテコ情報に頭を支配されている玄太。そんな彼にクータンは堂々と言い放った。
「以上じゃ」
「…………は?」
思わず素に戻り硬直する玄太。
「ななな、なんでそんなビッグチャンスの続き見てねぇんすか!!」
「むう、思いのほか早く限界がきての」
期待度MAXから急転直下の落胆MAX。肩の力が一気に抜けて、布団にゴロンと横になった。
「はぁぁぁぁぁ」
玄太の体重よりも重いため息。背中でクータンに抗議するように寝返りを打つ。でも、どれだけ拗ねてみても頭の中から、てんぱいのことは消えてくれない。
(ったく、もうちょっと粘ってくれてもいいじゃないっすか)
そう思いながらも、ふと気になって振り返る。
「で…?てんぱいは、ちゃんと元気そうでした?」
「…うむ。息災じゃった」
クータンは少しだけ目を細めて、頷いた。その言葉を聞いた玄太はいつの間にか笑顔になっていた。
「そっか!ならいいっす!」
何はともあれ、数日ぶりにてんぱいの存在と安全を実感できた玄太。消えていくてんぱいの匂い以上に、大事なものを手にした気分だった。
「んなわけねえっす!てんぱいの匂いが無くなるのは死活問題っす!」
玄太は身体に似合わない速度でズバァッ!と正座。まるで音速を超えたような勢いで、クータンの前にぴたりと座り込む。
「見れるっすか!? 話せるっすか!? まさか会えるっすか!!?」
「落ち着け、仔豚よ…」
「ブー!! 豚でもいいっす!教えてブー!」
あまりにも必死な仔豚、もとい玄太の姿に、クータンはぱちくりとまばたきをした。そして、おもむろに甘乳パンの最後のひとくちを放り込む。
「…あれ?今スルーされた?」
「もぐもぐ……」
緊張の糸が妙な方向に切れそうになったその時、クータンは最後の一口を飲み込んだ。
「では、参るかの」
「え!?どこへ!?」
クータンはすうっと目を閉じると、体全体がわずかに光りだした。
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異世界・アルカノア農場
「ふう、散々だったな…」
雨でずぶ濡れになった天貴は、農場の娘さんに促されるまま風呂に入るためツナギを脱ぎ捨てる。すると突然パチっと空気が弾けるような音がして目の前の空間が、ぐにゃりと歪む。
「…ん?」
次の瞬間、そこには見覚えのある黒白の仔牛がジジジ……っと、宙に浮かんで現れた。
「おぉ、ぬしか!久しいの」
「…は?…ク、クータン!?」
唐突すぎる再会に、俺はパンイチでフリーズする。
「いかにも。ぬしはどうしておる?」
「え…あの、風呂…」
異世界の脱衣所に微妙な空気が流れる。
「ところで彼の地でうまくやれそうかの?」
「ってか、クータン!?なんで生きて……」
すると突然、クータンの顔がゆがむ。
「…むぅ、時間じゃ。達者でな」
「はぁ!?お、おい!待っ…」
ジジジ…と光が弾けるように、仔牛はそのままフェードアウトしていった。
「三日過ぎてるのに…まさか、仔牛の幽霊…?」
少し背中がゾクっとしながらも、あまりにも一方的すぎるゴリ押し再会に思考が追いつかない俺は、ツナギに片足だけ突っ込んだ状態で、しばらくパンイチフリーズしていた。
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発光していた体がすぅっと元に戻り、閉じていた目をゆっくり開けるクータン。意識が戻ると同時に、ふぅっと肩で息をする。そして、目の前には固唾を飲んで見守る玄太の姿が。
「クータン!まさか、思念体で異世界行ってたっすか!?」
深呼吸しながら、大きく息を整えるクータン。
「むぅ。流石に彼の地は遠すぎるの…」
「おつかれっす!!で、てんぱいどうでした!?」
ふむ、と言って何かを思い出すように首を傾けて答える。
「風呂、と申した」
「風呂!?えぇ、そんないきなり!?っひょ~!」
玄太は久々のてんぱい情報に興奮気味にぐいっと前のめりになる。クータンは少し考えて、さらに続けた。
「蒼きステテコじゃったの」
「青パンっすか!?そ、それは重要な情報っす!!」
小出しにするクータンにグイグイ詰め寄る玄太。
「それでそれで!柄は!?素材感は!?」
もはや、肝心な元気かどうか”を聞くのを忘れ、どうでもいいステテコ情報に頭を支配されている玄太。そんな彼にクータンは堂々と言い放った。
「以上じゃ」
「…………は?」
思わず素に戻り硬直する玄太。
「ななな、なんでそんなビッグチャンスの続き見てねぇんすか!!」
「むう、思いのほか早く限界がきての」
期待度MAXから急転直下の落胆MAX。肩の力が一気に抜けて、布団にゴロンと横になった。
「はぁぁぁぁぁ」
玄太の体重よりも重いため息。背中でクータンに抗議するように寝返りを打つ。でも、どれだけ拗ねてみても頭の中から、てんぱいのことは消えてくれない。
(ったく、もうちょっと粘ってくれてもいいじゃないっすか)
そう思いながらも、ふと気になって振り返る。
「で…?てんぱいは、ちゃんと元気そうでした?」
「…うむ。息災じゃった」
クータンは少しだけ目を細めて、頷いた。その言葉を聞いた玄太はいつの間にか笑顔になっていた。
「そっか!ならいいっす!」
何はともあれ、数日ぶりにてんぱいの存在と安全を実感できた玄太。消えていくてんぱいの匂い以上に、大事なものを手にした気分だった。
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